「ハッピー ノイズ」∥「鳴きウサギ」

タイトルと印象が違うと思います。
( ´∀`)σ)∀`) 。 。(〃_ _)σ∥

ボクが物心ついた頃にはなかった感覚。

1/19『 君にはすがり付く大人の太股があるじゃないか!
ボクが物心ついた頃にはなかった感覚。
ボクより年嵩の男の子 。

「大きなお兄ちゃんなのに恥ずかしいわね」

言葉と裏腹に、優し気な笑みを浮かべる君の母親。
仕返ししたボクにさえ、ニコニコと微笑み返し。
何の余裕なんだ。人心の不思議。
夏なのに、幼心は、コウコウと凍てつく。 』
‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

2/ ━━━━ 酷いな。殺してやろうか。
お人好しにも厭きたし。
大丈夫、やり方は知っている━━━━
‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥
3/ あたしが幼稚園の頃、人を苛めることに精力を尽くす、乱暴な年長の男の子がいた。
生活に何の疑問も持つ必要のない、
充足している子供の不遜さで攻撃する 。
退屈だけが彼の敵なのだ。
あたしは、生まれつき争いが大嫌いで、反撃するという選択肢を持たなか った。
記憶に残る初めてのともだちのミッチーが、
ある日、奴の標的になった!  
あたしは、見て見ぬふりをした。
 ケンカが苦手だったから。
 仲が良かったミッチーとあたしの運命を引き裂いた事件。
 あたしとミッチーが園庭で遊んでいる時だ。
 その乱暴な男の子がミッチーをあたしから奪い、トイレに連れ込んだのだ 。
 今でもミッチーの、あたしに追いすがる目が焼き付いている。
 なぜ、あたしはミッチーの腕にすがり付いてでも、止められなかったのだろう。
 明らかにミッチーはあたしに助けを求めていたのに!
‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥
4/ その日以来あたしとミッチーは言葉は疎か、目すら交わすこともなくなった 。
ミッチーはあたしとではなく 、乱暴な男の子といつも連れ立つ様になり 、 素行の悪い子になってい った 。
 ―乱暴者の男の子があたしに目をつけるのは時間の問題だった―。
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5/ 『 しょちゅう笑顔を忘れてしまうボクに 、 "cherry"と彼が口ずさむ。すると、チョコレートの呼ぶボクのnaming は、色の付いた雫となり、一滴、一滴とボクの心に沈澱してゆく。
ボクの過去を嘆き、憤り、そして呆れて、慈しみ、可愛いがってくれるボクの チョコ レート 。
筋肉質で美しい Body color からボクが連想した彼の愛称 。
チョコレートは初めてボクに執着を生ませた人。
 今が幸せだから探すんだ。
 Look back on one's life.
 ほんと、大変だった。学歴のないボクが僅かな賃金で生活していくのは。
ボクより経験豊富な知人に、夜の仕事へ案内されて働くようになり、収入も増えて、新しい遊びにも精通していった頃。
楽しかった筈だ。チョコレートに出会う迄は 。
 チョコレートの傍らで、夢心地に浸るボクの羞恥心は情熱と安らぎと、未だ来ぬ焦燥感の間で、目眩を覚える。
ボクの温かな溜め息は、彼の濃く長い睫毛を揺らす。とってもhandsome。
甘くて芳ばしいボクだけのチョコレート。
── 飽食は危険だ。。。
 貪欲な cherry はチョコレートに絡まって 、より甘美に味わい深くなってしまう。 』

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥
6/ 夏の日だと覚えている。
あたしは薄着だった。裸にされても、ちっとも寒くなかったから 。
 ミッチーもそこにいた。
園内のトイレの個室で乱暴な男の子に、あたしが服を脱がされるのをドアの見張り番をしながら横目で様子を伺っていたのだ 。
あぁ、 ミッチー。あの時こんな体験したんだ。
怖さよりあたしは哀しくなった。
と同時に怒りを、いや憎しみをこの乱暴者に覚えた!
 咄嗟にあたしは、そいつの股間を蹴り倒した。
 顔面も踏みつけてやったのはよく覚えている。
ぐぇっ、うがぁッという、聞いたこともない声を耳にしたからだ。
幸いにもあたしは運動靴だけは履いていた。
年長とはいえ幼稚園児だ、靴まで頭は回らなかったのだろう。
ミッチーは、あ然としていたが、はっと我に返った途端、 大声で幼稚園の先生を呼んだのだ!
あたしは慌てて服を抱えて園内を飛び出し、近所の見知らぬ人家の狭いガレ ージでひっちゃかめっちゃかに服を着た。何処かパンツは無くした 。
直行であたしは自分ちに帰った。
 親には、しっかり連絡が入り、きっちりあたしが粗暴犯にされていた。
あいつめ!!
本来の乱暴な男の子は、あたしに罪と罰を与えるべく入院した。

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7/  今さらに思う、 あたしは馬鹿だ 。
言い訳ひとつせずに、全て黙殺したのだ。
ミッチーの為に出来る事。
ミッチーは単なる目撃者で、善意からくる先生への通報。
あたしの罪はミッチーを助けられなかった事。
そして罰はあたしが起こした狼藉に端を発した家族の離散。
大変な大騒ぎ。 前代未聞!!  
父親は他所の女と遁走。
 母親は年長の乱暴な男の子の家族総出に、
独りで謝り倒した上に、多額のお金まで支払う
羽目になって、借金を抱え酒も抱え込んだ。
 あたしは母親に謝ったが、酒に呑まれた母親の自制心はきかず、叩かれ捲った。
問題家庭の子は親と引き離され、あたしは孤立した。

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

8/ 『 無垢なセクシーさってあるだろ 。
チョコレートはそれを意識せずに体現しているんだ。
チョコレートのように、いつも誰かに取り囲まれて
しまう人間が、純粋でいられるなんて、奇跡だ。
チョコレートがボクと一緒にいるのも amazing。
自分の器の小ささに、怯えていても、雪崩の
如く、チョコレートへと傾倒する。
 チョコレートの虜でいることに、戸惑いながら、
ボクは身を委ねる ―。
チョコレートの腕とボクの躯、チョコレートの肉体とボクの脚が、危ういcontrastを描き 、 シーツの上で
流し固められた厚塗りの油絵になる。
チョコレートとBedの舟を漕ぎ続けるボクの身体は
重怠く、思考だけが宇宙まで warp し、塵となって浮遊する。』

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

9/  人って、美しいものに憧れているんじゃなく、本当は美しさを保てる情況を羨んでいるのかも、知れない。
 あたしの肌は母親譲りだ。
きめが細かで吸い付く様な餅肌だと付き合う人らは異口同音。
たまらなく抱きたくなるらしい。
ミッチーと離ればなれになった時から、あたしは素直に求められると、断り切れずに受け入れてしまう。
あたしは孤独の天使だった 。  

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

10/ 『“ Over night trip ”
チョコレートはいつも Surprise talk を
してボクに笑みを寄り戻してくれる。
彼のchatty(お喋り)は、合唱団がボクに浴びせかける音の波(おとのは)の showerにも似ていて、
時折ボクの視線は彷徨う。
「 So-gooood !」
"cherry" その言葉を聴くたびにボクの喉仏が
反射的にヒクヒク動き、
ボクは顔を熱くする。
 その姿を見て チョコレートはニヤケるのだ。
何度も囁く "cherry"。
チョコレートの素敵な意地悪。
 それがボクの心臓の血流を急がせて、
いけないことに彼が欲しくなる。
チョコレートの濃厚な眼差しは、思わずボクに懇願させる。
「I feel like gay tonight」 
「Please... ... Dig in!」

“Cherry my first”
チョコレート はボクを抱きしめ唇を塞ぐ 。
次第にボクは意識を喪失していく_ 。 』
‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

11/  苛めってどこにもある。
 名前は記号だ。あたしにとって意味はない。
施設では 、 乱暴者の烙印を捺されたあたしが、新参者の洗礼を受ける。
抵抗せず、あたしは目殺に留め置く。
もう、居場所を失ないたくはなかった。
孤立したあたしは痛みには強いのだ 。
慣れという身内が出来たのだから。
否応なしの此所での呼称。
親が授けた記号。
"あたしの名前は満生(ミツオ)"
返事すらしたくなかった 。

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

12/  『 胸が痛い。頭が割れそうだ。
チョコレートには通じない。この苦しさは。  
彼と仲間たちの共有を邪魔する権利はないと
チョコレートに釘を刺された。
ボクがfirstだったとしても。ボクに向けて、
笑ってはくれなくなったチョコレート。
駄目だよ。チョコレート。いつも側に居てくれなきゃ。
チョコレートとの全ての食事、Shower, Bed, 
チョコレートvoiceも、チョコレートのtouchも。
独占欲はボクの肉体を焼き尽くす。  
ボク以外その瞳で、見ないで誰も。
彼の友人にさえ jealousy を感じるなんて。
ボクは必死に彼を口説くけど、
“ You're child‼ ”チョコレートが怒鳴る。
血が冷や水の如く、ボクの全身を駆け巡る 。
絶体、絶体だよ。ボクに、言葉を荒げちゃ、いけない。たとえ、チョコレート でも―。』

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥
13/  “ CAN YOU HEAR ME ? ”

《別れるって、チョコレートが言う。》
 
あたしの声が聞こえてる?
1度の人生で無駄な時間を費やすべきではなかったのよ。

 “ Just plain awful ”
(うんざりする)

《ボクを、捨てるんだ......。》

∈ CAN YOU HEAR ME ? ∋ 
 聞き分けのない“ cherry。”

《信じたくない。嫌だよ、チョコレート。》

 どんな結果でもいいの!? 
考える以上という事だってあるのよ。

 「Butt out !! 」 (口出しするな‼)

《望みは Hold thigh. 求めてやまない彼の。 》 

 “That sucks !”
 (乳児.騙し}最悪だ~下品スラング)

 《ボクは必死に彼を引き留める》

 “Quit that! Crazy !! cherry‼”
(やめろ‼いい加減にしろ!)

 《チョコレートの意思の強さには敵わないと理解しているのに。》
‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

14/  あたしを蝕むノイズはミッチ ーの奇声。
図らずも、あたしの喉を締め付け 、涙を流させる。
興醒めだと、機嫌を損ねるボーイフレンドもいたし、危険な生き物のしっぽを踏んだみたいに驚く人も 。
そんな時あたしは殺意を覚える。
行動は簡単だ。噛みきればいい!
秒殺だ!
あたしは牙を持つ堕天使に変貌する。

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥
15/ 『 Stop!Stop!Stoooop!!! 』

 《ボクは泣き叫び チョコレート に隠していた醜態をさらす。》
‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥

16/ 結局 チョコレートにだって無理なんだ 。
認めなよミッチー。
あんたのともだちはあたしだけ。
舌舐めずりであたしは cherryを喰い尽くす―。

‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥
17/『 チョコレートはいつもchoice側の人間で 、愛情が当たり前のように彼にまとわりつく環境にいる。
 その中でボクは疎外されてゆく――
 《I love chocolate,》
チョコレート、大好きだよ。食べたい位に... 。 』
‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥―‥
18/ 『 環境が人をかたち創るんだ。
これはハッキリと言える。
他人は本人の資質のせいにするが 、環境がそれを許さないならば、或いは、 黙認してしまえば、暴走してしまう。
戦いは悪に善が絡むと、善は悪に絡め摂られてしまう。
ボクはずっと独りで戦争していた。
 あのラップ音はなに ?! 
 騒々しい耳鳴りが周囲の家具を揺らす。
泥の様に疲れきったこの体は、
もう、ボクじゃない。
 愛する人を、自分から奪ったボクに、選択肢は...ない。

 茄子がママ。ヘヘ、ヘッ、ヘヘヘヘ──ヘヘッ。 ヘヘヘヘ、ヘヘヘ─ハハッ。_ ____ _ _ _ _ 』

19/19 殺ったね。
 ミッチー。やっと、
あたしの元へ戻って来たみたい。
   <終>

「鳴きウサギ」

1/15

 「梅雨だく‥だ!」
 君は高層階の私の部屋の窓から眼下の濡れた街中を眺めている。
 「嵐になりそうだよ」
 その白い裸を映す強化ガラスと夜の暗幕に浮かび上がる実体の対比に、私は魅せられる。
 「ここのビル風は、音が遠くの悲鳴みたいに聞こえるね...」
 私は君にそっと近づき、後ろから全てを包み込むように抱き締める。
「貴女にハグされると、全身の力が抜けてしまうよ」
 君が私に向き直り、口付けを交わす。
 肉体から漲る若さのエネルギーに圧倒されて、私の方こそ膝から崩れて仕舞いそうになる。
 君の身体をベッドへと誘う。
 積極的なのは、いつも私の方。

 ふたり重なる前に、君が唇を動かす。
 「貴女の望みはナニ?」

 君は私の答えを、必要とは、していない 。

*―――――――――――*
2/
 「レアケースだな。二重人格と呼ばれているものだが、患者は男性で同性愛者だが、女性人格を統合している。しかしトランスジェンダーには当て嵌まらない 。彼は女性に成りたがっているわけではない」
 「記憶障害も有りますね」
 「恋人を殺した精神的ショック。痴情の縺れだ」
 「彼を数ヶ月間、診てきましたが 、 記憶障害を治す必要はないのでは?」
 「何故だね」
 「思い出す事が彼のストレス障害になるのです。精神的には、現在の方が安定しています」
 「ウム。ただ、刑期はまだ四年はある。カウンセリングだけを続けるのかね ?」
 「彼はとても、優秀な患者ですし。当分は投薬の必要は無いです。このまま様子をみましょう」

*―――――――――――*
3/
 当時、私は既婚者で、幼い娘がいた。
 医療に従事する、夫も私も仕事に熱心過ぎて、家庭を省みなかったのは、同じだった。

 君に関する資料にあった犯罪歴と中性的な容姿の画像に目が離せなくなる。
 当時の君の髪はセミロングで小さな鼻に意志の強そうな口元、大きな瞳が 何かを探し求める様にこちらを見つめていた。
 この時の大人っぽさに比べて、入所した後の最新の画像では、頭の形が良い君の五厘刈りはとても似合っていたが、実年令より幼く感じられた。
 血を吸い込んでしまった、いたいけな宝石。
 そんなイメージが膨らんでいく。
 「何故唇を噛み締めているの?」
 突然、君の第一声を耳にしていた。
 目の前に立つ、君の声は低くはなくて、二次成長があったのかと疑いたくなった。
 初めて対面した時は、華奢な実物の君を見て、女性人格を持つのも当然に思えた。
 君は男子棟にいて、坊主頭の自分に性別を自覚せざる得なかった。
 ただ、君の場合、別人格は守護者として必要だっただけで、女性人格を消し去るのには、まだ充分ではないと私は判断していた。
 " 特別な荒療治を。君に。"
 私の心が秘かに囁いていた。

*―――――――――――*
4/
 僕は、長い間笑っていない。
顔の筋肉が固すぎて、表情を操れなくなっていたから分かる。
貴女はそれに気付いて、滑らかな指でほぐしてくれた。
貴女の繊細な指と手が僕に触れる度に、内臓まで温かくなっていく。
 自分で少しずつ笑えるようにと、会うごとに貴女は言う。

 貴女にキスをされた時。
 僕は、頬笑むことが出来たはずだ。

*―――――――――――*
5/
 君はとても繊細な男子で、若さから来る無防備な色香が鼻につく位、綺麗な肌をしていて、私は初めて男性に嫉妬した。

 体毛が薄くて君が髭を剃る姿は想像すら出来ずにいた。
 「多少は生えるよ」
 君がようやっと微笑む。
 「ここでは無理だけど、いつか無精髭姿見せようか」
 いらない。でも少し見たい。

 君は無心で勉学に邁進していたし、 リハビリの一貫として身体を鍛え上げる様にとの忠言により、一生懸命に取り組み筋力も筋肉もつき、だんだんと逞しい男性に成長していった。
正直、君の呼吸運動を目にするだけでドキドキした。
 君に好意を寄せている事を、素っ気ない態度で誤魔化していたけれど、
 君を意識し過ぎて慌てたりしていたので、十四も年齢差がある君にも隠し切れずにいたが、私は職務に専念出来る程には、 大人だった。
 君が医療刑務所を出る頃には、私は職務を外してもらい君の保護司となった。
 その直後、夫婦間での離婚が成立した。

*―――――――――――*
6/
 僕より先に、人生を進んで来た人が身近にいると、 僕は安心する。
貴女と初めて肌を触れ合わせた時の感触に、僕は安堵を覚えた。
 出来るなら、そのまま何もせずに貴女の胸で永久に眠り込んで仕舞いたかった・・・。

ウォーターマットみたいに柔らかな貴女の体躯で、 僕は変わった遊戯に身を投じる 。
激しくなる雨のカーテンに外界を遮断されて、小さな見えないドームの中で、貴女は妖艶なハミングを伴いながら振動する───。
 鼓膜に反響する貴女の聲だけが僕を支配し、切ない体臭に僕は取り込まれていく─── 。

 「貴女って面白い。鳴きウサギみたいだ」
放熱の後の感想を告げると、貴女はケラケラと笑う。
 その明るい笑い声は、僕を豊かな気持ちにさせる。

 こうして何も気にせずに、過ごすのは、僕にとって幸運なんだろう。

*―――――――――――*
7/
『僕を抱き締める、柔らかな、
鳴きウサギ さん___ 』

 透明な君の汗に私は溺れてしまう。

 君と交わる、あの瞬間。

 私は医師ではなくなっていた。

*―――――――――――*
8/
 楽団コンサートにも貴女は連れていってくれた。
初めて見て聴くクラシックだったけどね。

 三曲目でもう、睡魔との綱引き。
 その時、貴女が手を強く握って加勢してくれた。
 良く見渡せるホールだったから、演奏者たちからも 、僕がウトウトしているのが分かったんじゃない?!

 貴女に恥を掻かせたくないから、もうクラシック系は御免だと伝えた。
 それでも貴女は気にも止めず楽しそうにクスクス笑う。

*―――――――――――*

9/
 薄明かりのレストランで、特別な光を放つ君は、 素晴らしくワインの似合う男性だ。
 君の正装姿は、とても犯罪を起こした人間には見えなかった。

 「貴女には感謝している。あの嫌な場所でも、貴女の存在とアドバイスが僕を救ってくれたし。
 外へ出てからも、適切なマナーを教えてくれる。
ありがとう」
 挨拶がわりの乾杯の後、君が少しずつ照れて話すから、私は拙い処女みたいに、胸がキュンキュンする。
 私は椅子から腰を上げ、ワインで喉を湿らす君に顔を近付けてキスをねだる。

 「君は優秀だし、素敵な男子だし。 納得しなだろうけど、若いってだけで、凄く可能性があるのよ。 
チャンスさえあれば、きっと次の目標が出来る筈よ」

 不思議そうな顔で私を見詰めて、君はぎこちなく笑う。

 この日のレストランでのディナーは良い善処になったと思う。
 ただ、デザートを君に選ばせてから ギクリとして、 ≡しまった!≡と呻きそうになった 。
 「chocolate ・・ mousse、これがぃぃ!」
 メニューには chocolate mousse が記されてあり、 君は本能的にそれを撰んだのだ。
 こんな事で,
 君をディナーに連れ出したのを、私は心持ち不安に感じた。

*―――――――――――*
10/
 「貴女が連れて行ってくれるディナーも素晴らしいけど、貴女が作るランチも大好きだ。
 この茄子とカボチャとズッキーニにイカ・貝・海老が香りの良い、サフラン色に輝いているライスに乗って食欲が湧くよ。
  貴女のパエリアは最高」

 はにかむ貴女が同年代に思えて、貴女を褒めるのが癖になる。

 全て平らげて一息つくと、靄がかかった僕の記憶に貴女が与えてくれる味覚だけが蓄積されてゆくと感じて、同時に思い出せずにいる過去を考えてしまい、やりきれなさに動揺する。
 哀しそうな貴女の表情で、僕のその姿はみっともないのだと知らされる。
 誰も教えてくれなかった僕の交遊関係は、多分僕の記憶喪失の要因だろうと貴女の言動で察することは出来る。
だから僕は、背伸びして貴女にやせ我慢して見せる 。
 どんな形であれ、貴女には、笑って居て欲しかったんだ。

*―――――――――――*
11/
 ピロトークの中で、私について君が一番知りたがった事は、私にとっては、一番訊いてほしくはなかった 、私の家庭事情だった。
「子供を犠牲にしちゃいけない。
子供を産んだからには、ずっと母親でいるべきだ」

 君が唯一、私を非難したのは、娘の事だ。

 「どんな境遇でも、どんな立場になろうと、私はあの娘の母親よ。事実は変わらないわ」
 「女でいちゃ駄目だよ。子供の側に居てあげなよ」
 「あの娘には、父親が再婚した、あちらの家族がいるわ。母親に居て欲しかったのは、君の方でしょ」
 怯えた瞳で君は私を射ぬく。
 「僕が...僕が、傍に居て欲しかったのは...... 」
 震えてベッドに顔を埋めためたまま 、君は確かに泣いていた。

 君の様な症例は、American nized に感情を出すのを私は良しとしていた。
 しかし、それは間違いだと後悔する。

 私は君の背中を形成する筋肉と骨の形をなぞりながら、覆い被さる。

 君となら私は果てる事のない時流に乗れる。
 決して快楽に縛られている訳ではない─。

*―――――――――――*
12/
 うさぎが鳴いている。
 呻き声を吐き出しながら。
 “いかないで---” 
 貴女の言葉が僕の聴覚を刺激して、忘れていた、耳鳴りに襲われる。

 『行かないで!僕を捨てないで!』

“cherry” 誰の声だろう。“cherry”
 頭の中は煩くて、時々混乱することがある。  “cherry”
 “cherry―――” “cherry”
 何故か涙が出て来てしまう。
 “cherry” “cherry‐‐‐”
 やめろ!僕を “cherry” と呼ぶのは。

 喉元が急に膨れ上がり、こめかみはズキズキ脈打ち、頭が、割れそうになる‼

 脳内に浮かんでいるのは、あのレストランで食べた、艶々したコーティングの、
━ chocolate mousse ━
 ほろ苦くて、甘い。病み付きになりそうな味がした。あのデザート。
chocolate, mousse.
 ─下っ腹が、疼く─
“cherry” “cherry―”
“cherry-cherry”
 また聞こえてくる。
“cherry”   “cherry‼”  
眩暈の渦で気分が悪くなる。
“cherry...” 
 辛い、辛いよ。酷くなる!痛みが来る。
“cherryーーーcherry!”
 苦しい。胸が潰れてしまう!
“cherry...”
 「uuh--- choco・・・」
僕の脇腹が痙攣する。

「ah- chocolate!」
 ━━ 沸き上がる情熱の矛先は、
 僕の・chocolate!━━

*―――――――――――*
13/
「記憶が戻った?!」
 「一部だけです」
 「結局、患者からチョコレートと呼んでいた、昔の恋人の記憶を追い出す事が出来なかったんだね」
 「結果的には、そうなります」
 「日本の医療刑務所の治療と指導が遅れているのは承知しているが、国家専従のドクターが推し進める最新の米国式のカウンセリングの実験の方は上手くいったのかね?! 」
 「彼の中の女性人格を消失させる事が、犯罪傾向の治療となると確信していました」
 「それは、成功かね?」
 「勿論です」

*―――――――――――*

14/
 揺るぎない路へ導いてくれる、
 貴女は僕の正義だった。

 日常生活を犠牲に出来るのは、支えてくれる人がいてこその余裕なんだ。
 貴女は僕に足りないものをたくさん補ってくれる。

 貴女というフィルターを通して、僕は世間に溶け込もうとした。
 僕は、貴女に嫌われるのを何より怖れていたんだ。
だけど、身に染み付いた経験は貴女を拒絶してしまう。

 あらゆる事を諦めて、僕は生きてきた。
chocolate じゃなきゃ駄目なんだ。
 彼しか僕を救えない。
 未だ僕は、chocolate を愛している。

 彼は何処?!

*―――――――――――*
15/ 15
 明らかな恋なのに。
 君との接触時間を重ねる度に募る、紛れもない私の感情。

 傷付く予測はあった。
 年齢差でもなく、生活環境の違いでもない。
 君にとって私は恋愛の対象ではなく、母性依存だった。
 そう仕向けていったのは、私自身。
 君の欠落を補う為に。
 
今だに君の中で恋人である chocolate は、 戒めのように存在し続けている。
 私と積み重ねて来た時間の長さではなく、
 彼チョコレートとの濃密な関係が君を呪縛する。

 悔しい...。君から取り除けなかった、私の失敗。

 私は ∫ 中断(control)していた ∫
投薬治療を決心する。

 『鳴きウサギさん』 
 鳴いていたのは、君への想い。
 掴んでいるべき筈の、愛情を捉えきれず、 私は嘆いていたの。

 『貴女の望みは何?』

  ‡ やり直しよ! ‡

               <完>  

「ハッピー ノイズ」∥「鳴きウサギ」

※漢字&英語の使い方を、部分的アレンジしています。

☆自己より作品優先。  ̄(=∵=) ̄
作品だけが生き残ればいいと考えていたけど──、勇気を与えてくれるもの‥ "継続は銭なり" ~*お金でなく、アクセス数は励みになります 。
亀梨伊織* (=∩_∩=)

「ハッピー ノイズ」∥「鳴きウサギ」

説明が難しいので、読んで見てください。 ( -_・)? "ヽ(´o`;

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-05-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ボクが物心ついた頃にはなかった感覚。
  2. 「鳴きウサギ」