春の夜


    ふとした時、人は考える
    ぼーっとしているのではなく無意識に考え事をしているのだと思う
    
    わたしは、わたしの精神をボロボロにする事をよく考える
    どうすれば満足のいくように擦り減らせるか
    わたしはわたしの精神を全力で擦り減らす
    丁寧に、後悔のないように、ボロボロにするのだ

    ただ、そうして考えすぎるとたまに哀しくなる
    寂しさにも襲われてどうしようもなくなる
    
    そういう時、わたしは好きな人に会いにいく
    その人の体温や心臓の音を確かめて安心する
    至極単純な性格だと思う

    
    人は哀しい生き物なのだ
   
    と、そう思った
    決して悪い意味でない
    むしろそれでいいのではないかと思う

    生き物の中できっと人間というものはそういう性質なのだろう
    蟻が女王蟻を筆頭に集団で生きることや
    カマキリが出産の後にオスのカマキリを食べることや
    雄の提灯鮟鱇が後尾の時雌の体の一部なることや
    ウミガメが卵だけを産んでその子達とは会わずにまた海に帰っていくことと同じ

    そういう生き物なのだ
    
    
    人間は哀しい生き物なのだ
    みんな哀しいのだ
    みんな寂しいのだ
    ひとりではないのよと彼女は思った

    ちっとも哀しいことではないのだと
    

    煙草の煙を肺いっぱいに吸い込んで、吐き出して、
    火を消して、眠りにつく

春の夜

春の夜

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-28

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