お題 土方生誕祭


「副長ォォォ,お荷物届きましたよォォォ」

遠くからドタバタ、
声の主の山崎が廊下を走ってくるのが分かった。仮にも監察が、そんなにドタバタしていいのかというのはさておき俺は開いた襖から山崎を睨む。

「うるせぇぇぇ!!仕事してんだよ廊下は走るなぁぁぁ!!」

「あんたの方が五月蝿いでさァ、土方さん」

自分でもちっと声がでかいとは分かったが,いつの間にかいた総悟に言われるのは腹が立った。総悟山崎共々睨みつつ届いた荷物に目をやる。

「…万事屋、」

差出人の名は、坂田銀時。
ダンボールには生物と書いてある。
俺はガムテープを剥がすと訝しげに
中を覗いた。

「ま、マヨネーズじゃねぇか」

しかも大量にダンボールいっぱい。
総悟も山崎も中を覗けば眉を潜めた。

「気色悪ィ程マヨネーズ入ってやすねィ。なんなんで、旦那。惚気てるつもりなんですかねィ」


「まったく、本当ですよ。生ものだっていうからあんぱんかと思ったのに」

「いやあんぱんって生ものだったっけか?」

なまものではない、とは思う。
でもなんでいきなりあいつがマヨネーズを送り付けてきやがった。嫌がらせか?いや、俺にとっては嫌がらせにはならねぇ。

「嫌だな土方さん。今日はあんたの誕生日ですぜ?ほら、手紙も入ってまさァ」

誕生日?
暦を確認すれば5月5日だった。
あぁ、そういえば今日俺の誕生日だったのか。
だからあいつはこれを…

俺は受け取った手紙を綺麗に開封し、
紙に目を通した。

「土方くんへ。誕生日おめでとう。どうせお前の事だから自分の誕生日なんて忘れてただろ?忙しさにかまけて、銀さんに会いに来てくれないし。さみしいなぁ、なんてな。俺女たらし込んでも、土方くん俺に文句言えないくらい放ったらかしにしてるんだよ?」

そこまで読むと、
額に青筋を立て読むのをやめた。
なんだ。
なんで一方的にこんなこと言われなきゃならねぇんだ。俺だって銀時に会いたい。時間が出来りゃ連絡も取りたい。それがなんだ、女たらし込んでも文句言えねぇって。理不尽過ぎるだろ


何だか腹立たしくなった俺は
蓋をしているダンボールを再び開け、
乱暴に一本手に取るとまるで水を飲むかのように喉に流し込んだ。山崎と総悟、二人の視線が刺さる。

無我夢中で、
一本、また一本とマヨネーズを空けていく。すると総悟がこんな事を言った。


「あ、土方さん。そのマヨネーズ催淫剤入ってるみたいですぜ?どれか一本に」

ぴたっと、



俺の時間が止まった。


「なん…だと?」


「俺に会う時間もねぇ土方くんに、とっておきのプレゼントを送ります。注意、ただのマヨネーズじゃねぇから気をつけてね☆ロシアンルーレット…って書いてありまさァ」


途中まで読んではいたが、
そんな大事なものが後半にかけて書かれていたなんて誰が想像つくか。

しかもご丁寧に、
催淫剤入マヨネーズの食べてしまった場合の処理方法も書いてある。

一、俺に会いに来る

二、俺を想像して自分でやる

…どちらにしても銀時優位に腹が立つ。
しかし、身体が疼いてしまってはもう銀時に触って貰えないと達せない身体にしつけられてしまった。

幸いまだ催淫入のマヨネーズは飲んでいないらしくほっと息をつくが、またもや総悟の一言によって身体が固まる。

「あ、多分これとこれとこれですねィ。ちっと色が違うや。まだまだだなぁ旦那も。こんなんじゃ土方さんも気づ…」

態とらしく歯切れの悪い言葉が、
俺を諦めの道へと落とした。

「…土方さぁ~ん、これ色違うの気付かなかったんですかィ」

ちらりと総悟を見遣れば、
先ほどのんだ空のマヨネーズを指さす姿があった。こころなしか、少しだけ元の色より黄ばんで見える。

「あーあ,俺ぁアンアン啼くあんたに興味ねぇんでね。早々に退散させてもらいやす。おら、山崎も行くぞ。じゃねぇと、お客さんに殺されちまうぜィ」


ははっ…
んな馬鹿な。


第一俺はまだ身体熱くねぇし、
疼いてねぇし。

たまたまだよ、たまたま。うん

本当にたまたま。




「ひーじかたくん」


どくん、と心臓が跳ねた音が脳に直接伝わった。頬が一気に熱くなる。


あぁ…だめだ、流されたら。



「来てくれないと思ったから、会いにきちゃった」


自然に息があがる。
あちらこちらから汗がぶわっと溢れ、
何故だか目に何か熱いものが浮かんでくる。

「あ…、あ……銀っ」


「ん…?…どうしたの,土方くん」

歩み寄ってくる銀時の紅い瞳に吸い寄せられるように俺も少しずつ銀時に寄っていく。そしてぎゅっと身体が抱き締められた。

「銀……」

何だろうこの安心感は。
先程の脳天気な雰囲気と違い、
甘くて痺れる感覚が全身を駆け巡る。
まだ抱擁しかしていないのに。


そうだ、
薬のせいだ。




「俺からの本当の誕生日プレゼント…受け取ってくれる?十四郎」


誕生日プレゼント。


それは俺にとって、
忘れられない、いや忘れる事が出来ない一生の思い出になった。




「来年も…また2人で過ごそう」



儚くも、
少しでも長く続く夢でありますように…


-fin-

お題 土方生誕祭

お題 土方生誕祭

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-04

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