空飛ぶシタイ

空飛ぶシタイ

空飛ぶシタイ

一つの大きな凧が風に揺られながら晴天の空の中で堂々として飛んでいる。高さは約1800mm横900mmほどで色は茶色だ。その真ん中から白い糸がスルスルと地面に降りてきて、小さな子供が糸を操っている。操る子供の回りには大人と子供そして、お年寄りが五月蝿そうに喋り、はしゃぎ子供の糸の先を見据えている。
その光景をある青年が見つめていた。自転車にまたがっていたが、ペダルを強く踏んで進み坂を下る。また、この青年は大学生であり夏休み中という事を理由に、きまぐれで用もない村に自転車で旅行に来ていた者であった。
大の大人が凧に夢中なのだ気になってしかたがない、青年はその凧を見上げる一人の大人に質問してみた。
「この凧に集まって何してるんですか?」
青年の声に気づいたのか質問された、首にタオルを巻く髭の濃いおじさんは、少し不思議そうに答える。
「おめぇ、あれを知らないだ?ありゃー、凧にシタイを付けて飛ばしてるんだ?」
その言葉に青年は驚いて顔が青ざめる。
「し、死体!」
「そだ、シタイだ」
青年は空をゆっくりと見た。とんびが旋回しているその横で凧が気持ち良さそうに飛んでいるが、うん?何かが凧にぶら下がっている。
黒い帽子に、黒い背広、黒い靴、白い手袋、間違いないあれは、男性の人が凧にくくりつけられて、空に浮かばされているのだ。しかも、この農夫らしき人が言うには死体だという。青年は背筋が凍りついた。
青年のひきつった顔に察したのか、坊主の子供が凧の糸を持っている子に声をかけた。
「おい、次郎」
「なんだ、かんちゃん」
「その凧糸をさ、その突っ立ってる男に貸してやってみ?」
凧を操っていた子は嫌そうな表情を見せたが、「かんちゃん!また後でできるだ」と言われ青年の手に板で巻かれた糸を手渡した。
青年はもちろん気味が悪いので断ろうと思ったが、ふと視線をまわりに移すと村の住人はだんまりとして口を閉ざしている。さっきまでの五月蝿さはどこに行ったのだ?青年は死ぬ思いでその糸を受け取った。
糸は意外にしっかりとしており重い、青年は必死にその糸の奥にある凧、そして死体を風に流されないようにコントロールする。
と、上を見続けているとパタパタと線のような物がときたま落ちてくる。青年はそれが腐った皮膚かそれとも髪の毛かと思い一気に気分が悪くなった。それに加え水のような物も顔にかかり口に入る。血?鉄の味もする。胃の底から吐き気が込み上げたその瞬間であった。
突風が吹いて青年が持っていた糸がぶつりと切れた。その状況に大人と子供は悲鳴をあげて走り去る、もちろん青年も口から声を上げて安全そうな場所に逃げる。凧は勢いよく落下し、岩のかどにぶつかり大きな音を立てて潰れた。そのせいだろうか?死体の首ももげてゴロゴロと回転しながら青年の足元に転がってくる。青年は絶叫して鼻水と涙を垂らして自転車にまたがり、ペダルに全ての体重をかけて走り去っていった。青年は思った、二度とこんな村に来るもんか!死体を凧につって飛ばすなんて!キチガイだ!
必死に逃げていく青年を見て鼻水を垂らす少女が言った。
「シタイ壊れちゃッただ」
その声に若い衆は優しく少女に言う。
「大丈夫だ、まーたオラがワラで作ってやるだ」


青年はその気分の悪さから後に、その村を調べてみた。そうすると、この村では方言でカカシと言う意味をシタイと知った。
「でも、あの時の鉄の味はいったい…」

空飛ぶシタイ

空飛ぶシタイ

青年は夏休みを利用してある村に旅行に来ていた。すると妙な光景が目に入る、そう何かが凧にくくりつけられて飛んでいる…

  • 小説
  • 掌編
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  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-13

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