つばめのサウル

実話をもとに書きました。

 サウルはね、よく巣から落っこちる子つばめでした。
 毎年、春頃になると、つばめがたばこ屋さんの、のきしたに、ちいちゃい巣をかけにくるのです。わかい、つばめたちは、すばやく、とびまわって、虫などの、エサをたべます。
 そして、巣をつくり、ヒナが育つころにはあたりはあったかく、虫もいっぱい、います。つばめの子らは元気に育って、親つばめたちがとってくるエサを、われさきにと、大きな口をあけて、ほしがります。
 ところが……
 サウルだけは違いました。
 かれはきのうも巣から落ちました。それでは元気はでませんね。
 たばこ屋さんのおじさんが、みつけて、そうっと巣にかえしてくれなかったら、いまごろ、つめたくなって、しんでいたことでしょう。
 そんなことが、もう、なんどあったでしょうか?
 サウルはたぶん、ほかのきょうだいたちとくらべて、ひよわでちいさいから、巣からおしだされてしまうのでしょう。
 でも、そんなことより、エサを、たべなくなってしまう ことの方が、たいへんです。
からだが大きくなりません。
 ところで、たばこ屋さんへは、むかしから、この巣のことをしっている人がやってきて、「今年もよくきたなあ。よく生きてるよ。きのうまた、落ちたってきいて、のぞきたくなったんだよ。あれだろう、あのちいさいの」 と、巣に、かろうじて、ひっかかっているような、サウルを、ひやかしてゆきます。
 そんなとき、たばこ屋さんのやさしい、おじさんはこういいます。
「なんど、おちてもいきている。あれはつよい、つばめだよ」
 と……
 あるとき、サウルは、お母さんつばめに、ききました。
「ぼくはつよい、つばめなの? つよいつばめだと、なにか、あるの? いけないの?」
「いけないなんて、とんでもないわ。あのね、みんながいま、ここにいるところから、ずっととおいばしょへ、つばめはいつか、とぶの。海もこえるわ。みなみのくにを、めざして」
 そのときのために、つよく、おおきくなったつばさがひつようなの。
 だれも、たすけてはくれないし、ぎゃくにたすけることも、できない、はげしいうみの、あらなみをこえて、たどりつかねばならない。たったひとりでもよ。
 と、母つばめはふと、とおくをみるようなめをしました。
 きびしいしれんを、いまからおもいやっているのでしょうか。
 母つばめは、サウルだけにいいました。
「ああいうおじさんのことはしっていますか? じごくにほとけっていうのですよ。なぜわかるのかって? お母さんもたすけてもらったからよ。おじさんはあなたがげんきになってくれるとしんじてくれているのですよ。だから、口をおあけなさい。たべないとお母さんが」
「お母さんがたべるの?」
「むりやり、あなたに、たべさせます」
「ええっ」
「ほら、口をあいた!」
 お母さんつばめは、すばやくサウルの口へごはんをつっこみます。
 おじさんは、そんなことはお見通しだったのです。
「あのつばめ、自分もおっこちたことがあるもんだから、いちど地におちた子どもを、さべつしないんだ」

ぱくぱく、もぐもぐ、むしゃむしゃ。
 たばこやさんもはんじょうです。ひに、なんども、おきゃくさんが、つばめたちのことをわだいにして、かえってゆきます。とくに、小さなサウルのことを。
 サウルは、お母さんのおかげで、みるみる、げんきになりましたよ。

 おとなになったサウルは、そのときのことを思い出して、ほとほとと、なみだをこぼしました。
「おじさんがしんじてくれなかったら、ぼくはこうして、日本へ、かえってくることも、できなかった。ぼくは、だれも、おっこちないように、おおきな巣をつくるよ」
 サウルの子つばめたちは、あの青い、空で、きょうもげんきにとんでいます。
   end

つばめのサウル

さすがに海を渡るところまでは書きませんでした。
書けるけれど余分に思えるので。

つばめのサウル

軒下にツバメが巣をかけるお店は繁盛するって、ジンクスがありました。 今はあまり聞きませんが。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 児童向け
更新日
登録日
2011-01-21

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