時の足跡 ~second story~ 6章~10章

Ⅱ 六章~綻び~

移り変わる時の流れは、人の心も変えて、愛しい人の心は、何時の間にか時の悪戯に、心弾ませてた・・・、
何時の日か見失ってしまいそうな大切なものが、形にできないもどかしさで、いつしか不安が、絶望に変わるかもしれない、
知らない訳じゃない、繋いだ手は容易く解けてしまうことも・・、繋いだ糸がもろいということも・・、ただ・・、
眼を背けていたいだけ・・、信じていたいだけだから・・、知らない振りしていたいだけ・・。

うちは、またいつものように窓の外を眺めた・・・、
街に明かりが輝きだして、夜の街を楽しむ人たちの声が騒がしく聞こえてた・・、そんな人たちの笑って話す笑顔が・・、
笑い声がうちには楽しそうで、何処か微笑ましく思えてきたら、独りの寂しさと、埋められない心の隙間にやり場のない自分に、
またため息が漏れた・・。

胸の奥が詰まりそうな息苦しさに、またうちは苦しめられた・・、眼が覚めた時は何故かいつもそこにヒデさんがいる・・、

でも今日は、何故かサチも一緒にいて、ヒデさんはうちの顔を覗き込むと「亜紀、大丈夫か?」って言った、するとサチが「カナ、大丈夫?」
って聞いた、

うちが起き上がろうとしたら、ヒデさんが「起きるのか?」って手を差し伸べて、「亜紀?ほんとに大丈夫なのか?何処か悪いんじゃないのか?」
って聞いた、

「そんなことないよ?あたしは大丈夫、でもふたり揃ってどうしたの?何か有ったの?」って聞くと、

ヒデさんは、
「ああ~、別に何かあった訳じゃないさ、約束してた靖に会いに行く話し、亜紀にも話そうと思ってさ~?それで亜紀は、大丈夫かな~?
身体の事もあるから、どうかな、行けそうか?」そう言ってうちの前に坐り込んだ、

「アンちゃんには逢いたいって思うし、あたしは行きたい、でもあたしもいいのかな?・・」って言うと、

ヒデさんは、
「何言ってるんだよ~、行く時は一緒だろう?亜紀、最近おかしいぞ~?それとも具合でも悪いのか?」って言われて、

「あ~ごめんなさい、そんなつもりじゃ~、行かせてください?・・」って言うと

ヒデさんは
「分かった、それじゃ~早速だけど、明日、靖は、休みなはずだから、明日行こうと思うんだ、いいかな?」って言うと、

サチが、
「私は何時でもいいわよ?ただカナ、ほんとに大丈夫なの?」って聞かれて、「あ~あたしは、大丈夫!」って言うと

ヒデさんが、「よし、決りだな?それじゃ~明日、な?」で決った、

するとサチは、
「それじゃ~?私はこれで?お邪魔しました~?カナ明日ね?おやすみ」そう言って部屋を出ていってしまった・・。


その後ヒデさんは、壁に寄りかかって何か考え込んでた、こんなに早く二人の時間を過ごせるのに、どうしてか、かみ合わない・・、
いつも二人が顔を合わせるのは、ほんの僅かな時間だけ、今こうして長く居られる時間に・・、なのに何も話せない・・、
なにも話しかける事も無いままヒデさんはただ、「亜紀~?明日は早いんだ、もう寝よう~な?」って言うともう床に入ってた・・。



眠れないまま朝を迎えた今朝、空が明るくなりだしてきた頃に、何処からかともなく聞こえてきた雀の声・・、
うちは誘われるように雀の鳴き声の居場所を探した、でも・・、

そんな時、ヒデさんがうちの背中越しから抱きついてきて、
「おはよう~亜紀?何してたんだ~?亜紀は寝たのか~?」って聞かれて、「おはよう~?少し早起きしただけだから・・」
って返すと、ヒデさんは「そっか・・」って言うと、また寝床へと戻った・・、

その時、雀がうちの目の前に姿を見せた、此処に来てほしいなって願いながらじっと待ってたら、雀が窓枠にとまった、
うちは嬉しくなって坐りこんで眺めながら(おはよ~雀さん?・・)って心に呟いてみた、すると雀さんはまた何処かへ飛んでいってしまった、
もう少し居てほしかったのに、少し味気ない気もして、ついため息が漏れた、

そんな時ふいに後ろを振り向くと、何時の間にか、ヒデさんがうちの後ろで腰を下ろして眺めてた・・、

「ヒデさん、ずっとそこに居たの?もしかしてずっとそこで見てた~?」って聞いたら、ヒデさんはニコッと笑って、頷いた・・、

うちはなんだか恥ずかしくて、
「もしかしてあたしの事笑ってたの~?声掛けてくれたらいいのに・・・」

って言ったらヒデさん、
「俺が声掛けたりしたら雀が逃げちゃうだろ~?それに亜紀、嬉しそうだったしな?そんな亜紀見てたら俺も何だか嬉しくてさ、
元気な亜紀見られただけで俺は満足だよ?・・」って言った、そんな事言われたら返す言葉もなくて、うちは空に眼を逸らしてしまった・・。


その後、居間へ降りて見るとサチは一人くつろいでた、顔を合わせた
するとサチは、「おはよう~カナ、体調はいいの?」って聞かれて、「おはよう~、あたしは大丈夫よ・・」って言うと
ヒデさんが「それじゃ~行こうか~」って声掛けに、笑顔で頷くサチに、うちは少し気後れしながら、一緒に店を出た・・。



久しく思えた街の中、窓から眺めるだけの街が、うちには違って見えて少し戸惑いながら夢中でヒデさんの背中、追いかけた、
何故かうちは、ふたりの後を歩いてた、それが当然のように、それでも振り向いてくれる事はしない、ふたりの会話にうちの入る居場所が
見つからない、だから、ただ早く辿りつけたらいいのにって、ヒデさんの背中を追いかけた・・。

やっと着いたアンちゃんの住んでる街の駅に、何処か懐かしさが込上げた、あの日迷い込んだ街だから、(アンちゃん、逢えるかな~)
そんな時サチが
「ヒデさん?ほんとに此処なの~?なんか工場ばっかりで、何も無いところね?」そう言ってサチは、がっかりしてた、

ヒデさんは、
「仕方ないさ、あいつの仕事場はこの町なんだから、さあ行こう~・・」そう言って歩き出した、

やっと着いたアンちゃんの住むアパート、玄関の扉を前にした時、ヒデさんが扉を叩いた、
「靖~居るか~俺だけど~靖~?・・」って呼んだ、しばらく返事がなくて、居ないのかと諦めかけた時、扉が開いて、アンちゃんが
寝てたのか、眼をこすりながら顔を見せた、(アンちゃん、逢えた・・)変わらない、変わってない、そう思った、

するとアンちゃん、
「どうしたの?みんな揃って、何かあった?」って聞いた、

ヒデさんは、
「お~久しぶり~?お休みのとこ悪いな?いや~みんな、お前に逢いたがっててさ~、特にさっちゃんがね?で、逢いに来たってわけだ・・」

って言うとサチは、
「ヒデさん?その言い方酷くない?なにもわたしだけじゃないでしょう~?ね~カナ~?・・」って言われて、うちは返事に詰まった、

するとアンちゃんが、
「こんなとこでやめなよ?いいから入りなよ、散らかってるけど、気にしないで・・」って、中に入れてくれた、

ヒデさんは、
「悪いな?所で靖、お前今日空いてるか~?」って聞いた、するとアンちゃんは「ああ~空いてるけど、どうして?何か有るの?」

って言うとヒデさんは、
「そっか好かった、それじゃ~ちょっとつき合ってほしいとこがあるんだけど、駄目かな?」って言うと

アンちゃんは、
「ああ~別に構わないけど~、でも何処行くの?」って言うと、ヒデさんは「ええっと~、内緒だ!・・」って言いだした、

その言葉にアンちゃんは吹きだし笑いしながら、
「なんだよ、それ~?ヒデさんもしかして、サチに影響された~?駄目だよ~、サチ・・」って言いかけた時、

サチが、凄い顔して、
「コラ~アンちゃん?変な事言わないでよ~わたし何も言ってないからね~!」って怒った、

でもアンちゃんは、
「あれ?俺、間違がった事言った~?まっいいけど、それじゃヒデさん、支度するから表で待ってて貰える?」って言われて表に出た・・、
数分して出てきたアンちゃんは、まだ少し眠たげな顔してた、そんなアンちゃんは出てきたと思ったら、らもう伸びをしながら大きなあくびしてた、

アンちゃんに会う事だけを考えてたうちはその先どうするのかさえ何も聞いてないのに気づいた、でも聞けなくて、ヒデさんの後ろを歩き出してた・・、

するとアンちゃんが、
「亜紀、ちゃん?どうしたの?どうしてヒデさんと一緒に歩かないの?なんか喧嘩でもした?」って聞かれて、うちは返事が出来なかった、

(どうしよう、でも何か言わなきゃ・・)って思ったら、
「そんなんじゃないよ、あたしが好きで後になってるだけだから・・」ってうちは話しを繋いだ、

でもその時ヒデさんが振り返った、何か言われるような気がして、地に視線を落としてたらヒデさんはうちじゃなくてアンちゃんに、
「靖~今仕事は忙しいのか~?あれから顔も見せ無くないから、気になってたんだんだよ~・・」って話しかけた、

するとアンちゃんは、「ああ~そうだね?悪い、ちょっとね、色々さ・・」って頭を撫でてた、
そんなふたりの話しにサチは横やり入れながらも話しは盛り上がってた、

楽しげに話すみんなの笑い声がうちには遠くで話す人達に思えて、目線を逸らして空を見上げた、

真っ青な空は雲ひとつ見えない、そんな穏やかに澄み切った空見てたら、うちはなんで此処に来たんだろう~、ただ、アンちゃんに逢いたかった
だけなのに、そう思うと涙が溢れて、うちは空を仰ぎながら堪えた、その時、また襲った息苦しさに、動けなくなったらしゃがみこんでた、
こんな処でって思ったら必死に呼吸を整えてうちは無理やり立ち上がった・・、

その時アンちゃんに見られて、
「亜紀ちゃん、大丈夫か~?ヒデさん亜紀、何処か悪いの~?」って聞いた、でもヒデさんは、何も答えなかった・・、

「アンちゃん、あたしは大丈夫よ、ごめんね、行こう?」って言ったら、その時ヒデさんの口から「しょうがないな~」って呟く声が聞こえた・・,
うちは、その場に動けなくなった、来るべきじゃなかった、来ちゃいけなかったんだって、そう思えたから・・、

「ごめんなさい、あたしはみんなに迷惑かけるようだし、ごめん、あたし此処で帰えるね?もう大丈夫だから・・だから、ごめんなさい・・」
うちは走った、走って、走ってみんなが見えなくなるまで走った、そして駅が見えてきた時、近くの手すりにしがみついた、
でももう動けそうになくて駅のベンチを見つけて、そこにすがるように坐り込んだ・・、
その時また鼓動が速くなりだして息が詰まりそうになった、でも何度も呼吸を繰り返しながら治まるのを待った・・、



それからやっと落ち着いて来た時、周りを見渡してみたら、いつの間にか自分の生まれ育った町の駅に来てた自分に、驚いた・・、
今まで何も見てなかった、ただヒデさんの背中だけ追いかけて、そう気づいたら、そんな自分になんて視野が狭くなったのかなって、ため息が漏れた・・、

見渡していく内に思いだした、この駅から逃げ出して始まったうちの逃避・・、この町にはもう帰って来ないって誓ってから長かったように思う
でもうちはヒデさんに出会えた、沢山幸せ貰って、ヒデさんと居られるなら、何も要らない、ヒデさんの為ならなにも惜しくないって・・、
此処まで来た、なのに・・・。


そんな時、うちの目の前を歩いて来る人達に、うちは震えが止まらなくなった、どうして此処に来るの・・・、
そしたらアンちゃんが、うちの前に来て、
「亜紀ちゃん、行こう~?」そう言ってうちの手を握った・・、

でも、ヒデさんを見たら、笑ってた・・、
「アンちゃん、あたしは、行かない、ごめんね、あたしが来るのは間違いなの、だから行けないごめんなさい」って言ったら、

アンちゃんはうちの隣に腰かけたて
「亜紀ちゃん?今日は俺を誘いに来てくれたんだろう?ヒデさんから聞いたよ?亜紀ちゃんが、行きたかった場所じゃなかったの?
亜紀ちゃんの身体の事は・・、でも大丈夫だよ、俺もヒデさんも居るんだ、ね~行こう?俺の顔をたててさ?お願いします、後でヒデさんに
御ちそうしてもらうからさ、それに亜紀・・」って言いかけた時、

ヒデさんが、
「おい靖!何言いだすんだ~乗り過ぎだぞ~?御ちそうするとは言ったけど、余計な事言うな」って言うと、

アンちゃんは、
「ええ~可笑しいな~、ヒデさん、言ってたじゃないですか~、亜紀に・・」って言いかけたら
ヒデさん、焦った顔で、
「コラ~靖、ばかお前辞めろよ~!まったく~、お前に言った俺がバカだったな・・」って言いだした、すると

追い打ちをかけるように、アンちゃんは、
「そうでしょう~好くわかってるじゃない自分の事~、嫌だな~もう」って笑ってた、

ふたりの会話はとまることを知らず、変わらない変わってないって思ったらうちは堪えきれずに噴き出してた、可笑しさも嬉しさも入り混じって
分からなくなってたけど、でも笑った・・、

するとヒデさんが
「ほら見ろ~お前の所為で笑われたじゃないか~」って言うとアンちゃんはニコッと笑って見せた、
そんな二人に堪えきれずにまた笑ってしまったら、ヒデさんとアンちゃんはいきなりうちを持ち上げた・・、

「ええ~なに?辞めてよ、恥ずかしいでしょ?ねえ~お願い、下ろして?いやだ~お願い下ろして~一緒に行くから、だから下ろして~?
お願い~もう~バカ~!」って叫んだ・・、

それからやっと下ろしてくれたと思ったら、もう裏山は目の前だった、でもまだ恥ずかしさが抜けきらなくて「バカ~!」って叫んだ・・、
そしたらみんなが笑い出して、なんだか怒る気もうせて、いつの間にかうちも笑ってた・・、

その時、はじめてヒデさんが、
「やっと笑ったな亜紀?元気も戻ったようだし、行くか?な~?・・」って言った・・、でもうちは、なんだか無性に腹が立ってきて堪えきれずに、
「ヒデさんなんか、大っきら~い!バカ~!」って大声で叫んだ・・、

今まで溜まってたもやもやも、拭えなかった心の寂しさも、その一言に込めた、そしたら、なんだか全身の力がぬけて地べたに座り込んでた、

するとアンちゃんが、
「ヒデさん、嫌われちゃったね?でも良かったんだろ?」って言うと、うちの顔を見て「亜紀ちゃん、大丈夫?」って手を差し伸べた、
でもうちはその手を握ることができなくて坐り込んでたら、そんなうちを他所に、何も言わずにふたりは笑い出してた・・


そんなふたりを見てたら、うちは、からかわれてるよううな気がしてきて、無性に腹がたって、独り山道を駈け上がった・・、
一気に登り終えた時は少し息苦しくもなったけどそれでも堪えた、

それから空を仰いで深呼吸をしてみた、そしたら苦しさも和らいでくようで嬉しくて、森の中を見渡しながら廻って見た・・・、
変わらない、此処は何も変わってない、時が止まってしまったようなこの空間が、風が揺らす木の葉のざわめきがうちは大好き・・、

不意に大木の頂上を見上げたら、涙が零れた、何故だか分からないけど、泣けてきて涙が止まらなくなった、でもそれがどうしてかなんて
今は考えたくない、また夢のように登れなくなるような気がしてうちは涙を拭いて、夢で終わりたくないから、頂上を目指して登った・・、


その時、うちの後を誰かが登って来るのが見えた、でもうちは見ない振りして視線を変えた・・、今はまだ気持ちの整理がついていない、
それになにも考えたくないから・・・。

空を見上げたら、優しい風が髪を揺らして風の音が聞こえた、うちは眼を閉じた、それから思いっきり深呼吸してたらキスされた・・、
慌てて眼を開けるとヒデさんが眼の前に居た、うちは、眼のやり場がなくて空に視線を逸らしたら

ヒデさんは、
「亜紀?悪かった、ごめん!」って謝った、でもうちは、返事ができない・・、
不安も苦しさも、今、内明けたら、受け止めてくれるのかな・・、でもそれは、勝手なうちの想いだから・・、言葉なんてほしくない・・、

「此処にいる間はなにも考えたくないの、ごめんなさい・・」って言ったらヒデさんは「そっか・・」ってうちの肩を抱き寄せてきて腰をおろした・・。

今此処にこうしているこの時がこのまま止まってくれるならこうしていたいってうちは空を見上げながら思った、
この場所でこの町で過ごしたヒデさんとの時間、何もかもが夢で終わってしまっても、この人とこうして寄り添って居られたら・・・。


澄んだ空から吹き抜ける風は、優しく頬を撫でて、見渡す町の何処からか、うちに「お帰り~」って言ってくれたように聞こえて・・、
うちは思わず空に向かって「ただいま~」って心にそう叫んでた・・。

Ⅱ七章~幼馴染~

大木の頂上から町の景色をヒデさんと眺めてる、ずっとこのままでいられたらいいのに、このまま時間が止まってくれたら・・、
叶うわけないって分かってても、ずっとこうして居られたらって、心の片隅でそう願ってた・・。

そんな気持ちを打ち消すように、呼ぶ声が聞こえてきた、ふと木の下を見ると、アンちゃんが、「そろそろ降りといでよ~」って叫んでた、

するとヒデさんは、
「おお~わかった~今行くよ~」って返すと、うちに、「亜紀、行こうか?・・」って言われて、うちは言われるままに木を降りた・・、
そしたらアンちゃんとサチが駆けよって来た、するとアンちゃんが「仲直りできた?」って聞いた、でもヒデさんは何も言わず苦笑いしてた、

するとサチが、
「アンちゃん?カナと久しぶりに、木登り、競争してみたら~?滅多に出来ないんだからさ~ね?」ってあおってた、

するとアンちゃんは、
「そうだな~それも悪くないかもな、亜紀ちゃん?久しぶりにやってみる?嫌かな・・」って言われて、

「あっそんなことないよ、そうね、登ろうか?」って言ったら、

アンちゃんは、ニコニコしながら、
「よし、それじゃ~競争な?手加減無しだぞ~?」って言われて「いいわよ、それじゃ~あたしも手加減しないからね?・・」って言ったら

アンちゃんは
「望むところだ!ようし行くぞ~亜紀~」って、ふたりで登り始めた、

でもさすがに途中から少し息苦しくなって、それでもアンちゃんに、気づかれたくはなくてうちは一気に登り切った、息苦しいのは、
更に酷くなったようにも思えたけど、何度か深呼吸しながら堪えた、

そんな時アンちゃんが息を切らしながら登って来て、うちの顔を見ると、
「ああ~やっぱり亜紀には敵わないな~でも嬉しいよ、こうして亜紀とまた登る事ができてさ?やっぱり此処はいいな~、俺好きだよ、此処がさ・・」
ってため息ついた、

「あたしも大好きよ?此処にいると嫌な事も忘れられるから・・」

って言ったらアンちゃんは
「カナ?あっごめん?でも今だけはいいよね?」って言われてうちが頷くとアンちゃんは、
「ヒデさん・・、それに身体は大丈夫なの?医者には見せたの?あっごめん・・」って、やっぱり気づいてたのかなって思った、

でもそんなこと、今のうちは考えたくない事だから、「今はヒデさんの事、考えたくないの、ごめん・・」

って言ったら、アンちゃんは、
「カナ?ヒデさんはほんとにカナの事、大事に想ってる、心配ないよ、俺が保証する、何かあったら俺、話し聞くからさ、な?だから・・」って言った、

アンちゃんの気持ちは、何よりうちを元気ずけてくれる、だから・・、

「ありがとうアンちゃん?こんなあたしだから、いつもアンちゃんには心配かけちゃうね、ごめんね?でも、大丈夫よ?ヒデさんを悲しませたり
しないから、ありがと?そろそろ、もう降りようか?ねアンちゃん」って言ったら、

アンちゃんは、少し考えてたけど、うちに笑顔を見せて、「そうだな、そうするか?」ってふたりで降りた・・、

降りて辺りを見渡すと、ヒデさんとサチは木の幹に腰を下ろして、ふたり話ししてた、そんな二人に何故か、うちは眼を逸らして見えない振りしてた・・、

そしたらアンちゃんは、
「よう~お待たせ~!待った~?」って声をかけた、するとヒデさんとサチは立ち上がって、顔を合わせると、

ヒデさんが、
「遅いよ~待ちくたびれちゃったよ~でどっちが勝ったんだ~?俺の予想だと靖の負けだろうな~さすがに俺も亜紀には勝てたためしがないんだ?
だから靖が勝てたとは思えないよな~」って言った、

するとアンちゃんはなんだか楽しそうに
「嫌だな~亜紀には、俺でも勝てたためしないのに、ヒデさんがそう簡単に勝てる訳無いでしょう~!それよりさ~お腹空いてこない?俺、なんかお腹
空いてきちゃったよ~」って言いだして、うちはアンちゃんの食欲にちょっと驚いてた、

するとヒデさんは、
「お前の食欲は相変わらずだな~、来る時も途中で何か食べてたろう?あれからそんなに経ってないんだぞ~?」

って言うとアンちゃんは、「だってさ~今運動したし、まだ食べざかりですからね?俺!」ってニコッと笑って見せた、
相変わらずのふたりの会話に、ついていけなくて、何時の間にかうちは笑い出してた、

そんな時サチが、
「カナ?もう身体は大丈夫?ごめんね、わたしなにも、でも少し元気出たみたいだから、好かった・・」って笑って見せた、

予想にもしてなかったサチの言葉は、うちの不安を和らげてくれてるような気がして、「サチごめん、駄目だねあたし、いつもサチに、あっありがと・・」

その時ヒデさんが、
「それじゃ~そろそろ行こうか~靖は腹減ったらしいからさ~いいかな~?」って言ったらみんなが頷いてた、それから山を降りだして、
御飯食べて店に帰り着いた・・。



店の中にみんなが揃うのは、この日が初めてのように想う、店のテーブルに椅子、調理場、うちは椅子に腰かけて見渡して観た、
するとアンちゃんに
「どうしたの亜紀ちゃん?自分の働いてる店なのに、始めてって顔してるよ?」って言われた、

「ああっごめん、ちょっと外の空気吸ってくるね?・・」ってうちは店を出た・・、
風は心地よく吹いて、うちは思いっきり深呼吸して壁にもたれながら眼を閉じた、なにもが苦しく思えてきたら涙がでて、しゃがみこんで顔を埋めた、

そんな時、アンちゃんが店から出てきて・、
「亜紀ちゃん?大丈夫?無理しなくていいんだよ・・」って言って髪を撫でてくれた、でも・・、
「あ~うん、大丈夫よ、少し風にあたりたかっただけだから、ありがとうアンちゃん・・」

って言ったら、アンちゃんは、
「そっ?ならいいけどさ?中に入ろう~ね?」って、うちは手を引かれるまま店に入った、

でもそこで見る光景は、うちに居場所がないって教えているようで・・、
「あ~ごめん、ちょっと疲れちゃって、休みたいから部屋に戻るね、ごめんね?・・」ってアンちゃんの顔まともに見れずに部屋に戻った、

思い直した、うちは独りでいいんだって、言い聞かせて窓から空を眺めた、
すっかり暗くなってた空を仰いだら、丸いお月さまが、暗闇を照らして、その下に目立たない小さな星が輝いてた、
まるで親子のようで、そしたらお母さんを思い出した、会う事も無く逝っちゃたお母さん・・、そんなこと思ってたらまた泣けてきて、
窓枠に腕を組んだまま顔を埋めた・・・。

そうしている内に何時の間にか寝てしまったようで、ヒデさんに声をかけられた・・、
「亜紀、大丈夫か~?こんなとこで寝てると風邪ひくぞ?もう横になった方がいい、な?」って言われてうちは言われるまま寝床へと入った、

でもそれだけを言うとヒデさんは、又出て行った、
その後にアンちゃんが顔を出して、一晩泊っていくからって伝えに来た、アンちゃんは、うちの事気にしてくれてたけど、
うちは言葉が見つからなくて、ただ、「分かった、ありがと・・」って返しただけで終わった・・。


今日は泊まっていく事になったアンちゃんの為にヒデさんは、今空部屋になってる部屋の片ずけを、はじめてた、
これでこの家の部屋が全て埋まったんだ、みんなとひとつ屋根の下に居る、そう思うとなんだか嬉しい、ずっとこのままで居られたらって思う、
でもヒデさんに辿りついた時、考えること辞めた・・。


それからやっと部屋へ帰って来たヒデさん、でも何も言えなくてうちは窓の外眺めた、するとうちの背中越しからいきなり抱きついてきて、
「亜紀?俺の事好きか~?」って聞いた・・、
いきなりのヒデさんの言葉にうちは少し戸惑った、でも「大好きよ、世界中で誰よりも好きだよ?でも・・」って言いかけたら

ヒデさんが
「俺も亜紀が大好きだよ、それはずっと変わってないよ、信じてくれるかな・・」って言った、
「ありがと、でもほんとに信じていいのこんなあたし、あ、ごめん、何でもない、ごめんなさい・・」

って言ったらヒデさん、
「亜紀ごめんな?俺は亜紀の気持ち、分かってやれなかったな、靖に言われたよ、亜紀の気持ち分かってやれってさ・・、
ほんと悪かったな、それと、さっちゃんの事だけど、俺は邪な感情は抱いた事はないからな~?それは自信持って言える、だから亜紀?
信じてくれ・・」って言った、

ヒデさんからサチの事、聞くなんてうちは思いもしてなくて・・、
「ありがとう・・」それだけしか言えなかったけど、でもヒデさんの気持ちが聞けただけで、それだけでも十分だって思えたから・・。

Ⅱ 八章~闇の果てに~

今朝の空は、小粒の雨を降らせて街の景色は薄く霧がかかったように窓から見る空は、なんだかぼやけて見えた、
そんな街の景色は何処か気持ちまでも憂鬱にさせて、ため息が漏れた・・・、

そんな雨の中、いつか見た雀の声が聞こえてきた、思わず胸が高鳴った、耳をすませていたら、二つの声が聞こえて、うちは探した、
声の場所、すると屋根の下に二匹の雀が雨宿りしてた、そこに何時の間にか雀の巣らしき物が見えて、うちは嬉しくなった
もしかしたら此処で子を産むのかなって思ったから、うちには叶えられなかった思いが、うちをそこに釘ずけにしてた。

その時背中越しからヒデさんが、
「亜紀~?何見てるんだ~?」って、抱きついてきて、うちの観てる雀の巣に気づいた、

するとヒデさん、
「あれ?ああ、あの時の雀か~?へ~相方見つけたのか~、子雀、生まれてくれるといいな~?・・」って小声で話した、

「ほんと楽しみよね?でも大丈夫、きっと生まれるよ、きっと産んでくれるあたしの分もね・・」「亜紀・・・」
うちはそうなってほしいって願った、うちは失くしてしまったから・・・、

すると、ヒデさん、
「亜紀?俺と一緒になった事、後悔してるのか~?」って言った、どうしていきなりそんなこと聞くのか分かんなかったけど、
「あたしは一度も後悔なんてしたこと無いよ?あたしずっと一緒に居たいって思ってるから・・」

って言ったらヒデさん、
「一緒に居たいのは俺も同じだよ、ありがと・・」って言った、

その時、扉越しからアンちゃんが・・、
「ヒデさん~、亜紀~、起きてる~?そろそろ飯にしようよ~?」って少し悲痛な声で叫んでた、
ヒデさんは、
「おお~今行くよ~!まったくあいつの食欲は底抜けだな、な~亜紀?」そう言って苦笑いしてた、

「そうみたいね?ヒデさん行こう~?なんだかアンちゃん今にも死にそうだから・・」って言ったら、
「そうだな、でも亜紀、大丈夫なのか?」って言われて、「もう、あたしは大丈夫よ、行こう?」って言うとヒデさん、笑顔を見せて
ふたりで居間へと降りた、

いつの間にか居間で盛り上がってたアンちゃんとサチ・・、そんなふたりにヒデさんは「よう、おはよう~お二人さん?・・」って声をかけた、

するとアンちゃんは、
「おはよう~お二人さん?亜紀ちゃん、よく眠れた~?」って聞かれて、「ああ~、うん、眠れたよ!アンちゃんは、よく眠れたの?」

って聞くとアンちゃん
「それがさ~、サチにつき合わされちゃって、少し寝不足かな~・・」

って言うと、サチが、
「うわ~ひど~い、わたしの所為だけにしないでよね~?アンちゃんだって結構乗ってたでしょう?」ってムキニになった・・、

するとヒデさんが
「まあ~まあ~、いいじゃないか?お互い様ってことでさ・・」そう言ってなだめた・・、

うちが「サチ、おはよう・・」って言ったら、サチは、さっきまでの顔が穏やかになって、「おはよう~カナ・・」って返してくれた・・、

その後、みんなで朝食をすませたら、アンちゃんが、
「俺はこれで帰るよ、ヒデさん?お世話になりました?サチ、またな?そだ亜紀ちゃん?ちょっと話があるんだけど帰り道つき合ってくれるかな?
ヒデさん、ちょっと亜紀ちゃん借りるけどいいかな?」

って言うとヒデさんは、
「ああ~いいよ、亜紀が大丈夫ならな、あ~靖?色々ありがとな?また飯食いに来いよ、な?待ってるからさ」

って言うと、アンちゃんは、
「こちらこそ、お邪魔しました?また寄らせて貰います、亜紀ちゃんいい?」って言われて、うちはアンちゃんと店を出た、


アンちゃんと一緒に歩くのは、随分久しく思えた、でもアンちゃんはうちに何の話なのかなって、少し気になってた、
そしたらアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?俺が話しって言ったから気にしてた~?ごめんね、亜紀とは、ふたりだけで話す事、中々出来なかったから、特にサチの前じゃね?
あいつすぐ絡むからさ?それでさ~、亜紀?サチの事だけど、気にしすぎないでほしいんだ、俺、分かってたんだよ亜紀が気にしてた事、
あいつちょっと悪い癖があるからな、でも本人は悪気はないから、それも困るんだけど、だからヒデさんがあんなことしたのも、サチの影響だよ
だからさ~?どんな事あっても亜紀が、遠慮しちゃ駄目だよ?ヒデさんは大丈夫、亜紀の事、ほんとに大事に思ってる、だから信じてあげてほしんだ、
俺がこんな事言うのも変だけど、俺、亜紀を見てて心配なんだ?亜紀ちゃん?自分に弱気にならないで?負けないでほしいんだ、俺また逢いに来るよ、
ね?だから俺と約束してくれる?絶対、弱気にならないって、ね亜紀ちゃん?・・」

アンちゃんの気持ちは嬉しい、そう思えたから、
「約束する、心配かけてごめんね?あたし強くなるから、ありがと」って言いながら泣いてしまったら、

アンちゃんが、
「亜紀ちゃん、泣かないでくれよ~?あの二人に俺が泣かせたって思われちゃうからさ・・ね?」ってうちの肩を叩くと、
「それじゃ、此処まででいいよ、あんまり遠く迄行っちゃうとヒデさんが心配しちゃうからさ、亜紀、またね?身体、あんまり無理は駄目だよ、ね?
送ってくれてありがと、じゃあね・・」って帰って行った。

うちは頷くしかできないまま、アンちゃんの後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、店への帰り道を歩き出した・・、
空を見上げたら、降りだした小雨は、まだ止みそうになくて、傘にあたる雨音だけが響いた・・、

アンちゃんが言ってた、サチのこと、うちの気づかなかったこと、アンちゃんは見てたんだって思う、でもうちは戸惑ってる、
どうしたらいいの、どう向き合えばいいの・・、応えが見つからないまま、うちは店の前に着いた・・・。


店の扉を開けて、「ただいま~・・」って入ると、店には誰も居なかった、そして居間を覗いて見た、でも誰も居なくて、そしたら胸の鼓動が激しくなって
いくのをうちは抑えきれないまま、うちは自分の部屋へと入った、するとふたり並んで窓の外を眺めてた・・、

その時、うちに気づいたヒデさんが「あ~お帰り~・・」って言った、うちは立ち尽くしたまま動けなくて、身体が、いうこときかなくなったら、
いきなり胸の鼓動が速くなりだして息苦しくなった、深呼吸しながら堪えたけど、治まりつかないままうちは倒れ込んでた・・・、

真っ暗な闇の中を、独りさ迷って、ひたすら歩いた、そしたら遠くからアンちゃんの声が聞こえた気がして・・、
うちはアンちゃんの姿を必死になって探した、でもただやみくもに探し廻っているだけで、疲れて座り込んでしまったら・・・、
何処からともなく女の人の声が聞こえてきた・・、(だれ・・?)
「カナ~?傍に居てやれなくてごめんね?でもどうして此処にあなたが居るの、帰りなさい?此処に来ちゃ駄目よ、帰るのよカナ・・」って、
うちの名前を叫んだ・・、(お母さん・・?)

「お母さん?お母さんなの?何処、何処なの、お母さん?逢いたかったのお母さん、お母さん~ 逢いたいよ~お母さん、お母さん・・・」
うちは声が続くまで呼び続けた、でもお母さんの返事は返って来ない、涙が溢れた、後から後から溢れて零れ落ちた・・・、
涙が止まらないままうちは泣きだした・・、

その時、誰かがうちの手を握り締めた、うちは握られた手が離れないように握り返したら眼が覚めた、ふいに自分の手を見たら、
ヒデさんが傍でうちの手を握り締めて、
「亜紀?大丈夫か~亜紀?なあ返事してくれ亜紀~?」って言った、でも身体の力がぬけてくようで、うちは吸い込まれるようにまた眼を閉じた・・。

眼が覚めた時、ヒデさんが、うちの髪を撫でて、「亜紀・・」って言った、その声が凄く悲しく聞こえて・・、
「ヒデさん?あたしまたヒデさん苦しめてたの?ごめんねまた迷惑かけて、あたしもっと頑張らなきゃいけないのにね、ごめんなさい」

って言ったらヒデさんは、
「そんなんじゃないよ、亜紀が謝る事なんかなにも無いんだ、だから俺の為に亜紀がそんなに頑張らなくてもいいんだよ、亜紀は何も迷惑なんかじゃ
ないから、な亜紀?」って言うと笑ってくれた、

そんなヒデさん見てたら何処か癒されて、「ありがと・・」ってうちはまた眼を閉じてた、
それからどれくらい寝てたのか眼が覚めた時、ヒデさんはうちの傍で笑って見せた・・、
「ヒデさん?あたし寝てたの?どれくらい寝てた?」って、ふいにお店の事を思い出して、うちは飛び起きた、

するとヒデさんがうちの顔を覗き込んで、
「亜紀?どうした、大丈夫なのか?無理すること無いよ、まだ寝てな?」って言ってくれたた、でも寝てちゃいけないって思った、
「ありがと、でももうあたしは大丈夫だから・・」そう言って店へと降りた、

何がそう自分を掻き立てるのか分からない・・、でもそうしなきゃいけない気がして、そうしなきゃいられない自分がいて、うちは階段を駆け降りた、
すると居間にはサチが坐ってた、
「サチ?お帰り~?何時帰って来たの~?久しぶりだね?元気そうで良かった?・・」って言ったら

サチが少し驚いた顔して、、
「カナ~何言ってるの、わたしずっと居たじゃない、どうしちゃったの~ねえヒデさん?・・」って聞いた、

するとヒデさんが
「俺にも分からないんだ、眼が覚めたら・・」って話してた、

「えっうそ・・・、ごめん・・・、あたし、部屋へ戻るね、ごめんなさい」って部屋へ戻った、
それからうちは窓の外見ながら考えた、でも分からない、記憶の一部が、突然に抜け落ちてしまったようで、何故・・、

そんな時ヒデさんが来て、「亜紀、大丈夫か?」って聞いた、「ねえヒデさん?あたし、如何しちゃったの?思いだせない・・、如何して?」

って言うとヒデさんは、
「大丈夫だよ亜紀?一時的な物だ、きっと時間が経てば、少しづつ思い出すさ、そんなに考えるな?大丈夫だよ、な亜紀?・・」って言った、

それからうちは、部屋にこもった、朝も、昼も、夜も、思い出したくて、どうしてなのか知りたくて、そしたら何時の間に、二周間が過ぎてた・・、
でも何も思い出せなくて、ただ独り居るこの部屋が、誰もいない一人の孤独が苦痛にしか思えなくなって、息苦しさに、うちは店を飛び出してた、

ヒデさんにもサチにも何も言わずに出た・・、
出てきた時、手に持ってた物は、わずかな所持金だけ、何処に行く宛なんてない、ただうちは店から逃げるように駆けだして駅前に辿りついた、
そしたら少し息苦しくて少し離れた場所にあったベンチに、腰を下ろして眼を閉じた・・。


それから不意に目が覚めた時、何故かうちは、何故か病院のベッドに寝てた、(うそ・・、如何して~)ただ、眼を閉じてただけなのに・・、
気づくと隣で看護婦さんがうちの顔を覗き込んでた、すると、
「あら気がついた~?もう大丈夫よ?助けてくれた人に感謝しなくちゃね?所で貴方の名前分からないの教えてもらえるかしら?」
って言われて
「杉本亜紀です・・、」ってうその名前なのに、そう名乗ってた、でもそんなことよりも此処に居る事が不安だった、来るつもりも無かったのに
病院なんて、そう思ううと帰りたくて、
「あ、あの~?あたし、すぐ出られますか~?」って聞いてみた、

すると看護婦さんは
「何言ってるの~?駄目に決ってるでしょう~?」って怒られた、でも「ええ~だってあたし、帰らないと・・・、」って言ったら、

看護婦さんは、
「後で住所教えてもらえれば、家族の方には連絡入れといてあげるから、悪い事言わないわ~ね?大人しく寝てなさい、貴方の為よ」って言った

どうしようヒデさん、きっと心配してる、そう思うと頭の中は、ただ、ヒデさんの処に帰りたい、それしか考えられなくて、そしたら病院を脱け出す事を
思いついて、思い切って脱け出してしまった・・。

そこまではよかったんだけど、此処が何処なのかうちには見当もつかなくて迷ってた・・、
陽はすっかり沈んで街の明かりだけが輝きだして、夢中で駆けだしてやっと病院が遠くに見えてきた時、うちはやっと歩き出した、知らない道をただ、
途方も無く歩いた、

そんな時、背中越しからふいに声をかけられて、驚いて叫びそうになるのを押さえながら振り向くと、よく店に食べに来てくれるおじさん、
うちのこと可愛がってくれて、優しい人だってうちは少し慕ってた、でもこんなところで会うなんて、なんて説明しようって思ってたら、

おじさんは、
「あ~やっぱり亜紀ちゃんだったんだね~?どうした~まあいいさ、店に帰るんだろ?私も今行くとこなんだよ、一緒に行こうか、ね亜紀ちゃん?」
って言われてうちは、「はい・・」って一緒に店までを歩き出した・・。

内心良かったこれで帰れるって思った、次第にうちの知ってる街が見えてきて、ほっとした時、おじさんが、
「亜紀ちゃんの両親は今、健在かな~?あ~すまないね、余計な事聞いたかな?いや~私にもね~娘が居るんだよ、ただ、私の妻は娘を連れたまま、
居なくなってしまってね~だから、未だ私は妻と娘を探してるんだ、情けない話だがね~?ああ~余計な話だったかな~?いや~娘が元気なら
丁度亜紀ちゃんぐらいかなと、つい思い出してしまってね~、すまないね?・・」って言った、

「いえそんなことは、あの、奥さんの名前はなんておっしゃるんですか?」って聞いて見た、すると

「ああ~妻は静だよ、娘はカナっていうんだが、生まれて間もない頃だからね~?で亜紀ちゃんの御両親はお元気なのかな?こんな私がいうのも場違い
だが、大事にしておやんなさいよ、家族をね?余計なお節介だったかな、すまなかった、おお~亜紀ちゃん?話してる間に店が見えてきたようだ、
ありがとう亜紀ちゃん?話し相手になってくれて、おじさん、少し気持ちが楽になれたよ、ありがと?気をつけて帰んなさいよ?夜道は危ないから、
それじゃ~ね・・」って言った、

一緒に店に行くって来たはずなのに、おじさんはうちが迷子だって気づいてた、その時うちは、おじさんの口から「カナ」って聞いた・・
お母さんの名前も、それって
「あ、あの?ありがとうございました、あの~おじさんの名前、教えてもらえませんか~?何処に住んでるんですか教えて欲しいんです、お願いします、
どうしても知りたいんです、だめですか?」

って聞いたら、おじさんは
「どうしたんだい?別に隠すような名前でも無いから教えてあげるが、でもどうしてそんなに私のこと・・、もしお礼のつもりなら、要らない気づかいだよ
亜紀ちゃん?まあ~いいさ、はいこれ、名前は浩市だ、それじゃ~ね」そう言って紙を手渡すと、帰ってしまった・・・、

何も話せなかった、貴方の娘かもしれないってこと、今まで気にも留めてなかった、本当のお父さんのこと、生きていた事すら知らなかった、
(お母さん?うちはお父さんに逢えたよ・・)何もかもが一遍にうちの中に入り込んで、考えるのを辞めてまた歩きだした、



そんな時、人影がうちの前を歩いて来た、近くに見えてきた時、うちは、何も言えなかった・・、
ただ逢いたくて、逢いたくて、ただそれだけを考えてた、それがやっと目の前にして会えたらうちはその胸にしがみついて泣いてた、
ただ逢いたかったヒデさんに、やっと逢えたって思った、

そしたらヒデさんはうちを抱きしめて、
「亜紀~何処へ行ってたんだよ~?心配したんだぞ?ずっと探して~どうして居なくなった?な~亜紀、教えてくれないか?俺の事、嫌になったのか?
正直に応えてくれ、な亜紀?俺どうしていいか分かんないんだよ、なあ亜紀~?・・」ってうちの腕を掴んで引き放した・・、

「ごめんなさい、ヒデさんの傍に居ても、あたしの居る場所は無いから、ヒデさんはあたしじゃない方が幸せに見えたの、それにあたしじゃヒデさん
苦しませるだけだから・・」

って言ったら、ヒデさん、
「俺は亜紀のことで苦しいとか嫌だって思ったこと一度だって無いよ、それに亜紀と俺の家だろ、どうしてそんなこと・・・」

って言いかけた、でもうちの想いは、
「ならあたしって、あの家に居て何の意味があるの?ただ居るだけよ、顔を合わせてもあたしは・・、あたしの居る意味って何?あたしの存在って
ヒデさんのお荷物でしかないでしょ~?、あたしはヒデさんの傍に居たい、でもいつだってあたしは独りよ、
あたしはヒデさんのお荷物になりたくて傍に居たい訳じゃない、ふたりの時間なんてないでしょ?あったって何も・・、あたしはヒデさんが好きよ?
世界中で誰よりヒデさん愛してる、だから一緒にいたい、でもヒデさんの方があたし・・、もう~いいよ、ごめん?あたしのことはもう、気にしないで?
あたしの為にいつも苦しませてばかりでごめんなさい、でももうあたしに構わなくていい、ね?もういいから、今までありがと・・」

うちはずっと押し込んできた思いも全部吐き出した、すっと言えなかった想いも、もう楽になりたいってそう思ったら押さえきれなかった、
もう言ってしまったら後になって身体中の力抜けて立ってられずに地べたに座り込んでた、でもその内、息苦しくなって、うちはうずくまるしかなかった、

するとヒデさんが、
「如何した?亜紀~?」そう言ってうちの背中を擦ってくれた、「ありがとう・・」て言うとヒデさんは、うちを抱きしめて・・、

「俺は亜紀をお荷物だなんて思ってないよ、亜紀が言いたくても言えないのは、さっちゃんの事か?今やっと分かったよ靖が言ってた意味が、そうなんだろ?
亜紀はさっちゃんのこと悪く思いたくなかったから、俺に言えなかったんだろ?ごめん亜紀?靖は亜紀にさっちゃんの事で、何か言ってたんだろ?
今、全部が見えてきた気がするよ、すまなかった、なあ亜紀?やり直そう~?俺と亜紀の家庭、それとふたりの隙間も、駄目かな?許してくれないか俺の事・・」

うちは泣きそうになるのを堪えてヒデさんに抱きついた、そしたら言えた「大好き、ありがと・・」って言ったら涙が溢れた、

その時ヒデさんはうちの髪を撫でながら、
「俺はもっと好きだよ、ごめんな亜紀?もう泣かないでくれよ、ごめんな~」って言って抱きしめた・・。

Ⅱ 九章~お父さん~

諦めかけてた想いも、埋まらなかった独りの孤独も、抜けられなかった闇の中を、優しい温もりの手は、離さずに繋ぎとめてくれた
この幸せを、少しでも、噛みしめていたい、いつか、いつの日か時が、悪戯に繋いだ手を離すことがあったとしても、繋ぎとめてくれるって、
だから繋いでいけるって信じていたい、愛する人の手を、このままずっと離さずに繋いでいたいから・・。

気がつくと降ってたはずの雨は、何時晴れたのか、うちは気づかずにいた、ヒデさんに逢えて、気持ちが穏やかになれたら、空を見上げて、
ふいに気づいた、ヒデさんとこうして並んで歩くのは、何時の事だったのかなって、そんなこと思い出したらついヒデさんの顔を覗ぞいてた、
でも何だか恥ずかしくなって、慌てて空を見上げた、

するとヒデさんが、
「亜紀とこうしてふたりだけで歩くのも、しばらく無かったな、前はいつもこうしてふたりで歩いてたのにさ、亜紀?、俺決めたよ、
亜紀に俺がしてやれること、もう亜紀に辛い思いさせないからさ、今度はホントだ、信じてくれるか?今まで悪かったな~?でも亜紀、聞いて
いいかな、何処に行ってたんだ?話してくれないいか~?」

って言われて、うちは少し戸惑ったけど、でも隠す事もないような気がして・・・、
「ちょっとベンチで眼を閉じてたつもりだったんだけど、気づいたら病院に運ばれちゃってて、だから慌てて脱け出して来たの、
でも何処に居るのか分からなくて迷ちゃって、でもね?その時、店によく食べに来てくれるお客さんに偶然会って、ここまで連れてきてもらったの
こんな事になるなんて思わなくて、ほんとごめんなさい・・」って言ったら、ヒデさん、少し苦笑いして、

「そっか~でも良かった、今度来た時は、なんかお礼するかな・・」って言って空仰いでた、
うちはお父さんのことを、思い出した、話そうかって思ったけど、でも、まだはっきりしてない事だし、うちの思い込みかもってそう思えたら
やっぱり今は言えない・・・。

そしてヒデさんと店に帰って来た、でもうちは店を目の前にしたら動けなかった、でもその時やっと、あの日の事を思い出せた・・、
そしたら、店の中へ入るのが怖くなって、息苦しくてうちはヒデさんの手を振り切って逃げた、自分の心の中の闇に耐えられそうにない、
自分の中で何かがざわめいて、あの日の息苦しさが、うちを苦しめてた・・、

その時、ヒデさんの、呼ぶ声が聞こえてきた「亜紀~、待ってくれよ、なあ亜紀~!」ってうちの腕を掴んで、
「な~?待ってくれ、頼むからさ~?亜紀、少し話ししよう~な?・・」そう言って駅で見つけたベンチにふたり腰を下ろした・・、
うちは、今の感情が何処を向いているのか応えようもなくて、何も言えなかった、

するとヒデさんは、
「亜紀?さっき俺が亜紀に言った事、覚えてるか~?俺が今までどんなに亜紀に思いを伝えても、いつも空回りしてた、
それでも俺は気づいてなかったよ、亜紀の苦しみに、何がそうさせるのかも分からなかった、でもさ?やっと分かったんだよ、さっちゃんは、
もう帰さなくちゃいけないんだって事をさ、俺の気持ちなんて関係ない、ふたりの間に、どんな親しい人でも、入れちゃいけなかったんだ、
それが異性なら尚更・・、間違ってたんだって俺、気づいたんだよ、靖が言ってた、夫婦の絆は夫婦のものだって、だからその間に他人が入る
もんじゃないって、あいつ帰る前の日に、俺に呟くように言ってたんだ・・、でもその時の俺は、その意味を理解してなかった・・、
でもさ~、亜紀に、気持ちをぶつけられた時、自分のして来た事も、靖に言われた意味にも気づいたんだよ・・、亜紀~、苦しかったろう~?
誰も怨めなくて、辛かったよな~?ぶつけたくても、ずっと仲良しの友達だから、だから亜紀は出来なかったんだよな~?
だから言えなかったんだろ俺にも、すまない、だからさ~俺は、さっちゃんを帰そうって決めた、亜紀~?分かって貰えるかな、今さらって、
言われるかもしれない・・、けど俺、もう一度亜紀とやり直したい・・ふたりの時間取り戻したいんだ・・それでも駄目かな・・」

うちは涙が止まらなくて、言葉に詰まらせてしまったら、ヒデさんが肩を抱いて「亜紀?一緒に帰ってくれないか~?」
そう言ってうちの涙を拭いた、

そしてうちはまた、店の前に来た、その時ヒデさんは
「もう大丈夫だから、信じてくれ・・」ってそう言って手を繋いでた、そんなヒデさんにうちは引かれるように店の中へと入った・・、

するとうちの顔を見たサチが駈けよってきて、
「カナ~、どうしたの~?心配したよ~でも良かった、身体の方は何ともない?」

って、うちの顔を覗いた、
「ごめんね心配かけて、迷惑かけちゃったね、ほんとごめん?あたしちょっと疲れちゃったの、だから部屋に戻るね、ごめんねサチ・・」

って言うとサチは、
「そうだね、疲れてるなら早く休んだ方がいい、ゆっくり休んで?ねえカナ?・・」って手を握ってくれた、
「ありがとう・・」ってうちは部屋へと戻って来た・・・、

開いたままの扉に、開けっ放しになってた窓、うちが出る前まで掛けていた毛布、そのままだった、うちは窓の外を眺めた・・、
窓から見える景色に、うちはヒデさんの言ってた事を思い出してた、自分でも気づいてなかった、心の中の壁を、ヒデさんは気づかせてくれた
ように思う。
アンちゃんが言ってくれたのは、うちに気づいてほしかったのかもしれない、今なら分かる、アンちゃんの優しさも、そして思いも、あの時
アンちゃんの言ってくれたこと、正直どう受け止めていいか分からなかった、自分の心が見えてなかったように思う、

うちは、空を仰いでアンちゃんに届くようにと願いながら心で叫んでみた(アンちゃん~ありがとう~)って・・、
そしたら少し泣けてきちゃって窓から視線を逸らした、

その時、足元に眼を遣ったら、何時の間にかポケットから抜け落ちてたメモ紙に気づいた、まだ開きもしてなかったメモ紙に、うちはどこか
思いを寄せた、
あの人が本当のお父さんなのかなって、もしそうなら、そうならうちは、どうしたいのかな、って考えてたら行きずまって、メモ紙を開いて見た、
でもその紙に書かれてたのは、住所じゃなくて、居場所が書かれてた、信じられないけど、うちが逃げ出して来たあの病院の名前、うそ、あの人、
お医者さんなの、その瞬間、うちはそんな人がうちのお父さんのはずないって、そんなこと有り得ない、そう思えたら、揺らいでた自分が可笑しくて、
何処か思いが冷めてしまった、

そんな時ヒデさんが戻って来た、
でも何も言わずにヒデさんは、うちの隣に腰を下ろした、でもうちは何も聞けない、黙ったままのヒデさんが、うちを不安にさせて考えたくないのに
考えてしまいそうで、また窓から空を見上げた・・、
薄っすらと見えている星は雲の所為で見え隠れして、遠くの空を見たら、ふたつ並んだ星が、輝いてるのが見えた、そしたらうちは泣いてた・・、
泣くつもりなんてなかったのに、ただ何故だか悲しかった、涙が拭えなくて顔を埋めた、

するとヒデさんが、
「亜紀~どうした?苦しいのか?気にさせたかな、ごめんな?亜紀~さっちゃんには話して来たよ、明日、帰るそうだ・・、さっちゃんは気づいてたよ、
靖にそれとなく言われてたようで、亜紀が居なくなってからずっと考えてたって言ってたよ・・、亜紀?俺は言った事に後悔はしてないよ?
でも俺が言った事で亜紀を苦しめるのだとしたら、俺は・・」

って言いかけたけど、うちは咄嗟にヒデさんの口元を塞いでた・・、その先ヒデさんの言いたい事が分かってたから、だから聞きたくなかった、

「あたしはヒデさん信じてる、あたしは自分の気持ちからずっと逃げてただけだってヒデさんはあたしに気づかせてくれた、だから、あたしは
ヒデさんと、もう一度やり直せるならそうしたい、だからその先は聞きたくないの、ごめんなさい、
でも今のあたしには、ヒデさんだけだから、だから、あたしはヒデさんが選んだことで苦しんだりしない、後悔なんてしないから、お願い、あたしの為に
ヒデさんがそれ以上に、苦しまないで、お願い・・」うちは顔を埋めた、

するとヒデさんは、うちの手を握り締めて
「分かった亜紀、分かったよ、もう言わない、だから顔を上げてくれ、な?ありがと、亜紀・・」って髪を撫でてくれた。


そして翌朝、サチは書置きを残して、黙って帰ってしまった・・・、
 
 カナごめんね、わたしは長く居過ぎたみたい、ふたりの間に入り込み過ぎて、カナを苦しめて、ほんとごめんね、
 顔を合わせるのは、少し辛くなるから、会わずに帰ります、元気で、身体大事にしてね、
 滞在中は凄く楽しませてもらってありがとう、
 ヒデさんにはほんと、お世話になりっぱなしで、ありがとうございました、いつまでもお幸せにね・・、
 それじゃさよなら・・。

少しだけ心のどこかに穴が空いてしまったようで、寂しさがこみ上げた、でも後悔はしたくないから泣きたくなる思いを、サチにまた笑って逢える時が
来るって信じたいから、気持を切り替えて堪えた・・。



それから二カ月、うちは少し胸の辛さは有っても、幸せ感じてた、
今のうちは忘れかけた店の切り盛りに、抜けた空白の時は大きすぎて、悪戦する自分に、ため息ばかりついてた・・、

そんなうちに、ヒデさんは、
「亜紀?少し休もう~?無理は身体に悪い、な?」ってそう言って椅子に坐らせてくれた、

「ありがとう?駄目ねあたし、弱くなったのかな~、前はこんなんじゃなかったのに・・」

って言ったら、ヒデさんは、
「そんなこと無いよ、亜紀が頑張り過ぎるだけだよ?だからさ亜紀?そんなに頑張るな、俺の方がついていけなくなるんだからさ?」
って苦笑いしてた、するとヒデさん
「な~亜紀?お袋さんの墓参り、行こうか?亜紀はずっと休みなしで頑張ってくれてたお陰で店も、俺たちも落ち着いて来たと思うんだ、
だからそろそろいいだろ?どうかな~?亜紀行きたいって言ってたしさ~、な?」って言ってくれた、でも、

「言ったけど、でもいいのかな?あたしあんまり役に立てた気がしないし・・」

って言ったら、ヒデさん、
「それは亜紀の考え過ぎだって~、俺は墓参りって言うより、久しぶりにふたりで出たいだけなんだけどな?無理にとは言わないよ?
亜紀が嫌ならな」って悪戯っぽい顔して笑った、

そんな事言われたらなんか焦っちゃって、
「行きたい、ヒデさん?行こう?ね?お願い連れてって?ねえお願いします・・」

って言うと、ヒデさん
「よお~し、それじゃ行く事にしよっかな~?」ってニコッて笑ってみせた、うちはちょっと悔しくて「ヒデさんの意地悪・・」って言ったら、
顔を見合せて、ふたり笑い出してた・・。

それから数日後、ヒデさんとふたりでお母さんのお墓参りへと店を出た、その途中、店まで一緒してくれたおじさんに、出会った・・、
するとおじさんが
「おお~亜紀ちゃん?それにヒデさん、お揃いで、何処かおでかけかな?」って声をかけられた、

「あ~あの時はありがとうございました~、あっあの~メモですけど、あれは住所じゃないですよね~?」
って聞いたら、
「ああ~すまなかったね?私はあの病院の院長でね、実を言えば、亜紀ちゃんの事が少し気になっててね~?あの日病院から美樹ちゃんが
脱け出すとこ見かけてしまったんだよ、本当は連れ戻そうかとも思ったんだが、あの時の亜紀ちゃん、思いつめた顔してたから辞めたんだ、
あ~心配しなくていいよ?連れ戻しに来た訳じゃないからね、悪かったね引き留めて、ヒデさん~?また今度寄らせてもらうよ~?
亜紀ちゃん?また今度ゆっくりお茶でも飲みながら、話しでもしよう、ね?ああ~そうだ、一度病院の方に来なさいよ、ね?それじゃ」

そう言ってうちの肩を叩いて笑ってた、うちはまだ少しお父さんへの想いが拭えなくて、
「あっあの~先生は、まだお一人でいらっしゃるんですか~?」

って聞いてしまった、すると
「ああ~そうだよ?私も諦めが悪くてね~、亜紀ちゃん?もし娘だけでもいい、分かったら、教えてもらえるかな~?女房は、生きているか・・、
ま~気になったらで構わんよ、すまないね~私事で、それじゃヒデさん、亜紀ちゃん、また・・ね」そう言うと手を振って行ってしまった・・。

一途なあの人の想いはうちを温かくさせて本当のお父さんなら、素敵だろうなって思った、でも叶わないうちの夢でしかなくて、夢はすぐ
冷めてしまうから、今はただ、あの人の力になってあげたいって思う、そんなあの人の後ろ姿を眺めながら、つい思いを巡らせてたら・・、

そんな時ヒデさんんに、
「亜紀~?」って呼ばれて、うちは思わず飛び上がった、
するとヒデさんは、
「そんなに驚く事ないだろう~?俺の方が驚いたよ~、亜紀?俺に話して無い事あるだろう?話してくれないかな~あの人とどんな話ししたのかさ、
なあ亜紀?話してくれるか?」って聞かれた、

今まであの人に気を取られて、ヒデさんの事頭になかった、だからなんて話せばいいのか迷った、そして後悔もしてた、
知られたかった訳ではなかったから、うちは内心ため息がでた・・、

「ああ、あの人の奥さん、幼い娘さんを連れて出て行ったらしいの、それで、ずっと探してるんだって、だから少し気になって聞いて見ただけ、
今も独りでいるのかなって思ったから・・」
って言うと、ヒデさん「そう~、それで亜紀、力になりたいんだ?」って聞かれた、

「それは~、あたしが、ただ気になっただけだから、そんな大したことできないと思うけど、力になれたらいいな~とは思うけど・・、
もうそのことはもういいでしょう?それより早く行こうよ?ね~?」って墓参りに、急かしてしまった、

ヒデさんには少し後ろめたい気もしたけど、でも今は、まだ言えない・・、
うちにはまだあの人がお父さんだって確信が持てないから、だってうちとは住む世界が違いすぎるから・・、それでも気持ちのどこかで
お父さんだったらいいなって思う自分が居るけど・・。

ヒデさんと墓参りをすませて、帰りの電車に乗ったら、あの時のおばあちゃんに出会った、出会った時と何も変わってないように思えた・・、
今日は荷物も少なくて、手提げ袋一つ・・、うちのこと覚えててくれているのかなってそう思いながら、自信はないけどあの時のお礼がしたくて、
と言っても、また新たに作ったお守りしかないけど、うちは、気持ちだけでも伝えたくて、声をかけた・・、

「おばあちゃん?お久しぶりです、あの?あたしのこと覚えてますか~?亜紀です、あの時おばあちゃんに宝物頂きました」
って言うとおばあちゃんは、
「ああ~あの時のお嬢さん、あの時はほんと助けてもらったよ、え~っと、名前は~さき?だったかね~?・・」って笑顔を見せた、

「おばあちゃん?亜紀ですよ?お元気そうで好かった~?」って言ったらおばあちゃん、

「ああ~そうそう亜紀さん、そうだった、亜紀さんだったね~?・・」そう言って独り納得してた、

「おばあちゃん?あたし、おばあちゃんにお礼をって思ってたの、でもあたし何もできないから、はいこれ?あたしが作ったお守りなの、
あの?貰ってもらえますか?こんな物で恥ずかしいんですけど、でも守ってくれるんですよ?、だから、ああ~でも・・」

って言いかけたら、おばあちゃんは、
「ありがとう~亜紀さん?嬉しいよ~?こんな大事なもんあたしなんかに、もったいないくらいだよ、ありがとね~?こんな嬉しいことないよ・・」
そう言って涙を溜めてた、
「ありがとおばあちゃん?喜んでもらえて嬉しいです・・」って言うと、おばあちゃんが、

「あたしを覚えててくれたんだね~ありがとよ~?この年になるともう、相手するもんも居なくなって歳ばっかりが増える一方だからね~、
こうして亜紀さんに、会えてほんとあたしゃ嬉しいよ?ありがとね~」って手を握ってくれた、

「あたしの方こそおばあちゃんにまた会えて嬉しいです、おばあちゃん?いつまでもお元気でいてくださいね?また遊びに寄らせてもらいます・・」
って言ったらおばあちゃんは、
「あ~そうしておくれ、楽しみにしてるよ?ほんとありがとね?・・」って手を振ってた、

うちは、気持ちが温かくなってきたら涙が零れた、そんな時ヒデさんが、
「亜紀?泣くなよ?おばあちゃん喜んでくれて好かったじゃないか?さあ行こうか?」そう言ってうちの肩を抱いて歩きだした。



今朝はいつもより起き出すのが少し辛くて、ヒデさんより先に起きられなかった、でも先に起きてたヒデさんはいつものように
もう調理場で仕事を始めてた、うちが顔を出したら、ヒデさんは、
「お~亜紀おはよう~、まだ寝てていいよ?此処は俺一人でも大丈夫だからさ~?まだ寝てなよ?」って言ってくれた、

それも嬉しい優しさだけど、でも独りは嫌だった、だから、
「それは嬉しいけど~でも、独りはちょっと、ね、それに又寝したら起きれなくなるでしょう?だから、此処に居させて?」

って言ったらヒデさんは、
「そりゃ~いいけどさ~?けど亜紀少し疲れてるんじゃなのか~?だからあんまり無理してほしくないんだよな~、亜紀はどうしたって、
無理しちゃうからな、本当はもう無理してるんじゃないかって、気になってたんだけど・・、亜紀~?」

意識ははっきりしてるはずなのに、身体がついていけなくてテーブルに腕を枕に寝てた、そんなうちにヒデさんが、
「亜紀~?大丈夫なのか~?だから無理しなくていいって言ったのに~、亜紀?」って言われて、ふと気がついたらヒデさんが覗き込んでた、

「あっごめんなさい、嫌だあたし、どうしちゃったんだろ、ごめんねちょっと顔を洗ってくるね?」
自分でも分からなかった、ヒデさんの言うように、疲れてるのかなって思えてきたら、ちょっとため息がでた、

するとヒデさんが顔をだして、うちのおでこに手を当てた、(熱なんて無いのに、心配症なんだから~)って思いながらも口には出せなくて
「心配させちゃってごめんね、でも大丈夫だから、さ~仕事はじめよう?」

って言ったら、ヒデさんは、
「亜紀?無理はしなくていい、頼むから無理はするなよ、なあ~?俺はそんな亜紀を望んでなんかいないよ、俺の事思ってくれるなら、
無理しないでくれ、頼む、な~?・・」って言った、

うちは、胸が痛かった、無理をしても元気な顔見せていたかった、でもそれはうちの、勝手な思い込みなのかもしれない、
「分かった、ありがとう、無理はしない、ごめんね?それじゃ~今日は甘えて、少し休ませて貰うね?だから今日はお願いします、ありがと?」

って言ったらヒデさん、
「ああ~亜紀の分も頑張るから、安心してくれ、な?ゆっくり休みな?もし寂しくなったら、声掛けてきていいからさ」って言った、

「ヒデさん?それってあたしよりヒデさんのほうが、寂しいって聞こえるんだけど~、ならあたし、居間で休んでいい?」って言うと、

「それは~、どうしようかな~、ま~亜紀がどうしてもって言うなら、しょうがない、許してやるよ・・」って言って頭をかいてた、
どっちも無理して、お互いを思うのってそれも、悪くないのかなって思えた、

「ヒデさん?少し意地悪くなった、気がする・・」って言ったら「そんなことないよ~?わかった、じゃ居間で休んでいいよ、頼む?」
って言い出して、なんだか可笑しくなってきたらふたりで笑いだしてた・・。

そんな訳でうちは居間で休むことを許しってもらった、でも店を開けて、お客の数が増えてくる度に居たたまれない気にもなった・・。


それから何とか店のお客が減ってきた夕方に、アンちゃんが顔を見せた、
「こんばんわ~ヒデさん~?また来ました、あれ?亜紀ちゃんは?」って聞いた、

するとヒデさん、
「お~いらっしゃい、ああ~亜紀は、少し頑張り過ぎたからお休みだ、今、居間で休んでるよ、好かったら顔見せてやってくれ、な?」

って聞こえてたふたりの話す声に・・、何だか待ちきれなくて、「アンちゃん、いらっしゃい~」って顔を出したら、

アンちゃんは、
「亜紀ちゃん、無理しなくていいんだよ~?俺の方から行ったのにさ~、でも思ったより顔色も好さそうで安心したよ、俺もやっと二三日
休みが取れたからさ~、顔を見に来たんだ、たまにはゆっくりしたいと思ってね・・」ってニッコリ笑った、

するとヒデさんは、
「それじゃ~その間だけでも家に泊ってけよ?なあそうしなよ、ついでに店手伝って貰えると嬉しいんだけどな~?」ってアンちゃんを誘ってた、

するとアンちゃんは、
「別に構わないけど、そんなに亜紀ちゃん、具合好くないの?」って聞いてきた、

うちは、少し焦って、
「アンちゃんそんなんじゃないの?あたしは平気よ?ヒデさんは、ただアンちゃんに泊る口実作っただけだから~気にしないで~?」

って言ったらヒデさんが、
「亜紀~何言ってるんだよ~?亜紀が無理し過ぎるから、靖に好かったらって頼んでるんじゃないか~?」って言った、

するとアンちゃんが、クスクスと笑いだして、
「は~い、分かりました~?やりますよ?やらせていただきます、お二人の仲のいいのもよく分かりましたから、ね?ごちそうさまです!」
ってまた笑い出してた、そんなアンちゃんに、ヒデさんと顔を見合せたら少し恥ずかしくなって、一緒になって笑いだした・・。

こんなふうに笑い合うのも悪くないよね、ヒデさんとの生活も、ふたりの間の隙間も埋まってきたように思う・・、
その隙間を埋めてくれたのは、なによりアンちゃんだってうちは思う(ありがとアンちゃん?そしてお帰り?・・)って心に呟いた・・。

Ⅱ 十章~運命の糸~

「又来るよ・・」って言ってから、しばらく顔を見せる事も無かったけど、いつもと変わらないアンちゃんで、何処かホットしてる、
そんなアンちゃんがヒデさんと兄弟のように話す光景は、何時見ても微笑ましく思えて、少し妬ける気もした・・、
でもこんな関係がいつまでも続いてほしいって願ってる・・。

せっかく来てくれた早々からアンちゃんは、店の手伝いに駆り出されてた、それがうちの所為だって思うとなんだか悪い気がして、
「アンちゃん、あたしの変わりさせちゃってごめんね?せっかく来てくれたのに・・」って言ったら、

アンちゃんは、
「いいんだよ、亜紀が気にすること無いよ、俺がしたいって思ったからやってるんだからさ?それより亜紀は、無理しないでくれよ?
俺の事は心配いらないからさ、こんな時くらい、ゆっくり休みなよ、ね?」そう言って店へと戻って行った、

そんな時、店におじさんが、顔をみせた、
「こんばんわ、ヒデさん?いつもの頼むよ?昨日はすまなかったね~、あれ?亜紀ちゃんはどうしたんだい?今日はお休みかな?
具合いでも悪いのか?」って聞かれてヒデさんは、「ええ~ちょっと・・」って言うと、

おじさんは、
「それはいけないね~、今、私が会っても、構わないかな?」って言った、

するとヒデさんは、
「あ~、構いませんよ?今、奥の部屋で休んでますから、あっどうぞ?」って言ってた、(此処に来るの・・)

聞こえてた会話に、うちは少し胸がドキドキしてきたら、どうしようって困惑してた、
するとヒデさんが来て、
「亜紀~?亜紀に逢いたいって人が来てるんだよ、さあ、どうぞ?」そう言ってヒデさんは、迎え入れた、

おじさんは、うちの顔を見ると、
「亜紀ちゃん?、何、具合悪いんだって~?どれ?」ってうちのおでこに手を当てた、(ええ?~熱なんてないんだけど~・・)って思いながら
何も言えずに居たら、
「ああ、熱はなさそうだね~、亜紀ちゃん?どうだろ、一度、私の病院に来てみる気は無いかな?悪いようにはせんよ、実を言うとね~
私は君の事は娘のようで心配で仕方がないんだよ、まあこれは余談になるんだがね?私の女房は、私の所為で出て行ってしまったんだ、
まだ幼かったカナを連れてね~、女房が出て行ってから、私は自分の誤まちに気づいた、だがもうそれは、後悔でしかなかった、だから静に、あっいや
女房にせめてもの私の償いにとこうして独りで待ってるんだ、だがそれは私の自己満足でしかない、
ただ、私はね~?君が私の娘だったらってよく思う事があるんだよ?そうであるならどんなに好いかってね、すまない少し余談が過ぎてしまったかな、
だが今言った事は、私の本音を言ったつもりだよ?まあそれでどうと言う事は無いが、一度来てみてくれ、ね?今すぐとは言わない、
ヒデさんともよく話してからでいい、待ってるから、ねえ亜紀ちゃん?」そう言って笑顔を見せた、

うちはなんて応えたらって迷ってた、でもそこまで思ってくれるおじさんの気持は嬉しい、だから・・、
「はい、ありがとうございます」って言うと、おじさんはうちの手を握り締めて納得してくれたかのようにうちの手を軽く叩いて店へと戻って行った、

うちの事、娘のように思ってくれるおじさんの言葉はなにより嬉しい、でもヒデさんはなんて言えば、ってそんなこと考えてたら、

アンちゃんが顔を見せて、
「あ、ごめん亜紀ちゃん、聞いちゃったんだ、ねえ亜紀ちゃん?ヒデさん、この事知ってるの?」
って聞かれた、
「アンちゃん?あたしは大丈夫よ?大丈夫だから、あの人は病院の先生だから心配になって言ってくれただけなの、だからそんなに深刻にならなく
ても大丈夫よ、ねえアンちゃん・・」って言ったら、

アンちゃんは
「俺は、亜紀のことを思えば病院は行った方がいいと思う、亜紀ちゃん?やっぱりこの事、ヒデさんには話してないんだろ?俺はちゃんとヒデさんに
話した方がいいと思うよ?あっそだ、亜紀ちゃん?今の人、娘さんの事カナって言ってたよね?それって、もしかして、亜紀の事じゃ、ね~亜紀は
確かめてみたの?」

って聞かれて、ちょっと戸惑った、でも、
「それは~、あたしも初めはそう思いもしたけど、でもあの人、病院の院長さんよ?あたしなんかと住む世界が違いすぎて、それに同じ名前は
他にもいるでしょ?だから諦めたの、余計な期待して違ってたら、だからいいよ・・」

って言ったら、アンちゃん、
「何言ってるんだよ~、確かめない内から諦めちゃ駄目だよ~、亜紀ちゃん?もしかしてこの事もヒデさんには言ってなかったりする?」

って言われてうちが返答に迷ってたら、アンちゃんは
「やっぱり、言ってないんだ~?亜紀は独りで抱え過ぎるんだよ~、もっと頼る事もしなきゃ~、後でヒデさんにちゃんと話そう~?ね亜紀ちゃん?
じゃないとヒデさん泣いちゃうよ~?」ってニコッと笑って見せた、

そんなアンちゃんの表情から、ヒデさんの泣き顔をつい想像しちゃったら可笑しくて思わず噴き出してしまった、
するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?しっ!ヒデさんに聞かれたら大目玉だよ~?内緒だよ?ね?」って言った、

うちは、アンちゃんの焦る顔を見たら、それも余計に可笑しくなって、堪えきれず大笑いしてしまった、すると突然ヒデさんが、顔を見せて、
「なに盛り上がってるんだ~?靖、店閉めるから手伝ってくれよ、そんなとこであぶらうってないでさ~?」って困った顔を見せた、

うちは、そんなヒデさんの顔が、また笑を誘って噴き出してしまったら、アンちゃんが、小声になって、「亜紀!しっ!・・」って言った、

うちはもう堪えきれなくなって、大笑いしてしまったら、そんなうちにヒデさんが、
「亜紀~なにがそんなに可笑しいんだよ~?靖~お前?俺の事で、亜紀になにか吹き込んだろう~?まったくどうしようもない奴だな~、
ほら行くよ?」って、ちょっと不機嫌になってた、
なんだかアンちゃんに悪い気がして、うちはこっそり手を合わせてごめんって謝った。

店を閉めて、居間に腰をおろしたら、ヒデさんに話す事、うちはためらってた、話してしまえば、ヒデさんの応えは分かる気がしてたから、でも
何も言わなくても応えは同じなのかもしれない、それでもそのどちらも選べない自分がいる。

そんな時ヒデさんが、
「亜紀?あの人とどんな話ししてたんだ~?教えてくれよ?」って聞かれて、うちは何も言えなかった、

するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?ちゃんと言わなきゃ駄目だよ~俺から話そうか~?」って、うちの顔を覗き込んだ、

「それはいい、自分の事だから、自分で話す、でも・・」うちはどうしても言いだせずに戸惑ってしまったら、

ヒデさんが、
「亜紀の身体の事なんだろう?あの人医者だし亜紀の事、本気で心配してるようだったからな・・」そう言って黙ってしまった、

いずれ分かる事だと認めてしまえば楽になれる、早くなっただけだと思えば、ヒデさんを苦しめなくてすむ、うちの為に無理をしてるヒデさんが
楽になれるならそれですむのなら、そう言い聞かせて・・、

「あの人に自分の病院に来なさいって言われたの、でもそれは、あの人が医者だから気にしてくれて、だから心配するような事何もないよ?
あたしは大丈夫だから、ヒデさんが気にしなくても・・」

ってちょっと言葉に詰まってしまったら、ヒデさんは、
「亜紀がそう言うならそれでいいよ、けど亜紀に無理はしてほしくないって俺は思ってるんだ、少しは俺に頼ってほしいなってさ、それだけだよ・・」

って言った、するとアンちゃんが
「ほら~亜紀ちゃん、ヒデさんだってそう思ってるんだからさ~?いっぱい甘えちゃえばいいんだよ~!」って笑ってた、

するとヒデさんが、
「まあ~そうなんだけどさ~けどなあ靖?お前が言うなよ?お前が言うと、なんか俺、調子狂うんだよな~?まあいいけどさ、亜紀、そいう事だ、ああ~
それと、聞いて見たのか~?娘さんの話しさ~?」って思い出したように聞かれて、それもまたうちを苦しめた・・、
(どうしてこうなっちゃうの~?うちの心臓がもたないよ・・)

「あっ、あの人の奥さんの名前がね?静さんって言うんだって?それで娘さんの名前がカナって言うらしいの、娘さんが生まれて間もない頃に
奥さんが連れて出て行ったって、でもそれは・・」って言いかけたら、ヒデさん、驚いた顔して、

「亜紀?それって亜紀は、確かめてみたのか?」ってやっぱり聞かれてしまった、

「あっあのそれはあたしも初めはもしかしてって思いもして、だから住所聞いてみたの、でもね?教えてくれたメモ紙には病院の名前が書いてあって、
聞いて見たらあの人病院の院長さんらしいの、それってあたしとはかけ離れた存在でしょう?だからあたしは諦めた、偶然かもしれないし、
同じ名前は他にも居ると思うの、だから・・」

って言ったらヒデさんは、
「それで諦めるのか~?な~亜紀?確かめてみようよ、それからでもいいだろう、まだ諦めるのは早いと思うよ俺は・・」

ってアンちゃんと、同じこと言ってた、
「でも、どうすればいいの?まさか病院へ行って聞くの?そんなの?あたしは、したくない・・」

って言ったらヒデさん、
「大丈夫だよ、そんなことはしないさ、心配するな、いざとなったら靖が居るからさ・・」ってアンちゃんの顔を見た、

するとアンちゃんは、
「えっ俺?ま~いいけどさ~、だけど最近ヒデさん、乗せるの上手くなったような気がするな、ね~?亜紀ちゃん・・」

って言うとヒデさんは
「そんなことはないさ、俺は思ったことを言ったまでだよ、これでも頼りにしてるんだからさ、まあとりあえず宜しくな?靖・・」

って言われたアンちゃんは、ため息を漏らしながら、
「はいはい、まったく人使い荒いんだから~、でもこれは~亜紀の為にやるんですからね?・・」

って言うとヒデさん、
「ああ~、それで十分だよ、宜しくな?相棒~?」って笑って見せたらアンちゃんは「これだもんな~」とか言って苦笑いしてた・・。

何時の間にか、話しは逸れてふたりの世界に入ってた、それはうちにとって、少し救われたかなって思う、
でも、あの人がほんとにお父さんだったら、もしそうだったら、うちは何を話すのかな、どう受け止めたらいいんだろ、
まだ決った訳でもないのに、こんな気持ちになるのは、どうかしてるのかもしれない、諦めた筈なのに、でも気持ちの何処かで、そうあってほしい
って思ってる自分に何だか可笑しくも思えた・・。



今朝は何時になく早くから目が覚めて、うちは窓を開けて外に顔を出して伸びをしてみた、その時ふと雀の巣が気になって覗いて見たら、
雀が巣の中で佇んでいるのが見て取れて、なんだか嬉しくなった・・、
元気な子雀が生まれてほしいなって、そう思ったら思いが込みあげてうちは空を見上げて祈った、それから窓際に頬杖ついて眺めた、

するとヒデさんが起き出してきて、
「おはよう~ヒデさん」って言うとヒデさんは「あ~おはよう亜紀、早いな~・・」って言われて、

「今日は早くに目が覚めちゃったからね?」って言うと

ヒデさんは、
「亜紀?少し顔色悪いんじゃないのか~?もう少し休んでなよ、今は靖が来てくれてることだし亜紀は無理しなくていいから、な?そうしな?」
って言ってくれた、その言葉はやっぱり嬉しい気もして「そうね、ありがと・・」って言ったら、

ヒデさんはニッコリ笑って、
「そうしてくれ、後でまた、顔出すから、な?」って言うと支度をすませて店へと降りて行った。

その後、ヒデさんに言われるまま、寝床に潜りこんでみた、でもどうしても寝つけそうにも無くて、寝るのを諦めてやっぱり居間の方へ降りてみた、
店の中を覗いて見ると何時の間にかアンちゃんも店で、忙しそうにしてるのをみたら、なんだか声をかけずらくて、居間に腰を降ろした・・。

それからお昼にさしかかった頃、女の人が入って来た、とても綺麗な人でつい見惚れてたら、その人がヒデさんに、話しかけた、
「あの~、唐突に失礼ですけれど、あのこちらに、カナさんて方がいらっしゃるとお聞きして伺ったのですが・・」って言った、

驚いた、あんな綺麗な人の知り合いなんてうちにはいないのに、誰なんだろうって聞いてたら、ヒデさんも少し驚いた顔で、
「あの、失礼ですがどちらさんで?」って聞いた、すると、

「あっこれは失礼いたしました、私、カナさんのお兄さんにあたられる慎一さんの家内で幸恵といいますの、実は慎一さんがもう一年ほど前から
病気を患いまして、お医者様からはもう持たないだろうと言われてしまいましたの、それでカナさんにお子さまがお生まれになる事を主人は
凄く楽しみにしてらしてたものですから、せめて逢わせてやりたいと私の独断でお願いにまいりましたの、あのカナさんに、是非お会いしたいの
ですけれど、会わせていただけますか?」って言った、

うちは驚きに思わず地べたに尻もちをついた、その時、ヒデさんはうちに気づいて、居間に顔を出すと
「亜紀、聞いてたのか?亜紀の方から話し聞いてくれるか?こっちに通すけど、いいかな?」って聞かれて「あ、お願い」って言うと
ヒデさんは頷いて店へと入った、うちは胸の奥が痛み出した、まだ信じられない気持が何処かで否定してる、

するとヒデさんが幸恵さんと一緒に顔を見せて、うちが会釈をすると、
幸恵さんは、
「初めまして、カナさんでいらっしゃいますの?あの~突然お邪魔して驚かせてしまったようですみません?私、慎一さんの家内で幸恵と言います、
カナさんと慎一さんの事情はお聞きしておりますわ、それでも今あの人はカナさん?貴方の事ばかりをお話しされるものですから、それでせめて
会わせて遣りたいと思いましたの、それで貴方に逢って頂きたてくて私の独断でまいりました、カナさん?逢って頂けませんか?お願いします」
そう言って頭をさげた、

うちは言葉に詰まった、お兄ちゃんがうちのこと気に掛けていた事も、うちの事忘れてなかった事にも驚いてた、それだけで胸が苦しくて、
会いたい、行ってあげたい、でも子供はもういない、そう思いながら戸惑ってしまったらヒデさんが、

「幸恵さん、でしたね?逢いに行かせて貰いますよ、お兄さんに、ただカナの方も今体調崩してるんで、今すぐとは行きませんが、でも
近いうちには必ず、ですからお兄さんには必ず逢いに行きますとお伝え頂けますか?わざわざ遠い所、ほんとにありがとうございます・・」
って言うとヒデさんは頭を下げてた・・、でもうちは言葉が見つからない、

すると幸恵さんは、
「分かりました、ありがとうございます、慎一さん喜びますわ、ほんとにありがとうございます・・」って、会釈してた、

「あの~?あたし必ず逢いに行きますから、あっすみません、あたし、困惑してて、何言ってるのか、でも知らせて頂いて好かったって思ってます
ありがとうございます、どうかお兄ちゃんの事、宜しくお願いします」

って言ったら、幸恵さんは、
「カナさんありがとう?お身体の方、お大事になさってくださいね?突然にこんなお話で驚かれたでしょう?ごめんなさい、けれど、
私、貴方にお会いできてほんと好かったと思っていますの、ありがとうございます、カナさん?慎一さんとは血の繋がりは無くても、私は、
妹が出来たとそう思っておりますの、お身体お大事に、それではお待ちしております、どうもお邪魔いたしました」そう言って帰って行った・・、


最後に逢ったあの日、お兄ちゃんは、うちに「カナ幸せになれ・・」って言ってた、お母さんの分まで幸せにってそう言ってくれた、
あんなに気丈だったお兄ちゃんがどうして、何時だってうちを怒鳴り飛ばしてたお兄ちゃん、

うちは、お兄ちゃんのあの言葉で、救われたのに、想いが、記憶が、溢れだしたら涙が零れた・・、
そしたらヒデさんが
「亜紀?逢いに行こうな、お兄さんにさ・・」そう言って涙を拭いて肩を抱いた・・。

時の足跡 ~second story~ 6章~10章

時の足跡 ~second story~ 6章~10章

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-26

Copyrighted
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Copyrighted
  1. Ⅱ 六章~綻び~
  2. Ⅱ七章~幼馴染~
  3. Ⅱ 八章~闇の果てに~
  4. Ⅱ 九章~お父さん~
  5. Ⅱ 十章~運命の糸~