母の日に寄せて
追憶
母の記憶には、花にまつわるものが多い。山歩きが大好きで絵を描くのが好きな母とは、季節ごとの花を観に行ったものである。桜・ツツジ・藤・花菖蒲・紫陽花・・・
数えだしたらきりがないが、田舎育ちの母はとにかく植物に詳しかった。
そんな母が病に倒れ、入院していた病床で呟いたひとこと。
「今年の桜はみられるやろか?」
いつも元気で気丈な母の、消え入るように心細いひとこと。
ときは三月。孫たちも春休みとあって、母の見舞いに集まって来た。
桜の季節はもう目の前だったけれど、母の命も、もう風前の灯。。。
どうか間に合って欲しいとの願いが通じたのか、ようやく咲きそろい始めた花のなか、母は娘や孫たちの押す車いすに乗ってのお花見をすることが出来たのである。
ほんの一時間足らずの病院の庭の散策ではあったが、母は終始ご機嫌で、実に幸せそうにしていた。
翌日、母は、夫である父と娘たち孫たちに囲まれて、眠るように息をひきとった。まるでその死を悼むかの様な、雨のそぼ降る一日であった。
まだ、67歳。母にはもっと親孝行をしたかったと悔いばかり残るが、神の計らいで、最後の贈り物が出来たと思えた。
あれから9年。。。
カーネーションを贈る人はいないけれど、今もなお鮮やかに蘇る追憶の母に・・・
「お母さん、ありがとう」
母の日に寄せて