深海(仮)1
いつの時代だっただろうか。あれほど海が荒れはてていたことはなかっただろう。
天気は悪く、くぐもった空に押し寄せてくる高い波。
そんな海の底には、海の住人でも知らないような監獄があった。
「ねえお母さん……なんで僕たちはこんな目にあうの? 何も悪いことしてないのに……」
まだ幼いクマノミの子供だ。
無慈悲にも鞭で叩かれたあとがある。
周りを見渡せば、数多くの魚達が捕らえられているようだ。
みな痩せこけ、目からは輝きを失い、
クマノミと同じように鞭で叩かれたあとが無数にあった。
一体ここはどれくらいの深さにあるのだろうか…。
檻の隙間から見渡した限り、日の届く深さではないのだろう。
あたりは真っ暗だ。
「しっ……見回りが来るみたいよ……」
重たい空気を感じ、母クマノミが子供の口を塞ぐ。するとゆっくりと、イルカが現れた。
「ケッ。なんで俺が見回りなんかしなきゃならねえんだ」
いかにも悪そうな顔をしたイルカは、
檻の外ををゆっくりと、適当にぐるぐると回り始めた。
一言でも言葉を発するようならば、持っている鞭で叩かれるだろう。
その恐怖に誰もが怯えながら、震えて固まっていた。
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深海(仮)1