晴れた日に会いましょう
私は、誰?時々そんなことを考える。考えても何も答えは見つからないのに。
高校2年生、冬。
日比野 梨花(17)父と母と3人暮らし。兄と姉はいるが2人も上京しており、中学生くらいから一人っ子のようなものだった。
家計は裕福なものではなく、父と母は金銭面のことで喧嘩が絶えない。
お小遣いをもらえるわけでもなく、家にいても窮屈な環境だった。
学校がない日は、家から少し離れたカフェでバイトしていた。少しの稼ぎは、家計へ渡す分と自分の趣味のライブをみに行くことと友人と遊ぶことに使った。
時々、梨花は考える。
私とは何者?
中学生になった頃から、両親とはあまり話していなかった。家にいても好きな音楽を聴いて部屋に閉じこもっていた。両親の喧嘩の声が聞こえるたびに悲しくなり、いっそのこと離婚すればいいのに。と考えていた。
両親のことは好きになれなかった。やりたいことを話してもお金がかかるからダメだ。と受け入れてもらえなっかったり、本当は休みの日くらい母と買い物へ出かけたかったが、小学生以来母と出かけるのは何か用事があるときくらいだった。
その時の梨花には親の愛情が分からなかった。
私が学校へ行けばお金がかかるし、まず私を育てるだけでこんなに喧嘩して、私って必要なの?
結局、私って何?
と考えてしまうのだ。
「梨花ー!今日学校帰りに、こないだ言ってたカフェ行かない?」
放課後、梨花に話しかけてきたのは小学生からの仲の立木 結菜(17)である。
「あ!行こう!あの桜通りのところだよね?」
梨花は楽しみが出来て嬉しそうに、カフェへと向かった。
カフェまでの道中、結菜は少し口元を緩ませながら梨花へ話しかけてきた。
「あのさぁ、梨花って好きな人とかいないよね?」
「好きな人?好きな人かぁ〜。いたら幸せだろうな〜。」
梨花は遠い晴れた空を眺めて、考えた。
好きな人なんかいたら幸せなんてなに言ってんだろう。誰とも付き合ったことなんてないし、わかんないけど幸せなのかな?
小学生のときの好きとはまた違うよなぁ。
「いないってことでオッケーね!中学3年の時同じクラスだった悠斗って覚えてる?結菜、こないだ悠斗と付き合うことに、、、。」
「え?!え?!本当に〜?!なんで結菜黙ってたの?!おめでとう〜!」
梨花は驚いて、結菜の両肩をつかんだ。
「ありがとう。えへへ。梨花に相談したかったんだけど、3人で仲よかったじゃん?だから、何ていうか、恥ずかしくって。」
「もう!そんなこと、気にしなくて良かったのに〜!あ、そっか、、悠斗って私の姉ちゃんのことすきだったけ?」
「そう。けどね、結菜ずっと諦めなかったんだ!それが、今の結果です!」
懐かしいなぁ。私の姉、由希姉ちゃんはいつも頑張り屋で明るい性格だった。由希姉ちゃんが上京するまでの家は、お金がなくても笑ってるような家庭だった。
悠斗は、中学生のときに結菜と3人で仲良くて、由希姉ちゃんが東京からうちへ帰ってきてたときに偶然あって、由希姉ちゃんに一目惚れした!とか何だか言って、私は歳も離れてるし、冗談だと思ってたんだけど少なからず本気だったんだ。
由希姉ちゃんが帰ってくると、毎回会いにきてたもんね。
「すごい!良かったね!私も嬉しい!」
「まぁそれはさて置き!悠斗の高校の友達で、梨花に紹介したい人がいるんだって。今日は2人じゃなくて悠斗とその友達もいるんだ。」
「紹介したい人?」
「まぁ、今日は楽しくおしゃべりする感じで!」
「うん。」
「あ、もうすぐだ!」
あー、紹介したい人なんて緊張するなぁ。
梨花は、胸を押さえた。そして、コートに入っているリップをぬった。
カラン、、、
ドアを開けると、たくさんのCDやレコードが壁一面に飾ってある。店の奥には、ステージがある。
音楽好きの梨花は店に入ると胸が高鳴った。
「すごい、、あ!このCD!RIDEの1stアルバム!」
梨花は、はしゃいで店の中を眺めた。
「きて良かったね!梨花、こっちだよ。」
結菜は梨花の手をとり、悠斗とその友達の席へ案内した。
「梨花!久しぶり!」
悠斗が、ニッコリと笑い手を振った。
「悠斗!久しぶり!おめでとう!色々聞きたいことあるよ〜。」
「ありがとう。だな!まぁ座りなよ!」
梨花と結菜は椅子に座った。
「俺の高校のクラスの友達の、伊藤 皐月!仲良くしてやってな!この子が話してた、日比野 梨花だよ!」
「どうも。」
「初めまして、、、。」
何ともぎこちない挨拶を交わした。
伊藤 皐月。この日が、梨花と皐月の出会いの日であった。
皐月は高校生の割に落ちついてい大人びていた。
どことなく、悲しげな顔をしている。皐月はあまり笑わなかった。何か心の奥に隠しているような、目を合わせていても違う場所を見ているような気がする。
「皐月、高校でこっちに引っ越してきたんだよ。梨花、音楽好きだろ?皐月も同じようなバンド聴いてたから連れてきた!」
「皐月くんは、何聴くの?」
「whereとか、NICUとか、結構何でも聴く。」
「私、どっちも大好きだよ!」
「本当?あんまり同年代ですきな人いないよね。梨花ちゃん珍しいね。」
「皐月くんもね!」
音楽の話しをすると皐月は少し笑った。結菜と悠斗は安心した顔をして2人を見た。
4人で話す時間は、梨花にとっていつも以上に楽しく思えた。時間はあっという間だった。
店を出ると、外はさらに寒い風が吹き、街灯が綺麗に光っていた。
「皐月の家、梨花ん家の近くだよ。俺、結菜送ってくから、途中まで一緒に帰りなよ。」
「そうしなよ!んじゃ、また明日ね!」
悠斗と結菜は嬉しそうな顔をして、手をつないで反対の道へ帰って行った。
「皐月くんの家は、どこ?」
「光公園の近くだよ。と言うか、公園のすぐそばのマンション。」
「そうなんだ!私、公園の横の川沿いを少しまっすぐ行ったところなんだ。近くだね!」
「近くだし、送ってくよ。」
「え?いいの?」
「嫌じゃなかったら。」
「ありがとう。」
帰り道、音楽の話しで会話が途切れることがなかった。
あっという間に、梨花の家の前についた。
「今日、楽しかった!ありがとう。」
「俺も、久しぶりに楽しかった。」
梨花の家から、怒鳴り声がした。また、両親が喧嘩している。梨花は一気に現実へと戻された気分だった。そして、こんな場面を皐月に知られて恥ずかしい気持ちになった。
「あ、うちの家の声、、、。ごめんね、こんなとこ、、。ありがとう。また!」
梨花は、顔を隠し家へ帰ろうとした。
「梨花ちゃん!」
皐月は梨花を引き止めた。
「連絡先教えて。嫌じゃなかったら。」
皐月は、微笑み優しそうな顔で梨花をみた。
「嫌じゃ、、ないよ。電話番号言うね。」
梨花は皐月の顔を見て、安心した。電話番号を交換し、皐月に笑顔でまたね。と手を振り、怒鳴り声が止まない家へと帰って行った。
「ただいま。」
リビングを見ると、母が泣きながら怒鳴っていた。父も対抗し怒鳴っていた。
またやってる。聞きたくない。
梨花は部屋へ行き、イヤホンで大音量にして音楽を聴いた。ベッドに横になり静かに目を閉じて皐月と話したことを思い出した。
真夜中の公園
あの日から、梨花と皐月は連絡をとるようになった。あの夜も、皐月は梨花に電話をかけた。
「梨花ちゃん?」
「皐月くん、電話ありがとう。」
「今度さ、CDショップいかない?欲しいCDがあるんだ。」
「私も!一緒に行こう!」
メールでもいいような話だった。梨花は嬉しかった。
家も近くで、頻回に会うようになった。家に居たくない梨花は皐月との時間が次第に幸せに感じた。
今日も両親は喧嘩していた。梨花は、家を飛び出して皐月のマンションの横の公園へ行った。
誰もいない公園、もうすぐ0時を回る頃、人気もない。
小さい頃から、この公園で星を見るのが好きだった。嫌なことがあるとすぐこの公園にいた。
昔は心配して探しに来た両親も、高校生になった今もちろん探しになんて来ない。
「梨花ちゃん?」
皐月の声だった。
「皐月くん。びっくりした。」
「電話しようって思ってた。起きてたら公園来ないかなぁって。今日はすごく星が綺麗にみえるからさ。」
「誘われる前に来ちゃったね。ふふっ。小さい頃から好きなんだ。ここ。」
「そっか。でも、危ないよ。夜中に1人で。」
「また、、喧嘩してたから。家にいたくなくて。」
「知ってる。さっき、コンビニ行くとき、梨花ちゃん家の前通ったらきこえたから。」
「そっか。」
急に梨花は涙を流した。流したと言うより、勝手に流れてきた。
「ご、、めっ。なんか、、急に、、うぅっ。」
ギュっ、、
「たまにはさ、泣いていいんじゃない?」
皐月は、梨花をだきしめた。そして、ゆっくり頭を撫でた。
「うぅ、、。」
梨花は、溜め込んでいた嫌なことをすべて吐き出した。
皐月はうんうん。と頷いて聞いた。
「俺も、なんでこっちに引っ越したかって言うと、親が離婚したから。梨花ちゃんみたいに離婚すればいいってずっと思ってた。でも、いざこうして離婚されると、母さんも父さんも幸せなのかな?って思うよ。今っていう一瞬の幸せだけじゃないのかな?それは、大人にしかわからないことかもしれないけど。」
「そうだよね。なんか、心が楽になったよ。ありがとう。こんな環境自分だけじゃないよね。」
「梨花は、笑ってる方がいいよ。俺も梨花といると笑っていられる。」
皐月の優しい目に梨花はドキッとした。
「皐月、、も笑ってる方がいいよ。」
照れくさそうに梨花は答えた。
「ありがとう。梨花、付き合ってほしい。俺、梨花と出会って、毎日が楽しくなった。梨花にも、そう思ってもらえるようにそばのいたい。」
「もう、充分幸せだよ。」
「じゃあ、今日から俺は梨花の彼氏ね。梨花は俺の彼女な。」
「ふふっ。なんか恥ずかしい。」
「俺も。こんなこと言ったの初めて。」
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
2人は、キスをした。
皐月は梨花の家まで梨花を送った。まだ怒鳴り声がきこえる。
「帰りたくないけど、帰らなきゃ。私の家だもんね。」
「うち、くる?母さん、夜勤でいないし。」
「え?」
「けど、多分俺、梨花が隣で寝てたらなにするかわかんないけど。」
梨花は顔を赤らめた。今は皐月といたい。
「彼女なんだから、私はいいよ。」
皐月は梨花の頭をポンっとなでた。
「じゃあ、うちおいで。」
梨花は皐月の家に帰った。
ガチャ。。。
「おじゃまします。」
「はい、どーぞ。」
梨花は、母に(今日は、泊まりに行ってきます。早く仲直りしてね。)とメールをした。
皐月の部屋はシンプルだったが、たくさんのCDがあった。梨花は小さなソファに座った。
「風呂入った?」
「うん。入ったよ。」
「俺、まだだから入ってくるね。これ、着ていいから。ゆっくりしてて。」
「ありがとう。」
大きなパーカーとズボンをもらった。皐月の匂いがした。梨花は緊張して、落ち着かなかった。
幸せだとはこのことか、、。嬉しくてしょうがなかった。
皐月が風呂から戻ってきた。梨花は目も合わせれなかった。
「梨花?緊張してる?」
「う、、うん。こんなの初めて、、。」
「素直だよね梨花は。かわいい。」
皐月は笑って梨花の隣に座った。
「嫌ならなにもしないよ?」
いじわるだなぁ皐月、、、
「嫌じゃないからきたの、、。」
「本当、素直。」
チュ、、チュパっ
「っ、、。」
晴れた日に会いましょう