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消えちゃいそうな夜だから頭痛がひいてよかった。お腹を何度もさすってそれが自分のためだからひとりぼっち。キリキリと痛む心を僕が忘れたんだから、君が知るわけもなかったね。

ひとつひとつこぼれ落ちていく思い出のかけらは誰のものだったんだろう。
あの勝手口に置かれた焼却炉が私は好きだった。火なんかついてなくても。好きだった。あの子達の部屋の外側から細い道を抜けて田んぼに出るのも好きだった。そういうときはいつもぬけるような青空で。好きだった。好きだったのにいつの間にか失った。
死ぬってなんだろう。あの坂の上で生きていくと決めた。あの雷の夜に歩き出すと決めた。死ぬって、なんだろう。私はまだここにいて、おそらく生きている。
この味。覚えのある、この味。思い出せなきゃ世界が終わる。そのぐらいのつもりで生きている。
あの川沿いの店で食べた鮎。どこかのもんじゃ焼き屋。市役所。デパートでの買い物と花火のバラ売り。餃子。帰り道のパンケーキ。鎌倉から江ノ島までの道。追い抜いていくバス。遠くなる背中。海の近くで飲んだ味の薄いカクテルとかき氷。船で行った裏側。歩きのほうが良かったと言われたこと。

ひとりぼっちになっていく。だめだよ。



20160224

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-04

Copyrighted
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