くまかめついのべ。

【①】
「卒業します」
大きな大きな穴に色々な物を投げ込む男たち。
酒に薬にフィギュアにポスターに。
「こんなとこに連れてきて、俺にもアレをやれってか」
男の趣味を否定しやがって。
バイクはロマン。
男の夢だ。

「ううん。貴方はやらなくて良いの」
妻は優しく笑った。

【②】
僕には奇妙な友人がいる。
彼は朝起きて夜寝るし、毎日ご飯を食べるし、お風呂に入る時は服を脱ぐらしい

それに、手も足も耳も目も二つずつあるんだ。
「奇妙?ああ、確かにそうかもね。こんな状況に慣れちゃってる辺り、奇妙な奴なのかも」
そしてなんと、頭に角がない。

【③】
彼女から貰った手作りの栞をぼんやり眺める。
確かに綺麗だけれど、僕は読書なんかしない。
「……」
街のあちらこちらで同じ栞を見かけた。
色んなタイプの男性が、同じ栞を持っていて。
「……」
ああ、いつの間にか僕は、本棚の中に。

【④】
大悪党ジュバンディーニに誘拐されて、もうすぐ三年になる。
「この街にもいないようだ。次の街に行くぞ、次の街に」
大悪党ジュバンディーニは、生き別れてしまった僕の家族に身代金を要求する為、今日も世界を駆け回る。

【⑤】
彼の手が静かに頭を撫でた。
ああ、この人も消えてしまう。
私に触れた人は皆、存在が薄まって薄まって、そして。
「大丈夫」
太い眉毛、長い睫毛、彫りが深すぎる顔。
「俺は大丈夫だから」
ほんの少しだけ薄顔になった彼は、優しく笑ってそう言った。

【⑥】
『モ』を愛する会の会合は、今日もとんでもない規模で行われた。
国会議員、弁護士、宇宙飛行士、お坊さん、三歳児。
ただひたすらにカタカナのモを皆で褒め称え、皆で愛で、眺める三時間。
「いやぁ、今日も有意義な時間を過ごし」
みんな、世の中に疲れているんだ。

【⑦】
「久し振り」
三年振りに会った姉はボクサーになっていた。
また三年経って、今度はロードレーサーに。
「次会う時は宇宙飛行士にでもなってそうだ」

二年後、姉はロケットに乗らずに宇宙へ行ってしまった。
「久し振り」
何かに生まれ変わって、そう言う姉を夢に見る。

【⑧】
左手に輝くドリルは漢のロマン。
右手には刀身がビームな素敵武器。
実用性を無視したテレビ的な配色。
見上げる程の巨体はピカピカに磨き上げられ、眩しく輝いて。
「先生、貯金箱なの」
双眼鏡で見ると確かに額にはコイン投入口。
夏の終わり、寂しげに蝉が鳴いています。

【⑨】
まず、森に様々な動物を放ちます。
悲痛な鳴き声が聞こえてくるのを待ちましょう。
「さ、そろそろかな」
森のあちらこちらに、獲物を捕らえ満足そうに眠る色々な種類の野生罠たち。
そっと近付いて、捕らわれた動物ごと罠用檻に投げ込んでください。
            《罠の捕まえ方》

【⑩】
悪者は倒した。
捕まっていた世界も救った。
引き換えに彼女は死んだ。

「最後まで正義を貫きたかった。でも」
コンソメキューブを鍋に落とす。
「彼女がいない世界なんて」
命懸けで助けた世界も、世界が圧縮されたキューブも鍋に。

【⑪】
仙人から貰った釣り竿は本当に凄かった。
水溜まりに垂らしただけで、マグロにクジラにカツオにタイに。
「あ」
通りがかったクラスメートの花崎さん。
水溜まりではしゃぐ僕を見て何だか冷たい眼差しで。
……釣り竿は凄かったけれど僕は絶対に仙人に八つ当たりすると思う。

【⑫】
「……」
宇宙人とか恐竜の生き残りとか、犯罪組織の秘密アジトとか美しい稀少な花とか。
「……」
道々に現れるあらゆる物に興味すら示さずに、彼らは黙々と作業を続けた。
世界地図制作のプロフェッショナルチームは、今日もひたすら世界を歩く。

くまかめついのべ。

くまかめついのべ。

ツイノベまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-25

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