裁く

世の中の片隅で起こっていることを書いてみました。DVとかありふれた内容ですが一応SFになってます。

ちょっと残酷なSFです

 アキヒトは根っからの悪人であった。子供の頃から小ずるく立ち回り、他人を犠牲にして自分を正当化し、自分本位に生きてきた。
 仕事も長続きせず、嫌なことやムカつくことがあるたびに辞めてしまう。しかし、アキヒトは身長175センチ65キロで顔立ちは母親に似てまとまっているので、女性には多少モテた。
 キョウコもその中の一人であった。コンビニのアルバイトで知り合った。アキヒトはサボることはあっても、周囲に溶け込み真面目そうに見えた。2週間もすると、一人暮らしのキョウコのアパートに行くようになった。
 キョウコもご飯を作ったり、関係を深めていった。半年もすると、アキヒトは親元を出てキョウコの部屋で一緒に暮らすようになった。
 一緒に暮らし始めるとアキヒトは気に入らないことがあるとキョウコに暴力を振るうようになった。暴力をふるった後でアキヒトは必ず泣きながら、キョウコに誤り鼻血を出しているのも構わずいつもより優しく濃厚なセックスをした。暴力さえなければ、女性であればうっとりとしてしまうようなセックスだった。アキヒトにすれば計算したものではなく無意識のものであった。
 1年もたつと暴力はエスカレートしていき、アキヒトは仕事もやめキョウコをパチンコ店で働かせて自分はぶらぶらしてキョウコがいない間はやはりパチンコ店でスロットに興じていた。金が無くなるとキョウコにサラ金で借金をさせた。
 今日もパチンコから帰ったアキヒトは、スロットで負けたこともあり、カレーを作って待っていたキョウコに早番であったのに帰りが遅いと文句をつけ髪の毛を掴んで引きずり回した。
 狭いアパートは机も倒れてあっという間にぐちゃぐちゃに荒れ果てた。アキヒトが落ち着いてからわき腹を抑えながらキョウコが部屋をざっと片付け、カレーを用意した。アキヒトは無言で食べ始めた。
 キョウコも椅子に座り、わき腹を抑えながら一口二口食べ始めた。
「金がねぇんだよ。金出せよ。」とアキヒトは不味そうにカレーを食べながらキョウコを睨みつけた。
「もう借金も私のカードでは出来ないから」
「何だてめーは、俺が悪いっていうのか!えっ」
 とカレーをぶちまけて立上りざまにキョウコの鼻のあたりをこぶしで殴った。あまりの激しさでキョウコは手で顔を遮ってアキヒトにつかみかかった。それは抵抗というよりも、鼻の痛みでこれ以上殴られないように防御したという感じだった。鼻からはぼとぼとと鼻血がすごい勢いでたれた。
 このキョウコの抵抗でアキヒトは、スイッチが入ったようにキョウコを殴り倒し蹴りまくった。上から馬乗りになって殴り続けた。やっとアキヒトが疲れて殴るのをやめて無理やりキョウコを立たせた。
 キョウコを「きおつけしろ」 と直立不動にさせアキヒトは自分がキョウコを殴るときにキョウコが手で防ぐのも気に入らない。とにかく自分の思う通りにならいと気に入らなかった。一切抵抗を許さず平手打ちを続けた。
 血だらけのキョウコに、「お前の俺に対する返事は“ハイ”だけだろう」と説教をしながら平手打ちを続けた。アキヒトが疲れてくると椅子に座り、キョウコを立たせたまま平手打ちを続けた。3時位になってキョウコが無表情のまま崩れ落ちるように倒れた。アキヒトは「話し終わってねえだろうが」とキョウコの髪の毛を掴み床に叩き付けた。
 アキヒトは殴り疲れ、布団に入って寝てしまった。キョウコはそのまま意識を失っていった。朝起きてアキヒトは意識の朦朧としているキョウコを起こして「金ねえのかよ」とキョウコの財布を持ってこさせてなけなしの2千円を持って8「クソ女は金もねえのかよ」と吐き捨てるように言って出て行った。
 アキヒトがドアの鍵をかけずに出て行ったので、仕事仲間の女の子が無断欠勤に心配して様子を見によって高熱で、しかも血だらけで倒れているキョウコを発見して救急車を呼んでくれた。
 キョウコは全身打撲と、骨折により熱が出て一日放置していたため衰弱が激しく一週間の入院になった。連絡を受けた父親が事態を知って、キョウコを実家に連れ帰った。
 警察の取り調べを受けたアキヒトは、父親が弁護士に頼んで二度とキョウコに近づかないということで、傷害罪で逮捕されたが訴えを取り下げられ釈放された。
 アキヒトはキョウコと付き合っていたころからナンパした女と出所祝いを兼ねて居酒屋で酒を飲んでいると、二十歳くらいの男と女の4人組が後から入ってきて大声で騒ぎ始めた。アキヒトは苛苛しながら飲んでいたが、トイレに立った若者の肘がアキヒトの頭に当たり、ついにアキヒトはキレてしまった。
「おい、いてえなこの野郎」
「あー、なんだおめえは」
 と全くアキヒトにビビることなく若者は顔を近づけてきた。
「かすっただけじゃねぇかよ。文句あんのかこらっ」
 と逆に肩を掴まれてしまった。椅子の若者まで「何やってんだよ。外連れ出せよ」と立ち上がって来た。態度もものごしも堂に行ったもので、よく見るとタトゥーも入っている。
びびったアキヒトは、「悪かったよ。言い過ぎた」
「なんだとこら、やらねえんだったらはなから粋がってんじゃねえんだよ、ボケが」
 と頭をこずかれて逆に店をたたき出されてしまった。こういうとき今までであれば家に帰ってキョウコに当たっていたものだが、もうキョウコはいない。
 アキヒトはキョウコにメールを打ったり、電話をしてみたがすべて母親に遮られてしまっていた。全く連絡を寄越さないキョウコに徐々に苛立ちを募らせていった。キョウコの実家のほうにもストーカーのように立ち寄ることが多くなった。
 実家に戻り仕事もせずにぶらぶらしながらいつもキョウコのことを考え、会いたいというか無性に怒りが先走った。
 ある日、アキヒトは包丁を隠し持ってキョウコの実家を見張っていると、キョウコの母親が出ていくのが見えた。アキヒトは忍び込むように裏に回り、洗濯物を取り込んだばかりで開いていたサッシを開け家の中に入った。二階に上がりキョウコの部屋を開けようとしたが鍵がかかっていた。
「誰、お母さん?」とキョウコは尋ねた。
「俺だ、開けてくれ」
とアキヒトは優しい声を出した。キョウコはPTSDであるのか、部屋の中で呼吸を荒くして動けなくなってしまった。
「キョウコ、開けろよ。話があるんだよ」とドアを力いっぱいこじ開けようとした。近所の用事を済ませて帰って来た母親が2回の音に気が付いて階段を上がってみると、アキヒトがドアを開けようとしているのが見えた。
「何してるの。警察を呼ぶわよ」と大声を出した。
 舌打ちをしてアキヒトは階段を降りて行った。「キョウコに会わせてくれてもいいだろうが」
「何言ってんのよ、あんたキョウコになにしたと思ってんのよ。キョウコはね死にかけたのよ。帰りなさい。来ない約束なんでしょ。警察呼びますよ。」と母親は金切り声をあげた。
 母親の金切り声で逆上したアキヒトは、母親に掴みかかった。母親も大声を上げ抵抗した。母親の口を手で塞ぎ、髪の毛を掴んだ。母親は近くに下がっていた。鍵とかを掛けれるお土産の棒でアキヒトをめちゃくちゃに殴った。非力ながら針ネズミのような棒で母親に殴られたアキヒトはたまらず逃げまどい用意していた包丁で母親に切りかかった。
 サッシが開いていたために、騒ぎを聞きつけた隣人が警察に電話し警官が駆けつけたとき母親は15箇所切り付けられ重傷を負った。
 この事件で、逮捕されたアキヒトは懲役4年の実刑判決を受けた。殺人ではなく傷害罪ということで、刑期は短かった。もともと気の小さいアキヒトは刑務所内では模範囚としてつとめあげた。刑務所内でもアキヒトはキョウコに対して勝手な恨みを募らせていた。こんなとこにいるののすべてキョウコのせいである。実はすべてアキヒトが悪いのであるが、自分中心の人間の共通の考えであるようである。
 一方キョウコは、事件から5年経ってPTSDから立ち直れずにいまだ実家で療養中であった。裁判でもアキヒトにはキョウコに近寄っただけで、逮捕されるという判決を受けていたが、玄関のドアの音を聞くたびに今田にパニックになってしまう。
 出所したことはキョウコには当然知らされてはいなかった。最近、やっと笑顔が見られるようになってきていたころキョウコはアキヒトによって実家を連れ出され、発見されたときは100箇所以上の切り傷と全身の打ち身で体が変色した遺体で発見された。
 2100になり、犯罪の増加や凶悪化が目立ってはいるが、長期の刑罰に対する経費の問題。人権擁護による死刑の廃止。等が叫ばれる中、高齢化社会に歯止めがきかず介護に回す税金の負担が重くのしかかり、地方に凶悪犯罪者のみを集めた自治区を作り、犯罪者の手による絶対に脱走不可能なドームを作り上げた。
 これらのメリットは 、罪を与える人間による監視の必要がなく、囚人たちが脱走を企てても絶対に不可能な構造になってはいるが万一のため、訓練された監視の人間を数十人
配置しておくだけで十分であり、食糧・生活物資もすべて自動で運び込まれるシステムの為税金は今までの十分の一ですむ。
 また、死刑を廃止できたという人権擁護団体も納得できるものであった。しかも一生刑務所から出られない人間たちに、刑務所内での自治に任せることで、自由を与えるという人道的な配慮もあるというすべてが理想的な方法であると一般大衆に説明された。
 当然これらのことは建前であって、実際に刑務所の中で起こっているのは、警察も法律もない本当の自由の世界であり、本当恐怖の世界でもあった。だがこれらの予想される出来事を人々は心の中に封印したままこの制度を発足させた。
 類を見ない凶悪な事件を起こしたアキヒトもこの刑務所に入れられた。気の小さいアキヒトはこの独立した世界がどのようなものかもわからず、恐怖におののきながら監視員の指示されるまま入り口から入ると、無人の5つの扉をくぐり抜け自由の世界に入っていった。
 この中には制度が出来て以来一般人が中に入ったことがない。すべてのものが自動的にコンテナが入り、囚人のいる場所まで自動的に運搬される。コンテナは高さ15センチにつぶれそこから排出される。この刑務所内のゴミもすべて焼却プレスされてここから排出される。囚人の死体も例外ではない。囚人は殺されようが病死であろうがすべてしたい処理抗の投げ入れらるが中ではゴミも死体もすべて焼却処分である。そのため死因が分からないため一般の人も中で起こっていることは知りようもなかった。
 この刑務所に入る囚人たちはすべて子孫を残さない処置をされる。すなわち去勢である。この刑務所は男女混同であるための処置であった。これも社会学者たちの結論から、自由の世界でより複雑な人間関係が形成され刑務所内の自然淘汰が進むことを想定している。
 入所早々はアキヒトは、この中でそのゾーンの一番の権力者に取り入り小さいながら居心地のいい環境をつくっていった。そのうちにアキヒトに好意を持つ女性が現れ、アキヒトの我儘に惹かれているようでよく尽くしてくれた。個々の勝手の分からないアキヒトは自分勝手な殺人を犯し、刑に服していることを忘れるくらいであった。その女性と同室で生活するようになった。
 この中では特にこれといった仕事もなく、時間を持て余すのでアキヒトは徐々にほかの女性にちょっかいをだしたり、極悪な囚人にからかわれたりしたときに、同室の女性に八つ当たりしだした。キョウコに対するようなひどいものではなかったが、次第にエスカレートしていく気配があった。
 アキヒトは性格的に人に頭を下げたりするのが好きではなく、強いものには徹底的に弱いが、強くてもアキヒトが心の中でバカにする人間には極力避ける傾向があった。徐々に刑務所内の人間関係を把握しているつもりであった。
 同居の女性は刑務所内でナンバー3の支配者の愛人の妹であった。女はこのことを言うとアキヒトに敬遠されてしまうと思いそのことは隠していた。
 ある日、アキヒトが女性をぼこぼこにしてしまい、ちょっとやりすぎたかな・・・と思ったときにはもう遅かった。目が覚めると女性は部屋にはおらず一人で寝ていると、屈強な男たちが部屋の中に押し入って来た。男たちは無言のままアキヒトを何もないコンクリートのむき出しの部屋に連れて行った。手足を鉄パイプに縛り付け抵抗すると無言のまま殴る蹴るの暴行を加えた。しばらくするとナンバー3の男が人相の悪い男たちを従えて入って来た。
 刑務所内では、元の職業や属していた組織はあまり関係が無くなり、もう2度と娑婆に出ることは無いということで新しい組織が出来ていた。これらは自分たちを守るために憲法のように文章で明確にはなってないが、決まっているモナがある。アキヒトの部屋ではアキヒトが法律であったように、その権力を持った人間が法律である、ということであった。
 ナンバー3は、部屋に入ってきてアキヒトに「お前がミホの妹に好き勝手やった奴か」と言った。アキヒトは「知らなかったんです。勘弁してください。」と懸命に謝罪したが、「知ってたらしなかった中意味か。こら、なめてんのかお前は。おい、腕の一本も千切っとけ」と言って部屋を出て行った。
 その後同居の女性が入ってきたが、アキヒトの懇願に対し無表情のまま「私たちもうお終いにしましょう」部屋を出て行った。
 屈強な男たちはチューブの様なゴムバンドでアキヒトの腕を縛り、血が止まるまでしばらく黙ってみていたがアキヒトに猿轡をかませると一気に鉈でアキヒトの手を切り落とした。縛ってあったため出血はそれほどひどいものではなく、男たちはこういう処刑に慣れているようであった。のたうち回るアキヒトをしり目に男たちは」無言のまま出て行ってしまった。
 死刑を廃止した日本で、麻酔もせずに腕を切り落とす処刑があるとは誰も想像できないであろう。アキヒトは次の日に足首を鋸で切断されているときにショック死してしまった。その遺体はバラバラのまま遺体処理抗に投げ捨てられた。

裁く

短編の小説ですが、現代の問題点を考えてもらえたらうれしいです

裁く

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-24

Copyrighted
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