放浪記

「彼のような男に任して本当に良いのですか?」
白衣の男の問いかけに、
「僕は彼よりあくどい男だよ」
白いスーツを着た男はニコッと笑った。
「はぁ・・・・」
白衣の男は分かりかねると言った感じだった。
「面白くなりそうだ」
・・・・・・・・・・・・
上木雅也(カミキ・マサヤ)それが俺の名前である。
黒い軽く生地の薄いダウンジャケットに青いジーパンと、何て事はない若者の格好。
ジャケットのファスナーは軽く上げられている。
背中には青い着物の生地の様な刀袋を、左肩側に刀の柄が来る様に背負っている。
ある男に俺は雇われた。
実際雇われているかも怪しい所だが。
その男の名前は一条聖耶(イチジョウ・セイヤ)。
名前に「聖」何て入っているがそんな物まやかしだ。
腹の見えない男、それが彼だ。
そもそも俺はこうやって普通に人々の中に溶け込んでいて良い人間ではない。
俺は罪人である。
その罪は強姦、簡単に言うとレイプ。
6人の女を犯した。
あの時はあれで良かった。
気持ち良いとかじゃない。
あれで。
・・・・・・・・・・・
物心ついた時には両親は既に離婚しており、俺は母親に育てられた。
父は会社の経営に行き詰まり母と離婚したと聞いている。
その母親は俺に対して普通に接っし、家事もこなしていた。仕事も夜の仕事とかそう言う訳でもない、普通の事務職だった。
只あの人は男癖が悪過ぎた。
アパートに二人で住み、その家族の空間にはいつも知らない男がいた。
同じ男、違う男。
夜に聞こえてくるのは男と女の喘ぎ声。
正直興奮した。
今でも母と男の肉の音を思い出す。
そんな環境でも高校は出れるもので、俺は卒業と共に会社に就職。
仕事は長くは続かず、19の時には引き篭もりになっていた。
母は俺を責めることはなかった。
だが男は変わらず家に呼んでいた。
21となった、そんなある日、俺は夜の闇を彷徨った。
前を歩いているのは会社帰りか、普通の女性。
俺は彼女を犯していた。
家に帰ると母と男が布団に一緒におり、
「おかえり」
と何も知らない母は言ってきた。

「ただいま」
挙動不審な俺の声。
だが、母は別段気にもしなかった。
不思議と罪悪感はなかった。
寧ろ解放されていた。
俺は止まらなかった。
一人が二人、二人が三人、三人が四人、四人が五人、五人が六人。
いつの間にか六人の女性を犯していた。
女性を犯しながら俺は涙を流すこともあった。
そして笑っていた。
滅茶苦茶だった。
存在が。
数ヶ月後、俺は逮捕された。
「遅いんだよ」
俺は呟いていた。
母は信じられないと言った感じで。
「嘘よね?嘘よね?」
俺に言ってきた。
「本当さ」
母は泣き崩れていた。
・・・・・・・・・・・・
罪を犯した者は裁かれる。
それが普通だ。
罪を償えると思っていた。
だが、一条と言う男はそうはさせてくれなかった。
「君は力が欲しいだけなんだよ」
その男は言った。
君が実験体になる。
君は身体能力が向上し、強くなる。
君を自由にしてあげよう。
その代わり、ある男を殺してほしい。
彼は俺にその様な事を言ってきた。
「好きにしろ」
その時の俺は自然とそう言っていた。
何かに抗うのがしんどかった。
「ありがとう」
その男は屈託のない笑顔を見せた。
この男は危ない、そう思った。
だが、実験を受け入れた。
何故だろう。
・・・・・・・・・・・
一条という男が殺して欲しい男は何のことはない、同じ実験をした男だった。
その男の名は海堂高則(カイドウ・タカノリ)。
快楽殺人者で十三人人を殺している。

そんな男に実験を託すところが、この男の何かを感じざるをえない。
条件は似た様な感じだったらしい。
「彼はお気に召さなかったのかな」
そんな軽口を叩く始末。
「俺はどうするかな」
そう言うと彼は、
「君は大丈夫」
と言った。
「どうして?」
「逃げていないじゃないか」
実験を終え、海堂は逃げ、俺は逃げていない。
そう言いたいのだろうか、
「もう良い」
「そうだね」
俺はこの男を深く考えない事にした。
・・・・・・・・・・
海堂をやれるのは同じ強化細胞を注入された俺だけ。
用意してもらった、黒く軽めの薄い生地のダウンジャケット、青いジーパンを穿く。
黒く無骨な丸型の鍔の付いた刀の納まった鞘。
それを刀袋に入れ、背負う。
「刀なんて使ったことがない」
「お好きなように」
一条は俺の言葉を流す。
「刀はなかなかの強度でね、気に入ると思うよ」
一条は勝手に喋る。
「はいこれ」
そう言って皮のカードケースを渡され、中から何かの柄のあるカードを見せる。
「何だよこれ」
「お金の代わり、後これも」
携帯電話を渡される。
「つまり」
「情報は携帯に」
「カードは?」
「泊まる所、交通機関、食事、色んなところで使えて便利」
「そうかよ」
「見せるだけで良いから」
「分ってるよ」
一々五月蝿い奴。
だが、面白い。
「じゃ~な」
「いってらっしゃい」
男はにこやかに俺を送り出し、
俺は動き出した。

カードを見せると一般に使われている店。
コンビニ、スーパー、ホテル。
一条の言ったとおり、全て無料で使えた。
冒険心で何度か最高級ホテルに泊まった。
その時、このカードが尋常じゃないと理解した。
だが、そんな物には直ぐに飽きた。
元々俺の欲しい物は手に入っている。
そう、誰にも劣らない力、身体能力。
それを手に入れた今、俺は他の物に興味はない。
驚く位単純、それが俺だ。
そう思っていたい。
・・・・・・・・・・・・
母の様子はと言うと、あれから男関係を断ち切り。
真面目に働いているらしい。
母なりに何か思う所があったのだろう。
そんな母を尊敬する。
あの人のせいで俺はこんな人生を歩む事になった。
罪の意識も何もかも。
だが、それでも親。
それでも母。
・・・・・・・・・・・・
一条の元を離れて数ヶ月、携帯に送られてくる情報を頼りに海堂を追う。
・・・・・・・・・・・・
「こんな所で寝泊りとはな」
廃墟と言わざるを得ない建物を見て俺は言う。
「待つとするか」
建物から離れ、海堂と思われる人物が来るのを待つ。
手配すらされていないと言うのに、案外慎重なんだなと俺は思ったりする。
数時間が経ち、夜。
「来ないか」
情報の通りという訳にはいかないだろうし。
そう思っていた時、男は現れた。
「買いもん帰りか」
ワイルドな服装、男の手には白い袋があった。
「行くか」
俺は廃墟に赴く。
「海堂!!!!!」
廃墟の中で声が響く。
「逃げんなよ!!!!」
声が暗い中に消えていった。数秒後。
「く・・・・!」
ナイフの切っ先が襲う。
「お前!!!!」
男が声を出す。
ナイフを避けると同時に背負っていた刀袋を両手に取る。
「誰だ!!!!」
ナイフによる切り付けを、刀袋で防ぐ。
そのまま刀袋でナイフを弾く。
「殺しに、来た!!!!」
そう言って男のナイフを弾き、距離を空ける。

「俺を、知ってる・・・・のか?」
「ああ」
そう言って俺は切り付けられた刀袋から鞘に納まった刀を取り出す。
「海堂・・・・」
鞘から刀を抜く。
「お前は何人殺した」
「知るか」
そう言うと俺は両手で刀を持つ。
斬り付ける。
「おっと」
海堂はナイフでそれを防ぐ。
「あの後も何人殺したか」
「クソ野郎」
海堂に罵声を浴びせる。
「お前にはない」
ナイフを払う。
「何が・・・・」
「人を殺したことが」
「だったら!!!!」
勢いに任せて俺は斬り付ける。
「殺せるかな」
刀とナイフが交差する。
海堂の眼。
「俺を」
「く・・・・!」
刃を俺は弾く。
「やってやる」
勢いに任せ斬り付ける。
「人はさ」
刀を弾かれ太股を切り付けられる。
「く・・・・!」
「経験からしか学ばない」
海堂は堂々としていた。
「そうかな」
刀を手に俺は海堂を斬り付ける。
「馬鹿だね」
「でも!!!!」
ナイフを弾き海堂の体勢が崩れる。
「お・・・・!」
「はあああああああああ!!!!!」
海堂の胸を刀で貫いた。
「が・・・・!」
海堂が吐血する。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
刀を握りつつ俺は呼吸をする。

刀を抜く。
ドサッと海堂が倒れ、その場が血の海になる。
「馬鹿は・・・・お前・・・・だ・・・・」
そう呟き俺は涙を流す。
「畜生」
その場に倒れ、暫くして携帯で報告した。
「はい」
女性社員に言われ、一条が出るのを待つ。
「そう、ああ」
一条と会話をし、電話を終える。
その後、救急車が来た。
「大したこと、ないのに」
そんな言葉は救急隊の声に掻き消え。
病院に搬送された。
騒がしい。
そう思っていた。
俺は。

あれから俺は自由の身となり、田舎で一人暮らしをしている。
バイトは勿論、力仕事。
この体になったのに頭を使ってどうする。
そう俺は思う。
また俺は罪を背負った。
こんな言い方はなんだが、女を犯すより重い物だ。
命は尊い、こんな言葉いらない。
生きていく上で邪魔なだけだ。
そう思う。
一条は俺に、
「ありがとう」
と言っていたが、何がだろう。
屈託のない笑顔。
あいつが世の中を動かしている。
それが腑に落ちない。
「また何かあったら、その時は」
「断る」
「そっか、残念」
「当たり前だ」
「またまた」
あいつは危険だ。
関わりたくない。
そう思いたい。
俺は。

放浪記

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  • 小説
  • 短編
  • 成人向け
更新日
登録日
2016-04-23

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