ほどほど
なあ、世の中ってのは、ほどほどがいいんだよ。あんまり厳しくしちゃいけないし、あんまりゆるくてもダメなんだ。あんたもそう思うだろう。
え、ゆるい方がいいって?
ほう、職務怠慢でクビになったのか。それはそれは、お気の毒に。
まあ、ここの暮らしも慣れりゃあ、どうってことないよ。冬の間は寒くてツライが、これからいい季節になるしな。食べ物だって、あ、まだ無理か。ま、そのうち、だな。
そういえば、一時期おれの会社でも、これからは成果主義だ、結果が出せないやつは去れ、みたいな改革をやったことがあるよ。それでどうなったかというと、みんなで足の引っ張り合いになり、組織がガタガタになった。そりゃそうだろう。サッカーだって、ゴールを決めたヤツしか評価されないなら、誰もアシストなんかしねえよ。
それに懲りて、その後、同一役職は基本的に同一賃金ということになった。そしたら案の定、みんな手抜きをするようになった。昔からよく言う「遅れず、休まず、働かず」という状態だ。
でも、おれはそれでいいと思ったね。
組織というのはバランスが大事だから、突出してやる気のあるヤツとか、桁違いにトロいヤツとかいると、うまく回らねえ。ほどほどのヤツが集まって、ほどほどに仕事をすりゃあいいんだ。
え、それでどうなったかって?
うーん、おれはいいと思ったけどさ、そして、社内的には和気あいあいだったけどさ、まあ、世の中にあるのは、うちの会社だけじゃないからな。結局、よその会社との競争に負けて、あえなく倒産したよ。
で、おれは今、こうしてホームレスになっちゃった、ってわけさ。
なあ、よその会社の連中にも、世の中ほどほどがいいぞって、誰か教えてやってくれねえか。頼むよ。
え、会社が潰れたんなら、失業保険でももらって、他の会社に就職すれば良かったじゃないかって?
ふん。それができりゃあ、したさ。だけど、おれ、社長だったからなあ。やっぱり、世の中、ほどほどがいいよ。いや、ホント。
(おわり)
ほどほど