サラ

 涙の虹ですべてが煙よろしく消えてしまう。泣いているのは誰だ?私だ。サラがいなくなってから5年になる。彼女は決して怒らない人だった。あるとき、彼女は私にポツリと言った。「あなたに好かれようとしすぎて、ツラいの。私は私でなくなってしまう。それがどういうことか、
あなたにはわかる?ユタ?わかっても何もかも遅い。結局私たちは離れなければいけない。これまで幸せだった。もう一生の幸福を味わい試練の先へと行かなくちゃ。追わないでね。あなたは追えば、私を失うより辛い目にあうから。わかるでしょ?あなたはあなたが大事だし、私はあなたが大事なの?あなたは自分と同じくらい私が大事だって言いたい気持ちはわかる。でも、そういうことじゃないの。もうちょっと複雑なのよ。一時の恋いではなくてね。愛のようであって、続くことのない生命の営みなのよ。あなたは、ここにいなくちゃいけない。あなたには”やるべき”ことがある。多くの人があなたを求めてる。知らないの?あなたは、たくさんの人を幸せにしてるのよ。私ももちろん、その1人。ありがとう。ユタ。あなたには、本当に感謝してるわ」そのとき、私は、またサラが感傷的になっていると決めつけてしまった。あのとき、サラときちんと話してさえいれば、私は彼女を失うことはなかったのではないか?5年間思い悩んできた。そして、身辺の整理をして仕事も放り出して、私はサラを追う。サラは長身だったが、男性の私からみると、小さなヒヤシンスのようだった。彼女は、いつも蜂のように花の周りを行き交い楽しんでいたのだ。そんな風景がまさか失われるなんて、あの頃は、想像もしなかった。サラがいなくなってから、いろんなことが、変わっていった。今まで順調だった仕事にも身が入らない。私はサラが言ったように私のために生きることができなかった。失敗。そんな言葉が私には似合う。何もかも失って、なお希望だけ残った神話のようだ。そして、私はサラという光を追いかける。そして、言うのだ。「まだ、私を愛しているか?」サラは何と答えるだろう。たぶん、いやはっきり確信はある。彼女は「はい」と答え二人の故郷に戻って幸せに暮らす。私は彼女の笑顔(今では、しばらくしないと思い出すことも難しい私にとっての喜び)を手に入れて、再び幸せな人生を手に入れる。

 サラの連絡先はわかっている。共通の友人であるバラから聞いている。サラは今北に20kmの家に1人で住んでいるらしい。油のにおいがあたりに充満している。油田地帯を突っ切って、車を走らせると、白い花が見えてきた。広場いっぱいに白銀が美しい輪をつくっている。ああ、この町にサラがいるのだ。喜びで胸が震えそうだった。あのサラが、私を喜びいっぱいで待っている。私は胸がいっぱいになって、苦しいほどだった。住所を地図で調べると、サラの家は町の西側にあるようだ。だが、車が渋滞している。私は歩くことにした。近くにあった駐車場に車を止めると、ゆっくりと歩き出した。慎重に。慎重に。杖をつくと少しだけマシになる。足の痛みと引きかえに、私は心が満たされるのを感じる。もう少しもう少し。サラの家は、あと10分も歩けば着く距離だ。私は、サラの姿を思い浮かべた。あの頃のように二人はまた・・・・・・。疲れがどっと出た。ベンチがあったので一休みすることにした。勢いでここまでやって来たが、サラは留守かもしれない。私の旅疲れがドッと体にのしかかる。ベンチに座っていると、子供たちのはしゃぐ声。小鳥。小さな虫。空を飛行機も通っている。サラの声がする。え??サラの声?私はあわてて、耳を澄ます。「あの人が近くに来てるの。絶対に来てはいけない場所なのに。すぐに探してほしい。一刻も早くここから出なきゃ危ないわ」私は周りをみる。いつの間にか、景色に黒い帳が降りている。サラ!どこだ?私は必死に歩き続ける。もうどこがどこかわからない。地図も役に立たないのだ。サラの声だけを頼りに私は歩き続ける。「あなたは何もわかっていなかったの。何も」サラは続ける。私は壁に突き当たる。壁を背にして、光っている建物を見る。あそこだけが、まだ無事だ。一体何が起こったんだ?私は背を曲げて、這わんばかりの低姿勢で、光る建物に入った。そこには、巨大な十字架がかけてある。「サラ!!」私は最後の力をふりしぼる。今にも気絶しそうだ。視界が揺れている。音がした。私はいつの間にか地面に横たわっている。「ああ。サラ」言葉にならない。言葉は意味不明のうめき声として、私の耳に入ってくる。
 暖かい手を頬に感じる。目をあけたつもりが何も見えない。「サラか?サラなんだな?」私の口からその名がでることを惜しむように強い力で、手は私を運び去る。「サラ!!サラ!!」もう言葉にならないが、私は叫び続ける。誰にも聞こえない声で。誰にも伝わらない心で。

サラ

サラ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-27

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