黄金 五月号
この「黄金」を通して、自己の文学の創造による芸術活動の盛んを願います。
私たち藤光憂美也、明日彼方、苔石俊の三人で、作品の形式は問わずに美しい言の葉を積み重ね、この「黄金」を一つの最高芸術品にするように日々励みます。
皆さま、どうか私たちの作品をお楽しみ下さい。
一.短歌
---藤光憂美也
葉に浮かぶ滴の玉は余りにも儚く割れし夢の間の時
美しき花から花へ蜜蜂の如く飛びけり言の葉の庭
草の根に何が絡みし空っぽの体で引けど土は重たし
肌寒し弥生の風に我が胸の想い見出し草が揺れけり
夕空に君を探せど夢よりも遠く視界は赤く染まりし
幻が虚像であれど幻を愛しく思う時がありけり
(桜を歌う)
妖しげな夜の空気に包まれて眠る桜の身がはだけけり
雨粒に耐えれず土に落ちにけり桜濡れし水は重たく
荒れたるる桜の花を靴で踏み此れぞ浮世と舌を噛みけり
純白の百合の花弁が咲きにけり浮世の色に染まることなく
一輪の薔薇が開きけり影薄し春に別れを告げるが如く
背負いけり罪を流せよ雨粒で数珠をつくれど消せぬ過ち
大空に明日を探せど浮雲の頼りなきけれ風に流れし
照月の輝く如く在りし日の歌が遠くの道で響きし
蒲公英の綿や風雨に散りもせず中身の重き心なりけり
膨らみし馬酔木の花に詰まりたるものは何ぞか指で触れけり
靄のかかる月よ寂しき風の夜に瞳と君の隔ては何ぞ
雨降るや皐月の空の胸奥の音が響きし憂鬱の針
ひらひらと蝶々の如きペチュニアや風を舞台に花が舞いけり
ペチュニアや風に吹かれし純白のドレスを捲る刹那の如く
---苔石俊
平安に積もり積もった言の葉は
平成の世の肥やしとなりたる
無風にてつらつら踊る花びらは
優しくそっと地面を撫でる
手は熱く血の滲む空鉄の味
深き足跡汚泥が溜まる
個人主義歪みを生んだ悪し格差
乳なく赤子雨風ぞ吹く
あな寂し一人味噌汁啜る音
しおみの中に寂寥を知る
働きて灰塵と化す我が心肝
日銭を握る掠れた掌
影深く眠れる顔に西日差し
黄色く染むる眼瞼の裏
一歩づつ一歩づつ行け確実に
その道程よ慎ましくあれ
白雨の苔生す幹を撫でる音
瘤立つ先に道ぞ分かるる
岩走る雨の行方に波立つは
いかでか待たん去る身と追う身
闇夜にも無数に落ちる白雨を
一燈霞みじっと見つめる
せわしなく水面の上を走る波紋
雨音ビート私に響く
水やらず萎びた心にかかる魔法
愛する人の「お疲れ様です」
---明日彼方
足繁く通う毎日雨の夜春の光はいつぞや見たのか
蜘蛛の糸垂れてくるのは雲の糸雨降る季節は地獄も良きかな
沸々と湧き出る怒りに鬱々と人の間違い許せぬ心
黒い空雨の滴る夕闇に一人道行く寂しさ連れて
茜色朝日と夕日の創り出す命の色は今日も照り行く
鉛ごと海に沈めて浮かばせずあの子の心私は知らぬ
店先に並ぶ苺は赤く映ゆ私の心は種と同じく
大地揺れ心壊れる阿蘇の山人の造りし壁は潰えり
目の前で裂け行く道は焦げ茶色命の上に立つ事叶わず
蜘蛛の張る巣を照らすのは雲の糸色のつかない私の歩み
でかぶつにごまする私器なり争うことは死の訪れよ
有明の海苔を食べたら磯の味あの子の姿紫蘇の味かな
二.憂鬱の季節
---苔石俊
(表紙の絵について)
目は口ほどにものを言うといいます。
女性の目はどこか左の方をぼんやりの見つめています。それはどこか儚げであります。片や闇に浮かんだ目はじっとこちらを見ています。不気味で気持ちの悪い目はただ一心に我々を見ています。
私は目が怖いです。人の目をじっと見て話せません。目が合うと一秒も経たずに逸らしてしまいます。しかし私を見ていない目は不思議と怖くないのです。何かを見つめている人や読書している人の目を私は気付けばじっと見ています。美術館や映画館、動物園にいると落ち着くのも、誰も私を見ていないと感じるからだと思います。私は私を見る目が怖く、それと同時に他の人の目がひどく好きなのです。
そこで私の好きな目と嫌いな目を現前させてやろうと思いました。人と目を合わす練習を闇に浮かんだ目でします。不気味になってくると右側の女性の目に癒されます。こうしているといつか人の目を見て話せるようになるんじゃないだろうか。この絵は言わば視線恐怖症矯正のためのものです。
(詩)
「赤き目に」
ぱたんと軽い爆発音がして
アルビノの少女は殺された
その後頭は切り落とされて
ごろりと地面に転がった
血液が噴水の様に飛び散り
地面を黒く染めていた
不自然と違和感を孕ませたまま
土に転がる頭から
耳と舌まで剥奪された
赤々とした血肉に彩られた
仄白い胴体に手足はなく
性器は無残に抉られていた
私の半分も生きていない少女は
金の為簡単に殺された
血肉は呪術師に売られ
ハンターは巨万の富を得る
骨は粉末状にされ
権力者の呪いごとに浪費される
少女が殺された街路では
また別のアルビノが殺される
まだ血が乾かぬ間に
しかと見よ
この凄惨な死に様を
手足の無い少女の死体を
血で汚れた金を
これが現実であることを
「無音」
暗澹たる現状を打開すべく
手をいたずらに掲げてみるが
その所在無げな右手にすら
酷い同情が湧き出てくる
部屋の隅をじっと見つめる
その冷たき眼差しに
一介の喜びを与えもせぬ
この寂しき無音よ
跪き搔きむしり
ボロボロになった体で
俯き落とすその影の
あまりの黒さにゾッとする
---明日彼方
(散文)
鬱
それは殻
私は殻にこもる
殻の中は光だ
外の世界は闇だ
光と闇は対となる
陽が当たれば影ができ
影の中には闇がある
私は影だ
明るく輝く人の影で
一人鬱々と生きる
死の淵に立たされているのに
その淵は終わることがない
光と闇の境界に
私の命は預けられない
だから私はこもるのだ
殻という光に
雨が降れば育つ草花もある
陽が当たれば育つ草花もある
然し、その一方
枯れる草花があることも事実だ
私は枯れたくない
だから、延々と続く光に当たる
光は自ら消えない
消すものがいてこそ、消えるのだ
闇に見えるものは、光なのである
だから私は殻にこもる
いつか訪れる
その時まで
完、
了、
縮。
---藤光憂美也
「憂鬱の季節」
掌に罪と記しては
それをのみこみ罪人と知る
逃れられない現実に
私は悪の因果を知った。
嗚呼、私は罪人であり
暗闇に罰を求めはするが
私の心はどろどろとした
空間に唯、彷徨うのみ
その魂が辿り着くのは
果たして地獄であるのだろうか
それとも灰に染まった無であるか
人生よ 人生が 人生に
傷を付け 又は傷を舐め
その傷が生きている証とするならば
私は気怠さに満ちた一時を
永遠の向こうへと燃やしてしまいたい
三.俳句
---藤光憂美也
薔薇赤く雨が濡らせど燃えにけり
ペチュニアや雨の滴が貫し
燕(つばくろ)や巣を温めし雨の暮
南天の実や一日の雨が染む
前月に桜の散りし地面かな
ペチュニアや寂しき様の雨の暮
桃色の躑躅のままで落ちにけり
絡む根に初夏を知りけり骨と空
青空や青さの染みし夏の草
初夏の陽や顔に流れて輝けり
青空や小波の揺れし風薫る
最後の春空を眺めている
雨粒に触れる消える
ペチュニアの花が落ちる寂しい
四.詩
---藤光憂美也
「心は蝶々」
心は蝶々 ゆらゆらと飛ぶ
風に吹かれて 雨に打たれて
余りにも柔らかな羽は頼りなく
ゆらゆらと 歪に飛びし
「風」
ぼっと風を見つめていた。
それは決して透明色ではなかった。
風よ 吹く風よ。
私は終日(ひねもす)哀愁に暮れていた。
「ペチュニアが咲く」
ペチュニアが鮮やかに咲いている。
明るい色調の花は
笑っているように見えはするが、
もしかするとそうでないのかも知れない。
胸で抱えきれない悲しさや寂しさに
悶え 悶え 時には血を吐くかのように
苦しんでいるのかも知れない。
堪えきれない世の憂いに
死を考えている時すらあるかも知れない。
ペチュニアよ 美しく咲く花よ
君はそんなにも鮮やかな色をして
一体、何を考えて咲いているのだろうか。
---苔石俊
「情景、憧憬、たんぽぽぽ」
烏が鳴き声を上げる頃
空には薄いお月様
夕日に染まる街並みは
今にもおいおい泣き出しそう
デコを汗で光らせて
家路を急ぐ子供達
明日は何して遊ぶのか
カレーの匂いが立ち昇る
その名残風にタンポポは
手を振るように揺れながら
綿毛をいっぱい送り出す
朱色に染まる銀綿を
覚束なげにら見つめながら
「美しき人」
荒涼とした心にも
一塵の風は吹くだろう
仄かに揺れる花の美に
気付けるほどの心あれ
黄金 五月号
読んで下さってありがとうございました。楽しんで頂けたでしょうか?まだまだ実力不足でもあり、これから力を付けていく三人であります。どうか応援のほうよろしくお願いします。
私たち三人は、黄金を通して、己の文学に対する感覚を研ぎ澄ませながら、なお読者の皆様にたのしんでもらうことができましたなら幸せの限りです。
感想や意見のほうがありましたなら、
ogon.literature@gmail.com
までお願いします。