大蛇伝記
気が向いたら読んでね
人の意思はどこにある。
あると言うのはどこにある。
ない物に思いを馳せる必要は無い。
戦い。
それだけで。
所属している組織は「草薙(クサナギ)」。
俺達は日々「妖魔」と戦っている。
「早くせねば逃げられるぞ」
「うるさい」
俺こと青木叶羅(オオギ・カナラ)は刀を手に夜の闇を駆ける。
「巨体の割りに良く動く」
「ふふ」
刀に宿りし八つ首の蛇が笑う。
その蛇に苛立ちつつも黒く動く蜘蛛を追う。
「行くぞ!!!!!」
「ああ」
屋根から屋根に飛び移りながら蜘蛛を追いそのまま蜘蛛の背中に飛び移る。
「ぎゃあああああああああ!!!!!」
蜘蛛が声にならない叫びを上げる。
飛び移ると共に突き立てた刀が深々と刺さる。
「まだまだ」
それを引き抜き今度は頭に突き立てる。
蜘蛛が暴れ回る。
「足を斬れ」
「ああ」
蛇に言われなくても。
俺は蜘蛛から飛び降り、足を次々と斬り付ける。
やがて蜘蛛は斬り付けられたところから命の血を粉のように吹き出し、力尽きた。
この光景は不思議なくらい綺麗で、どんなに人を喰らおうと最後は皆光りの粉となり俺を落ち着かせる。
「皮肉だ」
「そうだな」
俺達はその場を後にした。
・・・・・・・・・・・
俺の父親は「八つ首神社」の神主で、好青年だった親父に母さんは惚れて結婚する事となった。
妖魔と言う存在が現れだした頃、親父は選択を迫られる事となる。
妖魔を殺せるのは「神器(シンキ)」のみであり、あろう事かその神器は家の神社にあった。
「大蛇刀」
伝説でも有名なその存在を宿していると言われる刀だった。
その刀に触れると声が聞こえる、だが、その声に耳を貸してはならない。
この一族に代々受け継がれてきた言葉だ。
妖魔による事件が多発し国と独立した組織草薙の申し出により、その掟は破られる事となった。
その蛇は一族に力を貸す代わりに条件を出した。
それは、
「お前の妻を差し出せ」
と言う残酷な物だった。
父はそんな条件は飲めないと言ったが、その話を聞いた母は、
「約束は守ってもらえるのですね」
そう蛇に言った。
「我々にとって約束は絶対だ、約束なきは只の愚かよ」
母の問い掛けに蛇はそう答えたそうだ。
・・・・・・・・・・・
その晩の母の事は良く覚えてる。
とても穏やかな顔で俺の事を見ていた。
ちょっと涙ぐんでるのは俺の気のせいだと思っていた。
瞳がゆっくりと閉じ、俺は眠りに付いた。
「おやすみ、叶羅」
その声が遠のいて行く。
そのまま眠りに付いていれば俺はあんな辛い目に会わなかっただろうに。
ふと俺は目を覚ました、何かに魘された訳でもない。
その日は不思議だった。
横でいつも寝ている父の姿も母の姿もない。
子供心に父と母がどこで何をしているのか気になり襖を開けた。
明かりの付いた道場の方に母らしき人影が入っていくのが見えた。
「お母さん・・・・」
不思議に思いつつ母親の姿に安心した俺は直ぐに道場の方へ走って行った。
凄くワクワクした、お母さんを驚かしてやろう。
お母さんに抱きついてやろう。
心をウキウキさせながら道場の扉を開けた。
「お母・・・・!」
まず見えたのは巫女服で、それに被さる様に大きな蛇がその女性を頭から飲み込む姿だった。
「・・・・・」
余りに突然の出来事に言葉を失った。
「お前が女の、子か」
その大きな蛇に言われて俺は気を取り戻した。
俺は涙を流し鼻水を垂らしながらその蛇に言った。
「お母さんを返せ!!!!!!」
「お母さんを返せ!!!!!!」
「お母さんを返せ!!!!!!」
「お母さんを返せ!!!!!!」
「お母さんを・・・・!!!!!!」
俺の叫びを聞きつけた父が俺を抱きしめてくれた。
その姿を蛇はジッと見ていた。
どんなに泣いても叫んでも、戻らない物があるのだと初めて知った。
その刀がどれだけ大切な物か当時の俺は知らなかった。
父の眠っている隙に刀を持ち出し折ろうとした。
母親を喰らった憎き蛇を殺してやろうと必死だった。
泣きながら石に叩き付けた。
もうそこら中に叩き付けた。
だが、その刀は決して折れる事はなかった。
汗に涙に、息切れに。
「満足か」
蛇が俺に言ってきた。
「お母さん・・・・」
自分の不甲斐無さに俺は泣いた。
「世話の焼ける奴よ」
蛇の声を聞きながら俺は泣いた。
そんな俺の背中を父が優しく摩ってくれた。
「下らん」
蛇はそう言葉を捨て、消えた。
・・・・・・・・・・
妖魔、それは今尚解明されていない存在。
一説には人の悪意、嫉妬心と言った物がそれを具現化させている共言われている。
妖魔は神の宿りし器「神器」でしか傷を負わせる事は出来ず、通常兵器は全くの無意味。
霊感なる物を持っている者は見える様だが、俺も含め大低の人は見えもしない。
神に力を貸してもらう事で見え、身体能力が向上する。
妖魔は人を喰らい命を喰らう。
・・・・・・・・・・・
草薙のちょっとした会議の席。
「誰がこいつを呼んだんだ~」
青龍の神器使いが俺を見て言う。
「来ちゃ悪いかよ」
そう俺は答える。
「お前のは妖魔より危険だろ~に」
「かもな」
「神器に手を翳せ」
「はいはい」
適当に返事をして傍らの大蛇刀の柄を握る。
「不愉快な気だ」
そう青い龍が言い放つ。
「邪神だからな」
その龍に臆することなく俺が言う。
「小僧・・・・・」
「ふふ・・・・・」
龍が俺を睨んでいると大蛇が笑う。
「何が可笑しい」
龍の問いに。
「いや、何、器が随分狭いと思おてな」
「てめぇ!!!!!」
「貴様!!!!!」
「似た物同士」
そう俺は茶化す。
「静かにして頂戴」
二人の会話に朱雀の使い手が入る。
「見苦しい」
炎の鳥が付け加える。
「そ、そうですよ、喧嘩はいけません」
玄武の使い手も口を挟む。
「尤もじゃ」
玄武が言う。
「ハッ・・・・!」
龍の使い手が白けたと言った具合に声を張る。
その後も会長が入るまでの間、大蛇と龍は睨み合っていた。
・・・・・・・・・・・
俺は現在二十一である。
「あの女に会いに行くのか」
左肩から刀の柄が来るように刀袋を背負い俺は彼女の元へ行く。
彼女の名前は識瀬香那(シキセ・カナ)、学生時代からの女友達。
「行っちゃ悪いのか」
「いや・・・・」
「何が言いたい」
「清い交際、か・・・・」
「五月蝿い」
蛇に男女の何が分かると言いたいが、このままずっと友達と言う訳にはいかないのかもしれない。
答えを急ぐ必要はない筈だ。
・・・・・・・・・・
「俺はお前を許さないからな」
「昔からそう言っていたな」
夜俺は刀に話しかける。
「他の神器使いは問答とか志なのに、お前ときたら」
「そういう物に酔うのが奴らよ」
「お前根性ひん曲がり過ぎだろ」
何となく微笑んでしまう。
個々の神によって契約は違う、俺の神が偶然人を喰わせろ、と言ったに過ぎない。
「試したのか」
俺の問いに大蛇は、
「只の嫌がらせよ」
そう言った。
・・・・・・・・・・・
色々ある中二年が経ち俺と香那は付き合い、初めて同士夜を共にした。
普段は一つに纏められている黒い髪、それが広がり綺麗に思えた。
「幸せだね」
そう彼女が言い。
「ああ」
彼女を抱き寄せ俺は答えた。
彼女は俺の仕事に理解を示し、支えると言ってくれた。
守る物が俺に出来た。
・・・・・・・・・・・
「九尾の・・・・」
「狐か」
俺に答える様に大蛇が言う。
白い狐が炎を纏い山へ逃げて行く。
「追いつくか」
気を感じながら後を追う。
「中々の大物だな」
大蛇が言う。
俺たちは、戦う、
今日も、誰か、
そう、
人の為、
に。
大蛇伝記