落水記 ~高崖より落つる少年 海底で老爺と遭う~

落水記 ~高崖より落つる少年 海底で老爺と遭う~

 どこか遠くで、波と風の戯れる音がする。
「…ここは――…?」
 潮に白く洗い上げられた頭を振って、少年は辺りを見回した。
 彼が倒れていたのは、白い洲(すな)が一面に敷かれた道の端。赤や白の珊瑚が、その道に沿うようにその巨大な枝振りを競わせている。
 そしてその道の向こう、ずっと続く白い洲の突き当たりには、朱に塗られた壮麗な大門が聳え立っていた。
 波の下にも都があるのだ、と昔、村の老婆の物語に聞いたことはあったが…
「…もしかして…龍…宮…?」
 少年はもう一度頭を振った。今のこの瞬間が、夢ではないと確かめるように。

「扇(シャン)!!」
 八つの口が揃って同じ名を呼ぶ。響きは雷霆(らいてい)にも似てすさまじい。
 少年は喉の奥に恐怖を飲み込んで、ぎゅっとその体を縮めた。
 ここは、南夷――と北の京師(みやこ)の人々が呼び習わす、南の海のほとり。そこに住む人は色黒く丈高く、刺青をまとい、男も女も戦に出る。その気質は、勇猛かつ情熱的。
 扇の家も例外ではなく、八人いる姉はすべて漁や狩りに出ることを好み、常日頃から鍛錬を怠らず、堂々たるその立ち居振る舞いは並の男よりも男らしかった。
 しかしそんな姉たちを上に八人も持つと、逆に末弟というのは要らぬ重圧を受けてしまうのかもしれない。扇という名のその少年は、親が思っていたよりも随分となよやかに育ってしまった。
「きゃあっ、八姐痛いっ!」
 頭を抱えても、日に焼けた逞しい長い左腕が扇の髪を掴んで引きずり起こす。掴んだのはひとつ上の姉で、殴る気満々の右拳が扇の視界の隅に控えている。対する少年の外見といえば、陽に灼けた赤銅の肌の色に似つかわしい、黒い髪と意志の強そうな太い眉、通った鼻筋と薄い唇、いまだ細いながらも無駄の無いつくりの長い手足――将来魅力的に育ちそうなその容貌、哀しいほどに見掛け倒しである。
「いい加減その口調なんとかしなさいよ!」
「そんなナヨナヨしてるから獲物の一匹も仕留められないんでしょ!」
 今年十五になった少年の背丈よりも姉達のほうがまだ高いので、視線は自然、上目遣いになる。その愛らしい様子さえ、姉たちには腹立たしいものに映るらしかった。
「え…でも、ウサギさんかわいそう…」
「さんづけ、やめーいっ!」
 風薙ぐ鉄拳。体重の軽さか、はたまた姉の豪腕か。少年の体は、いとも容易く宙に舞う。
 どしゃっ。
 地面に叩きつけられた扇は、けれど慣れっこになっているのか、よよと両膝を寄せた女の子座りで目にいっぱいの涙を溜めながら、姉達を見上げる。もし手ぬぐいがあれば、口の端にきぃっとくわえていたに違いない。
「七姐、ひどい…」
「ひどくない!!」
「大体ね」
 六番目の姉が、ずいっと顔を寄せる。
「アンタ、恥ずかしくないの!?誇り高き我等が一族の一員でありながら、獲物は取れない、戦うのは嫌い、喧嘩売られても買わない…それでも私達の弟!?」
「でも…」
「でもももくそもないっ」
 更なる制裁を加えようと姉達が詰め寄ろうとした時、五番目の姉が憤慨したように言い切った。
「もーいい」
 制止した五番目の姉を残りの姉達が怪訝そうに見る。
「…五姐…?」
「いい。解った。扇、お前がそんな意気地無しなら、姉さん達もう知らない。アンタなんか、私達の弟じゃない。試練の崖から飛び込んで、証の石を採ってくるまで帰ってくんな」
「五姐、それいい考えだわ」
「うん、そうしましょう」
 他の姉妹達も口々に賛成する。
 試練の崖とは、村はずれの海に面した、高さ数十メールくらいある半端ない高さの崖のことである。昔からこの村の成人の通過儀礼として使われているもので、其処から飛び降りると崖下の海面下に小さな洞穴があり、その岩棚に幾つかの特殊な石が置かれている。それを一人で採ってくるというのが、成人として相応しい勇気を持つことの証であった。
 扇たちの一族では、通常十才でこれを行う。
 だが扇は、もう十五才になるにもかかわらず、この試練にまだ一度も成功していない。
「いいわね、扇!」
 五番目の姉が、びしぃっと指先を扇に突きつける。
「証の石を採ってらっしゃい。それまで、帰ってこなくていいわ。もし…もし、そんなことできる勇気があるんだったらだけど。もし手ぶらで帰って来た日には…アンタ、覚悟しなさいよ」
 小揺るぎもしない指先に貫かれたように扇は身を竦め、それから辺りを臆病そうに瞳で見やる。八人肉親はいてもこの時ばかりは助けを出してくれる者はいなかった。
「一姐…」
 上手に座る、母親代わりの一番上の姉に涙眼を向けても通用しない。それどころか「今すぐお行き」と顎一つで急かされてしまった。確かに長い旅でも、危険な獣が居る場所でもない。十の子供が素手で行って来られる、村からほんのすぐの場所、準備も何もあったものではない。
「何か――持ってく物は…」
 それでも扇は僅かな時間でも引き延ばそうとするように、懸命に身の周りを見回しては詮無い物をあれこれと掴み上げてはまた戻す。
「持ってくって…試練の崖に行くだけじゃない」
 姉の声が、断ずるように頭上から響く。呆れを含んだその声に、涙目になりながらも扇は必死の面持ちで訴える。何故か、彼の心が騒ぐのだ。行ってはいけない、今は駄目だと。
「でも…でも!…なんだか皆と会えなくなっちゃいそうなの!」
 そんな精一杯の叫びも、姉たちにとっては試練を受けたくない子供の、突拍子もない思いつきに聞こえてしまう。むずがる幼子をあやすように姉たちは扇の頭に手を載せて、または頬を柔らかに撫でて言い含めようとする。
「ちょっと高さのある崖なだけよ、九つの子供だって飛び込むわ」
「眼をつぶってたって、あんな崖何ともないわ」
「試練の石だってすぐそこの洞に転がってるのよ、やってしまった方が案外簡単なものよ」
 違う、違う…!そうでは…そういうことではない!
 その悪い予感を上手く言い表す事など、体を使う事しか覚えてこなかった少年にはできるはずもなかったが、未来に対するおぼろげでそれでも確かな不安は時間を追うごとに大きくなってゆく。説明しようとして口ごもり、また口をあけては言葉を失う。何度か魚の様に口をパクパクとしてから、ようやくに――探してきた言葉はまた同じような内容。
「行ったら…あたし、帰ってこられないかも」
 ひょっとしたら、この言葉こそが不安を言い当てているのかもしれない。扇は奥歯を強く噛み締めると、背筋を昇る涙の衝動をこらえた。それ以上は、何も言う事が出来なかった。弱虫は要らないと言われそうな気がして。
「…子供のアンタは、帰ってこられなくなるわよ、代りに大人のアンタが帰って来る」
 心細さと不安がごちゃ混ぜになった扇のつややかな額の上へ、小さい順から八人の姉が送り出す親愛の口付けを落としてゆく。
「大人になって、帰っておいで」
 一番上の姉が最後にそう言って抱きしめて。――抱えられて高床の、戸口から外に放り出された。

 扇の村は浜辺の近くにある。その裏手の密林を四半刻も歩くと、大きな神木が目印の神聖な祭壇がある崖に出る。
 五年前もその次の年も。扇は十歳前後の子供ばかりを集めたこの跳躍の儀式の時に、足が竦んで跳ぶ事が出来なかった。普通、一度で跳ぶ事が出来ずとも二度目では必ず跳べる。
 …それを、五回も。
 崖に至る道すがらずっと泣き通しで歩いてきたので、普段森を駆ける時より倍ほど時間がかかった。目には涙の暈(かさ)がかかって前は霞むし、手足も普段なら出来ない下草の掻き傷が数本、細い赤を褐色の肌に引いていた。
「うっうっ……うっ…」
 呼吸をする度にしゃっくりが情けなく口をついて、それがまた情けなくて涙が溢れる。その繰り返しを祭壇の足元でしばらくうろうろとやってから座り込み、ついには泣く気力も果ててきて、扇はのろのろと立ち上がった。呆然とした頭で崖の淵に立つ。しばらくぶりに見たその高さはやはり体を縛り付けるのに充分で、燻っていた嗚咽もなりを潜め、今度は心臓がどくどくと恐ろしい速度で鼓動を打ち始めた。
「やっぱり…やっぱり、あたしにはダメ…」
 後ずさりしようと、引いた一歩が運命を踏みつけた。それは一枚の、綺麗な緑をした熱帯の植物の落ち葉。扇の裸足の裏を攫って、バランスが崩れる。前にある足はあるはずの大地を踏み――落とす。視界は抜けるように青い空へ。そして、暫く後の、高らかな水音。
 何はともあれ、扇は大人になったのだ。証の石は兎も角として。

 そして彼はいま、見知らぬ場所にいた。海の上でも、流された他の陸地でもなさそうな場所。見上げればはるか彼方に青い天井と其処から差し込むほのかな光が見える。辺りは不思議なほど静穏な空気に満ちていて、物音ひとつしない。
「何処なのかしら、ココ…」
 龍宮、と自分で呟いてみたものの、まさかそことも思われない。第一、海の中なら呼吸が出来ないはずじゃあ…。
 とにかく、扇は何か見慣れたものを求めて辺りを見回した。すると、朱塗りの壁が続く向こうに、ひとつ小さな庵のようなものが見えた。あそこなら、見知らぬ子供が勝手に入り込んだとしても、咎められたりはしなさそうである。
 扇(シャン)は、周りに人の気配を探しながらも、その庵へと近づいていった。
 外見は、特に変わったところはない。扇の住む村外れにいる、薬師の家が丁度これと同じような感じである。豪奢な朱塗りの壁が取り囲む敷地の側に、このような質素な建物が建っていること自体が不思議といえば不思議だが、小間使いの住処か何かなのかもしれない。
 庵の扉は、実に単純なものだった。枝を組み上げた枠に、板が打ち付けてある。その扉を、遠慮がちに叩く扇。しばらくすると、扉の向こうに人の気配がして声が聞こえた。
「どなたじゃな?」
 老人の声であった。
「あ、あの…あた…いえ、僕、扇と言います。えーと、僕、なんか、迷子になっちゃったみたいで…」
「…迷子とな?」
 驚いたような声とともに、ぎしっときしんだ音を立てて扉が開く。
 そこに現れたのは、仙人とはかくや、と思われるような白髪白髭の好々爺であった。老人は、上から下まで扇を眺めると、すぐに中に招き入れてくれた。
「おお、それはさぞ心細いことじゃろう。どれ、とにかく中に入りなさい。何か飲み物でも進ぜよう」
 扉をくぐると、中も実に質素な造りであった。人一人が住むのにやっとという広さで、不必要なものは何一つ置いていないように見える。とはいっても、扇の家も同じようなものであったので、彼自身は豪華な調度品というものがどんなものなのかはよく解らない。彼がもう少し"値打ち物"に馴染みがあれば、老人のこの家に置いてあるものが、一見質素だが、質の良いものばかりであることが判ったかもしれない。
 入ってすぐの、庭に面した寝室兼応接室兼の座敷に通され、扇は何気なく庭の植木棚に目をやる。棚そのものもまた素人大工のありふれた造りのものだったが、そこに植えられているものが多少、風変わりであった。真っ赤な枝だけが生えているもの、大きな筆の先だけが生えているようなもの(しかも、風もないのに揺らめいている!)、大きな布のようなものがたゆたっているもの、輝く白い実がなっているもの…どれも扇が見たことのないものばかりであった。
「…おや、盆栽が気になるのかね?」
 薄手の素焼き茶碗に、何か飲み物を運んできた老人が、楽しげに尋ねかける。
「え、あっごめんなさい…お気に触りましたか…?」
「いやいや、年寄りの趣味に興味を持ってくれる若者など滅多におらんからのぅ。寧ろ、嬉しいわい」
 ふぉっふぉっと笑う老人に、扇もつられて微笑む。
「どれも、見たことがないものばかりで…とっても綺麗」
「そうじゃろう、そうじゃろう。どれも遠くからわざわざ取り寄せたものでな。ほれ、あそこの隅にある大きな布のようなもの、あれは『昆布』と申してな、遠い北の海に生えているものじゃ。これはまだ人の丈くらいじゃがな、そこでは十丈ほどにもなり、まるで大きな林をなしているように見えるそうじゃ」
「十丈…!」
 扇の素直な驚きに気を好くしてか、老人は更に説明を続ける。
「それから、あちらにおいてあるのが『海菖蒲』。一見、普通の菖蒲のように見えるがな、南の海の浅瀬にだけ生えておる珍しい菖蒲じゃ。特に、この海菖蒲の花は、年に一度だけ白い花を咲かせ、その花が海の上を走る」
「走る…んですか?花が!?」
「正確には、風に吹かれて海面を滑る、といったほうがよいかな。大潮の日のほんの僅かな時の間だけ、小さな白い花が相手を求めて、海面を自由に駆け回るのじゃ。無数の花々が風に吹かれて走る様は、それはもう、妙なる美女の舞に似て、実に美しいものじゃよ」
「まぁ…とってもステキ…いつか是非見てみたい…」
 そうじゃろう、そうじゃろうと老人がまた笑う。その笑顔に何故かほっとして、扇は目の前に出されていた飲み物に手をつけた。すると。
 ぶほっ…っと危うく噴き出しそうになる。
「おや、口に合わなんだか?」
「あの、コレ…!?」
「ただのお茶…と言いたい所だが、どうやらお前さんが普段飲む味とは少し違うかの。何せ、海の水をそのままに使っておるから…そうか、お主は陸(おか)からの迷子か。はて、ちと困ったものじゃのう」
 老人は苦笑しながら席を立ちあがると、土間に置いてあった水瓶の隣にある、小さな壷から透明な液体を扇の茶碗に汲みなおして、塩辛さに目を細める扇の前に置いた。
「さあ、こちらは正真正銘の水じゃ。悪かったの」
 そのまま、自分の茶碗を引き寄せるとさも美味そうに一口啜る。今しがたそれに咽たばかりの扇は、ついその老人の一挙一動に見入ってしまうが、老人の様子は近所の隠居した老爺がのんびりと茶を啜る姿そのもので、特に変わった所など見つける事など出来なかった。
「…おじいちゃまは…陸の…人じゃないの?」
 目の前の光景とは裏腹な言葉が、驚きに開けっ放しになった扇の口から思わず零れた。咄嗟に気がついて口を両手で覆ったが、老人はさして気に留めた様子もなく、皺だらけの顔にひとつ笑みを浮かべると小さく、それでも確かにはっきりと頷いた。
「驚くのも無理はない、ここは海の上とは別の天地――そなたも話くらいは聞いて居るのではないか?」
「じゃあ…、じゃあ本当に此処って…」
「そう、龍宮にようこそ、じゃな」
 今度は、驚きの仕草で口元を覆って凍りついた。そんな扇の様子を眼を細めて頷いて、老人はまた一口塩辛い茶を口元に運ぶ。窓から蝶々のように、深海に住む鮮やかなホヤがひらひらと舞い込んでまた気まぐれに出て行った。
 呆然とする扇の目元に大きな涙の玉が浮かぶ――かと思うと、それはすぐに決壊した。ぼろぼろと次から次に溢れて出し、止まらない。
 もう、村には帰れない。そう思ったからではなかった。ただ自分は人里遠く離れた異界の地に流れ着いてしまった。その事実が、アンタなんかもう知らない、私達の弟じゃないと言った姉の言葉と重なり、自分の心に重くずしりとのしかかってくる。
 本来なら十才でクリアできるはずの試練。それを五年上回っても成し遂げられない自分。決して危険な場所ではなかったはずの試練の崖。今回も飛び込めなかった挙句に、滑って転んで海に落ちた。
 …その結果が、これだ。自分は、試練の崖にも部族の神にも見放されたのかもしれない。そんな臆病者は、もう「要らない」と。
 少年の脳裏を記憶が駆け巡る。八人の厳しく強く美しい姉たちと、年老いて隠居した母と父、のんびりと緩やかに日々を過ごす村人達、亜熱帯のむせ返る緑と白い砂浜、肌を射る白い日差しと箭(や)のようなスコールも。もう、自分の人生では許されないものになったのかもしれなかった。
「おお、おお。泣くでない、泣くでない」
 傍らの老爺の気配が立ち上がっておろおろしている。出会ったばかりの老人に悪いとは 思いながらも…いや寧ろ出会ったばかりだからこそ、気兼ねせずに思い切り泣いてしまったのかもしれない。自分はきっと、部族の神にすら見放されてしまったのだ。この上、誰に嫌われたとしても、大きな違いはないではないか。
「…帰りたいかえ、元の場所へ」
 老人が困り果てた声で扇に尋ねる。
 どうなのだろう、と泣きながらももう一人の自分が、自分自身へ問いかけた。目の前の現実にひどく傷つきながらも、自分の中にあるどこか冷徹な部分が老人の問いを受けて動き出す。
 …どうなのだろう。帰ることが出来るなら、自分は帰りたいのだろうか。帰るのだろうか。

――大人になって、帰っておいで。

 ふと、一番上の姉の優しい声が耳元で蘇る。混濁した思いの中で淡く浮かび上がったその言葉に、何かが扇の心の奥底で反応する。それはじんわりと彼の心に広がってゆき、やがてひとつの「決意」の形を取る。

 自分は――帰れない。…少なくとも、「大人」になるまでは。

 涙は段々に終息し、少し赤くなった瞼に縁取られた意志を宿した黒い瞳が、真っ白な顎鬚を捻る老人を映した。扇の漆黒の髪がさらさらと音を立て、老人の申し出を断った事を静かに告げる。
「帰りたくない、とな…――ふぅむ」
「ううん…あたし、帰れない。帰れないのよ…おじいちゃま…」
「…そうか。それなら、帰りたくなるまで此処に居ると好かろう」
 多くを語ろうとはしない扇に、それでも好々爺の顔が優しく笑む。
「それなら水を飲むと好い、喉が乾いておるじゃろう」
 勧める老人の指から甲にかけて美しい珠宝の刺青が入っている事に、扇は初めて気がついた。その視線に気がついたのか違うのか、老人は不意に思い出したかのようにその老いてもなお力強そうな手を扇に向かって差し出した。
「おお、そういえばまだお互いに名乗っておらんかったの。儂は、天巽(テンシュン)と言う」
 その手をおずおずと握り、扇はにっこりと微笑んだ。
「…あたしは扇。よろしくね、おじいちゃま」
 斯くして、一人の少年の異郷での生活が始まる。

 少年は様々なものに出会い成長してゆくが…それはまた次の機会に。

 -終-

落水記 ~高崖より落つる少年 海底で老爺と遭う~

龍宮シリーズの初期の作品。これから舞台になるはずの時間から(龍宮内の時間で)数年前のお話です。一番短いのでテストがてらUP。

落水記 ~高崖より落つる少年 海底で老爺と遭う~

九人姉弟の末っ子・扇(シャン)は臆病で意気地なし。高い崖から飛び降りる成人の儀式も満足に済ませられない。ある日姉たちに叱られて儀式の崖に上ったが…。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-22

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