海の世界でおよいでいる
暗闇の中でぼくの背中と腕にひれがついていく

ぼくの世界では沢山のひとと沢山の感情とが渦をつくり
そこへ巻き込まれることでぼくという人間が出来ていく

彼らの顔のしわ 筋肉のひとつひとつが作りだすものが
僕を「かなしま」せ「不安がら」せ「怒ら」せ「なか」せ「喜ばせ」る

暗闇のなかで抵抗をちから強くかきわけ前へすすむ
見上げればゆれながら太陽がその姿をさらしている
地上で見るよりも少し 恥ずかしそうにしてながら
ここにはぼくしかいない ぼくだけの海でぼくだけが泳ぐ
冷たく 鱗のようなこころの肌がぼくを包んでいる

またあそこに戻っていくことを ぼくよりもぼく自身の身体(からだ)のほうがよく知っているようだった

耳元でうなる水とあわの音、
口に入る塩からい味、
ぼくは勢いをましかき進んでいく、
今だけは余分なものを一切とりつけることもなく

ぼくはまた 戻っていく
明るい陽ざしの中 ぼくを作りあげる様々な顔たちと出あうそのときまで
そのときまで およぐ

腕のその筋肉が ぼくに またあそこで生きるちからを与えてくれていた
海はまだ きえることは ない
泡の弾ける 音がしていた

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-22

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