ENDLESS MYTH第3話ー2

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 その空間が医療施設であることを認識したのは、ジェフが空間へベアルド・ブルとメシア・クライストを包んだ繭と共に転送されてから、地球の時間で10分ほど後であった。
 転送されたので先は、大きな螺旋状の青い光の渦が延々と回り続ける広大な空間の、中央に位置する中空である。
 渦以外の部分は漆黒に閉ざされ、中空にもかかかわらず、足裏は床をとらえていた。
 転送と共に繭のフィールドが弾け、黒い繭の糸が1本いっぽん解けるかのように溶けていき、浮遊して横たわるメシアの蒼白の寝顔が現れた。
 髪の毛はまるで蛍が明滅するように、金色に光っていた。
 初めてメシアの異常を目撃したジェフは、眼を丸くするばかりだ。
「あれはどういう状態なんだ」
 呆然とか横に居合わせた、現時点では部外者の同類であるベアルドに聞く。
 と、ベアルドを見た時、あれだけ出血していたベアルドの怪我が、まるで嘘のように、綺麗に完治していた。
 新たな衝撃を受けるジェフの顔と、自らの脚を交互見比べる若い兵士は、これがどういうことなのかを、平然と未来人の立場から説明した。
「生命維持と治療に特化した空間が完成を見たのは、50世紀以降の話になる。ナノマシンを利用した細胞レベルでの治療となるのだが、それを更に
発展させたのがこの空間になる。生命細胞を光子によって修復する技術だ。同時に精神の安定を目的とした独自の周波数音波が発せられて、心身の両面から完治を目的としている」
 そこから異変が続くメシアの姿に視線を落とし、彼が何者であるかを告げた。
「彼はこれから起こるすべての出来事の中心であり、すべての事件、歴史、超常事にか関わる存在。今はそれだけしか言えない」
 いったい自分の目の前でなにが起こっているのか、未だにわからぬまま、メシアを見たジェフ。
 この間にもメシアの周囲では、例の異種族たちが彼の肉体を囲み、会話を繰り返していた。
 さっきよりもなお、人影は増えていた。
「固有振動数が上昇している。覚醒の前兆とは思われるが、このまま覚醒してしまっては、彼の自我が持ちこたえられない」
 そう言葉を発したのは、一見すると人の形をしてはいるものの、正面から見た時、その人物の背中の風景が透けて見えていた。まるで透明人間を具現化したかのような姿であるが、煙を人型に押し込めたような、靄が内部で浮遊していることにより、辛うじて人型に見えていた。
「内蔵、循環器に異常、疾患は見られない。肉体的には問題はないけど、このままだと自分の力に押しつぶされて、細胞崩壊する可能性が高いわ」
 そう言った女性は人の姿をしているが、皮膚は青白く、髪の毛は紺碧色、瞳はオレンジ色と、人間から遥かにかけ離れた色、姿をしていた。
 原色の種族が横を見ると、そこには大柄で肩と桃の筋肉が発達した、皮膚が茶色い、明白な硬化物質でできている男が立ち、頭部にある4つの瞳で、メシアを見下ろしていた。
「この宙域から離れるのはいつぐらいになりそう?」
 そう原色の種族が鋼鉄の男に話しかけた。
 4つの瞳が紺碧色の髪の毛を一瞥し、再びメシアへ4つの視線を下ろし、唸るように考え込んだ。
「想定外の攻撃であったからな。流石にまだ動けんさ」
 鋼鉄の男はその巨体に似合った、低い声色を出す。
「できるだけ早くしてもらわないと、救世主を敵の手から離さないと」
 危機感を口にしたのは、脱色したような、あるいは白塗りをしたかのような白色の皮膚と、額に盛り上がった蜘蛛のような皮膚のコブが印象深い人物である。
 鋼鉄の男は不機嫌そうに、白色の中性的な人物に4つの視線を向けた。
「イタズラに時を弄しているわけではない! 修復を最大限の人員で急いでおるわ!」
 警備と施設管理を担う男は、不機嫌をその見た目通り岩のごとく顕にする。
 と、そこへまたしても別の人物が現れた。この中では逆に意外なホモサピエンスの姿をした、地球人である。
 けれどもその女性の顔には、黒く光沢のあるレザーのマスクが装着されていた。頬との接続部は金属の円盤でできていることが、すぐに理解できた。
「彼の状態は?」
 機械で変性させられた、機内的な声音が空間に響く。
「状態は安定しているけど、今はここから出すわけには行かないわね。いつ力が暴走するかわからないもの。次に暴走したら、全時空が消滅してもおかしくないもの」
 冷静に言うが緑色の皮膚をして、触手が垂れ下がる女性の内心は、震えていた。冗談ではなく、本当に彼には全てを無にする力がある。
 全ての中心なのだから。
 マスクの女性は大きく、安堵の溜息を漏らすと、今度は事態を外野から目撃していた男2人に視線を移動させた。
「ソロモンの援護はないのよね、やっぱり」
 と、ベアルドを見て彼女は、目元だけで苦笑いした。
 脚の傷の完治を自らも目視で確認したベアルドは、首を横に振り、彼女の意見に同意の意思を示した。
「我が組織の最優先目的はコアの確保にありました。この時代、次元での目的格果たされた以上、干渉することはありません」
 断言した若い兵士。新兵が脳内へインプットされたこの時代での目的であった。
 頷いた彼女は横に立つジェフを一瞥ししてから、再びベアルドに視線をスライドさせ、
「ここは医療関係者以外の立ち入りは原則、禁忌ですので、移動しましょう。そこで戦況と現状も説明します」
 と、現状を把握していないであろう2人の男の肉体は、細胞が瞬間的に分解されたのであった。

ENDLESS MYTH第3話ー3へ続く

ENDLESS MYTH第3話ー2

ENDLESS MYTH第3話ー2

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-25

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