Day Dreamer

すごく短いです。
ベタで読んでて恥ずかしくなるけど、こういうの、良いですよね。

「早く起きないとバイト遅れるよー?」

どこか遠くから響いてくるような、そんな呼び声に僕は目を覚ました。といっても、顔は未だ愛用のクッションに埋めたままなので、意識はまだ暗闇の中にいる。

「お昼ごはん、食べる?」
「…んー、いらない…」

未だなお夢の中で羊と戯れていた僕は、ほぼ脊髄反射的にそう答えた。それにしても、眠い。眠たい。再び微睡みそうになりながらもやっとの事で目を開けると、風に揺られるカーテンが映った。
ああ…今日はバイトか……行きたくねぇな……。
カーテンの隙間からは春の麗らかな陽射しが漏れていて、宙に舞う埃を光線状に映し出している。
ああ、春の眠りは何とやら。このままずっと眠っていたい…。何なら、この暖かい光に包まれてやんわりと死んでしまいたい。どうやったら楽に死ねるだろうなぁ…
ぼんやりと夢うつつにそんな事を考えていた僕の背中に、再び声がかけられた。

「私コーヒー淹れるけど、飲む?」

コーヒー…眠気覚ましに飲んでおくかな。僕は「あー」とも「おー」とも分からないような返事で応えた。

「砂糖は?」
「んあー……3つ」

ブラックなんて飲めるか。そう思いながら、いつもの癖で人さし指で目をこする。いつもより多くの目ヤニが取れ、心なしか瞼が腫れていた。しかも頭がひどくガンガンする。昨日は何してたんだっけ…?再び目を閉じて、考える。ああ、そうだ。昨日はサークルの飲み会だった。そして確か…僕は何か悲しいことがあって、歓談の輪から外れて独りで飲んでたんだ。まともに飲めやしないくせにやたらと度数の高い酒が欲しくって、ウィスキーを煽っていた。それにしても、何が悲しかったんだっけ…?忘れたい事でもあったんだろうか。思い出せない。

「じゃあ私、行ってくるね。コーヒー置いといたから。」

今度は何も言わずに、布団から出した手を、行ってらっしゃいと軽く揺らした。
そうか、そうだった。今日は……。そう思い出したところで、訪れた静寂と、先ほどの声になぜか安心感を覚えた僕は、再び眠りに落ちたのだった。


「やべっ」
次に目を覚ましたとき、時計の針は13時28分を指していた。あと約30分でバイトの時間だ。ドタドタと洗面所まで駆け寄り、鏡で寝癖をチェックする。この程度なら櫛通すだけで十分だなと僕は安心し、手際よく身支度を済ませた。歯を磨きながら、まだ起きていない身体を伸ばしていると、先ほどの不思議な会話を思い出した。

あれは夢だったのか…。
一人暮らしのくせに、誰と話してたんだろ、僕。

自分もアホな夢を見たもんだなぁ、と笑いつつ、玄関へと向かう。

おっと、危ない危ない。

慌てて居間へ引き返し、お供え用の花束が入った紙袋を手に取り、中身を確認する。今日はバイトの後に、ちょうど一年前に交通事故で亡くなった彼女の墓参りに行く予定だったのだ。

今日で1年か。僕は上手くやれてるかな……。

まだアルコールは抜けていないが、瞼の腫れは気づかないうちに引いていた。

「それじゃ、行ってきます。」

靴箱の上に置かれた彼女の写真を撫でながら、僕は家を出た。いつも無愛想だった彼女も、今日は心なしか笑っているように見える。3階建てアパートの階段を駆け足で下る。遥か遠くに広がる山々、電線、歩道橋。眼下に見える車、道路、コンクリート、人、ヒト。
テーブルの上に置かれた2つのコーヒーカップは微かに湯気をのぼらせ、部屋に懐かしい香りを漂わせていた。

Day Dreamer

Day Dreamer

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-02

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