午後4時35分

午後4時35分

午後4時35分

私はラッパを吹きながら外廊下を歩いている、風がとっても気持ちよく私の黒い髪の毛をなびかせてくれる。それを伝わって朝浴びたシャンプーの匂いがふんわりと鼻に潜り込む。夏の暑い日差しがジリジリと照らし、半そでから伸びる私の腕を熱した。額から透明な汗がしずくとなって、床に弾けた。私は一歩足を踏み込んで歩くたびに心臓の音が跳ねあがる。その鼓動が周りに聞こえないようにわざと、ラッパを強く息を吹いた。空は快晴、雲の代わりに三羽の鳥が大きく旋回して校舎を見渡している。
ああ、そろそろグラウンド側の外階段に着く、私はいつもこの階段の踊り場でグラウンドを眺めてラッパを吹いている。音は風で流されきっと反響もしないで消えていくんだと思う。階段を上がり、コンクリートで出来た踊り場に立つ、ひんやりと冷たい手すりがお腹に当たり制服のシャツを通して冷たさが心地よく感じる。グランドを囲む広葉樹の葉がゆらゆらと揺れて、緑色の踊り子の様だ。風が砂を巻き上げて私の面に向かって吹いている。白線のそばをかけていく帽子を被った部活生が声を上げて応援もしている。私の鼓膜には、いくつもの物の声が叩いてくれる。でも本当はグラウンドを見ている訳ではない。この時間帯、あの人が部活の合間に校舎と花壇の間にある道を歩いてこの私のいる外階段の下を通る、きっと、その先にある水道の水を飲みにいくんだと思う。その事を知ってから、私は一か月前からこの時間に部活を抜け出して、この打ち放された無機物な踊り場で立ち、ラッパを吹いている。
私はあの人の姿を探して、ラッパを吹いた。あの人がこの下を通るのが待ち遠しいな、そう思って、私は左手に巻いた銀の腕時計をゆっくりと見た、時計の針は4時30分を指している。もう少しだ、もう少し。あの人は何時も午後4時35分にきっかり、この階段下を通る。
時計の針は4時35分を指した、私の目の前にあの人が見えた。此処に向かって来る姿が瞳に映る。

ラッパの壊れそうでぼやけた、音が校舎に響いた。

午後4時35分

午後4時35分

私はラッパを吹いてあの人の姿を待っている

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted