不完全犯罪

 なあ、超能力で悪いことをしても罪にならないって話、聞いたことあるかい?
 そうか、知らないか。何故なら、刑法には超能力を罰する法律なんてないから、だってさ。
 え、そんなことより、そもそも超能力なんてあるのかって。そりゃあ、あるさ。実際のところ、みんな何かしら超能力を持ってるよ。だが、弱いんだ。それも、すーっごく、な。
 なんだって、自分では持ってる気がしないって。そりゃそうだよ。例えば、念力だと、平均して髪の毛一本を0.0001ミリぐらい動かせる。透視能力だともう少し平均値が高くて、0.001ミリぐらい透けて見える。予知能力なら、0.01秒先がわかる。
 え、それじゃ、ないのと一緒だって。違う違う。0じゃないってことは、あるってことだよ。0を何倍しても0だが、たとえどんなに小さな数でも、倍々に増やして行けば、大きな数になるだろう。努力次第だよ。
 なになに、そう言うおまえは、どんな能力を持っているのか、だって。ふふふ、いいだろう、見てな。
 さあ、どうだ、驚いたか。一瞬、おれの顔が消えただろう。山奥で10年間修行して、ついに透明人間になる能力を身に付けたんだ。これが、どれだけドロボーに役立つか、おまえにもわかるだろう。しかも、法律では裁かれないときてる。
 え、それなら、なんで今、こうして留置場にブチ込まれてるのかって。うーん、そこだ。透明人間になってる間は、実は、息を止めていなきゃならない。だから、まあ、がんばっても3分が限度だ。それでも、透明になってる間は、どんなに厳重な警備だってくぐり抜けられる。だから、息を止めている間に建物に侵入し、見回りが来たら息を止めてやり過ごす、という方法でいけると思ったんだよ。
 その日、おれは前から目を付けてた大金持ちの家に、正面玄関から堂々と侵入した。中に入ればこっちのものだ。息が切れそうになったら、適当に身を隠せる場所で一息ついて、また息を止めて前進する。そうやって、屋敷の奥深く入り込んだ、その時さ。
 突然、キャンキャン吠えられて、おれは思わず息を吸ってしまった。その大金持ちは、室内で小型犬を飼ってやがったんだ。姿が見えなくたって、ニオイはするからなあ。
 丸見えになったおれは、たちまち御用さ。住居不法侵入だってよ。侵入する際に、透明になっていようがいまいが、それは問題じゃないそうだ。しかも、おれの指紋があちこち残ってて、動かぬ証拠になったってよ。つまり、どういう方法にしろ、侵入した事実は間違いないと判定されたんだ。
 しかも、うーん、これは言いたくないなあ。ふん、別にもったいぶるわけじゃないさ。わかった、言うよ。猥褻物陳列罪にも該当するんだってさ。ああ、そうだよ。服は透明にならないからな。
 え、お気の毒だって。ふふん、そうでもないさ。刑務所に入ったら、また頑張って、息を止める練習をするよ。ただなあ、透明になっても、檻からは、出られないんだよなあ。
(おわり)

不完全犯罪

不完全犯罪

なあ、超能力で悪いことをしても罪にならないって話、聞いたことあるかい?そうか、知らないか。何故なら、刑法には超能力を罰する法律なんてないから、だってさ。え、そんなことより、そもそも超能力なんてあるのかって。そりゃあ、あるさ。実際のところ......

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-20

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