10秒電話
木曜日の夜7時
私は深呼吸をしてボタンにふれる
なぜこの曜日を選んだのか
自分でも覚えていない
目を閉じて数分間
流れてくる音楽に耳をすます
何十回も聞いているのに
名前も知らない
私の好きな曲
しばらくすると声が聞こえる
疲れていそうな
眠そうな
そんな声
夜なのに私はこう言う
「おはようございます」
って
そしたら聞こえてくる
彼の声
だから私は続ける
「仕事中ですか?」
そしたら、ほとんどの確立で
同じことを言われる
そして同じことを聞かれる
「どうかしたの」
って
だから私は笑顔で答える
「たいしたことないです」
すると彼は了承して
ボタンを押すんだ
時間にして10数秒
これが楽しみだと自慢したら
友達に笑われた
普通の恋ではないと
前から気づいている
この恋が実る保証なんてない
それでも麻薬のように
やめられない
誰にも理解できない
私の恋
それでもいつか
1分電話になることを祈って
来週もボタンを押すだろう
10秒電話