ゼダーソルン 新たな時代の中で (後半部)

ゼダーソルン 新たな時代の中で (後半部)

 一週間ぶりです、コハルです。
 前回はものすごくひさしぶりの投稿にかかわらず、お越しいただきありがとうございました。
 またあとがきを読んで挿絵を確認した方もおられたようなので、物語を読むのに参考になりそうな挿絵がある場所を示しておきます。
 序章の挿絵 主人公が暮らすアープナイム・イムの宙空間
 王都ハルサソーブの挿絵(写真) トゥシェルハーテの頭部(木粉粘土で制作)

新たな時代の中で (後半部)

 エイシャさまがどんなつもりでいるのかなんて、ぼくにはまったくわからない。
 だからと言って雰囲気が悪くなることはちっともなくて、ぼくらは速やかに部屋のまん中に置かれた椅子に着席。天井が台形型になってたり、仕切り板が透明だったりして、なかなか凝った造りだけど、それ以外にはなにもない。どうにも落ち着かない部屋だと思ってながめていたところ、エイシャさまが正面の壁をスライドさせて、この部屋の正体を見せてくれた。そこに現れたのはいくつかのモニターとタッチパネル。ビルやなんかの管理室にしてはモニターがすくなくて、物語にでてくる指令室みたいだけど。
「なあ、トゥシェルハーテ。ここって秘密基地なのか?」
 さすがマシャライ。ラウィンより年下なだけあって、質問に遠慮がない。
「そうね。その昔、セブ・ダーザインがこの星のあちらこちらに設置した、秘密の十七部屋のうちのひとつなの。三家ではポケットとよんでいるのだけど」
「マジか!」
 なんだ、意外と開けっぴろげに答えてくれるんだな。
「そっか。さっきのあの階段も、ぼくらで言うところの『トンネル』、転移行路みたいだったから、もしかしてとは思ってたんだ。そう、『トンネル』と言えば、あの本もおかしいんだよな。だって『ここ』はぼくとはちがう、関係のない場所だってトゥシェルハーテは言ってたろ。なのに、なんだって、あの本にはタヴィ・オン文字がつかわれてたんだよ?」
「それは」
 あれ、トゥシェルハーテが言葉につまった。だけでなく、椅子からと飛び跳ねたように立ち上がったぞ。
「もうっ、こうなることがわかってたから、あの本を読んでおいてほしかったのにっ! これじゃちっともお話が先に進まないじゃない」
「えっと? まって、トゥシェルハーテ」
 わっ、せっかくいままでの緊張がとけたみたいだったのに、キゲンが急に悪化、爆発したぞ!
「マシャライ、これって」
 あーっ、ダメだ。
「すごい! 伝説の賢者セブ・ダーザインが造った秘密基地に入れたなんて、俺の人生で最大の僥倖ってやつかもしんねえぞ。ところで僥倖ってどんな意味なんだっけ?」
 よくわかんないけど、一人舞い上がっちまってる。
「エイシャッ!」
 トゥシェルハーテの剣幕にエイシャさまもたじたじ、どころか、全身カチコチに固まっちまってんじゃないか。
「はじめに言っておくけど、本はキューンにしか見せてないし、まだ読んでもらえてもいないんだから。それからキューン。このボールを手をつかわずにひろって、ちゃんとエイシャにわからせてあげてちょうだい」
 わからせるってなにを、と聞きたいところだけど、そこはおさえて。女子どもの命令は、とかく素直に聞いておくにかぎるんだから。
 えっと。トゥシェルハーテがポシェットからとりだして床に転がしたのは、はずみやすい素材でできた小さなボール。手をつかわずにってことだから、まずプラップでボールをはじいて棒状の椅子の足にぶっつける。跳ね返りやすいボールは、たったそれだけでぼくの手の高さまで届くはずだけど、せっかくだからもうすこし。
 よし、ねらったとおり。
 エイシャさまが座る、椅子のひじ掛け部分にあたったボールを再度はじいて軌道修正。マシャライが腰を上げたために空席となった椅子の隅っこへあて、みんなの頭の上まで跳ね上がったところを、ぼくめがけておしもどすようにはじいてみれば。ほらね。手でひろいあげることなく、ボールはぼくの手の中へ。
「これでいい?」
「そうね。ちょっとよぶんなところもあったけど、エイシャにわからせるにはちょうどよかったみたいだわ」
 ぼくにはさっぱりだけど、なにかがわかったらしいエイシャさまは、見た目にも気の毒に思うくらいにうろたえてる。反対に、トゥシェルハーテのキゲンは直ったみたいだ。
「まさか、キューンはセブやシャパロと同族なのか?」
「そうね」
「信じられない。一体どこから、やっ、まさかキミが連れて」
 『だけど』と『いや、しかし』を繰り返し口にするエイシャさまの気持ち、ここへくるまでさんざんトゥシェルハーテに振り回されたぼくとしては、どことなくわかる気がしなくもない。ところで、それまでよろこびを噛みしめるのにいそがしかったマシャライは、さっきぼくがやってみせた妙技もすこしも目に入ってなかったようで。それでもエイシャさまのようすに気がつくと、うってかわってぼくらに抗議。『トゥシェルハーテも兄ちゃんも、あんまエイシャさまをいじめんなよ』なんて言い出したものだから、エイシャさまもぼくらへの疑問や質問をひっこめるしかなくなってしまった。
「キミが、トゥシェルハーテが、ときには母君の代理をつとめるほどに有能なことはわかっているよ。ディーガの能力はぼくらほかの人種には計り知れないところだし」
「だったらこの話はあとにして、話を先に進めましょう。すこし話が長くなりそうだけど、マシャライとキューンがわからないといけないから、はじめから順を追って話していくわ」
 待ってた。これでようやく、ぜんぶとはいかないまでも、そこそこ事情が見えそうだ。
「何十年も昔のことよ。孤児院にいたコルトリーの子を、当時ヒエロウィディックの市長だったタフォイ・ヨマ・レンヤが養女として引きとった。それがあのポウラウラだったことが、次期法王の候補者選びのときに外部へもれて、血統に重きをおく人たちが、ポウラウラを候補者から外すよう訴えたの。それがきっかけで、彼女の生い立ちが国中のウワサになって。みんなの心が刺激されて、いくつかの街や村でいさかいが起こったりもしたそうなんだけど。でも、それが、法王選出の任につく元老院の投票に影響することはなくって、ほかの候補者よりもたくさんの票を集めたポウラウラが次期法王に選ばれたの。それはそうよ。だってあれは秘密でもなんでもない、すこしでも政界とつながる者ならあたりまえに知っている、昔話のひとつでしかなかったのだもの」
 『コルトリー』という言葉は、公園にいたときに何度か耳にした。たしか国家統一前の、どの都市国家にも属してなかった人たちのことを刺す言葉で。
「ああ、そのことなら。俺の父ちゃん母ちゃん、姉ちゃんもまるで気になんかしてなかったぜ」
「なんで? マシャライも血と伝統を重んじるヨマ族ってやつなんだろう」
「まあな、けど。日ごろ姉ちゃんが世話んなってるトゥシェルハーテの母ちゃん、元老院議員のシューテルナージさまがポウラウラを気にいってるって聞いてたし。やっぱり政治家だらけのエイシャさまんちもポウラウラを応援してるって聞いたから、ウワサは気にならなかったんだ。それに、俺たちよりずっと小さいうちからヨマ族の子ってんで暮らしてきてたんだろ? そんなのもういまさらじゃんか」
 ふうん。時と場合と人によって意見がかわることもあるんだな。まあ、そうでなくっちゃ、いくつかの人種とたくさんの民族で成り立つ統一国家なんてやってらんないんだろうし。
「思ったより融通がきくんだ」
「兄ちゃん、ヨマ族をバカにしてねえ? あのな、本当はだれだって時代を逆行するつもりはないんだって父ちゃん言ってたぜ。けど、この国は、いまの形になってまだ百年も経っちゃないんだ。反対にこうなる前の都市国家の歴史は、どこも五百年以上あったって話だから、みんながいまが一番と思うのには時間がかかる。ってんで、いちいちもめるのはしょうがないんだって」
 たしかに五百年は長いかも。
「ところで、事態はそれだけではおさまらなかったんだ。ポウラウラは本当に運が悪い。なにせ即位式の前日に、国のいたるところが原因不明の水浸しだ。とうぜん式は延期。水害をうけた地域の現状は瞬く間に悪化した。だけでなく、十日もしないうちに別の地域で隆起が起こって、流通までもがストップだ」
「国中のみんなが不安になって。それでとうとうこれは天啓なんじゃないかって騒ぎだしたの」
「あっ、そっからは俺もよく知ってるぜ。自分たちになにかまちがいがあって、そこを正さないと災害はおさまらないとかなんとかってさ。みんなまちがいさがしに躍起になっちまったんだ。気がついたときには『次期法王に選ばれたのがポウラウラだったこと』がまちがいだったにちがいないってえっれぇ騒ぎ。それからはもうヒッチャカメッチャカ。ポウラウラとポウラウラを応援したやつとか、ポウラウラをかくまった法王庁なんかもひっくるめて、近場にいる役人がインネンつけられるわ、ボコられるわ。この前なんか、火ぃつけてやるなんて言って、むこう岸の行政特区へ強行突破しようとした連中がいたんだぜ」
 それは怖い。
「マシャライは、ほかのみんなはどうなの?」
「はっ? なに言ってんだ、兄ちゃん! その手の神さんをヨマ族は信じねえ!」
「ぼくも根っこはヨマ族なんでね」
「ヴィーガだって、聞こえるものしか信じないんだからっ」
 わっ、うわっ。
驚いた。マシャライとマシャライの家族はってつもりで聞いたのに、速攻で三人全員に返事を返されちまった。
「そう、それは、困るね。ものすごく」
 なんだよ。マシャライたちはともかく、トゥシェルハーテはいまさらだろ。こいつはもっとはじめのうちから、神和ぎ祭のことを怒って愚痴ってたってのに。
「ただしぼくらは少数派なんだ。それだけに、暴動はほかの街や村でもひっきりなしに起きていて、規模が拡大する一方なんだよ」
 そこは言われなくても。ここへくるまでに見かけた建物やなんかが壊れてた、あれがすべてを物語ってる。
「そのうえ国家非常事態宣言が発令されたとあっては、ぼくもじっとしているワケにはいかないだろう? そこでまず、ぼくとトゥシェルハーテにとっておさななじみのシャパロ・ダーザインと一緒に対策をねることにしたんだけど」
「トゥシェルハーテもそのつもりで、それなのに。おかしなことに、シャパロがとつぜん、この街の警邏隊に捕らえられてしまったのよ」
「それそれ! 街のみんなもワケわかんねえって、きのうの大捕り物が終わったあとは、ずっとその話で持ち切りなんだ。大体罪状が国賊の疑いってところからして怪しすぎ。ああ、兄ちゃんはやっぱ知らなさそうだから教えてやっけど。あの警邏隊はさ、さっき『神のつかい』のとなりに立ってたおっさん、元老院議員アバン・ヨマ・イーブラの息がかかってんじゃねえかって評判の厄介な連中なんだ」
 子どものくせに耳ざとい、と言うよりは、子どもの耳にも聞こえるほどの大騒ぎだったってことなのか。
「朝になってトゥシェルハーテんちにいったんだ。ったら、自分ならシャパロを助けだせるかも、ってトゥシェルハーテが言いだして」
「マシャライ、その話はもうすこしまって」
 そうか、思い出した。
「じゃあさ、シャパロって人がつかまったのはきのうってこと?」
 ハロビルの駐艇場で、トゥシェルハーテがぼくに言ったんだ。三年生の校外授業、フィフが見失ったグープのコマを、ぼくめがけてはじき返した。あのときの大人が『シャパロ』だったと。
「そう。でももっとおかしいのが、開催を明日にひかえたの神和ぎ祭を提案しただけじゃない、コルトリーの子『神のつかい』をここへよんだのもイーブラ本人だったということなの」
「うん、ぼくもだ。トゥシェルハーテたち、ヴィーガ族ほどではないにしても、神についての概念がほかとちがうヨマ族で、大のコルトリーぎらいと聞くイーブラが、なんの思惑もなしにとる行動とは思えない。きっとぼくらが激怒するようななにかをやらかそうとしてるんだ」
「想像つくわね。だからよくも悪くも三家のかなめのシャパロを人質にして、こちらの動きを封じにかかったんだわ」
「そんなに重要な人物なの?」
「あったりまえだろ」
「色々と事情があってね。ともかく罪状がそれでは、ぼくらの側からでは手がだしにくい。むこうも警戒して、こちらの動きを監視しはじめてるんだろうし」
 あのときの大人がシャパロなら、会って聞きたいことがある。
「それでも解決のための糸口はかならずあるものよ。だからこそ、監視の対象から外れていたのかもしれないトゥシェルハーテは、こうしてキューンを連れ帰ることに成功したわ」
 えっ、ぼく?
「どうせキミ一人じゃない。三家の支持母体をつかったんだろう?」
「ぼくがいるとどうなるんだ?」
「シャパロのかわりができるのよ」
 あっ、いま一番肝心なことが聞けたかも。
「兄ちゃんがか?」
「でなかったら、ムリしてあんな遠くから連れてなんかこなかったわ」
 あれを遠くって言うのか?
 ぼくだけじゃない。マシャライさえもがナットクいかないようすで顔をしかめたぞ。
「エイシャ、『神のつかい』はウェシュニップの出よ」
「わかった。どのみち監視の対象からはずしてはくれないだろうぼくやぼくの家族、キミの母君も、長い時間失踪するワケにはいかないんだ。そこまで考えての行動なら、そっちのほうはまかせるよ。キミの家、母君のシューテルナージさまにはぼくから話を通しておく」
「本当にっ」
 へえ、トゥシェルハーテの頬にパッと赤みがさして、今度こそ本当に椅子から飛び跳ねて立ち上がったぞ。笑顔でエイシャさまに駆けよって抱きついたりして。うれしそうでよかった、なによりだ、けど。
 ぼくのほうはまだ理解が追いついてなかったり。だからさ、マシャライ。そんなやる気満々の笑顔で、いまのぼくに手を差しだしてくんなよな。
「いいかい、トゥシェルハーテ。あれはテロにも対応している。『あいつ』がぼくらの味方についてくれれば、祭事場がある行政特区をぼくらの側で掌握できる。どんなたくらみが隠されてるか推測のしようもない神和ぎ祭を中止に追い込めるかもしれないんだ。だからトゥシェルハーテ、キミはかならず『あいつ』を強制起動して味方につけろ。そしてまずは『神のつかい』の正体とイーブラとの関係を暴くんだ」
「もちろんよ!」

ゼダーソルン 新たな時代の中で (後半部)

 今回でほぼ原稿用紙200枚程度になるのかなと。
 改稿する前よりだんだんと枚数というか字数が増えていってて、ちょっと不安になってもいるのですが、主人公たちもようやくハルサソーブを出るということで、あとはこれまでの章で乱立したフラグの回収に努めるだけ。頑張ります。

ゼダーソルン 新たな時代の中で (後半部)

転移行路に古代文字、そのうえプラップをやって見せろだなんて。どうなってんだと不思議がるキューンを尻目に語られたこの国の現状は…… 小学5年生~中学1年生までを対象年齢と想定して創った作品なので漢字が少なめ、セリフ多めです。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-22

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