深海棲艦の発生と艦娘の出自記録

メモ用紙

久しぶり、元気にしているか?
こいつはお前が欲しがっている資料だ。
急に電話して来たと思ったら機密資料を寄越せとなると随分と骨も折れることでね。
だから残念なことにすべての情報を集められたわけじゃない。
分かりにくい所があるかも知れないがこれで我慢してくれ。

南方接触事案

接触記録
1929年7月1日~1929年10月31日
この3ヵ月における漁業従事者の死者・行方不明者数が195名に上りました(農林省水産局調べにより判明している数です)。
これは海難事故における年平均数のおよそ5倍になります。
特に南太平洋での被害が多大でした。

被害が多発した海域は沿岸地域の住民からは"魔の海域"として恐れられていました。
古くからあるこの伝承が拍車をかけ、周辺地域一体で軽度で長期的な集団的恐慌の兆候が見られました。


1929年11月15日
周辺地域への精神的負担、他国からの侵攻の可能性を鑑みて海軍省は哨戒艇5艦に警備任務の命を下しました。
以下の哨戒艇が任務に就きました。

第四十号哨戒艇
第四十一号哨戒艇
第四十二号哨戒艇
第四十三号哨戒艇
第四十四号哨戒艇
第四十五号哨戒艇



事件記録─1929年11月18日

深夜、小笠原諸島周辺を警備していた第四十五号哨戒艇、第四十二号哨戒艇との連絡が取れなくなりました。
ほぼ同時刻に第四十四号哨戒艇から緊急通信、南遠方から爆発による光を確認したとの事でした。
数分遅れて小笠原諸島父島基地より同様の内容の通信が寄せられました。

第四十四号哨戒艇、第四十三号哨戒艇が爆発現場に急行。
到着時に発見されたのは艦体の僅かな残骸と乗組員の遺体のみでした。
艦本体は沈没したと見られます。
生存者は発見されませんでした。
近くに敵と思われる対象は発見されませんでした。

1929年11月22日
小笠原諸島父島基地からの連絡が一切途絶える
第四十四号哨戒艇からの観測により小笠原諸島の広範囲に渡って濃霧が発生しているとの通信が入りました(のちに濃霧の範囲はおよそ直径203kmと判明)。
第四十四号哨戒艇は濃霧への接近、可能な範囲での調査活動が命じられました。

第四十四号哨戒艇は小笠原諸島の北北西、濃霧との境界までおよそ2kmの地点で突如、艦砲射撃によると思われる攻撃を受けました。
第四十四号哨戒艇は即座に撤退を開始、被弾しながらも横須賀鎮守府に帰還する事が出来ました。
この攻撃により52名の重軽傷者、20名の死者を出しました。


聴取記録─1929年11月24日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:川崎茂 上等水兵
第四十四号哨戒艇の襲撃事件の生存者の中から体調が良好な者を選び聴取が行われた。


伊賀崎:さぁ、ここに座って。
伊賀崎:気分はどうですか?
川崎:特に問題は。私は幸運にも大怪我はしませんでしたから。
伊賀崎:それはよかった、先の事件について色々お話しを伺いたいのですが。
川崎:はい、大丈夫です。
伊賀崎:では濃霧を観測した当時の事を教えていただけますか?
川崎:当時私は見張り員をしていました。哨戒艇は規定の針路をとっていました。
   霧は……すぐに確認できました。
   出港して4、5時間ほどだったと思います。
伊賀崎:発生している霧については何か気になる事はありませんでしたか?
川崎:そうですね……。
   とにかく霧の範囲が尋常ではないくらい広かったのを覚えています。
   北太平洋で海霧はいくつか見ましたがあんなに大きなものは初めてです。
   こちらから見た限りでは島をすっぽり覆っていましたから。
伊賀崎:ではその周辺で気になった事などは?
川崎:うーん……、特に無かったと思いますが。
伊賀崎:どんな些細な事でも良いので。
川崎:そうですね。
   海から女の声が聞こえたとかその場にいた他の兵から聞きましたが……。
伊賀崎:女の声ですか?
川崎:船乗りを怖がらせるためのよくある怪談でしょう。
   それに哨戒艇が沈められる事件もありましたから皆、気が立っていましたし。
伊賀崎:なるほど、それでその後は?
川崎:はい、霧の発生を確認してその後に調査命令が出ました。
   なんでも父島基地との連絡が取れないとの事で。
   それで霧の境界沿いに針路をとっていたところに。
伊賀崎:攻撃されたと?
川崎:はい、霧の中からでした。艦の数も相当数いたと思います。
   かなり……撃たれてましたから。
伊賀崎:艦の姿は見ましたか?
川崎:それが不思議な事に艦の姿は見えませんでした。
伊賀崎:しかし、かなりの攻撃を受けたはずですが。
川崎:それはそうなのですが艦の姿はまったく。
   私も消火活動を行っていたのでちゃんと見たわけではありませんが。
   相手も霧の中から撃ってきたようですからそれで見えなかったのかも。
伊賀崎:なるほど、分かりました。では今回はここらへんにしておきましょう、では……。
川崎:あの。
伊賀崎:はい?
川崎:状況が状況だけに幻覚かもしれませんが。
伊賀崎:幻覚? 何か見たのですか?
川崎:確かに艦は見えませんでしたが攻撃の受けた方向に……。
   霧の方にうっすらと人影がありました。
伊賀崎:人影?
川崎:あの状況の中ずっとこちらの方向を向いていました。
   海の上にそのまま立っていて……。
   ずっとこちらを見ていました。
記録終了


南方敵勢殲滅・調査作戦─1929年11月27日
第四十四号哨戒艇の事件を受け、軍令部第一局より未知の敵性勢力の撃退と調査の為、艦隊が編制され攻略作戦が行われました。

午前6時に艦載機による偵察および先行打撃
航空母艦 方天から25機が発艦
午前6時38分に2機のみ着艦
操縦士の証言により敵は黒色で小型の飛翔兵器を使用しており、かつ他の23機の航空機は撃墜されたと予想されています。

午前7時に第一戦隊、第二戦隊による侵攻を開始

第一戦隊、第二戦隊共に霧の境界、北に6km地点に到着
同時に霧の中から人型の存在がおよそ60体出現(※以後"水鬼"と呼称。恐らくこれが水鬼との初の視覚的接触になります)。
水鬼は後背部や前腕部に装着されている火砲を発砲、第一戦隊、第二戦隊に攻撃を開始しました。
第一戦隊、第二戦隊も反撃を開始。

2時間に渡る交戦の末、第一戦隊、第二戦隊共に甚大な被害を受け退却を開始。
その後の水鬼の追撃により、更に被害は拡大しました。

水鬼による発砲はその口径の小ささにも関わらず着弾時には多大な破壊力を発揮し、それは艦にとって致命的なものでした。


被害状況

小笠原攻略艦隊 第一戦隊
航空母艦 方天 大破。戦闘地域を離脱後、帰還中に三宅島の東に10kmの地点で沈没
重軽傷者
762名 付近にいた哨戒艇と民間漁船による大規模な救出活動が行われました。
死者
538名

駆逐艦 氷雨 沈没
死者
239名 乗組員全員死亡



駆逐艦 日照雨 沈没
死者
250名 乗組員全員死亡



駆逐艦 雷霆 大破
重軽傷者
183名
死者
23名

軽巡洋艦 赤石 沈没
死者
337名 乗組員全員死亡



軽巡洋艦 早渕 沈没
死者
348名 乗組員全員死亡



戦艦 和泉 大破
重軽傷者
872名
死者
308名


小笠原攻略艦隊 第二戦隊
重巡洋艦 大雪 沈没
死者
825名 乗組員全員死亡



重巡洋艦 荒海 沈没
重軽傷者
10名 撤退中の戦艦 和泉の乗組員により救出
死者
801名

駆逐艦 霙 沈没
死者
223名 乗組員全員死亡



駆逐艦 霖 沈没
死者
248名 乗組員全員死亡



駆逐艦 秋霖 大破
重軽傷者
102名
死者
132名

戦艦 駿河 沈没
死者
937名 乗組員全員死亡





聴取記録─1929年11月29日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:工藤修平 艦長
工藤氏は戦艦"和泉"の艦長を務めていました。



伊賀崎:さぁ、おかけ下さい。
工藤:これは尋問か何かか?
伊賀崎:いえいえ、そんな御堅いものじゃないですよ、ちょっとしたおしゃべりですから。
工藤:おしゃべりね……。
伊賀崎:ではさっそく、あなた方が戦った"敵"についてお聞かせ願いますか?
工藤:水鬼の事か?
伊賀崎:水鬼?
工藤:他の艦員達は水鬼と呼んでいた、"みず"に"おに"と書くらしい。
   船乗りを海中に引きずりこんだり、水害を巻き起こす鬼だとさ。
   あんな姿を見ちまったんで艦員はすっかり脅えてた。
   変な名前もつくもんさ。
伊賀崎:ではその水鬼について。
工藤:まさしく"化け物"とはあのような奴らを言うのだろうな。
伊賀崎:化け物……というと?
工藤:それ以外に何がある?
   私は少なくとも水上を進みながら砲弾を撃ちまくって軍艦を沈める兵など
   知らない。笑い話にもならん光景だったな。
伊賀崎:相手側はボートなど、何か船舶を使って移動を?
工藤:いや、そうじゃない。海の上に立っていてそのまま滑るように移動していた、   比喩じゃなくそのままの意味だ。
伊賀崎:ふむ、では彼ら……ええと水鬼の姿は見ましたか?
工藤:双眼鏡越しだが、そうだな……。肌は真っ白だった。
   髪も真っ白だったが黒髪の奴もいた、歯を剥き出しにした不気味な怪物に
   乗っている奴も見かけたし頭に角が生えている奴もいた。
   それから"彼女ら"と言った方がいいな。全員女だった。
伊賀崎:女性ですか……。男性と見て取れる者は?
工藤:一人たりともいなかった。私はともかく、他の艦員にも男を見たやつは
   いなかった。
伊賀崎:なるほど。
   では次にその水鬼の使っていた兵器についてお話いただけませんか?
工藤:ああ、あの武器は……、"反則"だ。一方的な負け試合だった。
   我々は2時間近く戦闘を行ったがそれ自体が奇跡だ。
伊賀崎:他の方に報告によると比較的大きな火砲を腕に装着していたり背中に
   背負っていたと。しかし―
工藤:軍艦を沈める威力はない言いたいのだろう?
   艦に被弾した瞬間を見れば考えが変わるさ。
伊賀崎:詳しく教えていただけますか。
工藤:砲の大きさは迫撃砲かそれより小さいぐらいにだった。
   陸軍の基地で見たことがある。
   拡声器による警告も無視して艦隊のすぐ近くまで接近していた。
   いよいよ機銃による警告射撃って時に水鬼どもは散り散りに移動して
   砲撃してきた。
   至近弾ででっかい水柱が上がって皆、大慌てさ。次に気づいた時は船首が
   黒焦げになっちまった。
伊賀崎:味方側の反撃はどうでした? こちら側の攻撃の効果は?
工藤:正直、怪しいもんだ。
   何せあんな小さな目標に砲撃をするなんて初めてだったし、
   動きも早くて近づかれると砲塔が回る前に死角に入られた。
   砲撃なんで当たらないし、至近弾でもくたばらずに動き回っていた。
   機銃は……言わずもがなだな。
伊賀崎:分かりました。
   さて、今日はこの辺にしておきましょう。もうお昼になりますしね。
工藤:なぁ、一つ聞きたいんだが。
伊賀崎:何でしょう?
工藤:あんた、所属はどこだ? 海軍省の人間か?
伊賀崎:私は■■■■■■■■■■■■(検閲および削除)

記録終了

こちらの所属に関して工藤氏には偽装情報が与えられたことに留意して下さい。


事件記録─1932年2月17日

奄美大島から東に150kmの地点で物資運搬船の護衛についていた第十六駆逐隊が水鬼1体と遭遇および戦闘を開始しました。
一時間の戦闘ののち、水鬼の撃破に成功。
※この戦闘による死傷者は発生しませんでした。
※乗組員の証言を総括すると今回遭遇した水鬼の個体は戦闘開始以前から衰弱していたと予想されます。

駆逐艦 蓮華が水鬼の遺体回収活動を開始。
遺体の引き上げの際、水鬼の予想以上の重量の為に乗組員5名が重軽傷を負いました。
後に遺体は回収、甲板に安置されましたが遺体は消失し、研究施設への収容は失敗しました。

目撃情報によると回収から30分ほどで遺体から霧状の黒い煙が発生し、その5分後には遺体は完全に霧散したとの事です。



1930年から1934年にかけての水鬼の動きと被害

水鬼による襲撃事件が世界各地で散発的に発生し、同盟国や諸外国などから報告が寄せられています。
いずれも女性のみの分隊を組み哨戒船舶や民間漁船、貿易船などを襲撃と報告されています。

各国収集の目撃情報における水鬼の特徴は工藤氏の証言に非常に酷似しており、小笠原攻略戦の水鬼と同勢力および別動隊と思われます。
さらに小笠原攻略戦では未確認の飛翔兵器や人型ではない形をとるもの、潜水して姿を隠し襲撃する水鬼の情報がもたらされました。
水鬼の実働部隊に多様性が出てきたところは注目すべき点です。

また水鬼の死後の特性、圧倒的な戦闘力および激しい敵対心と抵抗によりその生態や起源を追跡する試みは今だに成果を出せていません。

この4年間における襲撃活動は日本を含め各国の領海で行われ、全世界で約500万人の犠牲者を出したと推定されています。
また、海上交通路の制圧による経済的影響も無視できない脅威となっています。

1931年の調査において、人類の制海権は約15%ほど失われたとされています。
この勢いのまま水鬼の侵攻が進めば、支配種転換事象が起こる可能性があります。
水鬼の侵略活動の停止は当局の最優先事項になります。


付記 1934年10月10日
私は水鬼達の練度が以前より増していると感じている。
彼女達はそれぞれの役割を決め、戦略を練り、適切な戦力を適切なタイミングで投入している。
いくつかの襲撃報告には目を通したがより効果的な攻撃をしている、もしくはその個所を探っているように見える。
突拍子もない考えだが、より強力な力や知力を有した水鬼にとっての長が出てきたのかもしれない。
どちらにしろ純粋な戦力で言えばこちらに勝ち目はない、彼女達の"進化"が我々に終わりをもたらすのも時間の問題だろう。

それと同時に疑問に思う事がある。
彼女達はどうして陸を攻めてこない?
あれだけの装備を有しているのなら今すぐにでもどこかの国や地域で上陸作戦を決行しそうだがそんな素振りは微塵もない。
私は戦略家ではないが、彼女達は陸を避けているように思える。
加えて、水鬼に破壊された船体およびその残骸の消失にも注意を向けるべきだ。
襲撃部隊から逃げ切った例の除いて沈没した船が無事回収された事例は一つたりとも無い。

それともう一つ、まだ疑わしいが■■■■■■(検閲および削除)にて水鬼の情報がある。
何でも陸で生活し、地元住民とも協力的な関係を築いているという。
この情報を確定的にするための調査活動の強化と工作員の増員を進言しようと思う。
この水鬼からの情報や前述の疑問の解決が事態打開の鍵になると信じたい。

私は座して死を待つつもりは無い。─伊賀崎

日の丸新聞 1933年8月10日

海軍、轟沈!?
精鋭艦隊をもってしても勝利ならずか。

8月9日に帝国海軍所属の第11艦隊、通称"鬼退治艦隊"は南太平洋沖で水鬼撃滅の為の作戦を展開した。
しかし同日に同じく南太平洋方面にて巨大な爆音と煙の目撃情報が相次いでおり騒ぎになっている。
関係機関はこの爆発についての情報を8月10日現在において何も発表していない。
また鬼退治艦隊が帰港したという情報も今のところは無い。

乙姫に関する記録

調査報告─1935年2月4日
調査員にもたらされた情報により陸で人と共に生活する水鬼の情報がもたらされました。


報告によれば対象は陸上で生活を行い、地元住民との友好的な関係を築いています。
食事や睡眠など人間となんら変わりない行動をとっていました。
水鬼と同様の兵器の所持はしていませんでした。

回収作戦─1935年2月6日
第3機動隊により回収作戦が実行されました。
※作戦に関する詳しい内容は文書■■■■■■ー■■■■■ー■■(検閲および削除)を参照して下さい。

地元住民による抵抗により少数の軽症者が出ましたが対象が自らこちら側に出向いた為、回収作成は成功しました。

情報管理部メモ
※この対象を以降"乙姫"と識別呼称。彼女の本名は記録から削除してください。


乙姫に関する記録


乙姫の所在情報と監視体制について
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最終更新:1955年■月■日


破かれ挟み込まれたメモ

乙姫の所在情報と監視体制に関する情報は最上級機密に繰り上げられました。
以降、これらに関する情報が記録された文書および音声はすべて破棄、もしくは検閲されます。
情報の開示は厳しく制限され、適切ではない者の情報閲覧が確認された場合は逮捕、拘束および尋問されます。

閲覧対象者へ
最上級隠蔽規定では対処不可能な情報漏洩が確認された場合は"姫攫い"が実行されます。







乙姫の概要
識別名"乙姫"は20代前半の女性に見えます。普段の姿は色白の肌に肩甲骨まで伸びる黒髪と灰色の虹彩と黒い瞳孔を持ち、右肩側の首根に長さ5cmの切り傷があります。
体格は中肉中背で身長は165cm、体重は54kgです。ある程度の日本語に加えて未知の言語を喋ります。

乙姫は非常に友好的な態度で敵対的な行動は見せていません。
しかし、心理評価は成されていないので注意を怠るべきではありません。
警戒行動と監視体制は常に最高水準を維持すべきです。

乙姫についてはいくつかの注目すべき点があります。
一つは彼女の身体障害についてです。
心因性の歩行障害を患っており、筋力や骨密度に異常はありませんが常人と同様の歩行が非常に困難なようです。
直立や歩く事自体は可能ですが、後者はかなり遅くまた本人にとっては苦痛に感じるようです。
現在、主な移動は車椅子で担っています。

二つ目の点として体色が変わる現象が見てとれます。
その姿は昨今目撃されるいくつかの水鬼と同様に真っ白な肌と髪、赤い目になります。(以後、これを"活性化"と呼称)
乙姫が水鬼として報告されたのはこの特性が原因です。
証言では特別な活動状態時に起こる現象らしく、これらは本人の意思で操作が可能なようです。
活性状態はかなりの体力を消耗し、休養が必要になります。
非活性状態になれば体色は元に戻ります。


追記:1935年3月16日
度々、収容室内の物品や施設の機器や家具にまるで人と会話するかのように話しかけている姿が観察されています。
例としては書物や机、警備員が装備している小火器です。
これが一つ目の特徴に起因する何らかの反応なのか、乙姫の種における独自の宗教的感性なのかは判明していません。
経過観察は引き続き継続されます。
(聴取記録─1935年3月3日)を参照してください。





聴取記録─1935年2月25日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:乙姫
補佐、注釈執筆:露木 洋子 研究員

※露木研究員は乙姫の生活補佐および起源の研究に従事しています。
※生活補佐を担当していることもあり組織内で乙姫の信頼を最も得ていると予想できる人物であること、また乙姫が時折喋る未知の言語の聞き取りの為同席しました。
※注釈による翻訳は完璧ではありません。執筆時点での未知の言語に対する解明は全体の3%ほどと予想されています。




伊賀崎:やぁ、■■■■■■■■。(検閲および削除) 体調はどうかな?
乙姫:伊賀崎さん。白ちゃん(※1)と呼んで。お願いしました。
    体調は良いです。

(※1)回収前に地元の子供達に付けられた愛称のようです。本人は大変気に入っている様子です。

伊賀崎:ああ、これはすまない、白ちゃん。日本語もかなり上手になってきたね。
    さて、今日は色々質問したいんだが良いかな?
乙姫:質問ってどういう意味です?
露木:あなたの事を聞きたいということよ
乙姫:わかりました。
伊賀崎:よろしい。
    じゃあ、最初に君の足についてだがそっちの調子はどうかな?
乙姫:まだ大変に難しい。歩行。
伊賀崎:歩けない事の原因に心当たりはある?
乙姫:あー、下にある茶色。乾いたり、湿ってたり。花がある。
伊賀崎:地面?土のこと?
乙姫:そう地面。土。psauhɔːri(※2)

(※2)恐怖、不気味、得体の知れないものを指す語だと思われます。

伊賀崎:土が怖いんだね?
乙姫:怖い?
露木:土には近づきたくない?不気味?
乙姫:ああ。うん、不気味。えっと"怖い"
   でも"怖い" 打ち倒せる。頑張っている。
伊賀崎:なるほど、克服しようとしていんだね。
   なぜ土が怖いのか心当たりはあるかな?
乙姫:(沈黙)
伊賀崎:いいよ。無理に答える必要はない。
   そうだな。じゃあ、話題を変えよう。
   次は君のその体の色が変わることについて教えて欲しい。
露木:ほら、前に見せてくれたでしょ。えっと、psuteŋtiʌ(※3)だったかな。

(※3)力、権威、神聖や霊的な力も指すようです。神通力?

乙姫:psuteŋtiʌ 大事なもの。でも使うと疲れる。
伊賀崎:今見せてもらうことは出来る?
乙姫:……うん。

<乙姫は活性状態になり体色を変化させる。少し苦痛の表情を見せる。>

伊賀崎:どういった事が出来るのかな?
乙姫:色々……出来る。見れる。
伊賀崎:何が見える?
乙姫:子供たち……。伊賀崎さん達は水鬼って呼ぶ。
伊賀崎:水鬼の……どんな事が分かるかな?
    たとえば居場所や今何をしているのか……見える?

<乙姫はより一層苦痛の表情を見せながら非活性状態になり体色が元に戻る。>

乙姫:無理。今、これ以上はやっちゃ駄目。
伊賀崎:なぜ?
乙姫:向こうもこっちを見てる。

記録終了

これ以上の質問(彼女の出生や出身、水鬼の正体など)の回答を拒否しました。また活性状態の疲労の為、聴取は終了しました。
この聴取以前に乙姫に水鬼の情報は全てにおいて提供されていません。
そもそも乙姫がなぜ"水鬼"という名称を知っているのか現時点でもわかっていません。
後の調査では水鬼についての情報漏洩の痕跡は確認されませんでした。



乙姫の管理されていない活性化は鎮静化され即刻中止される。
全ての警備員と担当研究員・職員は専用の鎮静器具の携帯を義務とする。─統括委員会




露木研究員の報告─1935年3月3日

ここ数週間、乙姫は水鬼に関する情報を積極的に集めようとしています。
私や他の研究員への積極的な質問や卓上書類の勝手な閲覧、看過できないものとしては立入禁止区域や役員の事務室への侵入未遂などです。
隔週のカウンセリングでも不安の兆候が見て取れます。
これは早急に解決すべき問題と提言します。
乙姫との信頼関係や彼女の精神衛生が損なわれることがあれば、我々の研究に歯止めをかけることになるからです。


提言を支持し、対策を検討する。─伊賀崎







露木研究員の報告─1935年3月10日
乙姫が度々、施設内の物品に話しかける様子が見てとれます。
ストレスによる一種の逃避行動なのかもしれません。
経過観察を続行中です。
記録の為、乙姫の関連書類にもこの事について追記するべきでしょう。




聴取記録─1935年3月15日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。


対象者:乙姫

伊賀崎:今日もいくつか質問したいのだが大丈夫かな?
乙姫:<沈黙>
伊賀崎:心配いらない。水鬼についての事じゃない。
乙姫:なら……大丈夫。
伊賀崎:質問というのは君の行動についてだ。
   ほら、たまに物に話しかけている時があるだろう。
   この前だと蓄音機と話をしていた。
乙姫:彼は情熱……情熱的。
   音楽を愛している。
伊賀崎:それはどういう感じで伝わってくるのだろうか?
   声が聞こえるのかな?
乙姫:声は聞こえない。
   伊賀崎さん達とお話をする、そうゆうのじゃない。
   彼らの考えがわかる。
   説明難しい。
伊賀崎:大丈夫だ、大体……理解している。
   そうだな。じゃあ、例えば……

<伊賀崎は近くにいる警備員の所持しているライフル銃を指差す。>

伊賀崎:あの銃と話はできるか?
乙姫:やってみる。

<乙姫は約30秒間沈黙する。>

伊賀崎:何か聞こえた?
乙姫:あれは怒っている。
   早く掃除してくれって。(※1)

(※1)後の調べでこのライフル銃は書類上の漏れが原因で定期清掃を3年行っていないと判明しました。

伊賀崎:なるほど。
   まぁ、たしかに少し……汚れて見える。
乙姫:かなり怒ってる。
   早く掃除したほうがいい。
伊賀崎:じゃあこれと話はできるかな?
   私の持っているペンだ。
乙姫:それは……無理。
伊賀崎:どうして?
乙姫:考えるがない。
   物と私達違う、生まれた時から考える事ができない。
   私や伊賀崎さんから愛される。すると考えを持つ。
   露木さんが本を見せてくれた。
   えっと、つく……ちぇく……。
伊賀崎:その本はまだ持ってる?
乙姫:これ。(※2)

(※2)子供向けのホラー絵本。内容は主人公が捨てた人形が自宅に戻ってくるというもの。
   作品の中で付喪神について言及されている。

伊賀崎:もしかして付喪神の事かな?
乙姫:そう、付喪神。
   ここにも私達と同じ考え方がある。
   驚いた。
伊賀崎:その……物と話をするようになったのはいつから?
乙姫:私が生まれた時からずっと。
伊賀崎:ではここ最近の事ではないのか。
乙姫:うん、それと伊賀崎さん。
伊賀崎:何かな?
乙姫:夜更かし、伊賀崎さんが体悪くする。
   ちゃんと寝ないとだめ。
伊賀崎:それは誰が言ってるんだ?
乙姫:伊賀崎さんの眼鏡。


記録終了


観察実験一覧
乙姫に物品をいくつか渡し、その反応を見る

#1
方法
乙姫に鉛筆を提供。実験の3時間前に雑貨店にて購入。
結果
特に無し。
乙姫は「考えをもっていない」と発言。


#2
方法
医療用メス。実際に手術に使用されたもの。消毒済み。
結果
乙姫はメスを怖がった。
「悪い子。あまり近づけないで欲しい」と発言。


#3
方法
実験用ネズミの死体。死後1時間のもの。
結果
乙姫は「かわいそう」と発言し、憐れんでいる。
担当者が話をするように促すが「死んだものとは話せない」と発言。


#4
方法
大根。実験の1時間前に収穫されたもの。
結果
特に無し。
担当者がなぜ話をしないのかと問いかけた。
乙姫は「彼らはとても無口」と発言。


#5
方法
日本刀。■■■■■研究員(検閲および削除)の私物であり同氏の家に伝わるもの。
過去の合戦において実際に使用されたとのこと。
結果
■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■
(検閲および削除)







実際に人間の殺害に使われた物品の観察実験は禁止とする。─伊賀崎







会話記録─1935年3月22日
非公式聴取
■■■■■■(検閲および削除)から取得。


露木:じゃあ、今日の日本語の勉強はこの辺にして置きましょう。
乙姫:ありがとうございました。

<露木研究員が教材を片付けに入る。>

乙姫:露木さん、子供たちについて教えてください。
露木:白ちゃん……。前にも言ったけど教えることはできないのよ。
乙姫:ではどうすれば?
露木:残念だけど……。
乙姫:<沈黙>
露木:前々から気になっているのだけど、水鬼のことをなぜ"子供たち"と言うの?
   本当の意味で子供なの?
乙姫:日本語で言う子供とは……ちょっと違う。露木さんは子供います?
露木:ええ。2歳の男の子よ。

<露木研究員は子供の写真を見せる。>

乙姫:露木さん、ずっと私の傍にいる。子供に会いたい?
露木:そうね、会いたい。でも仕事が仕事だから上手くはいかないのよ。
   でも大丈夫。夫がいるし、この仕事も理解してくれている。
   白ちゃんも"子供たち"に会いたいの?
乙姫:うん。えっと……、wzink(※1)はとても大切。
   でもそれ以上に知りたいことがある。

(※1)恐らく絆、信頼。または父母、兄弟姉妹、親友など血縁者や強い信頼を寄せる者を指す

露木:それは重要な事?
乙姫:とても重要。ちゃんと確かめたいことがある
   その為にも会いたい。
露木:それについて今話す事は出来ない?
乙姫:ごめんなさい。
露木:そう……申し訳ないけど水鬼と直接会うというのは難しいかも。
   私達はその……、彼女達に嫌われているみだいだから。
乙姫:露木さん、優しく言わなくていい。
   全部分かる、あなた達とwzinkは血を流している。争っている。
   贅沢はいらない。死んでいても構わない。
露木:死体でも良いから対面したいということ?
乙姫:うん。残酷、でも対面は重要。
   会わないといけない。

記録終了

後に乙姫は今後の情報提供の条件として水鬼もしくはその遺体との対面を提示しました。
敵対的な行動は見せていませんが自身の出自や水鬼に関する質問は変わらず拒否します。




実動要請
水鬼の捕獲、もしくは遺体回収作戦の実施を要請します。─露木


要請に答えたいのはやまやまだが問題がある。
一つは水鬼との戦力差だ。こちら側の被害が大きくなる可能性が高い。
仮に無力化に成功したとしても二つ目の問題として死体消失の件がある。
要請は保留する。─伊賀崎




事件記録─1935年3月25日

午前1:07に当直の警備員が活性化状態の乙姫を確認。
器具の使用で即刻鎮静化されました。

およそ8時間後に露木研究員による聴取が行われました

聴取記録─1935年3月25日

露木研究員による聴取が行われました。

対象者:乙姫


露木:白ちゃん、活性化の状態については前に話をしたと思うのだけれど、
   勝手に使ったのはどうして?
乙姫:<沈黙>
露木:お願い、話を聞かせて。
乙姫:短い間だったけど色々分かった、"子供たち"と会えない理由。
露木:それが本当なら伊賀崎さんの仕事が増えるわね。
乙姫:どういう事?
露木:伊賀崎さんが怒られるってこと。
乙姫:それは……ごめんなさい。でも私も露木さんや伊賀崎さんの役に立ちたい。
   カッセイカは色々できる。
露木:例えば?
乙姫:"子供たち"の居場所が分かる。少しだけ見た。
   皆そこに集まってる、安全だと思って休んでいる。
   それと露木さん達は"子供たち"が消えることに悩んでいる。
   私なら止められる。
露木:それは本当?
乙姫:うん。どう言っていいのか分からないけど……。
   消えるのは"親"が"子供"を連れ帰ってるから。
   そうゆう力がある、私なら邪魔できる。

記録終了





1935年4月3日
露木研究員の要請の保留を解除、作戦計画へ移る─軍事・防衛部

作戦イ2548─95ヲ─ト1935攻勢|水鬼攻撃計画:下される鉄槌


概要
作戦名"下される鉄槌"はかねてより軍令部で計画されていた水鬼奇襲計画を改定したものです。
乙姫の活性状態による協力、こちら側からの資金および人員の援助により実現しました。

投入戦力

先行航空打撃
戦略爆撃機 芙蓉

殲滅回収艦隊
戦艦 上総・因幡・伊予
軽巡洋艦 千保・宇多
駆逐艦 夕嵐・氷雲・夏霧・春雷

偵察
偵察機 日雲

目的
作戦の目的は戦略爆撃機による攻撃および水鬼の射程外からの砲撃のよる敵拠点の被害査定。
水鬼の遺体回収による彼女達の出自調査、また遺体回収を交換条件とした乙姫からの情報提供。



目標
茨城県沿岸 東 297km地点 水深300m


前文
特別に作られた無響室で乙姫が活性化、水鬼の拠点となっている地点を突き止めました。
また今回の活性化により、水鬼が深海に潜伏している事が新たな事実として判明し、
活性化による数週間の調査の後、水鬼の拠点は作戦の攻撃目標として選ばれました。
作戦決行当日、水鬼の"消失"を防ぐため乙姫は無響室にて活性化に入りました。


実行日時:1935年9月10日

午後13:00
偵察機 日雲が目標地点の安全を確認。


午後13:32
千保を旗艦とする水雷戦隊(千保・宇多・夕嵐・氷雲・夏霧・春雷)が目標の西15km地点に到着。
付近の索敵と確保に従事。


午後13:58
戦艦 上総・因幡・伊予が後続で水雷戦隊と同地点に到着。
共に待機する。


午後14:02
戦略爆撃機 芙蓉が離陸。攻撃目標に向かう。


午後14:46
"芙蓉"が目標付近に到着。10kt爆雷の第一次投下を開始。
投下後、目標から東北東の方角へ飛行。


午後14:47
第一次投下の爆雷の潜航装置が作動。


午後15:11
第一次投下の爆雷の起爆装置が作動。水深約250m付近で爆発。


午後15:15
"芙蓉"が目標付近に再接近。10kt爆雷の第二次投下を開始。
投下後、目標から離れ帰投の針路をとる。

午後15:17
第二次投下の爆雷の潜航装置が作動。


午後15:22
第二次投下の起爆装置が作動。水深約110m付近で爆発。


午後15:30
殲滅回収艦隊が移動を開始。


午後15:46
殲滅回収艦隊が目標の西2km地点に到着。
戦闘態勢に入る。


午後16:15
水中から生き残りの水鬼が10体出現。
それぞれの装備に甚大な損傷が確認されました。
殲滅回収艦隊は交戦を開始。


午後16:18
"芙蓉"との連絡が途絶える。
基地への着陸も確認されず。


午後16:31
殲滅回収艦隊が交戦を終了。
水鬼10体を撃破、遺体の回収を開始。
この戦闘で、氷雲が中破。


午後17:00
水鬼の遺体、5体を回収。
"日雲"により新たな水鬼12体の回収活動地点への接近を確認。
殲滅回収艦隊は回収活動を中断し撤退を開始。


午後17:14
乙姫より殲滅回収艦隊の針路変更が提言されました。
理由は水鬼の新たな部隊に鉢合わせる為とのことでした。


午後17:20
軽巡洋艦 千保から偵察機が2機発艦。
通常針路と乙姫からの提言針路の安全確認がとられました。


午後17:40
通常針路の確認に向かった偵察機からの連絡が途絶えました。


午後17:45
提言針路を偵察機にて安全を確認。


午後18:02
殲滅回収艦隊は大きく南に回り移動。


午後18:30
殲滅回収艦隊は無事帰投。


午後18:38
偵察機 日雲が無事帰投。


事後報告
殲滅回収艦隊の帰投まで水鬼の遺体消失は起こらず、研究施設への収容が成功しました。
"芙蓉"と"千保"の偵察機は後の調査により海中にて残骸と乗組員の遺体を発見、撃墜されたと思われます。
"日雲"の帰投時の報告により作戦地域に水鬼要注意形体である識別名"ヲ級"がいた可能性が示唆されます。

乙姫の希望により遺体収容後すぐに面会が行われました。
面会後の診察により乙姫は過労と診断。約一週間の安静と点滴治療が行われました。

水鬼の観察記録


収容場所:■■■■■■(検閲および削除)
担当:大野秀幸
日時:1935年9月12日

観察対象:遺体番号4番


外部観察

年齢
内部観察が不可なため推定出来ない。
外見は中肉中背。10代後半に見える。

性別
女性

身長
165.8cm

体重
202.3kg

体色
髪は黒。
体表は白。
目の虹彩は赤、瞳孔は白。


左大腿から左上半身にかけて二次爆傷あり。
耳内の検査にて鼓膜穿孔は見られず。
眼球の破裂も見られず目と耳に関しては一次爆傷による被害を受けていないように思われます。

二次的爆傷による裂傷が散見。
いずれの傷も深さも真皮層までとなっています。

触診により左側の上腕骨、肩甲骨、鎖骨、肋軟骨、肋骨、右側の第10肋骨から第12肋骨まで、そして頸椎において恐らく粉砕骨折。
その他の骨に関しても軽度の骨折の可能性あり。

対象は黒色の金属で構成された重火器による武装をした状態。
後背部に重火器との接続部あり。
接続部は対象の表皮に張り付いており、そこから重火器と接続している。
回収時より接続部が損傷しており、恐らくですが重火器との接続が正常に確立おらず"半差し"状態だと思われます。

対象の組織標本の採集は失敗。
詳細は内部観察にて。



内部観察
不可。対象の皮膚は非常に硬く、なおかつ柔軟です。
内部観察の為の切開は器具の損壊という結果に終わります。
裂傷部分からの切開でも同様の結果。
標本採集はこの特性により失敗。

素手で皮膚に触れた限りでは普通の人間の皮膚と何ら変わりありません。
切開用の器具などの損傷を加える為に急激な力を加えるとその部分のみ急速に硬質化します。

以下は皮膚の硬質化の検証で使用した器具です。
全ての器具は効果を示しませんでした。

メス
軍用ナイフ
電動ノコギリ
溶断バーナー
手榴弾による爆破(要請により中止)



水鬼の装備について(識別名"生体装備")
水鬼の重火器においてそのほとんどは金属で構成されていますが、
一部にて水鬼と同様の生体組織と"口腔"と見てとれる部分が確認されます。
生体組織の色は灰色で人の腕のように見え、水鬼と同様に外部からの刺激により急速に硬質化します。

口には唇はなく歯が剥き出しになっている状態です。
この歯の主体は重火器を構成している金属と同様と予想されています。
歯は全て側切歯で構成され最前面の歯の後ろにはさらに側切歯が3列にわたってあります。

口腔内には舌が無く、奥から硬口蓋のあたりまで砲身が伸びており砲口が口の外に向かっています。
砲身が硬口蓋から後ろの殆どを占めておりいます、これにより口の奥が観察できません。
砲身を解体する試みはその硬度から器具の損壊という結果に終わります。

出自聴取

聴取記録─1935年10月2日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:乙姫
補佐、注釈執筆:露木 洋子 研究員



伊賀崎:君とこうやって話すのは久しぶりだね。
    私達は白ちゃんに協力したい、その為には情報が必要だ。
乙姫:はい、私も伊賀崎さんに伝えたい事あります。
伊賀崎:ありがとう。
    では率直に聞こう。君達水鬼の正体は?
乙姫:伊賀崎さん。勘違いしてる。
伊賀崎:というと?
乙姫:私と"子供たち"……。えっと、水鬼は違うものです。
伊賀崎:説明してくれるかな?
乙姫:はい、まずは私のことから話します。
   私達は自分のことをnikɑːrmubiθ(※1)と呼んでいます。

(※1)乙姫の種族自体を指す言葉です。 nikɑːr(母なる水、偉大な水、恐らく海?) 
mu(ɑːrmuで一語の可能性あり。前進、進む、(自由な)行動) biθ(自分自身、私、我ら)

乙姫:私達はこことは違うところに住んでいました。
   suwokmɑːrhe(※2)という場所。

(※2)suwok(聖なる、神格) それ以外は現在翻訳できず。乙姫の故郷を示す。

伊賀崎:そこはどんな所かな?
乙姫:ここと一番違うのは土がないこと。地面無いこと。
   全てがnikɑːrに包まれていました。
   そこでwzink……じゃなくて……仲間と暮らしていました。
   私には役割がありました。皆からdagsalaʃɑːrda (※3)と呼ばれた。
   私達はmoʌdfeus(※4)と一緒にsuwokmɑːrheを守っていた。

(※3)かなり上位の地位や位の高い女性を表すようです。恐らく姫や女王などが該当。
"dag"は現地に伝わる龍に似ている神性とのことです。
(※4)宗教的な意味合いでの"父"、創造主。信仰する神性を表す語だと思われます。

伊賀崎:私達?ほかにも誰か?
乙姫:えっと、日本語では……そう姉妹。私には姉と妹がいました。
伊賀崎:姉妹も同じ役割を?
乙姫:はい。3人とも同じでした。
   その頃は平和でした。だけど後に問題が起こりました。
   moʌdfeusは死にかけていた。
   moʌdfeusとsuwokmɑːrheは一つ……えっと、一心同体。
伊賀崎:つまり君達の世界自体が死にかけてたと。
乙姫:moʌdfeusはとてもとても長い間suwokmɑːrheを支えて、もう限界でした。寿命。
   moʌdfeusが死んだ後は私達3人の力で支えた。
   でも私達の力はとても弱い、moʌdfeusに遠く及ばない。
   suwokmɑːrheは壊れていきました。
伊賀崎:続けて。
乙姫:最初は"亀裂"が現れました。他の世界に繋がる亀裂。
伊賀崎:それがこの世界への入り口に?
乙姫:ここだけじゃない、色々な所に繋がる亀裂。でも誰も行かなかった。
伊賀崎:どうして?
乙姫:皆怖がったからです。
   moʌdfeusは私達が外の世界に旅立つのを嫌がる方でした。
   もしかしたら私達自身が外を怖がるように作られたかもしれない。
   地面を怖がるのも多分そのせい、ここに来るまで地面は見たことがないから。
   私達姉妹は色々な所に出た"亀裂"を力を使って塞ぎました。
   でも新しい問題が……、nikɑːrが汚れていった。
   汚れたnikɑːrに触った仲間達は苦しんで死んでいった。
   私達は必死に抑えたけどその時には大勢の仲間達が犠牲に。
伊賀崎:それがここに来る直接の原因に?
乙姫:違います。
   汚れたnikɑːrを止めて、"亀裂"も出続けていたけど何とか保てていました。
伊賀崎:ではなぜ?
乙姫:次に起こった一番悪い事。moʌdfeusが閉じ込めていた怪物が這い出てきました。
   私達はɑfbjuːndou(※5)と呼んでいます。

(※5)ɑfb(深い、最深部、深淵) juːndou(下劣、汚れた、悪魔、怪物)

乙姫:私達は仲間と一緒に戦ったけど勝てなかった。
   勇気がある者から死んでいきました。
   姉は残った者を集めて戦いに挑んだけど戻らず、妹は"最後の時"に
   私達を逃がすために犠牲に。
伊賀崎:"最後の時"とは?
乙姫:ɑfbjuːndouが私達の隠れていた場所に攻めてきた。
   suwokmɑːrheはほとんど支配されていてそこが最後の場所。
   妹は自分の命と引き換えに"亀裂"を開けて、私達を逃がしました。
伊賀崎:その"亀裂"の先がここだった?
乙姫:そう、ここに来た。
伊賀崎:さっき"私達を逃がした"と言っていたが他にも仲間が?
乙姫:いた、同じ姿はしていない大切な仲間。
   でも"亀裂"から来たときに離ればなれになった。
伊賀崎:ここに来てからは何を?
乙姫:■■■■■■■■(検閲および削除)の人達に助けられました。
   伊賀崎さん達が迎えに来るまでそこにいた、皆良い人達でした。
伊賀崎:来た直後だが土は大丈夫だった?地面に対しての恐怖は?
乙姫:それは……あまり思い出したくない。
   最初の一歩はとても……とても辛いものでした。
伊賀崎:ふむ。白ちゃんの事は分かったが水鬼は?
    彼女達の正体を教えてくれないか?
乙姫:"子供たち"はdagsalaʃɑːrdaの力で生まれる。
   使っちゃいけない力の使い方の一つ、自分の血を使って"子供たち"を作る。
伊賀崎:水鬼達が全員女性なのはなぜ?
乙姫:力を使っているのが女の人だからです。
   本当の意味での"子供"じゃない、ただの複製。性別も同じになる。
   もちろんあの"子供たち"は私のじゃない。
伊賀崎:では君達姉妹以外に力を使えるものがいるのか?
乙姫:それはない。
   伊賀崎さん達が持ってきた"子供たち"の死体と対面したときにはっきり分かった。
   あれは姉の"子供たち"、そう感じた。姉はここに来ている。
伊賀崎:君の姉さんは生きているということか。
乙姫:分かりません、姉はɑfbjuːndouに侵食されている、他の仲間がそうだったように。
   "子供たち"の姿を見たら分かります。
   それを"生きている"と言っていいのか分からない。
伊賀崎:水鬼が君のお姉さんによって生まれているのなら彼女を止めなければならない。
    君には辛い事だと思うが。
乙姫:そう……です。姉は止めなければ皆が傷つきます。
   でももっと根っこの所、ɑfbjuːndouを……。
   あの怪物も殺さなければいけません。
   姉はただの尖兵。ɑfbjuːndouが来るまでのここを混乱させるのが役割です。
   ɑfbjuːndouがよくやる攻め方。
伊賀崎:なるほど、そのɑfbjuːndouがここに来るのを防ぐには?方法はあるのか?
乙姫:残念だけど手遅れ、もうここに来てる。
伊賀崎:だとすれば早々に見つけなければ大変な事になる。
乙姫:もうすでに見つけています、"子供たち"の後ろにくっついてる。
   少し姿は違っていたけどあの剥き出し歯と灰色の腕は変わっていない。
   赤い息を吐きながら命を奪うことを楽しんでいます。
   伊賀崎さんも見たことがあるでしょ?

記録終了



事件記録─1936年1月29日

午前11:00に突如、乙姫が意識不明の状態になり、その10分後に回復しました。
乙姫は直後に「"姉"が"子供たち"を迎えに来た。3人を連れて行った。」と証言、警備員が安置所を確認したところ、回収した水鬼の遺体5体すべてが消失していました。


証言と消失した数が合わない。約200kgの物体をしかも2つも誰が持ち去ったんだ?─大野

雷電新聞 1936月3月8日

国民総生産マイナス10%
水鬼の海上制圧が原因か。

内閣府より第4四半期の国民総生産が発表された。
前年比マイナス10%となっており主に水鬼による海上制圧が原因と思われる。
これにより貿易事業や海上交易は悪化の一途と辿っており今後の対策が望まれる。

妖精および乳児との接触記録

会話記録─1936年5月8日
非公式聴取
■■■■■■(検閲および削除)から取得。

伊賀崎:敬語と丁寧語についてはこれで分かったかな?
乙姫:はい、ありがとうございます。
伊賀崎:よろしい、では私はこれで。明日は露木くんの担当だ。
乙姫:あの伊賀崎さん。お話したい事があります。
伊賀崎:どうした?
乙姫:前にお話しましたよね。私がこの世界に来た時の話。
伊賀崎:ああ。
乙姫:その時に仲間とも離ればなれになったことも。
伊賀崎:そうだね、話をした。
乙姫:実は彼らが私の居場所を見つけて合流したがっています。
伊賀崎:ふむ……。少し疑問がある。
    その"彼ら"はどうやって君の居場所を見つけたのか。
    それとどうやってコンタクトを、話をしたのか。
乙姫:居場所に見つけた事については本当に分かりません。
   彼らについては私でも分からないことが多いです。
   どうやって話をしたのかですけどそれは……えっと……とても説明しずらいですね。
   彼らはとても特徴的な話し方をします。
   それはとても遠くまで言葉を届けることが出来ます。
伊賀崎:彼らについてもっと教えてくれ、姿や話し方以外の特徴など。
乙姫:そうですね……、小さくて可愛らしい方々ですよ。
   この世界でいうと妖精さんと言った方が姿を思い浮かべやすいかもしれません。
   羽はありませんが……。
   私達の言葉ではprimiðs(※1)と呼びます。

(※1)先駆者、さきがけなどの意味も含まれるようです。

乙姫:とても手先が器用で宝飾品なんかも作ってくれましたよ。
   それと故郷では私達の生まれる遥か前から栄えていたとか。
   こんなところです。
伊賀崎:彼らは白ちゃんと合流して具体的に何を?
乙姫:彼らは私に仕えていましたが従者というよりは大切な友人でしたから。
   親友と会うのに理由はいらないでしょう?
伊賀崎:分かった。上と掛け合ってみるがあまり期待はしないでくれ
乙姫:あっ、それともう一つ。
伊賀崎:何かな?
乙姫:彼らと共に赤ん坊が、男の子が一人います。
   その子も一緒に。
伊賀崎:男の子?その子は一体どういう……。
乙姫:えっと……日本語で言うと……あっ、そうそう。
   私の甥になる子ですね。

記録終了


1936年5月10日
伊賀崎特務調査員の提言により統括委員会が招集。
乙姫の友人であるとされる"妖精"と彼女の"甥"の受け入れについて議論されました。
結果的には受け入れは容認され同時に施設警備予算と資源の増加を決定しました。


施設内に"敵"を受け入れるとして不安を持ち、今回の決定に納得しない者も多いだろう。
だが今一番大事なのは"知る"ことだ。彼らがもたらしてくれる情報を逃してはならない。
─統括委員会

同日の午後10:00にモールス符号による電信で正体不明のメッセージを受信。
内容は以下の通り。


・・- -・-- ・- ---  ・-・・ ・-・-・ --・-・ ・--  --・-- --・-・ -・  - ・-・・ ・・- -・- -・ ・--・-・ -・・・- ・--・-・
ウケイレ カンシャ アシタ ムカウ Σd@-@


彼が優秀な通信士であることを願うよ。─伊賀崎



収容行程─1936年5月11日
午前12:11に巡回中の警備員が施設東の林の中から移動してくる37体の妖精と車輪付きの揺り籠で妖精たちに運ばれる乳児を発見。
即座に収容部隊が出動しました。

警戒態勢の中、収容部隊は妖精のリーダーと思われる個体と交渉。
彼らは協力的な態度をとり、無事収容に成功しました。





収容した乳児について
乳児は生後7か月の男子です。
髪は黒、目は茶色、身長は73.0cm、体重は8870gです。
名前は飛峰和 蒼太郎(聴取記録─1936年6月18日を参照)。
検査の結果、異常はありませんでした。
現在は乙姫や妖精たちの希望により彼らと同じ収容室にいます。
経過観察が進行中です。



妖精について
識別名"妖精"は小型の人型存在です。
現在は全部で37体を収容しています、平均身長は21cm、平均体重は523gです。
収容において各個体に1から37までの番号が割り振られます。

彼らは互いのコミュニケーションや乙姫との会話に小鳥の鳴き声のような音を使用します。
乙姫はこの"言葉"を理解しているようです。
我々に対しては筆談によって会話を行おうとします。
地球上の言語もある程度は理解しているようで実験において英語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語の会話能力を見せました。
その他にもサンスクリット語、ノルド語、ラテン語、ヘブライ語の単語への理解も示しましたが、これらは個体番号7番、16番、25番、34番のみに見られました。
日本語も理解しており彼らに筆記用具と紙を渡せば会話が可能です。

身に着けている服や髪形や装飾品などにそれぞれに個性があり、なおかつ現代的で女性的な服装しています。
この世界の概念や法則、道具の利用法などにも理解を示し乙姫と同様に高水準の知識と文明を備えていると思われます。

また彼らは食事をしますが排泄は観察されませんでした。
収容時は薄茶色の固形物を所持しておりこれは恐らく緊急時の食料と思われます。
毒物検査の後に職員による試食が行われ手触り、食感、味などがクッキーに似ているとのことでした。

身体的特徴としては各個体における性差がなく乳房、性器、肛門が観察されませんでした。
雌雄同体と考えられており、今まで生殖行動や妊娠が確認された例はありません。



行われた観察実験一覧。
コミュニケーションの手段として紙と鉛筆が用意される。





#1
方法
個体番号8番に鉛筆と紙を渡す。
結果
対象は紙に■■■■■■■(検閲および削除)と書き、大きく紙を広げて我々に見せた。
直後に個体番号1番に頭を叩かれ畏縮する。
対象は個体番号1番に叱責されているように見える。
叱責の後、対象は紙に「ごめんなさい」と書き我々に見せた。



#2
方法
個体番号16番に様々な動物の写真を見せる。
結果
対象は犬の写真に興味をもつ。
対象は犬の付けている首輪を指さし、
「彼はマゾヒズムの傾向があるのか?」と書かれた紙を我々に見せた。



#3
方法
個体番号2番、9番、12番、30番に数種類の和食を提供。
結果
納豆において2番、9番、30番が拒否の姿勢を示す。
ただし12番が納豆を積極的に消費する。
マグロの刺身が提供されるが4体とも消費はせず、困った様子を見せる。
その後、30番が「火は無い?」と書かれた紙を我々に見せた。
その他の料理は問題なく消費された。

補遺
彼らにも食事を楽しむ文化があるようだ、生食を除いて。



#4
方法
個体番号26番、32番に児童書を提供。
本の内容は主人公と飼い犬の別れ。生と死を題材にしたもの。
結果
32番は号泣。
26番は平静を装っているがわずかに涙を浮かべている。
「今どんな感情か?」という質問を投げかけた。
32番が「悲しい。かわいそう。この犬はどうやったら救える?」と筆記で回答。

補遺
異なる種への慈愛、情動性の涙の分泌。この結果は興味深い。



#5
方法
個体番号15番に積み木を提供
結果
三角形の積み木、および紙と鉛筆を使って我々にピタゴラスの定理を解説した。
その後、「どう、すごいだろ」と書かれた紙を我々に見せた。


#6
方法
個体番号25番に様々な西洋美術品の写真を提供。
結果
25番は黙々と全ての写真を見た。
我々が感想を聞くと、「素晴らしい。だが皆もうちょっと痩せた方がいい」と筆記で回答。



#7
方法
個体番号34番に"スワンプマン"の思考実験を実施。
結果
詳細を説明し、34番に自分の考えを述べるように求めた。
34番は「何を言っているんだ?泥が動くわけないだろ」と筆記で回答。


#8
方法
個体番号1番に"トロッコ問題"の思考実験を実施。
結果
詳細を説明し、1番に自分の考えを回答するように求めた。
1番は「see no evil」と筆記で回答。


#9
方法
個体番号1番にファンタジー小説を提供。
内容は冥王の支配から逃れる為に主人公が戦うというもの。
結果
1番に作品の感想を求めた。
1番は「この指輪欲しい。」と筆記で回答。
作品中に出てくる物品を指していると思われる。



事を起こす前に言っておく。"妖精"は君達のおもちゃじゃない、区別は付けるべきだ。
─伊賀崎


破損データ
不完全な文書化。管理部に問い合わせてください。
#10��j(B��8BD
方�A
個体番号1番に水鬼の写真を提供。
��8256161果
写真を見せ情報を求めた。
�j(B�osi[\[^
Error528125[]/\/^@生体装備を指し、情報を求め��
266��「かつては我々の友だった」@@@��回答NULL。
1番はこれ以降の回答を拒否した。/\/EOF





特記事項
個体番号1番について
肩まで伸びる灰色の髪と白色の羽織を着ている個体です。
羽織に模様は無く背の部分に翼を広げた鳩のような鳥類が青色の糸で刺繍されています。

1番はその他36体の妖精のリーダーと考えられています。
彼らの観察において他の個体への指示や叱責、激励でまとめ上げ、他の個体も1番に逆らわず忠誠心が見てとれます。
また妖精の中では乙姫との接触頻度が高く側近としての役割もこなしていると思われます。

乙姫と共に飛峰和 蒼太郎の世話もしており、我々と蒼太郎との接触をあまり快く思っていない様子が観察できます。
飛峰和 蒼太郎の定期健診にも必ず同席を求め、警戒した様子で我々を監視しています。


聴取記録─1936年6月18日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:妖精 個体番号1番

コミュニケーションの手段として対象者に紙と鉛筆が提供されます。



伊賀崎:個体番号1番、君にいくつか質問したい。大丈夫かな?
個体番号1番:個体番号1番とは私の事か?
伊賀崎:そうだ。よければ名前を教えてほしい。
個体番号1番:青鳥 あおどり
伊賀崎:青鳥か。
    えらく日本風の……えっと、こちらの世界の住人のような名前だが何か理由が?
個体番号1番:こちらの言葉に訳した。
伊賀崎:そちらの言葉で書けるか?
個体番号1番:書けない、我々には文字が無い。
伊賀崎:発音は出来るか?

<個体番号1番が鳴き声を上げる。鳥の囀りのように聞こえる。>

個体番号1番:理解出来たか?
伊賀崎:すまない、我々には判別できないようだ。
個体番号1番:仕方ない。
伊賀崎:話題を移そう。まず確認したい。
    乙姫からの情報によれば君達は彼女と一緒にここに逃げてきたという事だが。
    それは正しいかな?
個体番号1番:正しい。女王陛下と共にこちらに逃れた。
伊賀崎:ふむ。君達と乙姫との関係について教えて欲しい。
    失礼、女王陛下と呼んだ方が良いかな?
個体番号1番:そちらの呼び方で構わない。
    我々は女王陛下の従者であり庇護者であり世話係、そして友。
    我々は自身の存在を懸けて女王陛下と陛下の居られる世界を守る。
    伝わったか?
伊賀崎:ああ、大丈夫だ。
    次の質問だ。君達はどうやってここに辿り着いた?
個体番号1番:無線傍受と偵察活動。
    そちらの暗号方式は変えた方がいい。
伊賀崎:なるほど、後で担当の者に伝えよう。
    ではここに来た目的は?
個体番号1番:女王陛下との合流。
    それと他の者達をあなた達の保護下に入れたかった。
    あなた達は安全と判断して連絡した。
伊賀崎:君達と一緒にいた子供について教えて欲しい。
    まず名前は何というんだ?
個体番号1番:飛峰和 蒼太郎。
伊賀崎:彼との関係は?
個体番号1番:陛下の妹君の子。我々が庇護すべき方の一人。
伊賀崎:彼もこちらの世界の名前のようだがそちらの言葉の訳か?
個体番号1番:違う。
    殿下には名前が2つある。
    一つは母君、もう一つは父君から。
    先ほど教えたのが父君からの名。
    母君からの名はエラノスドール。
    かな文字はちゃんと書けているか?
伊賀崎:ああ、とても上手だ。
    個体番号1番:覚えるのに苦労した。
    次の質問はあるか?
伊賀崎:蒼太郎君の父親について聞きたい。
個体番号1番:彼は"亀裂"から来た。
    我々の住んでいた世界とは異なる所。
    今いるこの世界の出身と聞いている。
伊賀崎:彼は日本人なのか?
個体番号1番:分からない。
    これ以上は知らない。
    我々は陛下やご家族の生活には干渉はしない。
    プライバシー。
伊賀崎:乙姫に聞けば答えてくれるだろうか?
個体番号1番:恐らく。
    だが無理には聞かないで欲しい。
伊賀崎:分かった。
    質問に答えてくれてありがとう、今日はこのぐらいにしておこう。
個体番号1番:ちょっといいか?
伊賀崎:どうした?
個体番号1番:今日の夕食について聞いた。
    ピーマンはやめてくれないか?
伊賀崎:それはちょっと難しいな。

<個体番号1番は苦悶の表情を見せる>

個体番号1番:解せぬ。

記録終了



聴取記録─1936年6月20日

露木研究員による聴取が行われました。

対象者:乙姫および妖精 個体番号1番

個体番号1番にはコミュニケーションの手段として紙と鉛筆が提供されます。


露木:少し質問させてね。大丈夫かな?
乙姫:いいですよ。
   個体番号1番:問題ない。
露木:聞きたいのは蒼太郎君について。
   彼の事について教えて欲しいの。
乙姫:蒼太郎は私の妹の息子になります。
   日本語だと"甥"で良いんですよね?
露木:そうね、その通りよ。
乙姫:蒼太郎は私達の世界で生まれました。
   程なくして私達は追い詰められこちらに来ました。
個体番号1番:我々は妹君から蒼太郎を任された。
露木:妹さんの事は聞いたわ。
個体番号1番:妹君は実に勇敢だった。
露木:彼の父親について聞きたいの。
   教えてくれる?
乙姫:最初に彼に会った時はとても混乱していました。
   名前はヒブワ ソウジと言っていました。
露木:ヒブワさんはどうやってそちらに?
乙姫:"亀裂"から迷い込んできたんです。
   今思えば日本語を喋っていましたしここの世界から来たのでしょう。
   異世界の住人に懐疑的な者もいましたが私達は彼を助けました。
露木:言葉は大丈夫だったの?
個体番号1番:我らにかかれば造作もない。
乙姫:そうね。あの時のmiθraŋdir(※1)はとても頼もしかったわね。
   私もそのときに少し覚えたんですよ。

(※1)憶測の域を出ませんが"歩き回る"、"彷徨う"の意。
乙姫は個体番号1番を呼ぶのにこの名称を使います。

個体番号1番:異世界の言葉は興味深い。
    だが大変だった。
露木:まぁ、コミュニケーションは問題なかったようね。
   ヒブワさんと妹さんの関係はどうだったの?
乙姫:妹はとても心優しかった。
   ヒブワさんのお世話もしていたから仲良くなるのにそう時間はかかりませんでした。
露木:彼は今どこに?
乙姫:残念ですが亡くなりました。"最後の時"に……。
個体番号1番:彼もまた勇気ある男だった。
露木:そう……。こちらに来てから蒼太郎君の世話は誰が?
個体番号1番:陛下とは来た当初にはぐれてしまって、最近まで我々が世話をした。
    子を育てることのなんと砕身なことか
乙姫:大丈夫よmiθraŋdir これからは私もいるから。
露木:これからは白ちゃんも蒼太郎君の世話を?
乙姫:はい、そのつもりです。
   大事な家族ですから。
露木:そう。頑張って。
   私達もサポートするわ。
乙姫:子育ては大変ですか?
露木:ええ、そうね。あまりアドバイスできる立場でもないけれど。
   辛い事もあるけど楽しい事もたくさんあるから。頑張って。
乙姫:はい、頑張ります。

<個体番号1番が鳴き声を上げる。乙姫は理解したように見える。>

露木:何と言ったの?
乙姫:"ミルクをあげるのは続けさせてくれ"ですって。

記録終了



観察報告
結論から言えば"妖精"たちと蒼太郎君の受け入れは正解でした。
家族や大切な仲間との再会は乙姫の精神状態に良い影響を及ぼしています。
カウンセリングにおいても前向きな言動が増えており、"妖精"たちや蒼太郎君とのこれからの生活に希望を見い出しています。
我々に寄せる信頼も厚くなり、これまで以上に良好な関係が結べています。






ヒブワ ソウジについて
名前は飛峰和 蒼司。
海軍所属の軍人です。
1931年に沖大東島周辺において哨戒の任務に就いていた巡洋艦 時貞の乗組員であり、
当時は22歳でした。
時貞は1931年8月に行方不明になり、記録上は"水鬼の襲撃により沈没"となっています。
飛峰和 蒼司についてもこの事件で死亡という事になっています。
現在において飛峰和氏の親族はいないか、もしくは見つかっていません。
父親は飛峰和氏が8歳の時に他界。
母親は翌年の1932年6月に死亡、死因は首吊りによる自殺です。
兄弟姉妹はいません。
当時の記録担当者への聴取では有益な情報は得られませんでした。
水鬼の船の襲撃における特徴(1個分隊で攻め、船の残骸を残さない)によって他の沈没船と同様に扱われたと思われます。

秘匿施設S90125爆撃事件報告


発生日時
1936年10月21日
午後15:47


概要
発生日時にて秘匿施設S90125は空爆による襲撃を受けました。
襲撃の実行は水鬼の飛翔兵器である識別名"黒虫"のよるものだと判明しており、施設東方面の海域において要注意個体"ヲ級"が観測されています。
黒虫は空軍の観測外の高度を飛行して施設へ接近、これは今まで確認されたヲ級では例がない非常に長距離での黒虫の操縦です。
その為、容易に施設への爆撃を可能にし、断続的に計40分間に渡って行われました。
爆撃時の黒虫の正確な数は判明していません。


研究対象状況
施設の最重要対象である乙姫、妖精37体および飛峰和 蒼太郎は非常時の特別避難手順に従い地下施設に退避。
全ての対象に外傷はなく安全を確保できました。

被害状況
およそ16発の爆弾が施設に投下されたと推測されています。
西館および施設入り口の検問所は全壊。
東館は爆弾の直撃こそありませんでしたが近距離の爆発が原因の火災により半焼。
中央施設は半壊、全施設に置いて57%が破壊および利用不可な状態です。
この爆撃による重軽傷者は237名、死者は53名に達しました。
内訳は以下の通り。


一般職員
重軽傷者
62名
死者
11名

警備職員・即応部隊
重軽傷者
106名
死者
26名

研究職員
重軽傷者
43名
死者
5名

上級研究職員
重軽傷者
22名
死者
9名

役員
重軽傷者
4名
死者
2名


死亡者関連情報の制限

情報隠蔽
情報保全規定により外部への情報開示は制限されます。
死亡者に関する情報や死亡の事実はアンゲローナ処理手続きを得て対象者の身内に公開され、場合によっては処理手続き外の偽装情報が与えられます。
また同関連情報は殉職機密情報保全局にて管理され保全局役員最低2名の正式な承認を得ている場合にのみ開示されます。
情報漏洩が確認された場合はビルレストの案内人が実行されます。

隠蔽に関わる職員は機動部隊の訓練と秘匿教育を受けた勤続10年以上の者から選抜され、約3年間に渡って任務に従事します。
該当する職員は任務期間中および任務終了後において優先的に精神的医療を受けられる権利が与えられます。
これは例として専門医によるカウンセリング、向精神薬の処方などが含まれます。




死亡者リスト

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露木 洋子
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最終更新:1937年2月9日

太陽新聞 1936年10月23日

惨憺たる光景広がる
水鬼による空襲、首都が業火に包まれる。

22日夜、水鬼によると思われる空襲があった。
各地で爆弾による火災が相次ぎ、全体の約65%を焼失させたと見られている。
政府主導による救助活動はすでに始まっており、同時に食料などの支援物資も届けられる。
この空襲での死者・行方不明者は現時点で1万人を超えており今後も増える見通しだ。

■■■■■■

乙姫と話をした。
日付は1936年11月28日


伊賀崎:顔色が悪く見える。
乙姫:<沈黙>
伊賀崎:昨日も食事に手を付けていないらしいね、青鳥達が心配していた。
乙姫:<沈黙>
伊賀崎:処方されたお薬も飲んでいないらしいじゃないか。
乙姫:<沈黙>
伊賀崎:許可されていない活性化もしたみたいだね、理由を聞かせてくれないか?
乙姫:<沈黙>
伊賀崎:分かった、また日を改めよう。
    押しかけて悪かったね。ゆっくり休んで。
    ただ食事はちゃんととってくれ、頼むから。
乙姫:伊賀崎さん。
伊賀崎:どうした?
乙姫:姉がこの世界を苦しめていると知ってからずっと考えていました。
   私が役立てる方法を。
   ただ私、もしくはあなた方の誰かが姉に手をかけると考えると怖くなって……。
   例えどんな状態でもずっと一緒に過ごした家族だから。
   そう思うと頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられなくなって。
   きっと私は弱いのでしょう。
   多分そこを攻撃されたんです。だから居場所も見つかって……姉は……。
   いえ、姉の姿をした怪物とその"子供たち"は私を殺しに来た。
   私が迷っていたせいで沢山の人が怪我をして、露木さんも……。
   みんなこれからがあったのに。
伊賀崎:私達の仕事はとても……とても特別なものだ。
    死者を代弁するなど愚かなことだが全ての者が一つの意志の下に集まっている。
    命の危険を承知して、使命と覚悟を持って皆この仕事を選んだ。
    私も、露木君も。
乙姫:あなたはどうしてそんなに……。
伊賀崎:冷酷だから……だと思う、この仕事では役に立つ。
    君達の保護と水鬼達への対策を考え実行する。
    何も変わらない、私達はやるべき事をやる。
乙姫:私は……。
   私はこの世界に来て人間に会いました。
   彼らは自然を愛し、家族や友人を愛していました。
   私や私の仲間達と何も変わりません。
   私は恐れられていました。
   伊賀崎さん達がここへ連れてきたのも私への恐怖心からでしょう。
   でも分かっています。
   目で見て、触れ合って、会話をして。
   あなた達は心を開いてくれた、見知らぬ場所にいる私にはそれがとても嬉しかった。
   だからこそ考えてしまいます。
   この人達をあの怪物から守るにはどうすれば良いのだろうかと。
   ですが前から分かっていました、"子供たち"を見た時からずっと。
   自分がどうするべきか……。
伊賀崎:もし……それを実行するなら我々は全力で支えよう。
乙姫:伊賀崎さん達はもちろんmiθraŋdirにも協力してもらわなければなりません。
   私の命も危うくなるかもしれません。
   ですが現状を変える為にはとても価値のある事です。
   もう隠れるのはやめです。

記録終了




1937年2月16日
乙姫は決断してくれた。
彼女は死の淵を歩く事になる。
我々が出来るのは彼女の命を繋ぎ止める事だけだ。
露木君や他の職員が遺してくれた研究資料が役に立つ。
彼らは尊敬に値すべき素晴らしい仲間達だった。
忘れる事はないだろう。
少なくとも私が死を迎えるその瞬間までは。

鳳凰新聞 1937年1月31日

海上制圧率が発表。
制圧率は39%に。前年より5%上昇。

国際連盟はに現地時間1月29日に地球上の海がどれほど水鬼に制圧されているかの割合、海上制圧率を通達。
日本国内においては海軍省を通じて発表された。
制圧率は前年より5%上昇し過去最大の上がり幅となった。
海上制圧率は1930年の水鬼発見から右肩上がりになっており、今まで前年比がマイナスになったことは無い。
専門家によれば「水鬼の脅威は年々増しており、SF創作などにある人類の危機が現実味を帯びつつある」と警鐘を鳴らしている。

"女王の娘たち"計画・記録


ぶんしょはようせいのしはいか

目的

水鬼に対抗しうる人材の出生・教育・派遣。
人類に対して敵対的な脅威をもたらす存在である水鬼の排除と平和維持。



概要

"女王の娘たち"計画(以後、本計画)は水鬼と同等あるいはそれ以上の潜在的戦闘力を有した生命体を作り出し、それらを教育・派遣する事により人類の脅威となっている水鬼の無力化と後の平和維持を実現するものである。
日増しに影響を大きくしている水鬼をこのまま放置しておく事は将来的に人類の生命・経済・文化に対して致命的な損害を負う事になり、最終的には地球上において支配者転換が起こる可能性も危惧されている。
よって本計画はまだ時間的猶予があるうちに将来に備えて行われるべきだとして当局最高議会および当局加盟国による秘匿首長会議にて承認され実行に移される。



方法

本計画の主軸となるのは乙姫による"自身の遺伝子を中心として生命創造を行う活性化状態"(以後、創造活性)である。
創造活性で生み出される人型生命体(以後、総称は人工体。各個体の識別は"K-【識別番号】"で行う)を保育・教育および戦闘訓練・派遣する事によって水鬼の脅威を排除する。
主な戦闘行為は海上で行われると想定されており、それらに必要な装備開発の中心は"妖精"たちによって行われる。
本計画においては妖精の定めた協定がありそれらを遵守する事によって彼らの助力が得られようせいです
協定は承認されましたが妖精たちの意図を探るため秘密裏に調査が進んでいます。ようせいでした
当初、妖精が開発した装備を人間が使用するという計画案がありましたが  ようせいはいます により不可能という結論に至りました。
妖精との間で作成された協定書の複写を本記録に記す。"記録─妖精との装備開発協定19370211"を参照すること。





記録─妖精との装備開発協定19370211


装備開発協定書

当局は妖精との間における人工体の装備開発においてより強固な協力関係を築くために下記の20項目の条件にて協定を締結する。


第1条

第2条
女王のために
第3条

第4条

第5条

第6条

第7条

第8条

第9条

第10条
人間のために
第11条

第12条
うまれてくる彼女たちの為に
第13条
平和のために
第14条

第15条

第16条
がんばる
第17条

第18条

第19条

第20条


ようせいですよろしくおねがいします



以下、複写では署名項目は略する






創造活性について

本計画の中心となる。
乙姫によれば"使ってはいけない力の一つ"であるとされている。

内容

創造活性は乙姫がより集中できる環境下での活性化が条件となる。
現在は外部観察が可能な無響室にて行われ問題無く実行出来ている。

初めに通常の活性化状態となり乙姫は室内の中心部に移動。
その後、提供されている消毒された医療用メスで両手首に傷をつけ出血させる。
その場に腕を少し広げて仰向けになる。以後、約5分間は動かない、出血は続いている。
5分後、流出した血液が動き集合する。集合する場所は乙姫の近くであり今までの観察では特に決まったパターンはない。
集合した血液は粘体のような振舞いを見せ動きを止め楕円形を形成する。(以後、この血液の集合物を胚と呼称)
1つの胚は約2分ほどで完成する。一度の創造活性で作成できる胚の数は乙姫本人の意思により操作が可能。
しかし、胚の数に比例して乙姫本人の生命活動が低下する。過度な胚の創造は乙姫本人の死に直結する。
胚を完成させた後に乙姫は体を起こす。この時、手首からの出血量は創造活性当初と比べて極端に少なくなっている。
乙姫は血液を自身の唇に塗り、胚に接吻する。この行動により胚の変化が始まる。
主に乙姫の生命危機により胚の完成から接吻するまでの期間が空いてしまっていても胚の変化が遅れるのみであり、成長には何ら問題はない。



医療体制

胚の創造による乙姫の生命活動低下への対策として医療職員が配備される。
これらは当局の秘匿条約と医療条約に同意した10年以上の経験を持つ医療従事者で構成する。
彼らには乙姫に関する情報と最新鋭の医療器具、それらの器具の使用に関する再教育が施される。
この医療チームは20名弱で結成され24時間体制で対応する。
医療チーム全員の名簿は文書■■■ー■■■■(検閲および削除)を参照。




乙姫による創造活性の事前実験記録



第1回
出血性ショックの疑いの為、中止


第2回
乙姫が実験中に突如、呼吸困難に陥る。
肺水腫と診断。利尿剤で治療。


第3回
実験中に意識不明および心停止。
心肺蘇生法と除細動にて意識と呼吸を取り戻す。
2週間の経過観察で以上は無し。
胚は2つ完成される。


第4回
重篤な問題無し。
乙姫の軽度の過労により実験は終了。
胚は3つ完成される。


第5回
過労により実験は終了。
乙姫は1週間の安静。
胚は1つ完成される。


本実験記録は文書■■■■(検閲および削除)に移されます。





胚の変化と成長

乙姫の接吻から約7日から11日後に胚の硬質化が始まる。
赤色の胚は徐々に半透明な水晶のようになり赤色の部分(恐らく分離された何らかの液体)は胚の中央部に凝縮される。
これらの変化は約1日で行われる。

そこからさらに約1週間の時間をかけて胚の中央に凝縮された物体は人間の胎芽の形をとる。
胎芽は成長を続け胎児となりへその緒を形成するが胎盤は存在しない。
へその緒は植物の根のように大小様々な形の管を胚の全体に伸ばしていく。
規模は胚全体が覆われるほどではなくへその緒の隙間から容易に胎児を観察できる。

胎盤が無い事から成長から誕生までのすべての栄養は胚の中にある半透明の液体によって賄われていると思われる。
硬質化しているのは恐らく表面のみであり表層から5cm以下はすべて液体で満たされていると推測される。
その後、胎児はさらに成長を続け胚の硬質化から約5ヵ月前後で胚の表面が崩れ落ちて人工体が誕生する。
誕生した人工体は人間の新生児との明確な差異ななく出生を除いて目視での判別はほぼ不可能である。
また、人工体はすべて女児であり男児の観察例は無い。これは創造活性を行う者と同じ性別になるという乙姫の証言と一致する。

誕生してから1日後に協定で決められた通りに妖精たちによる検査が行われる。
この検査は ようせいですけんえつさくじょずみ となっている。

後に当局の保育機関に入り育てられる。
胚からの誕生以降の成長において異常性は見られず、人間と変わらない。






妖精の装備開発について
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開発リスト
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ようせいです
みてはだめなのです








人工体について

彼女達は一様に誕生する前は自身は軍艦だったと主張する。
全ての人工体は特徴として自身が軍艦だった頃のあいまいな記憶と名称を全ての個体が有している。
また外傷に対する自然治癒力が高く軽い切り傷なら数時間で完治する。
さらに妖精たちが開発した特殊な液体(妖精たちは"修復材"と呼称)を使用すればより早く怪我を治癒する事ができる。
ただし修復材は人間や乙姫には効果を示さず、人工体のみ効果を発揮する。

人工体は乙姫に対してとても深い愛情を抱いている。
これは誕生後、数年間に渡って乙姫との接触をしていない人工体であっても対面すれば即座に友好的な態度を示す。
乙姫もまた誕生後に一切接触していない人工体であっても深い愛情とその個体に対する知識を有する。

経過観察は続行中だがどの人工体も今のところ活性化の兆候を見せていない。
また乙姫が使用していた未知の言語に対する理解も全くない。





■■■人工体リスト

名称は人工体自身が名乗ったものを記載している。



K-【010058】 ハバ・グレネーデス(■■■■■■に移動)
K-【000244】 写軒(■■■■■■■■■■に移動)
K-【145800】 オプトソン(■■■■■に移動)
K-【458926】 鴉風月(■■■■■■■■■に移動)
K-【158001】 天衝(■■■■■■■■■■■■■に移動)
K-【111558】 海人駆(■■■■■■に移動)
K-【946729】 長門(本部に在籍)
K-【943608】 陸奥(本部に在籍)


付記 1938年3月18日
上記およびこれ以降の人工体の名簿は1938年3月18日をもって文書■■■■(検閲および削除)に移されます。






聴取記録─1941年2月25日

宮崎研究員による聴取が行われました。

対象者:乙姫 人工体 長門

聴取時の長門の年齢は3歳3か月。


宮崎:白ちゃん、おはよう。記録をとってもいいかな?
乙姫:ええ、大丈夫ですよ。
宮崎:よし、じゃあ、おはよう。
長門:<沈黙>
乙姫:ほら、挨拶は?
長門:おはよう……ございます。
宮崎:うん、よく出来たね。
   君にいくつか聞きたい事があるんだけど良いかな?
長門:……うん。
宮崎:ありがとう。
   じゃあまず初めに名前を教えてくれるかな?
長門:長門……って言います。
宮崎:いい名前だ。
   名前は誰からつけられたのかな、お母さんかな?

<長門は乙姫の顔を見る>

乙姫:覚えてる事を話してみて。
長門:分かんない……最初から長門……。
宮崎:そうか。
   前にあった事は覚えてるかな?
   こうやってお母さんに会う前の事。

<長門は不安の兆候を示す>

長門:ピカって光って。
   煙がたくさん出て……怖く……て。

<長門は泣き始め、乙姫にしがみつく>

宮崎:すみません。
   マズい事を聞いちゃったみたいで。
乙姫:気にしないでください。
   この子すぐ泣いちゃうから
   よければ私が答えましょう。
宮崎:ああ、そうですね。
   不躾な質問ですみませんが長門や他の子達はどういう存在ですか?
   彼女達の正体は?
乙姫:正直、私もどう説明していいか……。
   なんというか彼女達の魂は彷徨っていたんです。
   そこを私が拾い上げたというか。
宮崎:彼女達は一様に自分が艦だった時の事を話しますがこれについては?
乙姫:ここに来て私は色々な事を学びました。
   艦についてもです。ずっと前ですが伊賀崎さんが写真を色々と見せてくれました。
   軍艦というのは海の上で戦う為の乗り物なんですよね。
   だとしたらこの戦いで彼女達ほど適役はいないでしょう?
宮崎:なるほど、それで……。
   あー、軍艦の魂を拾い上げたと?
乙姫:何も生きとし生けるものだけが魂を持っているわけではありません。
   彼女達もまた人に愛され考えを持った存在になりました。
   こことは違う世界で役目を終えて彷徨っていたんです。
宮崎:では他の娘さん達も?
乙姫:そうです。
   長門と同じく元々は役目を終え彷徨っていた魂でした。
宮崎:白ちゃんは娘さん達に凄く好かれているみたいだけど。
   例えば長門だと確か昨日初めて会ったはずですよね。
   なのにもう懐いている。
   どうしてですか?
乙姫:そういうものとしか……。
   彼女達は私の力で生み出されました。
   そうゆう者達とは強い繋がりを感じると聞きます。
   実際に彼女達は私を愛してくれていますし、私も彼女達を愛しています。
宮崎:一度も会った事が無い子のことが分かるのも"繋がり"ですか?
乙姫:恐らくは。
   私の故郷で伝わっているだけの話なので詳しくは分かりません。
   それはそうと、陸奥と会えるのはいつ何です?
宮崎:ああ、それなら明日になると思いますよ。
乙姫:良かった。
   あの子いつも他の人に悪戯しちゃうから注意しないと。(※1)

(※1)乙姫が陸奥を会うのはこの聴取の翌日です。それまで一度たりとも接触はありません。



記録終了






補遺
海軍省に問い合わせて"長門"という名前の軍艦について調査しましたが、他の人工体と同じくそのような軍艦は記録はありませんでした。
未成艦や計画段階の軍艦、果ては歴史上の船においてもその存在は確認できませんでした。

最終文書

特別任務実動部隊兼任調査員および全職員へ


我々はいつ何時も秩序を保つ為に動いてきた。
尊敬に値すべき同志達は世界中で人類の明日の為に戦っており君達もまたその一人だ。
もちろん尊い犠牲もある。
偉大な先人達、志を同じくする者、妻や夫、恋人、父や母、兄弟姉妹や息子や娘達。
我々は愛する者の屍の上で争っている、だがいつも相手は地球上の者達だった。

しかし今回は違う。
我々の敵は"外側"から来た。
彼女達はその圧倒的な戦力を持ってして人々を海から追い払い、その恐怖を人々の頭の中に植え付けた。
今我々が立ち竦んでいる土や岩、この陸地こそが我々の最後の砦となっている。
我々は失敗し、そして追い詰められた。

だが諸君らも知っているように最大の味方もまた"外側"から来た。
彼女は我々を理解しようとし、情を持って接してくれた。
自身の故郷とは違うこの土地の者を愛し、最大限の努力をしてくれている。
彼女は命を懸けてくれた。
彼女の従者は小さく、とてもか弱く見えた。
だが実際、彼らは勇気ある者達であり偉大な開発者でもある。
彼らの協力は必要不可欠であろう。

そして我々はここまで辿り着いている。

人工体、そう君達の間では"艦娘"というあだ名が付いているだろう。
彼女からの最大の贈り物だ。

第1世代の人工体がすでに試験的実戦に投入されており近海の水鬼を殲滅しているという知らせは誰の耳にも入っている事だろう。
もちろん、年端も行かない少女達を戦場に送り出す事について倫理委員会との衝突が幾度もあった。
だが最終的には彼らもこの状況を理解してくれた。
これから第2、第3世代と次々に人工体が投入されていくだろう、だが我々は高見の見物とは行かないし彼女達に甘えるつもりもない。

諸君らは別の文書で作戦について説明を受けているだろう。
彼女達の変わりに私達が戦えれば一番良いのだがそうも行かない。
"戦乙女の従者"は彼女達の為の最大規模の支援作戦だ。
我々はこれを実行する。



私はこの文書を本部の保育施設にて執筆している。
彼女の娘達の笑顔が私の部屋からでも見える。
あの少女達はいずれ爆炎と水柱と砲弾が舞う海を駆けていく事になる。
あの子達だけに重荷は背負わせない。


諸君、我々はやり遂げなければならない。


局長 伊賀崎 聡介

メモ用紙2

これを見ているということは全部読み終わったんだな。
飛ばして読んでないよな?
それで書き忘れたんだが。
要するに鎮守府で女の子達とせっせと水鬼退治も良いがたまには顔を見せに帰ってこい。
宮崎おじちゃんもお前に会いたがってる。
それと近いうちにお前の鎮守府に行くかもしれない。
その時は鳳翔の店で奢ってもらうからな。この資料の報酬だ。
それと無理はするな、体調にも気を遣うんだぞ。
じゃあな、頑張れよ。

手紙

伊賀崎おじさんへ。


資料ありがとう。
急に無理言ってごめん。どうしても知りたかったんだ。
だからこっちに来た時は喜んで奢らせてもらうよ。鳳翔も楽しみにしてる。
それと俺も近いうちにそっちに帰る、皆の顔も久しぶりに見たい。
じゃあ、おじさんも体調に気を付けて。いずれまた。

追伸

青鳥から伝言。
「水鬼の遺体を勝手に盗んですまん」だってさ。

飛峰和 蒼太郎
1963年4月1日

深海棲艦の発生と艦娘の出自記録

深海棲艦の発生と艦娘の出自記録

君は提督をやっているのだろう。この資料を見てくれ。 君が夢中になっているこの戦いの前に何があったのか分かるかもしれない。 二次創作作品 【原作】艦隊これくしょん -艦これ- 下記のサイト様にてマルチ投稿あり。 暁 星空文庫 ピクシブ小説 ハーメルン 完結済み

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. メモ用紙
  2. 南方接触事案
  3. 日の丸新聞 1933年8月10日
  4. 乙姫に関する記録
  5. 作戦イ2548─95ヲ─ト1935攻勢|水鬼攻撃計画:下される鉄槌
  6. 水鬼の観察記録
  7. 出自聴取
  8. 雷電新聞 1936月3月8日
  9. 妖精および乳児との接触記録
  10. 秘匿施設S90125爆撃事件報告
  11. 太陽新聞 1936年10月23日
  12. ■■■■■■
  13. 鳳凰新聞 1937年1月31日
  14. "女王の娘たち"計画・記録
  15. 最終文書
  16. メモ用紙2
  17. 手紙