くまかめついのべ。④

《①》
世界中の音を平らげた音食いは古びた教会に逃げ込んだ。
世界中の軍隊が取り囲み、四方八方から銃口を向けて。
「──」
発砲寸前、突然音食いから溢れ出る沢山
の音。
様々な音が混じり合い、それはそれは素晴らしい音楽だった。
その場に居る皆が聴き惚

パン

銃声。

《②》
「安心しな。暗殺なんかじゃないよ」
キリコは深く刻まれた口元の皺を更に深くして笑った。
「ちょいと強引な、スカウトさね」
さっきまで銃弾の雨を防ぎ、俺を容赦なく殴りつけていた黒くて四角いケース。
その中には懐かしい……綺麗な綺麗なクラリネットが入っていて。

《③》
彼女の部屋にはイタズラ好きな悪魔が住んでいる、そう思ってた。
「……あれ、もうこんな時間なんだ」
今日は遊園地デート。
どうやら、時計の針を弄るイタズラ好きな悪魔は、彼女の部屋じゃなく彼女の服のポケットに住んでいるらしい。

《④》
「つか、大体何処がケツなんだよ!」
連れて行かれるサラリーマンの捨て台詞に、僕も他の乗客も心の中で激しく同意した。
ツェレポ星人の構造は、正直全く理解できない。
「……」
夢溢れる銀河鉄道は、昔と変わらないいざこざで溢れていて。

《⑤》
地図屋さんは埃まみれの棚から、古ぼけた一枚の地図を出してきた。
生き別れてしまった母親に再会する為だけの地図。
「お代はリュックの中のハムサンドで結構だよ」
さっきまでぞわぞわ動いていた棚が静かになった。
出番を願う地図たちが、また深い眠りについたらしい。

《⑥》
「粘着性の強い皮膚。擬態の見抜き方は教えた筈だ」
彼に斬られたダンディ紳士が醜い化物に変わる。
「だって、さっき初めて触」
「手も繋いでいない男女がこんな場所に来るな。これだから、地球人は」
バスタオル一枚の私。
ご休憩時間いっぱい、お説教タイムになりそう。

《⑦》
佐藤楽器店の中には沢山の佐藤さん。
色々な楽器に加工され、陳列されていた。
山田製作所で製造される山田さん。
トラックに乗せられ、続々出荷されていた。
「……この町では名乗らないようにしよう」
さっき通過した田中精肉店の事を思い出し、そう心に決めた。

《⑧》
大きな大きな綿毛に掴まる。
ふわりと風に乗り、簡単に浮かぶ体。
「待ってて」
カセイタンポポの綿毛は故郷を目指すらしい。
あらゆる渡宇宙手段を潰された私たちの、夢溢れる最後の可能性だ。

《⑨》
振り返った視界。
手紙の塔はまだその中にあった。
「……」
手紙の塔の元門番。
とある事情で彼は仕事を辞め、旅に出た。
身分という壁はどうしても壊せなかったのだ。
「未練がましいぞ」
肩の上で赤葱色の伝書鳩が鳴く。
手紙くらいなら届けてやる、と、もう一鳴き。

《⑩》
水桃色のドレスのお姫様は、嘗めるようにじっとりと僕の顔を眺めてきて。
「違う」
舞台女優のような声で一言。
あっさり僕への興味をなくし、お姫様は近くのおばさんを目指して駆けていってしまった。

手紙の塔のお姫様の家出騒動を知るのは、その少し後で。

《⑪》
薄緑色の伝書鳩は僕の肩の上、嘗めるようにじっとりと顔を眺めてきて。
「違う」
ダンディーな声で一言。
あっさり僕への興味をなくし、伝書鳩は近くのおじさんを目指して飛んでいってしまった。

手紙の塔のお姫様の家出騒動を知るのは、その少し後で。

《⑫》
妻との初めてのデートから、ちょうど三年と半年。
「あんまり頻繁にデートしてると、奥さんにバレちゃいますよ?」
「仕方ないさ。君との時間は早く進んでしまって……」
あの悪魔はいつの間にか、会社の後輩のポケットに引っ越しをしていた。

くまかめついのべ。④

くまかめついのべ。④

ツイノベまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-03

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