妄想シチュ『七夕の夜』

「これでよし、と」
 七夕の夜、願い事を書いた紙を細い枝にくくりつけた。
 ここは公園で、普通の木にくくりつけちゃったけど、ちゃんと願い事は届くかな?
 ベンチまで戻ると、彼は笑顔で顔を上げる。
「どんな願い事をしてきたの?」
 願い事は、私がいつも思っていること。
 ささいなことだけど、一番大切なこと。
「私たちがいつまでも一緒にいられますように……だよ」
「なんか、普通だな」
 彼に少し笑われてしまった。
 あう……。
「別にいいじゃん。普通だけど、それが一番の願い事だもん」
「ああ、その願いは叶うよ」
 そう言って、彼は立ち上がった。
 見下ろしていた視線を上げて彼の顔を見上げる。
 なんだか、いつもよりかっこよく見えるのは、ノロケかな?
「願い事、しないの? まだ紙とかあるから書く?」
「いや、いいよ。その代わりお前に聞いてもらおうかな、俺の願い事を」
「うんうん。なにかな?」
 彼は深呼吸をして、ベンチに置いてあるカバンの中に手を突っ込んだ。
 体に隠れて、彼が何を取り出したのかは見えない。
 何かを持った左手を後ろに隠したまま、私のほうを向いて笑顔を見せた。
「俺の願いはもっと大きなことだ。それに、お前の願いだって叶えてやる」
 左手を私の前へ出す。
 その手には小さな箱が一つ。
 彼が右手でふたを開くと……
「俺と、結婚しよう……」
 いつもの彼とは少し違う優しい声で、その声は少し震えていて、瞳は力強く私を見つめている。
 月明かりに照らされた指輪が、とても輝いて見えた。
「……は、はい」
 私の声は彼以上に震えてしまって、視界の中の彼が揺れる。
 涙が、ぽろぽろと溢れだした。
「私は、あなたとずっと一緒に、生きていきたいです……」
 七夕の夜、あなたと私は結ばれる…

妄想シチュ『七夕の夜』

妄想シチュ『七夕の夜』

ロマンティック妄想ストーリー

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted