猫さん
「おまえはいいよなー…毎日気楽で…」
雲ひとつ無い綺麗な青空が広がる中、俺は会社の駐車場でタバコを吸っている。
社内は禁煙。
喫煙者たちは駐車場にある灰皿の前で一服をするのが習慣になっている。
「にゃー」
俺の目の前…というより足元にいるのは、いつも遊びにくる近所の猫。
名前は「猫」と俺は呼んでいる。
「猫さん、今日は何回お昼寝したんですか?」
俺はしゃがみ込んで猫を見つめる。
「にゃー」
「俺はもう仕事疲れたよ」
「にゃー」
「帰りたいよ」
「にゃー」
こいつは、俺の仕事中の唯一の癒し。
「猫さんはモフモフですにゃー」
そう言って猫を撫でる。
「………」
「………」
「…なっ!」
気配を感じて後ろを振り返ると…
「猫相手に会話してる…へぇ…」
一番知られたくない相手がそこに立っていた。
「…最悪だ…」
俺はボソッとつぶやいた。
「そんな可愛いとこもあるんだねー」
すごく嬉しそうに…キラキラした瞳で見てくるのは…
「いないから、ここかなぁと思って!来てみて正解だったよ!」
付き合い始めて間も無い彼女だった。
彼女とは社内恋愛中。
もちろん、他の連中には内緒にしている。色々面倒だから。
「…いつからいた?」
若干、声が震えてる。
動揺を隠しきれていない。
「ん〜…猫さん、今日は何回お昼寝したんですか?辺りから?」
そう言ってニコッと微笑む彼女。
ほぼ最初っからじゃないか!
俺は顔を手で覆った。
まだ付き合い始めて間も無いから…まだカッコ付けていたかったのに…くそぅ…
「耳、真っ赤だよ?」
「うるさい」
「へへっ。そういう可愛いとこもあるんだね。そういうとこも好きだよ?」
「…‼︎」
こいつは何で平気でそんなこと言えるんだ…本当に敵わない…
「あ。部長が呼んでたから迎えに来たんだよ。早く行こ?」
そう言って俺の手を取り、歩き出す。
「…はぁ…本当疲れる…」
「え?」
「なんでもない。バレるから離れろ」
「…はいはい。本当は嬉しいくせに」
「う る さ い」
そんな2人の背中をちょっと嬉しそうに見つめている猫さんだった。
「にゃー」
end
猫さん
ご覧いただきありがとうございました!
可愛い人たちを書きたかったんです。
可愛さしかない世界…優しさで溢れてますね。