くまかめついのべ。⑦

《①》
彼女は『思い出』を食べて悪を倒す。
僕は前世数千年分の『思い出』に押し潰されながら生きてきた。

「最悪の組み合わせだよ、まったく」
ヴゥヴデュ伯爵は彼女の攻撃を紙一重で避けながら、僕らを睨んだ。
「これ以上ないくらい最高よ」
彼女が弾むように武器を振るう。

《②》
「ラスボス、高かったんだも」
ようやく辿り着いた魔王の部屋で待っていたのは、近所に住むタカユキくんだった。
一生懸命頑張ったラスボスっぽい衣装。
「お年玉まで、待ってくれれば」
世界の運命。
じわじわ襲う罪悪感。
ああ、そう言えば、もうすぐ今年が終わるのか。

《③》
この時代にタイムワープして一番感動したのは、生の牛と触れ合えた事だ。
ミスジやシャトーブリアンなら牧場で何度か見た事があるけれど、牛は図鑑でしか見た事がなかった。
「本当に人類は恐ろしいな」
足が二本の鶏を眺めながら、自分たちの愚かさを嘆いてみる。

《④》
「マッシュルーム星人を捕獲したそうですが」
自宅前に押し寄せる記者記者記者。
「はいはいはい、私の武勇伝はしっかりきっちり余すところなく会見でお話ししま」
ふと気付く。
見知った記者がいない。
「今、彼は何処に」
マッシュルームカットの記者記者記者記者記……。

《⑤》
あれ、少し軽くなった気がする。

魚に啄まれた醜い体が、海底を離れてほんの少しだけ浮いた。
『死んでも渡さない。貴方は永遠に私の』
彼女の重過ぎる愛で沈められた体が、ほんの少し。

《⑥》
ほ乳瓶の中に妖精がいた。
ミルクの海を気持ち良さげに泳いでいて。
「あ」
とぷんとミルクに潜った妖精が、ちゅるりと息子の口の中。
「うあ」
お腹が満たされてご機嫌な息子。
ゲップと一緒に出てくるかな、妖精さんは。

《⑦》
名探偵円球玉丸はスプーン一つで何でもしてしまう。
スプーンで暗号を解き、歯を磨き、ドアの鍵を開け、犯人を倒し、変装し、銃弾をはねのける。
「はい、ミートスパですよ」
ただ一つ、大好物のパスタだけはスプーンで食べられないんだ。
そこで有能な助手の出番ってわけで。

《⑧》
「じゃあ、二千万で」
僕の前に、無造作に、沢山の札束が積み上げられた。
『なんでも買います』の看板を馬鹿にして、持ち込んでみたガラクタの山。
「いや、あの」
壊れた玩具。
小さい頃の写真。
元カノの手紙。
「値上げはしないよ」
おっさんが意地悪く笑った。

《⑨》
なんにもない会場。
皆、招待状を手にため息。
どうやら今回の『狼少年祭』も嘘だったみたいだ。
「やれやれ」
数回に一度だけ本当に開かれるお祭り。
主催者の勝手に振り回されながらも、僕らは皆、そんな嘘も含みで楽しんでいる。

《⑩》
「タトゥーが、その」
そんな理由で極端に肌を隠す彼女。
何とか必死に説得し、遂に健全なお付き合いを卒業するチャンスがやってきて。

彼女がゆっくりと服をまくりあげる。
綺麗な肌、素敵なお臍、愉快な複数の頭部達。
「……」
ああ、タトゥーじゃなく多頭でしたか。

《⑪》
天才捕獲罠に捕まってしまった。
僕は自分を凡人だと思っていたのだけれど、本当は天才だったらしい。
天才なら天才らしく余裕のある立ち振る舞いをしなければ。

「天才だよ、天才」
罠の中には妙に余裕のある馬鹿がいた。
本当、名称変えただけでこんなに楽になるなんて。

《⑫》
博士は不可思議な生物が大好き。
博士は鏡を見るのも大好き。
「……」
自覚はあるんだな、と、私は今日も博士を眺めながら思う。

《⑬》
おばあちゃんはお茶をいれない。

庭には大量の四つ葉のクローバー。
裏山は白い動物だらけ。
軒先はツバメの巣が大渋滞。
素晴らしい福耳の持ち主であるおばあちゃんは、昔からお茶をいれない。
「……のみにくい」
偶にいれるとほら、茶柱フェスティバルが開催されて。

くまかめついのべ。⑦

くまかめついのべ。⑦

ついのべまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-11

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