カオスなカオスな隠れん坊【CoCリプレイ】
※この小説は友人とのボイセに多少の改変を加えたリプレイです
※流れは変えていませんが小説という形をとるにあたり、会話等に誇張がありますのでご注意ください
※シナリオはこちらのものをお借りしています→http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=2600304
登場人物
小舘 明姫(コダテ/アキ) 裏賭博ディーラー
str10 con11 pow11 dex7
app12 siz13 int15 edu18
san&幸運55 アイデア75 知識90
耐久12 MP11 ダメボ±0
目星75 聞き耳75 図書館65 信用70 言いくるめ75
説得65 心理学85 隠す45 経理20 運転65 ナビゲート30
値切り15
持ち物:バック(スマホ、ワイヤレスバッテリー、ハンカチ、ティッシュ、化粧品、財布、メモ、ペン、ipod、イヤホン)
──────
PL:らいら
25歳。おっとりしているようでいて計算高く、真面目に生きるのは嫌いで要領よく生きてきた。結構な猫被り。本性は無鉄砲で破天荒。
仕事するのが嫌で大学院まで進んだが、2年目でめんどくさくなって自主退学。その後、裏賭博のオーナーと仲良くなりそこで雇ってもらうこととなった。
職業柄イカサマをすることもあり、手先は器用。プライベートでは走り屋やってます、ぶいぶい言わせてます。
NPC:赤坂凛桜(アカサカ/リオ)
明姫の高校の時の同級生で一緒に悪さしていた仲。今は女でありながら腕っ節を買われて暴力団員。なんだかんだ世話焼き。
①
「さーて、仕事終わりっと」
ぐ、と伸びをすると、あたしは車に乗り込んだ。
裏カジノだから24時間営業だけど、今日は他のスタッフ言いくるめて残業頼んで、さっさと帰る。昨日遅かったし早いところ寝たい。
自宅はここから車15分くらいのこじんまりしたマンション。
それなりに良い値で雇ってもらってはいるけど、正直広い部屋を借りたって掃除が追いつかない。一人暮らしならワンルームにキッチンと風呂とトイレがついてればそれで十分。
ただいまー、なんで柄にもなく挨拶してみたけど、部屋の住人はあいにくあたしだけだ。返事が入ってくる筈もなく、着替えてさっさと眠りについた。
………と、思ったんだけど。
深夜、メールの着信音に叩き起こされる。…おかしいな、普段からマナーにしてるはずなのに。ついにこのスマホも買い替えの時期なのか。
仕事の連絡だとしたら面倒臭いなぁと思いつつ、送信先を確認すると珍しい名前が表示されていた。
…『榎木夏美』。幼馴染みではあるが、中学の時に彼女が沖縄に転校して以来、たまに連絡を取る程度の仲。
最後に会ったのはもう10年以上前だけれど、少なくとも深夜に不躾にメールしてくるタイプではない。
件名も『一緒にあそぼう』。…どうしたんだ夏美、そんな気軽に遊べる距離じゃないぞ。東京と沖縄だぞ。
もはや違和感しか感じないメール。送信先を間違えたんだろうなーと思うと同時に、むくむくといたずら心が首をもたげた。
開いてみよう。人のメールを覗き見るのも趣味のいいことじゃないけど、中を見なきゃ間違いメールかどうかもわからないだろう。
…本文はない。画像が一枚添付されてるだけだ。
見ると、このマンションの入口の写真。なんだ、夏美こっちに里帰りしてるんだ。ならやっぱあたし宛であってんのかこれ、つまんないの。
…ん。なんか、変なもん移り込んでる………
…あれ。
これ、GIFじゃないよね。普通の画像だよね。
『それ』は、ゆっくりと近づいてくる。
暗くて何なのかはわからないけれど、少しずつ、少しずつ、画面は、『それ』で黒く塗りつぶされていく。
…そうして、『それ』が画面いっぱいになった時、正体がわかった。
少女の、笑顔。狂気じみた、嘲笑。
あたしの手から思わず、スマホが滑り落ちた。
そして、インターホンがなる。
こんな深夜に近所迷惑レベルで連打される。
……ドッキリにしてはずいぶんタチが悪い。相手したら負けだろう、寝よう、寝てしまおう。明日になったら夏美に苦情の連絡を入れよう。そうだ、動画でも見ながら────
…と、思いたかった。
あたしの横を、砕けたドアの破片が飛んでいくまでは、ドッキリだと笑い飛ばせたんだ。
そうして、振り向いた先には、
────中学の時と寸分狂わぬ夏美がいた。
『みぃつけた。次はあなたが鬼よ』
─────────
目が、覚めた。
ドアは吹き飛んでいなかった。
でも、どう考えてもあれを空想や夢だと笑い飛ばすことは出来なかった。頭が、酷く痛む。
…気分が、悪い。そうだ、こんな時はお気に入りの服着て出かけよう。気分転換しよう。あれが夢であれ現実であれ、部屋に引きこもってるのは気分がいいものじゃない。
冷たい水で顔を洗って、タンスを漁って気づく。一番気に入っていたオフショルダーのニットワンピがない。ついでに言うなら、一緒に履こうとしていたブーツもない。
…やっぱり、何かがおかしい。あれはどう考えてもドッキリじゃなかった。あんな物騒な物取りもいない。
誰かに相談しようと開いたスマホには、いくつかの着信やメールが溜まっていた。
送信してきたのは、職場の同僚4人と、悪友1人。
どれもこれも似通った内容で、『チェーンメールなの?』『趣味が悪いな』といった文面。
…あたし、メールなんかしてないんだけど。
本当に、何かがおかしい。あたしの知らない何かが、身近で起こっている気がする。
仕方ない。いいタイミングだし、昔の悪友に電話をかけた。
赤坂凛桜。高校の時の同級生で、今はとある組に所属する所謂ヤクザ。言うならば『一緒に悪さをした仲』。今でも時々連絡を取っては飲みに行ってるし、気兼ねするような相手でもない。
ワンコールで繋がる。電話越しの彼女はいつもと変わらない様子だった。
『あー、アキ?どうしたんだ、あの変なメール』
「それなんだけどー、ちょっとあたしもわけわかんないんだよね。酔っ払ってたとかじゃなく、シラフで変なこと起きてるっていうか。リオ、今仕事?」
『いや別に、サボる。普通の会社員してるわけでもないし誰も咎めやしないよ。話しにくいなら今からそっち行くか?』
「うん、お願い。今度飲みおごるね」
『了解、貸し一つな』
こういう時何も聞かないでいてくれる友人はもっと大事にしたいなーと思いつつ、散らかってる部屋をもそもそと片付け始めた。
凛桜が来るまで、10分もかからなかった。
「うす、アキ。いつぶりだ?」
「確か先月1回会ってるよね、あたしの職場で」
「あー、あのお前が猫被りまくってた時か?」
「ちょっと、処世術って言ってよねー?ああいう所に来る人に可愛がってもらえると何かと便利なんだもん。」
「中身は無鉄砲の破天荒なんだけどな」
「バレなきゃいいの、バレなきゃ。」
「まぁ昔からそうだし何も言わないけどさ…つか、変な事起きてるって言ってなかったか?」
「あぁ、そだね。いや、信じてもらえないだろうけど…」
そして、昨日の夜に起きたことを話した。
メールのこと、昔の友人のこと、無くなった服のこと。
凛桜は茶化すでもなく、気味悪がるでもなく、ただいつもと変わらない態度でその話を聞いていた。
「なるほどな…全部夢って片付けるには奇妙な話だよ」
「え、信じてくれるの?」
「別に、疑う理由もないし。アキは自分の利益になる嘘しかつかないしね、それだって猫被ってる時だけだし。」
「褒められてるんだか貶されてるんだか…そうだ、リオに届いたメールも見せてくれない?」
「別にいいよ、ほら」
凛桜のスマホに表示されていたのは、あたしに届いたのと全く同じ文面。違うところがあるとすれば、彼女の家の玄関が映し出されてるってことだろう。
一瞬、背中がぞわりとする。昨日のあのメールを嫌が応でも思い出す。
それと同時に、夢なんかじゃないと確信した。あたしはこんな写真撮らないし、そもそも仕事から帰ってきてからは家から出ていない。5人の家はそんなに離れてるわけじゃないけど、流石に深夜に行くのもそう簡単じゃない。
「…やっぱり、あたしのと同じだね」
「そうなのか?アキのも見せてよ」
「うん、ちょっと待ってね………」
何の気なしに受信ボックスから昨日の画像を呼び出した。
…ぶらり。
……ぶらり。
その画像が何なのか認識するのに、暫く時間を要した。
それは多分、脳が理解することを拒否したんだろう。
ぶらり。ぶらり。天井からぶら下がる紐と、その先で振り子みたいにぶら下がる、人の体。
薄暗い部屋だから細かい表情までは見えないけど、確実に苦悶の表情を浮かべているその顔は、昔の面影が残っていた。
あぁ、そう、これは、夏美の──────
「…おい、アキ?どうした?」
「おい、あき、どうした?」
「アキ?聞いてるか、アキ?」
「あき、きいてるか、あき?」
「いや、真似するなって!どうしたんだよ!?」
「いや、まねするなって、どうしたんだよ」
頭が、回らない。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。凛桜の言葉が理解出来なくて、反復する。凛桜は何を言ってるんだろう。わからない、何もわからない。知りたくない。分かりたくない。やめて、やめて、理解出来ないのりかいしたくないの、やめてやめてやめて………
「だぁぁちょっと黙れこの馬鹿アキ!」
ばちこーん、と。
あたしの頬に衝撃走る。と、同時に思考がクリアになる。
「ちょ、顔はなし!顔は商売道具だから!」
「うるせぇ、あんたがひたすらあたしの言うこと繰り返して話聞こうとしなかったんだろーが!」
「だからといって乙女の顔を殴ることないでしょ、リオのデリカシーなし!」
「緊急事態に何言ってんだよ!?おら、何見たんだよあたしにも見せろ!」
「あっ、ちょ、それは見ない方が」
止める間もなく、凛桜はあたしのスマホを奪い取る。
一瞬ギョッとした様子だったけど、パニックになることもなくそれを眺めていた。…うん、よく考えたら仕事柄こういうのは見慣れてるのかもしれない。
「これ、死体だよな?」
「うん、多分昨日話してた夏美だと思うんだけど…」
「…ちょっと電話してみたらどうだ。繋がるにせよ繋がらないにせよ、試すだけの価値はあるだろ。」
画像を閉じると、凛桜はスマホを投げ返してきた。
あたしもひとつ頷くと、電話帳から夏美の名前を呼び出してコールした。
…何度か鳴らしたが、繋がらない。無情に流れ出す留守番電話サービスの声を聞きながら、電話を切った。
「繋がらないなー。」
「…ふぅん…なんか、ほんとに洒落にならないな。オカルトじみてきた感じがする。」
「オカルト、ね…信じたくないけど、なーんかそんな感じ。ちょっと調べてみた方が良さそうだね。」
「つってもどうすんだ?まさかネットで調べるわけにも行かないだろ」
「そこはこの明姫ちゃん情報ネットワークだよ。職場に結構わけわかんない人達集まってくるし、話聞いてみようかなって。」
「わけわかんないって、お前…まぁ、ここまで来たら乗りかかった船だしな、付き合うよ」
さらっと付き合ってくれる凛桜に感謝を感じつつ、あたしは車のキーを取り出した。
②
相変わらずカジノは盛り上がっていた。
ここの常連は財政会から金持ちの道楽まで、いろんな世界に幅広く存在する。実際金を遊び道具の一つにしか考えていない連中だ、あたしの仕事はこいつらから金をかすめ取る事だしね。
「んで、どうすんだ?この人数みんなに聞いて回んのかよ?」
「流石にそんなめんどくさい事しないよ、多分何人かに聞けば芋づる式にオカルト好きな客がわかると思うんだけど…」
「オカルトですってぇ!?」
背後から素っ頓狂な声がかかる。
振り向けばそこにはゴテゴテと全身を怪しげなアクセサリーで固め、顔だけ化粧品塗りまくって真っ白なむしろお前の見た目がオカルトだよと言いたくなるオバサンがいた。
…見たことない顔だな、常連の誰かの妻かなんかだろうか。
「あらあらあらあらそれは大変よ!?フリーメイソンが裏で動いて貴方達に洗脳電波をけしかけてるのかもしれないわ、いいえイルミナティかしら?何にせよ裏で大きな組織が動いてることには違いないわね、あら、お嬢さんがたもしかしてもう洗脳されちゃっているの!?」
「いや、あたし達はただちょっとメールについて聞きたくて」
「メール!?メールって事はシオン修道会の秘密文書よ!!!そこには呪われた財宝の秘密が隠されてるって言われていてね、貴方達のところに届いたのもやっぱりイルミナティに選ばれた人間だからなのね!?でもそれはいけないわ、いずれ貴方達も組織の電波に染まってしまって自我をなくしてしまうわよ!」
「そうじゃなくてですね」
「そんな貴方達を私が助けてあげるわ!見なさいこのアルミホイルを、秘密結社からの怪電波を防ぐことが出来るわ!これでスマホをくるめばもう貴方達がおかしなものに影響されることはない、今ならなんとお値段1万円で」
「あんたの存在自体が一番怪電波だわ!!!!!」
………はっ。
衝動に任せてお客さんぶん殴ってしまった。いや、こんなこと如きで咎められる場所じゃないけど。
「な、何するの、やっぱりもう染まってしまっているのね手遅れだったのね、仕方ないわ、私ができるせめてものことはこのアルミホイルを置いていってあげること…これ以上あなたの自我が無くならないことを私たちの神、いいえ宇宙に祈り続けることね………」
…何か知らないけど、ひとりで喋ってひとりでアルミホイル投げ捨てて去って行ったぞあのオバサン。なんだったんだ。
「………なぁ、アキ、ここの客ってみんなあんな感じなのか?随分と頭の中が食い散らかされてるみたいだったぜ」
「……………金持ちってのは多分、みんなどこかしら狂ってるもんなんだよ、多分ね…仕方ない、もう一回聞きなおそうか」
「やっぱり放っておけないわぁぁぁぁぁ!そうよ、これがあったわ、この毒電波を打ち消すことが出来る結界を作り出す石があったわ!これがあれば怪電波があっても大丈夫、結界が電波を無害なものに変えてくれるのよ!貴方達にはこれを3万円で売ってあげるわ本来なら10万はする代物なんだけど私と貴方達の仲だものね負けてあげるわよ!このままだとあなた達死んでしまうわよ!?」
…結構全力で殴ったはずなんだけど、めげずに戻ってきたよオバサン。
凛桜に殴ってもらった方が良かったかな。それなら気絶してくれたかな。
「……………アキ、これ止まらねぇぞ…金払えば満足しておとなしくなるんじゃねぇ………?」
「そうだね、殴っても無駄だったもんね…馬鹿は死んでも治らないんだね、わかったよ…静かにしてくれるなら3万くらい安いもんだよ…」
静かに財布から3万円を取り出して払えば、オバサンはわけのわからないことを叫びながら去って行った。………もう何を言っているか理解する気力もないし理解したくもない。正直夏美の首吊り写真を見た時より疲れたかもしれない。
「………行こうか、リオ。ここで情報収集してもまたあのおばさんに行き着くだけだよね…」
「そうしようぜ…あたし、なんかすげー疲れた…」
客に手を振り無理やり笑顔を作って外に出た。
顔を合わせてひとつため息をつく。
「…どうしようか、他に届いた人のところでも行ってみようか?」
「それが一番早いだろうな。…誰に届いたんだっけ?」
確認しようとスマホを開いて、気づく。
左上の通知欄に『05』の赤い数字が表示されている。…バッテリー表示じゃないよね。やっぱりこのメール関連での異変が起きてるみたいだ。
「えぇと、高坂優斗、藤田恭平、丹波正弘、薄井幸子…だね。みんな一応仕事の同僚だよ。」
「今日休みなのか?」
「さっき見る限りは誰もいなかったよ。行くだけ行ってみようか。」
まずは高坂のアパートへ。案の定部屋でごろごろしていたらしく、すぐに出てきた。事情を話して夏美のことを聞いては見たが、彼女のことは知らないらしい。
「んー…宇宙人の仕業かなんかなんじゃねぇ?」
「お前がそれを言うなボケ!!!」
…思わずさっき買った石をアルミホイルごと投擲してしまった。
『ありがとうございます!』の声と共に、額にモロに石をくらった高坂が倒れた。………うん、不用品処分できてよかった。
藤田と丹波のところに行くも、同じく空振り。
最後に薄井のところに向かうと、部屋の中から声がする。
「ごめん、明姫…今、ちょっと会えないの…」
少し苦しげで、絞り出した声。
そして、鳴り響くあたしのスマホ。
……何か、あったんじゃないだろうか。
「…どうしようかなぁ、鍵こじ開けるような技術、あたしにないし………リオ、ちょっと蹴破ってくれない?薄井になんかあったのかもしれない。」
「蹴破んのか?別にいいけど…ちょっと下がっとけ」
安普請のアパートのドア。凛桜は一歩下がると、その扉を思いっきり蹴破った。
ドアノブが壊れて、勝手にドアが開く。
「ちょっと、何してんのよ明姫!」
…中にいた薄井は、げっそりした顔で布団にくるまっていた。
「今回酷い月のモノだから会えないってメールしたじゃない!?見てないの!?」
「知らないよ紛らわしいことしないでよ!死にそうな声出すから何かあったかと思うじゃん!?」
「あんたの事情なんて知らないわよ、普通に考えて体調崩れてるって思わない!?」
「今あたしは常識とか普通が通じない状態なんだよ!あ、そうだ、榎木夏美って知らない?」
「いや私の苦情は無視………?知らないわよそんな名前。というかめちゃくちゃ寒いんだけど。早く帰って、そしてドアの修理会社呼んで……」
…あ、泣かれた。…なんというか、名前の通り薄幸な子だ…
「わかった、そんだけ!修理費は後で払うからツケといてねー」
「ちょ、今ここで払っていきなさいよおぉぉ…………!!」
薄井の叫び声を無視して、さっさとアパートを去る。
情報がないならここに用はないもんね。
「……アキ、なんというか、お前って…ほんと、媚び売る必要ない相手には、こう…おざなりだよな…」
「人を見分けてるだけだよー。…あ、着信入ってる」
凛桜の呆れた視線をスルーしてスマホを確認すると、夏美の名前で着信が入っていた。かけ直すと、夏美の母親が出た。
「…何だって?」
「やっぱり、って言ったら悪いけど、夏美、自殺だった。昨日の夕方に首吊って死んだみたいだよ。なんか、周りで不審死相次いでて追い詰められたんじゃないかって言ってる。」
「ふぅん…ますますきな臭いな。…あれだったら、あたし今日泊まるぜ。ここで明日死なれてたら後味悪いし。」
気づけば、もう日が暮れていた。
あたしはその提案を素直に受け入れて、自分の部屋に向かった。
③
「なー、メシまだ?」
「うん、知ってたけど来客が我が物顔で夕飯の要求するんだね」
「いいだろ、呑み奢るって言ったのお前だし。それなら夕飯1食食べさせてくれるのも同じじゃねぇ?」
「自炊めんどくさいんだよ…それならお金払ってでも外に食べに行った方が楽じゃん」
「やだ、あたしこれ以上外出ねーぞ。完璧とばっちり受けた形なんだし。」
あれから数十分。自宅に戻ってきたけど別段変わったことも起きなくて、凛桜も凛桜で我が物顔でテレビを見ている。
警察に通報してみる?って話も一瞬出たけど、どう考えても学生時代から今に至るまで後ろめたい部分しかないあたしたち、国家権力になんか頼ろうもんなら命は助かっても未来がない。流石にそれはごめんこうむりたい、と言うより塀の中で過ごすくらいなら訳の分からないものに殺されるか、自分の手で終わった方がよっぽどマシ。
「ねー、リオ。」
「ん、なんだ?」
「夏美みたいにあたしが死んだらさー、さっさと逃げてね?」
「はぁ?何縁起でもないことを…それフラグじゃね?」
「いや、だってさ。この状況であたしが死んだらどう考えてもリオが犯人じゃん?それは洒落にならないでしょ。」
「げ…流石にそれは嫌だ…任意同行で引っ張られたとしても叩けばホコリしか出ねぇよ、あたし」
「そ。だから、死んだとしてもほっといてくれていいから。ここで死ぬなら、『それまでだった』って事だし。」
そう、『それまで』。
多分、あたしは凛桜が死んでも泣かないし、凛桜だってあたしが死んでも泣かないと思う。あっちがどう捉えてるのかは知らないけど、あたしは、この関係が酷く刹那的なものに思えて仕方が無い。
友情かどうかも、怪しい。ましてや恋愛なんかじゃ絶対にない。凛桜には命かけれる恋人がいるし、あたしはそういうのから縁遠い。せいぜいいても、一晩抱き合うだけの男。
ずっと続くと思うと同時に、明日にはどちらかがいなくなってしまいそうな、そんなあやふやで、不安定。
…まぁ、それをかれこれ10年近く考えつつも未だに変わらない関係を保ってるわけなんだけど。
「…一本吸うか?」
「ん、ありがと。…強いて言うならキャスターがよかったなぁ」
「うっせ、人がせっかくやるってんだから文句言うなよ」
ただ、明日あたしが死ぬなら、こうやって何も変わらない夜を過ごしたいとは思うんだ。
───────
夢を、見た。
聞いたことのない、男とも女とも、子供とも老人とも取れる声。
その声が呟く、『もーいいかい?』
あたしは答える、『まーだだよ』
あれ、これ、どこだっけ。
壊れたドアと、安普請のアパート。つい最近見たばっかりの景色。
そうだ、これは、薄井の家。
凛桜が蹴破った扉、まだ治ってないんだ。
黒い、黒い影がふらふらと薄井の家に近づいて。
行かなくちゃ、そうだ、行かなくちゃ、終わらない──
───────
目が覚めた。
冷や汗をぐっしょりかいていたけど、それよりも『薄井のところに行かないといけない』という謎の使命感が勝っていた。
ソファーで寝ている凛桜をたたき起こすのに、一瞬逡巡する。
…凛桜は、ぼかして言うなら…あんまり寝起きが宜しくない。
ぼかさずに言うなら、深夜に起こそうもんなら顔面を一発グーで殴られてもおかしくない。
いやでも流石に戦力なしで向かうのは無茶にも程がある。あたしは裏社会で生きるには切ないくらい武力がない。
迷ったけど、一発殴られるのを覚悟で凛桜の身体を揺さぶる。
「起きて、起きて、リオ、変な夢見たから出かけるよ!」
「んー………なんだよ、夢なんかで叩き起すんじゃねぇよ…」
「いや、だって薄井んちの夢だよ?なんか嫌な感じしない?」
「…薄井んち?」
そのワードで凛桜の目は覚めたらしく、すぐに起き上がった。
良かった、殴られなかった。
薄井の家の前には、ゆらゆらと揺れる黒い影がいた。
…あれ、よく見たらあれ………
「ちょっと、それ、あたしのワンピ!返しなさいよ!」
「ま、待てよアキ!」
思わず走っていってその影の方を掴む。
…しなきゃ良かった、と思ったのはその直後。
『みーつかっちゃったぁー……』
くるりと振り向いたその顔は、あたしと同じ顔。
そして、右手に握られた包丁。狂気に満ちた笑み。
『また、遊びましょう?』
そうして、ぐにゃりと輪郭が歪む。
ううん、空間そのものが一瞬歪んだように見えた。
「…………消え、た?」
そう、消えた。
あたしの服と、ブーツを残して、まるで存在自体が無かったかのように。
「…消えた、な。…とりあえず、驚異は去ったんじゃね?」
「え、だ、だって『また遊ぼう』って…」
「………大丈夫だろ、そんなに一人につきまとうほどあいつらだって暇じゃない。」
……?
凛桜の、なにか含んだ発言が少しだけ気になったけど。
とりあえず、服も返ってきた。多分、薄井も死ななかった。
今は、凛桜が言う通り…あたしを苦しめた一晩の悪夢は、これでおしまいなんだろう。
…日常の、壁一枚隔てた向こうには狂気がある。
あのおばさんが言っていたような、都市伝説なんかじゃなく、もっともっと、人を食ってしまいそうな狂気が。
「…リオ、飲みに行こう」
「え、今からかよ!?こんな時間から飲んだらぜってぇ夜が開けると思うんだけどよ…」
「いいの、行こう。というか行くから付き合って。」
「まぁ、別に明日も仕事らしい仕事もないからいいけどさ…」
…とりあえず、今は。
狂気から目を背けるために、日常のありがたみを感じるために、慣れたものに溺れよう。
明日が来るかはわからない、凛桜がいるかもわからない、あたしが生きてるかだってわからない。
でも、少なくとも今ここには慣れたあたしの世界がある。
それで、いい。確実な物がなくても、今、日常があれば、それでいい。
あたし達の影は、夜の街の光にかき消されていった。
【scenario clear】
【to be continued…………?】
カオスなカオスな隠れん坊【CoCリプレイ】
閲覧有難うございました。
キャラメイクの時点ではもう少しまともなキャラだったというか、「計算高い女の子」でした。結果的に初ボイセだった中の人の性格が丸出しになり、無鉄砲キャラと化しました。
探索でファンブル出しまくったのとどうでもいい所で初期値クリティカル出しまくった(おばさんに対する【こぶし】やら高坂に対する【投擲】やら)のとでカオスになった気がしないでもない。
シナリオ製作者様と、それを回してくれた友人と、見てくださった方々に感謝を。
また何かありましたらよろしくお願いします。