くまかめついのべ。③

《①》
「私、硝子で出来てるの」
儚い彼女を好きになって、傷付けないよう壊さないよう大事にして。

「信じらんない!」
儚い彼女と喧嘩をして、彼女の拳が僕の頭に飛んできて、酷く鈍い音がした。
「ぎゅいっ」
霞む視界の隅、強化硝子のマーク。
硝子が儚いなんて昔の話だ。

《②》
「なんでだろうな」
「なんでだろう」
深夜のファミレス。
客は僕ら二人だけ。
テーブルの真ん中に置かれた一杯の水。
「えっと」
「あー」
深夜のファミレス。
各々ぼんやり交通事故の記憶がある僕ら。
「……」
「……」
店員さんを呼べないまま、メニューを眺める。

《③》
「実はクリスマスやバレンタイン、ハロウィンなんかも私が広めました」
胡散臭い男から渡されたパンフレットに目をやる。
「これも是非とも普及させたいのですが、資金繰りが苦しくて」
町を練り歩く裸の女性たち。
怪しいのは分かっているのに、男の性、残高が頭を過ぎって。

《④》
町外れの王様屋さんでは、いつもいつも良く出来た素晴らしい王様ばかりが売れ残る。
真っ先に売り切れるのは、とんでもない悪政王か、何も出来ない無能王で。

《⑤》
牛豚鶏。
僕を取り囲む元・家畜動物たち。
超生類憐れみの令が世界規模で出されてからというもの、彼らを食べるどころか傷付けるだけで死罪モノだ。
「たべて」
しかし彼らは生粋の食用家畜。
「タベテ」
夜な夜な街を徘徊し、無理矢理自分を食べさせようとしてくるのだ。

《⑥》
「目覚まし時計怪獣は」
私が生み出した言葉は、あっと言う間に波間に消えてしまった。
「……」
……だったら。
「私は高橋君が大好きで」
溜め込んだ気持ちを吐き出したら、何故だかそれだけ波に乗った。
器用に漂い、荒れ狂う海の隙間、いつまでも私の目の前に。

《⑦》
彼女は給食の蜜柑の皮を奇想天外な剥き方で剥く。
彼女に片思い中な僕は、こっそり真似してみたりしていて。

「本当変な剥き方よね」
あれから十数年。
嫁になった彼女はいつの間にか普通の剥き方を習得し、彼女を思い続けていた僕は奇っ怪な剥き方を抜け出せずにいる。

《⑧》
偉大なる大魔導師サルクチェスとその一番弟子。
彼らの魔法によって、とうとう世界はアスパラガスの森に覆われた。
アスパラガスが大嫌いな大食らいのアレらは、世界の隅に追いやられて、やがて死に絶えた。
地道に行われた世界救出劇。
アスパラガスの大木が、風に揺れた。

《⑨》
無敵の怪物に効果があるのは、何故か果物による攻撃だけらしい。
「あなたって、へん」
そう聞いて、バナナとパイナップルをカチカチに凍らせた僕。
使い勝手と破壊力を真面目に考えた結果で。
「君は、悪魔だ」
ぐつぐつと煮えたぎるいちごジャム。
怪物が少し、気の毒。

くまかめついのべ。③

くまかめついのべ。③

ツイノベまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-03

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