砂糖多めのれもんパイ

れもんと言われて想像するものは?

 れもんパイを焼こうと思った。なんだか落ち着かなくて、そわそわして、何にも手につかなくなったから。そういう時は、無心にお菓子を焼くのが一番なのである。メレンゲを泡立て器で泡立てると、腕が痛くなった。これじゃあ明日は筋肉痛ね、なんて、自分の筋力のなさに笑ってしまう。れもんをきれいに洗って、輪切りにしていくと、酸っぱいような、甘いようなどきどきするにおいがした。パイシートの上に、レモンクリームを乗せて、メレンゲを乗せて、輪切りのれもんをたっぷり乗せて、オーブンに入れる。あれ、自分はなんでれもんパイを焼こうと思ったんだっけ、なんて、考える。瞬間、記憶がよみがえる。つい一時間ほど前、私はずっと片思いしていた幼馴染に、告白されたのだ。この恋は、誰にも気づかれないまま散っていく恋だと思っていたから、気が動転して、その場から全速力で逃げてしまったのだ。れもんパイに集中していたおかげで忘れかけていたどきどきが、戻ってきた。とりあえず、落ち着いて、れもんパイを食べよう。それから、君に会いに行こう。今まで何度も何度も作ったことのあるれもんパイ。いつもより、砂糖を多くいれてしまったかしら。

砂糖多めのれもんパイ

砂糖多めのれもんパイ

お菓子作りには、その人の精神状態が反映されます

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-06

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