《神霊捜査》 第九部 「神縁悲話」
〈目次〉
第一章 一家殺人事件
① 捜査依頼
② 情報会議
③ 聞き込み調査
第二章 神縁
① 雷山神社
② 人祖神界の悲劇
③ 作戦会議
第三章 急転回
① 人柱
② 後始末
③ 宇佐神宮と出雲大社
第一章 一家殺人事件
① 捜査依頼
突然電話が鳴った。
ここは神霊捜査課の部内であった。
雫が電話を取った。
「ハイ! シンレイ課です。」
「ハイ、おられます。 お代わりしましょうか? ハイ、ちょっと待って下さい。」
「本郷課長、トバケン、あっ! 失礼しました。
戸張一課長からですが、今から要件があって、こちらに来られたいと言われていますが、宜しいでしょうか? とのことですが?」
「分かった、『どうぞ』と伝えておくれ。」
「お待ちしておられるとのことです。」
と雫は手で被っていた受話器に話した。
戸張課長は本郷課長に要件を話していた。
「先輩、もうご存知でしょう? あの大分県宇佐の一家殺人事件のことは・・・」
「ああ、聞いているよ。」
「実は大分県警が犯人を検挙したのはいいのですが、どうも気になると言うことで、うちとの合同捜査の依頼が来たのですが。」
「何かあったのですね?」
「ハイ、五年前に出雲市であった一家殺人事件と共通点が有りすぎまして・・・」
「共通点?」
「一家全員殺されているということ。
一家の名字がどちらも『二戸(にへ)』という珍しい名前だということ。
犯人は別人ですが、その犯人のどちらも出身地が糸島市の井原村だと言うことでして。」
「被害者の二戸は親族関係なのかい?」
「はい、親族だとのことでして、この親族の残りがあと三家族いるとのことでした。
また同じような事件が起こらなければいいのですが。」
「オーイ、雫ちゃん。」
「ハーイ!」
と言って雫が来た。
「今日は五島先輩は何処に行かれた?」
「はい、月に一度の検診日で病院に行かれています。」
「そうか、では戻られたら今夜6時から情報会議を玉ノ井で開くから先輩にも、シンレイ課全員にも必ず出席するように伝えておいておくれ。」
「はい、分かりました。」
「戸張課長もぜひ出席して、この事件のことを詳しく話して下さい。」
「分かりました。喜んで参加させて頂きます。」
② 情報会議
本郷課長は早めに「玉ノ井」に来て、戸張課長の来る前に、あらかたの話を五島に伝えた。
戸張課長や課員全員がそろって会議という飲み会が始まった。
「女将、今日は何の刺身があるのかね!」
「はい、河豚刺があります。」
「それはいいな! 万能葱を多目に付けるように板さんに伝えておくれ。
それからヒレ酒は出来るんだろうね?」
「はい、ヒレ酒も鍋も、ちゃんと用意しております。」
「今日は最高の酒が呑めそうだな。」
「ところで戸張課長、二戸の家系のことを調査されましたか?」
「ハイ、調べました。」
「それでどこの出身でしたか? 二戸は?」
「始めは、青森かと思っていたのですが、部下の調べでは、何と糸島の芥屋(けや)だったとのことでした。」
「何? 糸島の芥屋! それは困ったな・・・。」
「何かあるのですか?」
「フム! 申し訳ないが、今回の事件は私は係わりたくないのだが・・・。」
「先輩、どうしたのですか?」
と、本郷課長が訊ねた。
「実は今回の件は我家系の因が関係している可能性があるので。私が表に立つ訳にはいかないようだ。」
「どんな因縁があるのですか?」
「ちょっと言えないな。 その内判って来ると思うから、今は何も言わないことにするよ。」
「でも、先生!私達だけでは、解決出来ないと思いますよ。
先生の力がどうしても必用ですよ。」
と雫が言った。
全課員も同じような意見をそれぞれに口にした。
「ああ、判っている。
私は陰に回って指事するから、今回は雫ちゃん、頑張ってくれな!
皆も雫ちゃんに力を貸してやってくれたまえ。 頼むよ。」
「先輩どうしたんですか?」
「先生、今日はおかしいですよ!」
「フム!河豚に酔った!」
「もう、先生たら!」
③ 聞き込み調査
神霊捜査課の面々は、井原で聞き込み調査を行った。
江崎真司と雫、柘植誠一と上川史子、井上洋一と大下葉子の三班に別れて1軒1軒しらみ潰しに聞き込み調査を開始した。
柘植と史子は村役場で村長に面会した。
「博多南西署の柘植といいます。こちらは同僚の上川刑事です。」
と警察貴章の付いた身分証を提示して挨拶した。
「私はこの井原村の村長武田といいます。」
「村長、実は、今回宇佐市で起きた一家殺人事件の犯人の伊沢直治はこの村の出身と聞いていますが、伊沢の育ち等について聞き込みをしている所でして、村長が御存知の伊沢直治のことをお聞きしたくて、お邪魔しました。」
「はい、直治は優秀な子供でした。
伊沢家はこの村では、代々名代を勤める名家でして、直治の父親は私の前の村長をしていました。
直治もとても頭が良く、真面目で、優秀な進学校に通っておりました。
九州大学卒業後は大手建設会社に勤めて、若くて常務迄なった人間でした。
だが、何故か、急に会社を止めたとは聞いていたのですが。」
「そうですか、そんな人物がまた何故、あんな悲惨な事件を起こしたのでしょうか?」
「さーぁ、私には分かりません。」
「最後にお会いになったのは何時でしょうか?」
「はい、昨年の秋期大祭の時、雷山神社の秋期大祭の時が最後でした。」
「ところで、五年前に出雲市で一家殺人事件を起こした大曲謙一もこの村の出身でしたね。」
「はい、どうしてこうもこの村から悪い奴が出るのか?
私共は頭を痛めております。
あの謙一も実はとても良い子でした。
早くに父親を亡くして、母一人、子供一人で、良く働く子で、母親をとても大事にしていたのですが、急に行方不明になり、出雲であんな事件を起こしたんです。
驚きました。
あぁ、そうでした。あれは春の雷山神社の大祭後でした。
私達は春の大祭で、一緒に酒を呑み交わした後のことでしたよ。」
「どちらも雷山神社の祭の後ということですか?」
「そうです ・・・ネ」
江崎真司と雫は糸島芥屋村の村長を訪ねていた。
「こちらの出身の二戸さんのことを伺いたいと思って参りました。」
と、真は芥屋村長の木下安一に質問した。
「二戸さん達のことですね。
新聞記事を読みまして、心が痛みました。
二戸家は、昔はこの村に大家族で住んでいましたが、次々と事故や事件で家族が減っていき、残っていた方々もほとんどがこの村を出て行き、今では二戸家は一軒もおられません。」
「そうですか、昔は大勢おられたのですね!」
「はい、この村の村主的歴史ある家系でしたが、今はそこの可也山の麓に墓が荒れ果てて残るだけになっています。」
「何か二戸家にまつわる因縁か何か聞かれたことはありませんか?」
「二戸家だけでなく、この村の者は、全員昔から『雷山には行くな』と聞かされて育って来ています。」
「それは、また何故ですか?」
「『雷山に行くと血が青くなる』と言われていて、忌み嫌ったのです。」
「血が青くなる?」
「そうです、あそこの神様は人間の血を青く変えると言い伝えられています。」
「雷山神社の神様は人間の血を青く変える?」
「そう、この村にだけ昔から伝わった『遺言』みたいなものです。」
「それで、二戸家のことですが、出雲市と宇佐市以外には、あと何処に移転されたか、御存知ではありませんか?」
「いやあ、知りませんネ、昔はこの村に五軒あったのですが、その内の二軒が」全員殺害されたのですね、あとの三軒の行方は知りませんネ。」
第二章 神縁
① 雷山神社
雫と真は本郷課長の許可を得て、雷山神社参入を試みることにしたのでした。
五島にも伝えて一緒に行ってほしいと頼んだが、断られてしかたなく、二人で行く決心をしたのでした。
この年は2月9日が春分の日であった。
その日に二人は雷山神社に向かった。
井原村の交叉点から南に進み途中から急坂や曲がりくねった道をしばらく登ると千年院という寺院があり、千手観音や、桜、紅葉の名所と書かれた看板を通りすぎて、しばらく登ると大杉や大桧の森の中に『雷(いかづち)神社駐車場』という広場が出てきた。
ここに車を停めて、五島に言われた通りに神塩を握りしめて、二人は歩いて神社に入って行った。
辺りの冷気に増して、寒気が恐怖をかきたてていた。
大きな杉や桧の日陰の苔むした急勾配の石段を登ろうとした時、雫は足をとられて転びそうになり、持っていた神塩を入れた御守りを落としてしまった。
その瞬間、被害して倒れ込んでしまった。
「雫ちゃん、しっかりして!」
と、真はあわてて雫を抱き起こした。
雫の右手の指が動いていた。
それに気付いた真は、手帳とペンを雫に持たせたら、自動書記が始まった。
『何しに来た? お前達は死にたくて来たのか? それとも・・・
そこのオノコ、お前の血は青いではないか。すでに我々の仲間なのだから、そんな神塩は必用ないはずだ!』
「僕の血が青い?」
『そう、そのオミナは赤い。その娘(こ)は我々のいうことを拒否した者達の系統だな!
早くその娘を連れて帰れ、さもないと、その娘の血を入れ替えるぞ!』
その自動書記を見た真は雫を急いで背負って、車に戻り、急発進させていた。
雫は井原村を過ぎる迄、後部座席に倒れ込んでいた。
井原村を過ぎた所で、真は車を停めて、雫の口に神塩を含ませた。
やっと気が付いた雫は、
「怖い! 怖い! 赤い目の牛達がいっぱいいた。」
とおびえていた。
真は帰り道、そのまま、五島の家に寄った。
「先生ー。真です。おられますか?」
「ああ、開いているよ、どうぞ。」
「お邪魔します。」
と、真の後ろから、雫が付いて来た。
「雫ちゃん! やられたな! 赤い怖い目をしていたんだろう?」
「先生? どうして判るのですか?」
「・・・・・」
「先生、教えて下さい。
先生は何を隠しておられるのですか?」
「ウム、しかたがないな! 話してやろう。」
「先生! 青い血と赤い血のことも教えて下さい。
どんな意味があるんですか?
それに赤い目の牛達とは? 何なのですか?」
「二人伴、私と一緒に人祖之宮の前に並びなさい。」
② 人祖神界の悲劇
二礼三拍手一礼をしてから、五島が静かに話を始めた。
「平成19年11月11日のことだったが、我々の仲間が我が家に集合してくれて、この日しか出来ない祭事が行われたんだ。
我々が ゛彼等 ゛とか ゛反対側 ゛とか称している対称の存在が操る ゛赤目牛 ゛という残酷な霊団がいる。
この霊団は4,000年毎に、海を渡って南米のある所から日本にやって来て、当時の日本原住民を襲っていたんだ。
今、判っていることは一度目が8,000年前、二度目が3,600年前、日本にやって来て、原住民達に、『右脳を差し出して、青い血を受け入れろ』と迫り、さもないと皆殺しにすると二者択一を迫ったんだ。
時の長は、皆殺しを逃れる為にその要求を受け入れて、神との交信に必要な右脳を差し出した組と、それを拒否して全滅させられて、この世から抹殺させられた組とが出来たんだ。
それで今、生き残っている日本人のほとんどは、右脳を差し出し、青い血を受け入れた組の子孫ばかりだが、中にほんの少しだが、雫ちゃんみたいな赤い血の子孫もいるんだな!
真ちゃんや私等は青い血の子孫なんだ。
東北のアラハバキ族、全滅を怖れて青い血を受け入れた代表みたいに今は言われているが、本当は第二次襲撃時に、この九州の地で、弥生時代の奴国が襲われ、奴国の長は全滅を怖れて右脳を渡し青い血を受け入れていたのです。
そして、そのことが、隣の地に住む『だいにじんそ』の神縁にある芥屋の民の全滅の引き金となる事件が起こっていたのだよ。
それで、我が家の家祖達は、その11月11日に『懺悔祭』をして、神と、だいにじんそ様の神縁のミタマ達に謝る祭事をしたのだな。
私はだから、この件に直接係わる権限が無いと断ったんだよ。」
「雷山は何ですか?」
「アンドロメダ霊団の本拠地だから赤目牛がいっぱい居るんだよ。
奴等が今の村人、井原村は地元だから、井原村の善良な人間を使って、昔の『型』を再現しているのだと思う。
だから、だいにじんそ様の神縁の二戸家を皆殺しにしているのだと思うよ。
怖いことだが、このことはアンドロメダ霊団のタテカエを済まさなければ、まだ続くね。
後、三軒あるが、今はまだ大丈夫と思うよ。
何故なら、殺られたのは、宇佐市と出雲市だから、その他の地で、何処かの神社で四拍手している所に、もし二戸家があれば、そこは危ないが、今の所、四拍手をしているのは、宇佐神宮と出雲大社だけだからね。
四拍手とは、封呪なんだな。
昔は、原住民を殺して神社を造りそこに神々として祭って、生き還ら無い様に封呪の為に、四拍手をさせる様にしたのだ。
ー拍手が現界、二拍手が人霊界、三拍手は神界、四拍手は幽界に届く為に幽界に留める封呪としたんだ。
そのことを知らない後生の人間は一生懸命に呪いの型を踏襲しているのだから、無知とは怖いものだな!」
「それで先生は、三拍手をするように私達に教えておられるのですね。」
「そうだよ二拍手だと、人霊界に行ってしまうからね!」
③ 作戦会議
神霊捜査課で作戦会議が催された。
五島も参謀として参加していた。
「今回の重大な事象の解消の為にはどうすれば良いのですか?
先生教えて下さい。」
と雫が五島に言った。
「フーム、今回は厄介だな!
雷山神社のタテカエをしなければ、終わらないことだから、赤目牛の南米の拠点、チョロルート大十字架、キリスト像は、以前、東京の検察庁のスサナル捜査部GHT部隊が、南米まで出向して大作戦を実行して解消させたんだが、その生き残りの一派の霊団が雷山神社のアンドロメダ霊団の中に残っているんだと思う。
だから、アンドロメダ霊団伴々タテカエする必要がある。
このアンドロメダ霊団こそが、12の悪の『アブク』を起こさせた悪の総元締めだから。
大変な祭事になるだろうネ」
「今回の事件もまた五島先生が全指示をしていただかないと解決には到らないと思えます。」
と雫が自信無さそうに言った。
「そうですよ、先生!
僕たちだけでは無理ですよ。」
「フム、困ったものだ。
少し考えさせてくれないか。」
「それはいいですが、私達はどうしておればいいのですか?」
「残った三軒の二戸家が心配だから消息を探して事件が起きないように見守っていてくれたまえ!」
「判った。何処に住んでいるか、至急調査して所轄の署に警固を頼んでおこう。」
と本郷課長が言った。
五島は、
「私もどうするべきか神合わせをして伺ってみようと思っているから、雫ちゃんその時は取り継ぎを頼むネ!」
第三章 急展開
① 人柱
翌日、五島の所に悲報がもたらされた。
五島の伯父伯母が住む自宅が何者かに放火されて、全焼し、二人共焼死体で発見されたのでした。
伯父は92歳、伯母は85歳だった。
五島にとっては両親の死後、ずっと慕ってきた肉親であった。
五島は葬式の日、雫を連れて出席して、伯父達の残霊の話を聴こうとした。
「雫ちゃん、どうだい? 伯父か伯母の残霊は何か言っていないか?」
「ハイ、お二人伴、黙っておられます。
不思議なことに、ニコニコされておられます。」
「ニコニコしている? という事は死んだことを嫌がっていないということかネ。」
「ハイ、あっつ!『人祖之宮』と伯父様が言われました。
人祖之宮で伺えということなんじゃないでしょうか?」
「分かった。
帰りに家に来て人祖之宮に聴いてみてくれないか?」
「ハイ、分かりました。」
自宅に戻った五島は人祖之宮にお灯りをあげて、雫に取り継ぎを頼んだ。
『こちらに来た二人は上級人霊界に入る予定です。
そなたには解っているであろう、我家系の汚点である、あの事件。
既に神々には懺悔して御詫びをしたが、神界の型を何処かで出さねば済まなかった。
二人にその型の踏襲をしてもらった。
つまり人柱だった。
これで全て終った。
そなたはもう遠慮する必要は無いのです。
自由に神御用をしなさい。
と、人祖側司長様が言われています。
以上です。 家祖代表。』
「よく分かりました。ありがとうございました。
伯父や伯母のことを宜しくお願いします。
五島家の人柱となられたのですから、これで『だいにじんそ』様への贖罪は了となったと考えていいのでしょうね。」
「『そうだ。』と言われています。」
「だいにじんそ様の完全復活は完了したのでしょうか?」
『だいにじんそ様は平成27年2月4日の糸島前原の「なぎの宮」の祭りで完全復活される予定となっています。
一番大きな我家のミソギだけが残っていたのです。
それも今回の人柱で済んだ。
後は時間をかけて、少しづつ、関係のある小さな神縁ミタマのミソギとタテカエをして行くだけです。』
② 後始末
五島は、全ての事情を捜査会議で話した。
「我五島家は、九州博多の弥生人の末裔の代表として、約8000年程前、縄文前期、弥生時代の前に当たるのだが、第一次赤目牛襲来にあい、生き残る為に、神との通信用の右脳を渡して、青い血を受け入れて、全滅を逃れた為に隣地の糸島に神座されていた『だいにじんそ』様とその神縁の原住民の絶滅に加担した罪を負っていたのです。
と言っても、我五島家がその直系とは言えないのですが、たまたま私五島が神業参加をして、真の神に触れていることから、その代表としてのミソギを受けることになったのです。
それで平成19年11月11日に五島家々祖懺悔祭をして、だいにじんそ様を始め世之元の真の神々に、縄文人の流れの弥生人の代表として懺悔して謝罪して、平成27年2月4日には糸島で『だいにじんそ』様の復活祭事が予定されていて、その時には完全復活されることになるでしょう。
それまでは少しく細かい赤目牛関連の事件がおこる可能性は残ってはいますが、大きな事件は起こらないでしょう。
ただ、宇佐市と出雲市には再度行って確認する必要があると思っています。」
「それでは、雷山は手を付けずに置いておくということですか?」
「今は、神仕組みに委せることしか方法は無いだろうね!」
「残念ですね! あそこは本当に怖い神社でした。」
「私、あそこのことは赤目牛しか覚えていません。」
と雫ちゃんが言った。
「自働書記のことも覚えていないのかい?」
と、真ちゃんが訊いた。
「ええ、全く。」
「真ちゃん、雫ちゃんはそれでいいんだよ。
真の神の取り継ぎ役は何を取り継いだかは自覚が無いのが、本当の取り継ぎ役なんだよ。」
「そうなのですか?」
「そう、意識があれば、都合の悪いことは取り継が出来なくなるだろう。」
「なるほど。」
③ 宇佐神宮と出雲大社
五島は本郷課長の許可を得て、雫ちゃんと真ちゃんを連れて宇佐市と出雲市に調査の旅に出た。
宇佐神宮には五島は五度目の参入だった。
正面の参道を使わないで、裏の農道に、真ちゃんに指示して車を回してもらい、本殿の広場の裏門から入り、高い階段を登って参拝した。
五島達3人は堂々と、ニ礼三拍手一礼して、参拝の目的である原住民のタテカエが完了しているかどうかを訊ねた。
『五島殿、ありがとう。久しぶりに魂が震えました。三拍手で留めてくれてありがとう。
貴方方神人が平成9年12月9日に眩しい光と動き回る光の粒の塊の神様を連れて来られて我々を押さえつけていた虚の世界の龍体神界の神々をタテカエされて以来の三拍手でした。』
「はい、あの時は、畏れ多くも底津岩根之大姫神様のへぐれ神、サンゴ姫様と八百八光之大神様が来られてタテカエされたのです。
あなた方はその時におられたのですか?」
『はい、あの悪神達に閉じ込められていました。
やっと自由になれると思ったのですが、我々霊だけでは動けず、その後、今日まで、彼らの呪いの四拍手に封呪されていたのです。』
「初めはいつですか?」
『はい、8,000年前です。赤目牛にここにミタマを閉じこめられました。
何時も詣りに来る人間達に四拍手されて、幽界に行けと言われているようで、とても辛い思いをしました。
今日は嬉しい。
ここから出て人霊界に行けるのですから。
皆、喜んでおります。ありがとう。 原住民ミタマ代表。』
その後、次々と担当の神々に伴われて神社を出ていくのを雫ちゃんが霊視していました。
五島達は門司に出て、三陽自動車道を経て岡山から智頭を抜けて出雲へむかったのでした。
出雲大社に入ると、高津玉之大神様が、
『こっち、こっち』
と雫ちゃんを誘って、五島達を出雲上宮に案内した。
古びた旧式の大社町上宮境台にある上宮には、老の智という根元特命神上席6神の5番目の偉い神様が居られて、五島達が三拍手して挨拶をすると、
『よく来ましたね。そなた達を呼んだのは、この出雲大社も「殺して神として祀る」という天民武盛の型を色濃く残す神社であるから、当然地民屈従が成されていたところなのだ。
そのタテカエを神人合一で成果して貰いたいのだ。
宜しく頼む。 老の智。』
「解りました。何処でどんなことをすればよろしいのでしょうか?」
『高津玉之大神が指導するのでよいな!』
「解りました。高津玉之大神様宜しくお願い致します。」
二礼三拍手一礼をすると、すぐに、
『一度出雲大社に戻って、五島殿、物入りのところをあいすまぬが、本殿横の神古殿(しんこでん)の1階の売店で売っている神楽鈴、巫鈴とも言う鈴を2つ買い求めて欲しい。
その後、祭場にあないする。
宜しく頼む。 高津玉。』
五島は言われる通り、神古殿で一つ2000円の神楽鈴を二つ買い求めた。
『日ノ御埼の岸壁岩に行きなさい。』
との指示で三人は歩いて、美味しそうなサザエや二枚貝の炭火焼きの匂いが漂う出店の間を通って目的地に到着した。
岩間に腰を降ろすと、天空の日之大神様に日輪がかかり、燦々と暖かい光が注がれる中で、
先ず神鈴を鳴らせとの御下命である。
真ちゃんと雫ちゃんが鳴らすと、
『その鈴の音(ね)を聴いて、ここに集まった原住民ミタマが喜びで泣いている。すまぬが五島殿、挨拶と三拍手して、このミタマ達を人霊界に送ってやってはくれぬか!
宜しく頼みます。 日之大神。』
「解りました。
それではご挨拶致します。
犬山神社のヤチチ様から御教授頂いた人霊様に対する挨拶です。
どうぞお受け下さい。
(二礼三拍手一礼して、)
風よ、日よ、空よ、
山よ、大地よ、海よ、
めぐりあわせてくれたことを
感謝いたします」
『見事にミタマ達は人霊界に帰れたぞ! その鈴は大事に保管して置いて、神も人もどちらも、結びごと、つまり神結び、人間の結婚の時に義理天上・龍宮乙姫の了解の元で使うが良い。
昔私達、月之大神、日之大神の神結びをこの地で執り行ったことを伝えておく。 月之大神。』
完
《神霊捜査》 第九部 「神縁悲話」