『金環食』&『東京スカイツリー』

東京に住んでいる友人から「金環食を観た。次にこんな規模で観ることができるのは300年後の2312年。おまけに、明日は東京スカイツリーの開業だから、連日、『上を向いて歩こう』状態だよ」と相変わらずのコピーライターの乗りでレポートが届いた。

日本のニュースや新聞では、『金環食』も『東京スカイツリー』もほとんど毎日のように露出されているから、気にはしていた。それにしても、日本ほど天体ショーのように金環食だと言っては多くの人が観測用のグラスを買い求めて空を眺め、東京スカイツリーが開業だと言っては、東京どころか日本全国から早く展望台に上がってみたいと同じ行動をするというのは、ここアメリカでは考えられない。やはり、日本という国は平和で恵まれているんだなあと、あらためて感じるのである。

それにしても、友人の言う『上を向いて歩こう』状態というのは面白い。僕は、小さい頃から大空を飛ぶことに憧れ、宇宙を旅してみたいと思って現在に至るという人間だから尚更だ。実際、日本に住んでいるときの1986年にハレー彗星を観た。76年の周期で地球に接近するハレー彗星だ。まだ、20歳半ばだった僕は、次にハレー彗星を観ることができるのは100歳まで生きなくてはならないと思って、南半球までの追っかけを敢行したのだった。

ただ、僕は天文ファンでもなく、単に大空を鳥のように飛んでみたい、宇宙を旅してみたいと思う純粋な気持ちの延長線上で、ハレー彗星の光輝く尾っぽを追っかけたのだった。言ってみれば、夢と冒険のロマンだ。だから、多くの日本人が地球と太陽の間で月が繰り広げる『金環食』を観たいという気持ちも、日本一高い『東京スカイツリー』の展望台に大空を飛ぶ鳥のように上がってみたいという気持ちも、純粋な夢と冒険への憧れからであれば理解できる。

『トム・ソーヤの冒険』などの作品で知られるアメリカの代表的作家のマーク・トゥエインは、まさに夢と冒険をアメリカどころか、世界中の子供たちに与えてくれた作家だ。彼は、ハレー彗星が地球に接近した1835年に生まれたこともあり、「私はハレー彗星と共に地球へやってきたから、次にハレー彗星が来たときに去っていく」と吹聴していたと言う。実際、マーク・トゥエインは、次にハレー彗星が地球に接近した1910年にこの世を去っている。

僕は、そんな風に宇宙へ帰って行ったマーク・トゥエインに共鳴するのである。僕が100歳まで生きて、ハレー彗星が次に地球に近づいたときには、「僕も宇宙へ一緒に連れて帰って」とハレーにお願いするつもりだ。

『金環食』&『東京スカイツリー』

『金環食』&『東京スカイツリー』

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-22

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