砂糖多めのれもんパイ
れもんと言われて想像するものは?
れもんパイを焼こうと思った。なんだか落ち着かなくて、そわそわして、何にも手につかなくなったから。そういう時は、無心にお菓子を焼くのが一番なのである。メレンゲを泡立て器で泡立てると、腕が痛くなった。これじゃあ明日は筋肉痛ね、なんて、自分の筋力のなさに笑ってしまう。れもんをきれいに洗って、輪切りにしていくと、酸っぱいような、甘いようなどきどきするにおいがした。パイシートの上に、レモンクリームを乗せて、メレンゲを乗せて、輪切りのれもんをたっぷり乗せて、オーブンに入れる。あれ、自分はなんでれもんパイを焼こうと思ったんだっけ、なんて、考える。瞬間、記憶がよみがえる。つい一時間ほど前、私はずっと片思いしていた幼馴染に、告白されたのだ。この恋は、誰にも気づかれないまま散っていく恋だと思っていたから、気が動転して、その場から全速力で逃げてしまったのだ。れもんパイに集中していたおかげで忘れかけていたどきどきが、戻ってきた。とりあえず、落ち着いて、れもんパイを食べよう。それから、君に会いに行こう。今まで何度も何度も作ったことのあるれもんパイ。いつもより、砂糖を多くいれてしまったかしら。
砂糖多めのれもんパイ