恋花ーコイハナー
恋って上手くいかないときの方が多いけれど、それでも私は貴方が大好きです。
平凡だけど、恋に真っ直ぐな玉木と遠野先輩の恋の行方は?
一瞬に過ぎていくなかでただひたすらに恋の花を育てる青春物語。
私の好きな,,,
私はしつこいと思う。
こと、恋愛に関しては。
だからいつも失敗するの。
初めまして、私は玉木実、高校2年生。
私の日課,,,それは,,,
「せ、先輩~!!」
「あ、おはよう。」
「おはようございます、、、。じゃなくてん」
眼鏡をかけたタレ目のちょっとぷっくりとした先輩。
この人は、私の憧れで同じ部活のひとつ上の先輩。
遠野博之先輩。
私はこの人が好き。
毎日この言葉をかけてから、私たちの会話は始まるの。
「先輩、好きです。」
「うん。知ってるよ。もう何回も言われてるからね。」
「私と付き合ってください。」
毎回言ってたって、顔は真っ赤になる。
「うん。知ってる。でも俺じゃ幸せにできないから。」
私は先輩に好きになってもらえたら幸せなのに。
先輩はずるい。
優しい断り方でまた私の恋心は大きくなる。
「でも諦めません。先輩に好きになってもらうために頑張りますから。」
頑張ったらいつか、、、。
先輩はクラリネットを吹くとき、何であんなにカッコいいのかしら。
私たちは吹奏楽部に所属していて、先輩は木管で私は金管を担当している。
私の楽器はトロンボーン。中学校の時からずっ
目標
自分の音を探そう、、、。
って決めたものの、私の音は白紙だった。
いつでも誰かの真似をして、いざ向き合うとなにもない。
「そんなやつの音なんて誰も聞きたくないよなあ。」
個人練習中に、ふと愚痴を漏らす。
「お前は何でそう自分のことばっかりなんだよ。」
後ろを振り返ると、ひとつ上の同じトロンボーンの堀田真理夏先輩が怒り心頭で立っていた。
「ま、真理夏先輩。いや、これはその、、、。」
真理夏先輩ははあっとため息を吐くと続けてこう言った。
「玉木、来月には定期演奏会があるんだよ?私らには最後のね。だから、大成功で終わりたいわけよ。わかる?」
そうだ、この定期演奏会で三年生は一人づつソロを演奏するんだった。
先輩の気持ちも考えずにまた私は自分のことばっかり考えてた。
「すみません先輩。反省します。」
真理夏先輩の他に二人、三年生の先輩がいた。
ファーストトロンボーンの小野枝光先輩。
バストロンボーンの里見幸助先輩。
私たちトロンボーンのメンバーはとても仲が良かった。
本音を語り合い、時には喧嘩もしたりした。
先輩たちにはこの定期演奏会は高校生活最後の演奏会なんだ。
誰もミスすることなく、晴れやかに終わることが三年生全員の願いなのだ。
「わかってくれればいいの。私も言い過ぎてごめんね。」
クスッと笑い合った。
こんな楽しさもあとすこしで終わってしまう。
先輩たちのフォローをするのが私たち二年生の役目なんだ。
全体練習の最中、顧問の植木正文先生はこんなことを言い出した。
「今回の定期演奏会で、三年生の他に二年生の中から五人ソロを任せたい。来年の練習だと思ってやりたい人はいるかな?」
私は、チャンスだと思った。
でも、うちのパートはすでに三年生が三人吹くことになっている。
きっと、私が手を挙げたところで選ばれることはないだろう。
そのときだった。
「先生、玉木にソロを吹かせたいんですが。いいですか?」
真理夏先輩が立ち上がってそう言った。
「しかしなあ、トロンボーンはもう三年生が三人出るだろう。先生としては、他のパートの方が、、、。」
「じゃあ、私のソロを代わりに玉木に吹いてもらうことにします。」
部員全員がその言葉にざわついた。
三年生がソロを二年生に代わりに吹いてもらうことなど今までなかったからだ。
「なぜ、玉木なんだ?」
先生が、私と真理夏先輩を交互に見ながら聞いた。
「玉木の音は、とても綺麗だから。私よりも玉木の方が適任だと思ったんです。」
部室のなかはシーンと静まり返っていた。
沈黙を最初に破ったのは先生だった。
「わかった。だが、玉木に別のソロを用意するから君は自分のソロを責任をもってふききりなさい。」
部活が終わったあと、私は先生に呼ばれた。
「この曲のソロを吹いてみなさい。」
そう言って渡されたのは、定期演奏会の目玉となる難曲だった。
私が吹くのは、曲のラスト。
静かだけれど、ロングトーンが16拍もある。
七小節の最後に、そのロングトーンで終わるのだ。
私が、曲の終わりを奏でる。
責任は重大だった。
私にそんな大役が勤まるのだろうか。
基礎練習を終えて、ソロの練習をしていた。
初見では静かな印象しかなかったけど、どこか力強いな。
「頑張ってるね。初見なのにうまく吹けてる。」
博之先輩、、、。
「でも、まだこの曲の良さを表現するイメージが湧かなくて。」
すると、先輩は少し驚いた顔をした。
「玉ちゃんって、、、偉いね。俺なんて最初っからイメージなんて考えたこともないな。」
「私って、実は楽譜が読めないんですよ。」
「え?」
あ、先輩呆れちゃったかな。
どうしよう、、、。
「、、、楽譜が読めないのにどうやって吹いてるの?」
私は少し照れながら話した。
「最初に、先生から音源を借りてから家で何度も聞くんです。それで、拍とか数えて楽譜と照らし合わせるんです。そうすると、何となく自分のパートが分かるっていう感じですかね。」
楽譜が読めない吹奏楽部員なんて聞いたことないよね。
先輩きっと引いてるよね、、、。
え?
先輩の手のひらの温かさがなぜか私の頭の上に、、、。
え?私もしかして、頭撫でられてる?
「ええええええ!?」
「あ、ごごめん。」
ふと先輩の顔を見ると、耳まで真っ赤になって震えていた。
「え、せ、先輩?」
「い、いや。なんか可愛いなって思ったらなぜか手が勝手にさ。」
どうしよう、すごく恥ずかしいのに嬉しくて、顔ニヤニヤしちゃうよお。
「か、可愛いって。私は、真剣に話してるのに。」
「その、真剣な感じが可愛いと思ったんだけどなあ。嫌ならもうやらないよ。」
そう言って、先輩は自分の練習室に戻ろうとしたとき。
グイッ
私はとっさに先輩の腕を掴んでしまった。
「あ、あわわ。ご、ごめんなさい。」
「い、いや。どうしたの?」
私は動揺しながら、先輩に言った。
「あ、頭、、、、。」
「頭?」
「頭、もう一回撫でてください。」
え、私なに言ってるんだ!?
フワッ
先輩は、さっきよりももっと優しく私の頭を撫でた。
「玉ちゃんってさ、、、。」
「え?」
先輩は何か言いたそうにしていたけど、少し黙ってから。
「やっぱりなんでもない。」
そう言って、足早に私の元から去っていった。
先輩、何を言いたかったんだろ?
先輩に、頭を撫でてもらえた。
頑張って練習したから、真剣に話したから。
可愛いって言ってもらえた。
頑張ろう。もっともっと。
定期演奏会で、絶対にこのソロを成功させるんだ!
そしたら、また、撫でてくれるかな?
頑張ったねって。
誉めてくれるかな。
夏祭り
定期演奏会の練習をしている。
でも、どうしても高音がでない。
「何がダメなんだよ。一発で出てくるようにしないといけないのに。」
悩んでたって仕方がない。とにかく、練習あるのみ!
「玉、そんな難しい顔してると先輩に嫌われちゃうよ?」
そう、後ろから声をかけてきたのは
恋花ーコイハナー
玉木のような真っ直ぐな恋は時に固い岩をも壊す力を秘めているものです。
上手くいかなくて、悩み苦しんだり、時には自暴自棄になったりすることもあります。
それでもなお、自分の心を真っ直ぐに持てば、時にこんな奇跡を起こすものです。
恋のもどかしさ、切なさ、暖かさ。そして、奇跡を信じることの大切さを伝えることができれば幸いです。
またどこかでお会いできるときまで、、、、。
最後まで読んでくださりありがとうございました。