赤いちゃんちゃんこマン

赤いちゃんちゃんこマン

赤いちゃんちゃんこマン

俺の名前は井守明人、今年で25才になる。趣味は特にない、しいて言えば最近発売されたパズルゲームをテレビに繋げてコントローラーのAボタンを叩いているのだが、いかんせん中ボスが倒せないのでストーリーを進められない、ゲームとはクリアするから楽しいのだ、腹が立つので、そろそろ近くのショップに売ろうと思っている。そう言えばあの中ボスどこかしら、俺の会社の上司に顔と三段腹がよく似ている、俺は今日の事を振り返る上司の皮膚に油がべったりと付き吹き出た顔と、タラコの様な厚い唇を動かして叱責された。あぁ! さらにあのパズルゲームに対しての憎たらしさが沸騰するお湯の様に込み上げてきた。
俺は苛立ちから下に落ちている小石を蹴り上げる。勢いよく飛んだ小石は外壁を隔てている、コンクリートブロックの塀にぶつかって無機物な花火を小さく上げた。
最近、この生活が楽しくないのだ、会社と家の往復、俺の人生とはいったい何なんだ?そう疑問に思いにふけて、俺はまた小さな小石を靴のつま先で弾いた。
と、その時と同時であったか?甲高い女性の声が路地裏から響いてくる。これは…悲鳴だ!俺はその声が発せられた場所に向かって走っていた。その動機は多分、つまらない日常にピリリとした香辛料を加えたかったのだ、そんな理由で俺は薄暗いぼんやりとした路地裏に到着していた。白く光る街頭だけが生き生きとしている。
路地裏の奥には仕事帰りらしいスーツを身に着けた一人の女性、そして身体の大きいマスクをした男の後ろ姿が見えた。その光景を目の当たりにして俺は正直言ってビビった。よくよく考えてみるとだ、俺の人生とは今まで人との最低限の付き合いしかしておらず、ケンカなど一度もした事がないのだ。ついでに言うと俺は帰宅部だった、汗水流して校内のグラントを走る同級生を見て心の中でバカにしていた。それがどんな結果になると言うのだ、さっさと家に帰って遊んだ方がマシじゃないか?
少しだけ現実から逃避している俺に気づいたらしく、スーツを身に着けた女性は口を大きく開けて俺に助けを求めてきた。
「助けてください!この男、おかしいんです!」
女性の声はまるで空気が振動しているかの様だ。本当に怖いのだろう腰を曲げて座り込んでしまう。
マスクで顔を隠した男は俺の方に向かってゆっくりと振り向いた。なるほど、非常に筋肉質だ。腕の太さなんて俺の太もも並みだ絶対に勝てるわけがない、脳内で悟る。マスクをした大男はチャッキンと鳴らしてナイフを取り出した。
俺に襲いいかかるのか、つまり俺は死んでしまうのか…俺はそう思って、味気ない人生と記憶が走馬灯の様に頭の中で交差した。
「お困りのご様子ですね、君」
そのどこか涼しげな声が俺の後ろから聞こえた。
 俺はハッとして救いを求め後ろを振り向く。そこには慎重の低い帽子を深く被った男が静かに立っている。いやどこか、不自然だ? 俺はどこかおかしく感じて探してみる、俺は気が付いた、この身長の低い男、スーツの上に赤いちゃんちゃんこを着けている。そのあまりに服装と合わない新手のファッションに俺は少し気持ち悪く感じた。しかしそんな事を長く考えている時間はない、俺はその見知らぬ男に必死に助けを求めた。おそらくその表情は余りにも滑稽だっただろう、助けを求めた瞬間にまるで恐怖が溢れ出して涙と鼻水をボタボタト落としていたからだ。
その心痛な声は届いたらしくその赤いちゃんちゃんこを羽織った男は「了解しました、ではその大男この私が成敗してやりましょう」
 俺は、その小柄な男がしゃべる事を終えた後に起きた出来事がよく理解できなかった。まるで映画の世界に俺はいるのかと思ってしまった。ちゃんちゃんこを羽織った男は瞬時に大男の正面に詰め、手に持っているナイフを脚で蹴り上げる。そして大男の身体を軽々しく持ち上げて、硬いアスファルトの上に投げつけた。
 大男は唸り声を出してピクピクとのびてしまった。
 その出来事に俺と女性は唖然としていたが女性は我に返った様ですぐさまに小柄な赤いちゃんちゃんこを身に着けた男に駆け寄りお礼を言い始める。とって変わり俺はまだその光景を信じられずまだ、ぼぅとしていた。この男何者なのだ?見た目からすると実質的な差は明らかなのに不思議だった。
 どうやら女性は立ち去った様で、赤いちゃんちゃんこを羽織った男が俺の所をゆっくりと見ている。俺はその事を薄気味悪く思い額から冷たい汗を流し、少し息のテンポが上がる。すると向こうの方から俺に近づいてくる。そして声を俺にかけた。
「困ったな、試作品の実験中だったが、まさか一般の方に見られてしまうとは」帽子を深く被っているのでその男の表情はよく見えなかったが、その声のトーンから焦りを俺は感じ取った。また声の音質から意外にも年をくっている様だった。喉に塩をまぶしたそんな感じである。
俺はその言葉にさらに続く言葉を黙って聞いた。
「そうだ君、どうだい、我が社の実験を手伝ってもらえないかい?と言うのは、実に簡単だこの赤いちゃんちゃんこを毎日着けて生活をするのだ」羽織を着けた男は自分で思いついた提案に良く思ったらしく、言葉の最後を強く発音した。きっと心を躍らせていたのだろう。
「勿論、ただではない実験の間は報酬も与える」
 俺はその意外な話に好奇心を覚えた、さっきあった恐怖心はどこかに消し飛び、この理解できない小柄な男の光景を思い出す。もしかしたら俺もあんなふうに強くなれるのか?そしたら、間違いなくこの退屈な日常は変化するはずだと。
 俺はそのよく知らない小柄で、スーツの上に赤いちゃんちゃんこを羽織った男の言葉に同意した。その事に男は嬉しく思ったらしい、軽く笑い声を上げた。そして、自分が羽織っていた赤いちゃんちゃんこを脱いで俺に渡す。
「では、この赤いちゃんちゃんこを羽織ってみたまえ」
俺は手に取って男の渡す赤いちゃんちゃんこをを身体に羽織る。と、何だこれは! 身体が軽い、しかも骨の芯、脊髄の中心からだろうか、力が溢れ出してくる。どうやら俺の驚いた表情に察したらしく、小柄な男はクスクスと声を出す。
「ふふふ、奇妙な感覚だろ?まぁ、それでは宜しく頼むよ」
 そしてクルリと来た道を引き返し、小柄な男はどこかへと消えていった。
俺はその場に数分突っ立っていてる、そして時々、自分の後ろでまだ寝っ転がっている大男視線を送る。さっきまで、怖かったのが馬鹿みたいだ、俺は深呼吸して自分の家に向かって駆け抜けた。

 それからと言うのも、俺の日常は大きく変化した。まるで白黒テレビからカラーのテレビを観ている、そんな感じだ。俺は、まず最初に目が覚めると赤いちゃんちゃんこを羽織る、爽快な気分だ、そして会社へ走って出勤する。車や電車なんていらないそれよりも、断然速く、汗も全く噴き出ない。朝からみなぎるエネルギーのおかげか仕事も効率よくでき、ぐんぐんと成績も上がる。顔に油が溜まっている上司も機嫌よく俺に接する様なった、そのせいかさらに俺の仕事の成績は向上する。しかも、月に一度あの小柄な男から多額なお金が俺の口座に入金された。俺は嬉しくなり、毎日の様に酒を飲んではそのまま、会社へと通った。何より疲れも知らないのだ。
 そんな日々を送っている俺はある帰りの途中、炎が燃えさかるマンションの前を通った。どうやら、マンションの屋上にはまだ人がいるらしく、地上から野次馬が見上げて騒いでいる。消防車はまだ到着していない、火の勢いも恐ろしいほど燃え熱の温度と鉄臭い匂いと、コンクリートの柱がミシミシと亀裂が脈の様に入る音が俺の身体に伝わる。
 俺は思った、もしかしたらこの俺に、この最上階にいる人を助けるではないのか?俺はそう考えるとすでに行動に移っていた、突風だった。外壁のタイルにつま先をかけ、ベランダの手すりに手を乗せて跳ねた。その光景を野次馬は見ていたらしく、大きな歓声を上げて俺にエールを送る。
 炎の熱を振りぬいて俺は最上階の防水で塗られた床に足を置いた。その時である、一人残されていた者が俺に飛びついてきた。いい香りがする鼻孔の奥をくすぐる、綺麗な女性だった。しかも運のいい事に俺好みの容姿で、俺の心は高鳴った。俺はその女性を抱いて炎から安全な場所、地上へと降りた。周りは拍手と歓声が巻き起こる。俺はとてもいい気分であった。
 その後、俺はその女性と交際する事になった、そして日々この様な事件や事故を俺は故意に探し出しては解決し始めたので、地域の人から【ちゃんちゃんこマン】と呼ばれる様になった。
 だがある疑問が俺の頭に浮かび上がる。この赤いちゃんちゃんこを俺に着けさせて、あの小柄な男は何の実験をしているのであろうか?これほどの、エネルギーが身体にみなぎってくるのだ、もしかすると危険な実験なのかもしれない。いや、戦争などに使う軍事兵器の武器でこの実験が終わると俺は殺されてしまうのか?俺は疑念が頭の中でぐるぐると回る日が続いた。そうするとこの、赤いちゃんちゃんこを羽織る事が恐ろしく思えてきた。俺は部屋の中で羽織を脱ぎ捨て、会社も休み、布団に入りぶるぶると震えた。
 タイミングが良いのか悪いのか玄関のチャイムが鳴る、俺は嫌な予感がして、ガクガクとして震えお腹が痛くなる。そのまま、やり過ごす事にしたが、ゆっくりとドアノブが回る。俺は終わった…と思った。
「明人君!風邪なの?携帯も出ないから心配して、来ちゃったよ!」
俺の彼女だった。俺は胸をなで下ろして布団から出た。彼女はエプロンを着けてご飯を作り始めた、それと同時に彼女はリモコンを手に取ってテレビのスイッチを押した。
 テレビは音を鳴らして画面が表示される、その中では今流行りの芸人がうるさく怒鳴っている。と、ここでコマーシャルが入る俺は、ぼぅとしてその画面を見つめていた。一つのコマーシャルが終わっただろうか、コマーシャルが切り替わる「ご年配のおじーさん!おばーさん!ついに我が社は画期的な商品を作り出しました!」そしてテレビの向こう側にいる、七三分けの男はカバンから商品を取り出した。その商品を見て俺の目は大きくなった。「この赤いちゃんちゃんこです!この、ちゃんちゃんこ着るとあれれれ?不思議なことに今まで、痛かった足腰は改善!まるで若返った様にエネルギーが込み上げてきます!これで趣味の畑やグラウンドゴルフも…」
 俺は口をパクパクさせて、今自分の隣にある赤いちゃんちゃんこを見た。全く同じだ。今度はテレビの画面に指をさして確かめる。同じだ。
 プルルル、プルルル
ポケットにしまってある携帯が鳴る。俺はその携帯に耳をあてる、懐かしい声だった。あの小柄な男、俺に赤いちゃんちゃんこを渡した奴だった。そいつの声は俺の鼓膜をくすぐる様にして話した。
 「実験の方、ありがとうございます!思っていた以上のデータを取集する事に成功しました、これで老人たちも元気に動けるようになり、そして我が社の製品もたくさん売れることでしょう」

赤いちゃんちゃんこマン

赤いちゃんちゃんこマン

俺はその日まで何処にもいる会社員、いわゆるサラリーマンであった。退屈な日常で生活を送る中、ある日、女性の悲鳴を聞いて、普段の俺らしくなく女性を助けに行ったが…勝てるはずない大男!俺は恐怖を目の前にして震えている時、赤いちゃんちゃんこを羽織った小柄な男がどうやら、俺たち?を助けてくれるらしい、それが俺の新しい日常の始まりとなった

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • ミステリー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-13

Public Domain
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