あの日の下校で

あの日の下校で

あの日の下校で

わたくし実はこう見えて以外に一人でいるのが苦痛ではないと思うのです。と言うのはなぜ、皆さんはその様に全くの他人の前でニコニコと笑顔を作れるのかが理解できないのです。しかしながら先週から、その様な顔を作れるのがなんとなくですが、分かった気がするのです。あれは、何時ものお弁当の時間でした。わたくし、母の作った卵焼きと野菜炒めをお箸でつっついて、その冷めた食べ物を口に放っては、アゴを動かして味を嘆賞しておりました。もちろんその様な時間です、周りにいる生徒たちもご友人と談笑しながら、お箸を動かしております。しかしながら、わたくし、一人でそのお弁当を食べておりますので、早く食べ終わってしまいます。だいたい、約二十分ほどでしょうか?そうしますと、わたくし、一人でトイレに行くのです。特に行く理由などないのですが、何時もの習慣になっておりますので、そうするのです。
けれどもこの時は違いました。クラスの実行員の方がわたくしの方に近づき、このように言いました。
「小松くんは、部活入ってないでしょ?」
なぜか、その言葉は何か静かでしたが少し怒りも混じった声に聞こえ、わたくしは率直に入っていないと答えました。少し怖かったのもあります。すると彼女は言われました。
「ならさ、今日、花壇の水かけ手伝ってくんない?一人だから大変なのよ」
お願いと言うよりも強制でした。その後わたくしはその実行員の彼女と草むしりしておりました。水かけだけと聞いていたので少々困りましたが、彼女はそのわたくしの面倒くさそうな表情に気づいたのか、笑顔で「まぁ、いいじゃないたまにはさ!」そう言いながら、カマとスコップをわたくしに渡しました。
そのおかげで、白いシャツは泥が付き、首の回りの襟には黄色い汗が付着します。もちろんわたくしはこの様な肉体を動かすことは滅多にないので、彼女に疲れた顔の表情をわざと見せます。ですが、彼女は土いじりに夢中になっているせいで、中々わたくしの視線に気づきません、それどころかたまに、わたくしの所を見てこう言います。「小松くん!今回はこの花壇にひまわりの種をまこうと思うの」そう言っては実に楽しそうに雑草の茎を刈り取るのです。
結局、水をまいたのは夕暮れにさしかかった時でした。赤い土は水に塗れて何だか黒い色に変色していったのでした。
これが先週初めての事で、今日に至るまでその草刈と水まきが習慣となり、何時もは下校している時間に学校に居るわけでして、不思議な感覚でした。またお弁当の時間も少し変化しておりました。彼女がわたくしの席の前に座るのです。そうしてニコニコと周りの生徒たちの様に笑顔で話し、またわたくしもその愉快な表情につられて微笑んでしまうのが分かりました。
ところで、少々お話が変わります。わたくし帰宅する際、考えてしまうのです、彼女がなぜ笑っているのか?わたくしに対して何を考えているのか?その様に考えて歩き続けているとふと、花屋が目にとまりました。わたくしはさっそく彼女の好きそうな花を想像してお店に入りました。たくさんの植物がありましたがよくわかりません。頭を捻りいろいろ考えた末、赤い花を選びました、花びらが大きくて彼女に似ていると思ったからです。わたくしは家へと向かいました。おそらくその時のわたくしの顔は笑っていたのでしょう、理由は彼女にその赤い花をプレゼントした時の表情を容易に想像できたからです。

あの日の下校で

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わたくし実はこう見えて以外に一人でいるのが苦痛ではないのです。と言うよりも皆さんがニコニコと他人に笑顔を作れる理由が分からないのです。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-12

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