くまかめついのべ。⑥

《①》
僕が取り出したモノに怪物の群れが目に見えて怯んだ。
圧倒的優位にも関わらず、一定の距離をキープし近付いてこようとはしない。
「流石、元飼い鳥たち」
爪切りをぱちぱち鳴らしながら、このピンチの打開策を必死に考えてみる。

《②》
赤ちゃんの頃から、息子の身の回りのモノはゾウさんばかりだった。
偶々、偶然、服にクッションに食器に玩具に。
「行ってくるよ、親父」
だから地球の運命をかけたこの戦いで、息子が乗り込む巨大兵器はゾウさん型で、もちろん色は緑色で。

《③》
苦手な飲み会。
苦手なお酒。
ため息混じりにグラスを見つめると、小さなオランウータンが泳いでいた。
「あの、これ」
隣の人に見せようと、思わずグラスを持ち上げて。
「……ん、乾杯?」
不思議そうに笑う高崎さん。
グラスを軽くぶつけて、そう言えば、なんて続けて。

《④》
小柄なおばさんが、ぶたさん貯金箱を拾っていった。
無機質な段ボール箱が大分広く見える。
彼女に捨てられたモノは、とうとう僕と、韮饅頭マンのぬいぐるみだけに。
「……仲良くやろうな、韮饅頭マ」
「あ、韮饅頭マンだ!」
幼い少女の声。
ひとりぼっちになる予感。

《⑤》
僕が立てた物音に異星人たちが気付いてしまった。
今見つかったら僕らは確実に殺さ
「ももうっびるあああ!」
絶体絶命大ピンチな状況で、突然彼女が奇声をあげた。
「なんだ、ビリリモヌか」
……。
何故か去っていくピンチ。
僕と幼なじみの間に発生した違和感、不信感。

《⑥》
初めて訪れた街にそれはあった。
歩道の横、自転車道の隣、車道の手前。
白線で区切られた謎の細い道には、歩行者でも自転車でもバイクでも車でもない妙な乗り物とそれに乗る不可思議な何かが描かれていて。

勢いで謎の道の横に引っ越して三十年。
ソレはまだ、通らない。

《⑦》
ある日、世界中に綺麗な花が咲いた。
途端にあらゆる争い事が解決。
地球は戦争や憎しみのない平和な惑星になった。
「何と恐ろしい光景だ」
宇宙を飛び回る花の種。
様々な星で『咲かない花』と呼ばれたそれが、地球では咲き乱れてしまった。
悪意でしか、咲かない花だ。

《⑧》
『へそで茶を沸かせたんだよ!へそで茶が』
電話の向こう、田中は興奮気味にそんな事を言った。
あああ、どうでもいい。
俺は咄嗟に掴んでしまった【喉から出た手】をどうすれば良いのか、対処に困って、解決方法を探していたのに。

《⑨》
アウタは凶悪な重火器を振り回し、容赦なく手紙の怪物をぶっ壊していく。
「そんなことしたら」
燃えかすになった怪物。
戸惑う僕の頭を叩き、彼は空を見るよう促した。
「簡単にくたばるような奴らじゃねえよ」
飛び回る透明な便箋。
やがてそれらは各々の行くべき場所へ。

《⑩》
パンナコッタ帝国とプリン共和国の戦争は、今日もだらだらぷにぷに続いている。
昨日で八年経った。
見届け人に選出された僕は、今日もだらだらふにふに退屈に殺されそうで。
「いっそのこと」
冷凍庫とバーナーを買いに行こう。
第三勢力として、僕が覇権を握ってやるんだ。

《⑪》
『革命』でひっくり返ったのは、ゲーム内のカードの強弱ではなかった。
何故か分からないけれど、世界中の『食物連鎖』が全て逆転してしまったんだ。
「元に戻さなきゃ、僕らの手で」
廃屋の物陰でトランプを広げる。
人類と捕食者たちの運命は、このゲーム次第で。

《⑫》
『いつか王子様が……』
夢見る女子は考え方が甘過ぎる。
待ってたってダメよ。
現実は結構厳しいんだから。
「見いつけた」
私は皆と違って行動派。
今日もカエルを探して、チュウするの。

《⑬》
「君と共に戦えた日々を誇りに思うよ。君に会えて良かった」
時限式拘束装置で身動きの取れない僕。
あああ、油断した。
「日本の米はとても美味しかったぞ」
雀頭の紳士は笑う。
格好良いのに最高に間抜け。
遠くの空一面に広がったザルを見上げ、彼は一人で、僕を置いて。

くまかめついのべ。⑥

くまかめついのべ。⑥

ついのべまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-10

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