つじよん番外
1.「この街には混雑も遅延もないな」(結花&悠/五月上旬)
ハルとハルちゃんの口調を安定させるためにひたすら語らせてみる番外編
※時期設定は五月くらい
・遥 唯花(ハル)辻ヶ丘高校一年の女子
・春日井 悠(ハルちゃん)辻ヶ丘高校一年の男子
「ハルちゃん、ごめん、待ったよね?」
「確かに三分ほど待った」
「ごめんねー、ハルちゃんいつも時間ぴったりに来るね?」
「一番角が立たないから、ハルも時間通りに来るといいと思う」
「うん、ごめん。助言ありがとうございます」
「僕は怒ってないからね?」
「え? 知ってるよ?」
「いや、それなら良いんだ」
「ハルちゃん、結構心配性だよね、ふふ」
「ハルの考えてることは読みづらい」
「そお? 見た通りだと思うよ?」
「いつも笑顔だろ、君は」
「ハルちゃんこそ、もっと、笑うべき」
「それで? 今日は沢渡の方に行くんだろう」
「そうそう! ハルちゃん、もう切符買った?」
「ハルの分も、二枚買った。ほら」
「え、お仕事早いね? ありがとうー!」
「210円」
「はーい……、ごめん、10円玉ないかも。お釣り、出せる?」
「僕、小銭は出来るだけ貯めないようにしているから。無理だ。ハル、ちょっと小銭を貯めすぎじゃないか?」
「これ、五円玉なの。お参りするときにあったら便利じゃない?」
「だとしても一枚でいいだろ?」
「十五円で十分ご縁とか、四十五円で始終ご縁とか、いろいろあるんだよ」
「ふうん」
「ハルちゃんが知らないこと、私知ってた? 嬉しい」
「ところでその五円玉、使えば十円払えると思うんだけど」
「ううっ、これはコレクションゆえ、許してくださいー」
「まあ、ハルがその五円玉に五円以上の価値を見出しているんだから、仕方ない」
「ありがとお」
「今度お参りに行くときに、僕に二枚くれ」
「あ、それイイ! もちろん!」
「そう言えば、辻ヶ丘の神社、桜の時期からこっち、行ってるのか?」
「この間、冬坂さんと行ったって、お話ししなかった?」
「いや、覚えてない」
「あのときは本読んでたからかな?」
「そうだったのか、ごめん」
「いえいえ、いつものハルちゃんだよね。あ、電車来たよ?」
「沢渡までなら、各停じゃなく急行のほうが良い」
「あれ? あ、ほんと、各停だねこれ」
「数か月前まで都内の地下鉄を乗りこなしてたとは思えないな」
「乗りこなしてないもん。いつも決まった路線しか乗ってなかったよ」
「ああ、でも、それは僕も分かるな」
「時刻表も覚えて、家を何時何分にでたらこの電車に乗って……って、いつも決まってたから」
「その方法だと、電車が遅れた時に困るんだよな」
「うん。最初は遅延証明の貰い方も分からなくって」
「この街には混雑も遅延もないな」
「そうそう、はあぁ、のどかだねえ。ホームもがらがら」
「ハル、平和ボケしてるな」
「そうそう、特急と各停の違いも分かんなくなるくらい、ふわふわ」
「沢渡も都会だからな、ハル? はぐれたら僕が困るんだからな」
「ハルちゃん背が高いから、すぐ見つけられるよ」
「逆に言えば、僕の方からはハルを見つけられないってことだ」
「遠まわしに、チビ、って言われてるのかなあ」
「別に遠まわしでもないだろう」
「うー、私、150センチはあるんだからね?」
「ただチビとは言っていない。要するに、貶める意味合いはないんだ」
「あ、ハルちゃん、焦ってるでしょう。怒ってないよ」
「もう三年くらい友人やってるけど、お前の機嫌はよく分からない」
「言っておくけど、ハルちゃん相手に本気で怒ったこと、ないからね?」
「だから、それが一番の不安要素なんだ」
「そお? あ、ほら、電車来たよ。今度は特急かな?」
「電光掲示板を見ろ。あれは快特だから、通過だ」
つじよん番外