魅力
「ねぇー、浩平ったら聞いてよ」
「何だよ、今、マンガを読んでいるんだから」
「私、魅力があるかなー」
「何だって」
「私、浩平から見たら魅力があるかなーと言ったの…ねえー、聞いているの」
少し怒った子門麻祐子は友達の紹介で知り合った同じ大学の1年先輩の木見田浩平に聞いた。
この日の2人は児童公園の芝生の上で寝転んでいた。
「魅力かー、そんなの考えたことがないよ」
浩平は漫画から目を離さないまま生返事をした。
「それなら何で付き合うのよー」
「だって色々な人と話したけど、マユが一番話しやすいんだ」
浩平はなお漫画を読みながら話した。
「浩平、今、私と話すのと漫画はどっちが大切なの」
「それはマユだけど、漫画ももう少しで終わるから待ってくれよ」
そう言うと、数分もしないうちに漫画を読み終わった浩平はマユに言った。
「ところでさー、俺となぜ付き合うんだー」
「だって何時も暇そうだし、それに毎日顔を合せているからだよー」
「それなら聞くけど俺の魅力は暇そうだからか」
「それ以外にいっぱいあるけど…例えば、誰に対しても何時も気を使っているのが魅力かなー」
麻祐子は芝生に寝転んだ浩平に言った。
「それは仕方がないだろう、5人姉弟でしかも末っ子。しかも全員が女姉妹だから自然とそうなったんだ」
浩平は生い立ちを話した。
「だからなのか、私といる時はわがままいっぱいに言うのは」
寝転んだ麻祐子も横に寝ている浩平に言った。
すると1匹の蜂が麻祐子の甘いに香りに誘われて飛び回っていた。
それを見た麻祐子は手で蜂を追い払おうとしたが簡単には逃げなかった。
「いやー、もう。浩平、この蜂が離れないよー」
麻祐子は言うと隣に寝ていたと思った浩平は何時の間にか消えていた。
「もう、浩平ったら。肝心な時に消えるんだから」
そう呟いていると何処からか浩平の声が聞こえてきた。
「マユ、何処を見ているんだ」
「浩平、何処に逃げたの」
「何処にも逃げていないよ。今、マユの上を飛び回っているんだ」
「えー、何処にいるの。見えないよ」
「ここだよ、今、マユの右肩に止まったよー」
浩平の声は右肩からの方から聞こえてきた。
「マユ、ここだよ」
「どこ、どこ」
麻祐子は声のする方に顔を少しだけ上げて見ると1匹の蜂が止まっていた。
「浩平、蜂になってしまったの」
麻祐子が聞くと悲しくなり泣きそうになった。
その時だった。
「マユ、起きろよ」
浩平は寝ている麻祐子の体を揺すった。すると両目から涙が流れているのが見えた。
更に浩平は体を揺すり続けていると、麻祐子は目が覚めて見上げるとそこには浩平の顔が真上にあった。
「浩平、蜂になったんじゃないの」
麻祐子は起き上がって見ている浩平に聞いた。
「俺は、ずーと横にいたよ。するとマユが寝言で俺の名前を呼ぶから起こしたんだ」
「何だ、私、何時の間にか寝ていたのか」
「そうみたい。気持ち良さそうだったから起こさないで見ていたんだー…」
「でもさー、マユの寝顔を初めて見たけどなかなか可愛いじゃん」
浩平は芝生で寝ている麻祐子に言った。
「まさか浩平が蜂になったの」
麻祐子は変なことを言い出した。
「俺が、蜂か…。それならこれからマユ女王の蜂になるから」
そう言うと浩平の口は寝転んでいる麻祐子の口の上を優しく塞ぐと言った。
「そんなところがマユの魅力なんだ」
そう言うと浩平は再び芝生で寝転ぶと右手で麻祐子の左手を握った。
目を開けて青空を見ていると、今度は2匹の蜂が2人の廻りを廻っているのが見えた。【了】
魅力