魔法人×高校生
最初は会話が少ないですが、後になると多くなるので読んでみてください。
窓から入ってくる春の風に意識をかっさらわれそうになるのを必死に堪え、クラス担任らしき強面の先生の自己紹介に耳を傾けていた。
「はい。今日から1年間この2組を受け持つ、西条 誠や。みんな、よろしゅうな。」
この自己紹介が今日最後の仕事だったらしく、名前と性格がパラドックス状態の40半ばの初老の男性教師は続けて、どこかダルそうな口調で言った。
「みんなの自己紹介は週明けにするから内容を考えておくように。え-、今から15分の休憩を挟んだ後、すぐに終礼するからな。では、解散!」
そう言い告げると、初老の男性教師は、あ―しんど・・と言って教室を出て行ってしまった。初老の教師が出て行っても暫くは沈黙が続いたが、それも長くは続かず金縛りが解けたように生徒たちが喋り始め、教室はあっという間に騒音の渦に巻き込まれた。しかし、ユウスケだけは沈黙を続けたままだった。
ユウスケの友達はこの学校に2人いて、1人は御手洗真治といって、重度のヲタクである。もう一人の方は島崎香苗というやつで、なかなかのやんちゃっ娘だ。2人とも世間一般に言う幼馴染というやつなのだが、腐れ縁で同じ高校に3人揃って進学したのである。
しかし、2人とも1組に配属されてしまい、雄介は実質的には今、一人なのである。孤独オ-ラが漂っているのである。そんな雄介を見かねたのか、隣の席に座る女の子が疑問形で話かけてきた。
「えっと、つきみ・・・ざと・・くん?」
この文を聞いた瞬間ユウスケは大いに叫んだ、胸中で。
・・・はい。出ました!毎年恒例の、その名も~読み間違いでshow!イエ-イ!
ユウスケはやけくそになりながら、胸の内で一人MCをしていた。まったく・・、ウンザリだ。毎年、毎年・・。ユウスケはこのまま最高の笑顔で、はい!何でしょう?と振り向いてやろうかと本気で思ったが、これから3年間この学校でお世話になるので3年間も‘つきみざと,で名が通るのは猛烈に嫌なので、軽く引きつった顔を女子生徒に向けて言った。
「みんな最初はそう読むんだよね~。でもこの字は‘やまなし,って読むんだ。よろしくね!」
今日は何回自己紹介したのだろうか。1回、2回、3回・・・考えるのが、そこはかとなく面倒になり数えるのを放棄する。今は学校が終わり、自転車で自宅に帰っている途中だ。自転車に乗って学校を出てから、すでに5分が経過している。
そして、ユウスケは腰をサドルから浮かし、立ち漕ぎの姿勢になり叫んだ。
「さ-て!今日もきやがったな!デスゾ-ンめ!上までの距離、およそ150メ-トルぅ!」
そう叫び終えるのと同時に自転車のペダルを全速力で漕ぎ始めた。
ユウスケがデスゾ-ンと呼んでいるのは、総距離150メ-トルの螺旋状に延び、3つのカ-ブを描いた角度の急な心臓破りの坂(ユウスケが小さい頃広めようとしたが、結局流行らなかったので、ユウスケだけが使っている)のことで、ユウスケの住む住宅地はこのデスゾ-ンを登った先にあるので、避けては通れない道なのだ。
下で助走を付けたお蔭で60メ-トル地点までは、難なく登ってこれた。しかし、ここからがキツイのだ。ユウスケは90メ-トル地点に差掛る頃には、額は汗に塗れ、息が上がっていた。
「ぜぇぇぇ・・、ぜぇぇぇぇ・・・し、死ぬ!川の向こうにお祖父ちゃんが見える・・」
もちろんながら、坂の途中に川なんて流れているはずがない。あるのは真っ黒なコンクリ-トと螺旋状の坂に沿って上まで咲く桜並木のみなのだ。
ユウスケの自宅から学校までは、歩いても30分足らずで着くので、母親からは度々
「そんなに辛いなら、歩いて登校すればいいのに・・」と言われるのだが、それが決して出来ない理由がユウスケにはあった。
それは・・寝たい。できるだけ長く寝ていたい。
ただそれだけのためにユウスケは毎日の学校帰りに、こうしてお祖父ちゃんと面会する羽目になっているのである。
そうこうしているうちに、100メ-トル地点まで達成し、もうすでに2つのカ-ブをクリアしている。ユウスケは最後のカ-ブを曲がり、ゴ-ル地点を見るべく重たく俯いていた顔を一瞬上げた。
一瞬で顔を下げてしまったので、よく確認できなかったが、ユウスケの視界に何かが映ったような気がした。
もう一度、顔を起こすとユウスケの視界に驚くべきものが映った。
魔法人×高校生
貴方に読んでいただき光栄です。これからもよろしくお願いいたします。