くまかめついのべ。②

《①》
「もうウンザリだ!」
ある日、僕のやる気が家を出て行った。
ごろごろダラける僕に嫌気が差したらしい。
……ま、いっか。

「確かに僕、昔からやる気だけはあったからなぁ」
テレビの向こう。
フルマラソンを走る僕のやる気。
お煎餅とお茶とビーズクッションと、僕。

《②》
切り落とした橋の向こう側。
何度も振り返りながら、小さくなっていく『め』たちの背中。
「……貴様、よくも囚人を」
次々押し寄せる平仮名兵。
王が彼らを私欲の為に監禁していたなんて、知らないんだろうな。
『あ』と『ん』で構成された間抜けな視界が、痛みと共に暗く

《③》
ある日、皆が王様になった。
しかしある人は面倒になり王冠を捨て、ある人は家事をする為にマントを捨て、ある人はある人はある人は。
次々と好き勝手、自由な生き方を選んでいく人々。
最後まで行動を起こせなかったノロマで駄目な優柔不断男が、世界唯一の王様になった。

《④》
私は生まれた時からネジを持っていたらしい。
誰も見たことがない、不思議な形のネジを。

「ダメだ。やはり宇宙船の部品が足りない」
ここは不時着した原始惑星。
修理に必要な部品なんて……。
「……」
ポケットに入れた指先に、不思議な形の何かが触れた。

《⑤》
「……」
深夜二時。
窓の外でがざがざと、妙な音。

「人の血の味を知ってしまった刃物は危ないからねぇ」
私が指を切っちゃったから、おばあちゃんはお気に入りの包丁を捨ててしまった。
がざがざと厳重に紙でくるんで、ゴミ捨て場に捨ててしまった。

《⑥》
敵兵や民間人が、その身を盾にして必死に守ろうとした工場。
武器兵器工場だと思われていたそれは、実はアイスキャンディー工場だった。
「何故だ」
無人になった工場でアイスキャンディーを舐める。
「何故」
すっきりした甘味は舌をくすぐるけれど、答えは出ない。

《⑦》
「今度こそ邪魔はさせないんだからね」
四十八回も飛び降りを阻止したからだろう。
彼女は背中にジェットを装着し、遥か宇宙を目指したのだ。
逆転の発想。斬新な自殺方法。
「幼なじみを舐めるな」
隠し持っていたロケットに乗り込み、僕も地上を後にした。

《⑧》
「君以外も君にしてみた」
当たり前を覆して、全人類が私になったらしい。
目の前の馬鹿神様も長年連れ添った私の顔だ。
「大好きだよ」
愛情表現がぶっとんでる。
ゲス、いや、純粋過ぎるだけか。

《⑨》
目覚まし時計怪獣は、世界中の目覚し時計を食べてから寝てしまった。
サラリーマンも学生も、何だかんだ文句を言いながら内心ちょっぴり喜んでいて。
「ゆっくり寝てやる」「寝坊してやる」
彼らは明日の静かな朝を夢見ていた。

怪獣が目を覚ますのは早朝6時20分だ。

《⑩》
苦労してこじ開けた銀行の金庫には、金ではなく沢山のハートが置いてあった。
「……」
微かに聞こえたパトカーのサイレン。
思わず手近なハートを鞄に詰め、慌てて逃走中なう。

くまかめついのべ。②

くまかめついのべ。②

ツイノベまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-29

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