打ち上げ花火

ZONEの「君がくれたもの」からイメージを膨らませて書きました。

「今どこいるって? 電波塔が見えるところ? 電波塔ならどこからでも見えるわよ。ああ、電気屋の前ね。そうそう。赤い屋根の電気店のところでしょ。それじゃあ花火までに落ち合うのは厳しいわね。どうする? ああ、先に帰る? それなら、その電気屋の角左にまっすぐ行って。そしたら知っている道に出ると思うわ」紗也は携帯を強く握りしめて電話を切った。そして賑やかしい屋台の脇を通り抜けながら、一つ大きなため息をついた。
 紗也は今年で二十六。この秋に同じ会社に勤める幸雄と結婚する。幸雄との結婚は前々から意識していたものの、プロポーズはあまりにも突然だった。
「仕事でアメリカに行くことになったんだ。一緒についてきてはくれないか」ドラマのような展開に多少驚きはしたが、いざ心が決まれば腹は勝手に座るものらしい。
 その報告と挨拶を兼ね、会社の夏休みを利用し、幸雄と二人で紗也の地元を訪れたのだった。
 両親は以前から幸雄を高く評価しており、幸雄との結婚を望んでいたらしく、二人の結婚はこちらが驚くほどすんなりと認められた。
 私たち二人は手をとり喜んだ。それが昨日のことだ。
 そして今日。偶然にもその日は地元の夏祭りの日だった。
 紗也は丁寧におめかしをし、浴衣に着替えた。きっと人生最後の浴衣だろう。この先、浴衣を着て祭りに行く機会などあるだろうか。アメリカに行くというのもあるが、家庭をもったその時に、浴衣のような手の凝ったお洒落をできる気がしなかった。
 だから、今日幸雄と二人で夏祭りに参加できることが、心から嬉しかった。
 祭りは期待を裏切らない楽しさで、二人で神輿を見て騒いだり、屋台のかき氷を半分こしたりと素敵な一日を過ごした。
 しかし、祭りのクライマックスである打ち上げ花火を見に行こうとした時に逸れてしまったのだ。花火の直前は、それを見ようと移動する人で、道という道が埋め尽くされる。その中でふとした瞬間に手を離してしまった。
 この人ごみの中で人探しをするのは容易ではない。とりわけ土地勘のない幸雄が相手だと花火までに再会できなくとも、仕方がないと言えば仕方なかった。
 それでも、紗也は祭りの何よりもこの打ち上げ花火を楽しみにしていたので、非常に残念に思われた。
 小さい頃は毎年見ていた打ち上げ花火だ。転校して地元を離れてから、しばらく見ていなかったこともあって、余計に見たい気持ちが募っていた。
本当は二人で一緒に見たかった。けれども……。
 一人でも花火を見よう。
 今日を逃すとまたしばらく見られなくなるだろう。まして、おめかしして、浴衣を着ていく機会なんて二度とないかもしれない。
 どこで見るのが一番良いかと考えていると、ふと懐かしい場所が頭に浮かんだ。ここからも遠くない。
 そこに決まりだ。
 屋台は山の中腹にある神社に向かってずっと伸びている。その神社からは花火がとてもいい位置に見えて、毎年多くの地元民達が集まる。奥社では花火の終わりを合図に女人禁制の祭りも行われる。
 それゆえ人々の足は自然とその神社に向かっていた。
 しかし、紗也はそこへは向かわなかった。途中で脇道にそれ、浴衣で歩きにくいのも気にせず、ずんずんと目の前の坂を登り続けた。
そうして、その先に人々が向かうのとはまた別の神社の鳥居が現れた。
 
 この町に神社は二つある。姉妹神社とでも言うのだろうか。同じ伝説に由来する二つの神社があった。
 その昔、干ばつに悩まされていた村人たちが、東の空に飛んでゆく鳥を見て「雨雲を連れ帰っておくれ」と祈りを捧げると、その方角から雨雲が現れた。その雨雲の中より大きな龍が現れ、雨を降らし、干ばつから村救った、いう伝説がある。そしてその時の龍を祀った神社がこの祭りの主役の龍鳥神社、紗也が向かっているのが鳥を祀った鳥龍神社なのだ。
 今やその伝承は忘れかけられ、日本中どこでも見られる夏祭りとなっている。けれども、昼間に龍に似せた神輿が神社の境内より出てきて「雨を降らさば」の掛け声とともに町を練り歩く、というのは今もずっと続いている。
 龍鳥神社の境内から、花火は最も良く見える。山の麓の河川敷で花火が打ちあがるのだ。空に上がる大きな花火を目と同じ高さで見られるとあって、多くの人が毎年ここに集う。屋台も龍鳥神社の方にずっと一筋に連なっている。
 それに比べ、鳥龍神社は社殿自体が小さく、立地的にも花火を見るのに都合が悪かったので、花火の時間帯までは休憩にと鳥龍神社を訪れていた人も、頃合になると神社から出ていってしまい、境内にはほとんど誰もいなくなってしまう。
 でも紗也は知っていた。子どもの時に母から教えてもらった秘密の場所だ。確かに境内から花火は見えない。しかし社の裏にひっそりと存在する御神木の、そのそばに設置されたべンチからは驚くほどよく花火が見える。
 誰もいない静けさが、その美しさを際立てていることも知っていた。

 紗也がたどり着いた鳥龍神社の鳥居は少しばかり苔むしており、決して大きくはないものの、どこか神秘的な空気を纏っていた。鳥居の先には境内に続く石階段が真っ直ぐ伸びている。
 紗也は一つ息を深く吸ってから鳥居をくぐり抜けた。
 空気が変わった。
 夏なのにここはひんやりとしている。ここが神聖な場所だと言わんばかりだ。祭りで賑わう町の声が遠くに聞こえる。頭上の高いところをカァと烏が一声鳴いて通り抜けた。
 境内に入ると祭の喧騒に負けて町から逃げ出してきたのであろうお年寄りが、二人三人お参りしているだけだった。
 紗也は軽く参拝をして、それから裏に回った。
 勿論、誰もいないはずだった。
 でも、そうじゃなかった。
 そこには既に一人、先客がいた。私に背を向け、ベンチに座り、どこか遠くを眺めている。
「やっぱり来たんやなあ」闇に浮かび上がった影が言った。男の影だった。
 紗也は思わずあっと叫んでしまった。
 その愛嬌のある一声で、紗也は今まですっかり忘れていた昔のことを思い出した。
 思わず立ちすくむ。
「聡ちゃん……」
「十年ぶりか。年って、ほってても勝手に過ぎてくんやなあ」誰に言うわけでもなく彼は言った。
 どうすれば良いのかわからなかったが立ち続けるわけにもいかず、紗也はそっと彼の隣に座った。
 ベンチの先の河川敷に、花火を見ようと集まった観客が群がっているのが見える。
「聡ちゃん……あの……」紗也は隣の彼に呼びかけた。しかしその先の言葉が見つからない。思わず俯く。
けれども紗也が次の言葉を見つけるよりも早く、彼が再び口を開いた。
「ごめん、ほんまごめん」
 紗也はどこまでも真っ直ぐな瞳がこちらを見つめているのを感じた。
「なあ、紗也ちゃん。俺好きな人できてしもうたわ。まだ告白もしてないけど、ちゃんと紗也ちゃんに言ってからじゃないとと思って」彼は言った。
 誠実な彼の言葉に、紗也はっきりと罪悪感を覚えた。
 聡ちゃんは今日を覚えていた。私をずっと待っていた。それなのに……。
「聡ちゃん、あのね。ごめんね。聡ちゃんはずっと待っててくれとったのに、私は今日のこと、ちっとも覚えてなかったん」自然と方言が出た。彼の視線が苦しくて、地平線を見つめながら言った。
「今日ここに来たのは偶然。別に覚えとってきたわけじゃないんよ。花火が見たくなって来たら……。それどころか、私、結婚するん。約束のこと、忘れてて、婚約したん。本当にごめん」
 ゆっくりと顔を横に向けてみる。
 そこには、あの頃の面影の残る彼の微笑みがあった。すこし目尻の下がった優しく明るい目は昔と何も変わっていない。ただあの頃より少しばかり精悍な顔立ちになっていた。
「そうか……、なんや。俺の鳥越し苦労か。そうだよな。俺らは、変わってくもんな」彼は、ははっと声を上げて笑った。爽やかで綺麗な笑顔だった。
 
 紗也は高一の時に父親の仕事の都合で転校した。その後家族は地元に戻って商いを始めたが、紗也は東京の大学に進学するために故郷には帰らなかった。
 そして転校する直前の高一の年の、人生初の恋人が彼だった。
 彼とは中学生の頃からの知り合いだった。中二の頃から互いに片思いを続けていたが、特に何もないまま高校に入り、高校でも同じような状態だったのを見兼ねた友だちの努力が功を奏して、ようやく付き合うことになったという二人だった。
 しかし付き合い始めて二ヶ月目の夏、紗也は転校することが決まった。
二人の最後のデートが、この夏祭りだった。紗也は自分しか知らない場所を教えると言ってここへ案内した。
 そうしてこう言った。
「十年後の夏祭り、またここで一緒に花火を見よう」と。

「聡ちゃんは覚えとってくれたんね。ほんまにありがとう。なのにうちは覚えてなくて……」紗也は呟いた。
「でも、紗也ちゃんも結局ここへ来たやろ。覚えてないつもりで、やっぱり覚えてたんやで」彼の言葉に心が救われる気持ちがした。
「相変わらず、優しいんね。聡ちゃんは。今はどんなことしてるん? おばさんとか、みんな元気にやってる?」彼の顔を見ていると、急に懐かしい気持ちが膨らみ出し、思わず聞かずにはいられなかった。
「家族はおかげさまでみんな元気にピンピンしてるよ。そやなあ、おれは地元の大学いって、それから今は警官やってるよ。ほら、駅前の交番のあそこ。あそこのお巡りさんやってるんや。紗也ちゃんは?」
「うちは、手紙に書いたことあったと思うけど、東京の大学にいったん。で、そこでて、ついこの間までOLやってたん。会社にね、とてもいい人がいて。で、その人と結婚することになったん。とても誠実な人やで。真面目で、優しくて、あったかいん。で、その人なんやけどね、今度うちの会社がアメリカに支店つくることになって、そっちで仕事することになってね、うちもついていくことにしたん」
 過去は今につながっている。そのことはわかっている。けれども、自分のいないところで、彼の世界が動き、十年後の今を生きていると思うと、なんだか変な心地がした。
 紗也が本当に知っているのは十年前の彼だ。その間に彼には色んなことがあったはずだ。嬉しいこと、悲しいこと……。紗也にも勿論あった。伝えたいことはたくさんある。しかしこの十年間を言葉で伝えるには、そして彼の十年間を知るには、あまりにも時間が短過ぎだ。
 いや。もし時間が山ほどあったとしても、別々の世界で過ごした二人の時間を言葉で伝え合うことなど、できるはずもなかった。
 紗也は十年間の時の重みを感じた。

 パン、と花火開始五分前を告げる空砲が神社内にこだました。後に一瞬の静けさが残る。
 その静けさに合わせるように、しばらく二人は黙って夜空を見つめた。
 虫の声、風の音、遠くに聞こえる人のざわめき、すべてがこの場にふさわしい。
 目には見えずとも、聞こえてくるその音は、もうすぐ夏が終わることを告げていた。
「懐かしいな。あれからもう十年も経つんや。不思議な気がする」紗也の言葉に彼は頷いた。
「二人とも、もう大人になったんやな」無邪気に伸びをしながら答えた彼の背丈が、昔よりずいぶんと高くなっていることに紗也は気がついた。
「告白しようと思っている人はどんな人なん?」
「ほら、中学校で一緒やった夏美ちゃん。今はね、小学校の先生をしてるんや。二年前に交通安全運動の一貫で一緒にお仕事をして、それで話が盛り上がって。そこからちょこちょこ連絡をとってるんや」少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら彼は答えた。
 紗也は「そっかー」と頷いた。
 足を伸ばし椅子に手をつき、空を見上げると、夜空には無数の星が輝いていた。

 突如パーンという威勢のいい音と共に、一つ目の花火が打ち上がった。空に大きな花が咲いた。
 突然のことだったので紗也は驚き、ゆるりとベンチに置かれていた手は思いっきりグーをした。
 彼はちょっと笑って、紗也の拳の上に彼の手の平を重ねた。温かい。

 紗也は昔から花火の音が苦手だった。
 十年前の夏祭り、ちょうどこの場所で紗也は耳を塞ぎながら花火を見ていた。すると高一の彼は、花火の方角を見つめたまま、紗也の耳を塞いでいる手をそっと彼の手で持ち、ゆっくりとベンチまで下ろした。緊張でカチカチの手だった。でも今日と同じで、とても温かい手だった。
 思い返せば、これが彼と初めて手をつないだ瞬間だったのだ。
 夏祭りの帰り道、さよならと言い、彼と手を離してからもう十年が経つ。

 花火はどんどん数を増やしていった。赤、青、黄色、緑と様々な色の花火が打ち上がる。音は激しさを増していったが、紗也はもう驚きはしなかった。彼の温かい手は確かに紗也の心を落ち着かせた。
 でも、それだけじゃない。
「うちな、昔は時間って永遠やと思っとったん。でも、ちゃうねんな。昔は花火の音怖くて仕方がなかったけど、今は昔ほどやないの。人ってどんどん変わっていくんやね。自分自身が気づかんうちに」紗也は次々と打ち上がる花火をじっと見つめながら言った。
 孔雀に似せた花火が打ち上げられた。麓から新しい形の花火を歓迎する歓声が聞こえてきた。
 ふっとため息が出る。
 横で小さく彼が頷く。
「あの頃は、十年後のこの日、運命の再会をすると思っとったんやろ。俺やってそれを信じとったで。文通が途絶えようと、誰かに告白されようと。二年前まで信じとった。でもな、やっぱり、人間って変わっていくんや。」
 
 転校した当初は毎週のようにしていた文通も、やがてお互いに忙しくなり、受験を期に少なくなってしまった。彼が浪人したこともあり、紗也が大学二回生になる頃には、文通はすっかり途絶えてしまっていた。
 文通が途切れると、紗也は彼のことを忘れた。そして、気がつくと高校生の頃は存在すら知らなかった人と婚約していた。

 今度は一際大きな花火だ。パリパリと火花の散る音が耳に心地よい。
「変わらなければ良かったって思ってる?」紗也は訊ねた。
「変わらない、なんてことはありえんよ。きっと。もしな、まだお互いに好きやったとしても、きっと今の好きと昔の好きは違うと思うで。変わってく。人は変わってくんや」彼は答えた。
 花火の火花と白煙で、空が明るくなっている。
 二人は打ち上げ花火の行く末を見守った。
「綺麗やわ」花が咲き乱れた。
「ほんま、きれいやな」そして鮮やかに散った。
「でもなんや、俺らは花火ちゃうもんな。爆発して、はい終わりやない。そんな一瞬の変化やない。もっと、ずっと。少しずつ、大きく、長く。これからも変わってくんやな」
 花火のクライマックスがやってきた。ダダダーンと、いくつもの花火が打ち上がっては消えていった。火薬のにおいも風に流されてやってきた。
 これぞまさに夏の光景だ。
 そして、この打ち上げ花火がすべてが打ちあがったとき、二十六歳の、二人の夏は終わる。
「なぁ」彼が言った。
「俺、紗也ちゃんと出会えてほんま良かった」
 花火の音が空に大きく響いた。でも、紗也の耳には彼の声の方が、遥かにはっきりと聞こえた。
「俺らは変わってく。変わってくのは間違いない。でもな、終わったことは変わらない。俺の昔の気持ちも変わらない。だから出会えてよかった」
 花火はすべて打ち上がり終えた。山の麓から一時歓声があがり、そしてまた静かになった。もう、空気ですら動かない。世界はここだけにしか存在しないと感じさせる静けさだった。
「うちも。うちも出会えてよかった。感謝してる。戻らんことは分かってる。戻って欲しいとも思わん。でも、あの時がうちにとって大切な時だったことは絶対に変わらん」
 夏の夜風が、紗也の髪をなでた。汗ばんだ体をそっと冷やす。
「これ……」ふと思いつき、紗也は右耳のイヤリングのを外して彼に差し出した。
「これ……」彼が呟いた。
 それは、紅色のちりめん生地のイヤリングだった。
 そのイヤリングは十年前の夏、彼が紗也の誕生日プレゼントにと買ってくれたものだ。彼は夏祭りの浴衣に似合うようにと、和物のイヤリングを探してくれたらしい。なかなか紗也に似合うと思うものが見つからず、自転車で町中のお店を駆け回って決めたと言っていた。
 昔は随分と艶やかで大人びたイヤリングだと思ったが、今改めて見てみるといささか子どもっぽくみえる。
 けれども、その子どもっぽさがつけた時に可愛らしさを演出して、大人になった今の紗也によく似合うことにも気づいていた。
「これ……。俺が選んだイヤリングだよね。昔よりずっと似合うようになったなあ。紗也ちゃん、大人になって、もっと綺麗になった」
「一つ返すよ」紗也は言った。
「えっ?」
「一つ返すよ。そしてうちがもう一つを持ってる。きっともう会うことないやろうけど、大切な瞬間は忘れんといて欲しい。やから、ね」
 紗也は彼の手の中にイヤリングを落とした。彼はイヤリングを握る。その上に今度は紗也から手を重ねた。
「大切にする」はにかみながらそう言った彼の瞳は優しかった。
「俺からは何もないけど……」
「いらんよ、そんなん。うちも今思いついただけやし」紗也が歯を見せて笑うと、彼も昔の面影の残る顔で微笑み返してくれた。
「なあ。これだけは伝えとく」紗也を見つめる彼が急に真面目な顔になった。
「俺の昔好きだった人は本当に素敵な人だった」
「うちからも。うちは間違えていなかった。素敵な人を好きになった」
「だから今まで」
「ありがとう」二人の声が重なり、そして闇夜に吸い込まれていった。
 今まで調律された弦のように張り詰めていた空気がふっと緩む。
 花火終わりの静けさに耳が慣れたせいか、再び町の賑やかな声が遠くに聞こえるようになってもいた。
「もう、夏も終わりやね」紗也が言った。
「お互い、良い大人になろう。そんで俺らがそれぞれに頑張って、それぞれに世界を彩ろうや」
 良い大人になろう。その言葉を耳の奥で反芻する。
 紗也の前には、この先ずっと続く長い未来が横たわっている。しかし、彼と会うことはもうないだろう。
 それでも彼は、紗也の過去に生きている。
 紗也は頷いた。さよならの言葉は必要ない。
 紗也がベンチから立ち上がると、二人の手はするりと離れた。
 そして紗也は一度として振り向くことなく闇の中に消えていった。
 一人ベンチに残った彼は、いい夜やと呟き、しばらくの間、煙交じりの夜空を眺めていた。

打ち上げ花火

打ち上げ花火

結婚報告を兼ね、地元に帰ってきた沙也。丁度その日は、夏祭りの日であった。沙也は夫と二人夏祭りに出かけたが、つい逸れてしまう。仕方がないので、1人でも花火を見ようと懐かしの場所を訪れると、そこには、よく知っている彼がいた。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-05

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