ゼダーソルン 新たな時代の中で (前半部)

ゼダーソルン 新たな時代の中で (前半部)

なんということでしょう。
PCの故障だとか、買い替えだとかがあったとは言え、前回の投稿から半年以上経過しての投稿となりました。
毎回読んでくださってる方には本当、申し訳ないです。ごめんなさい。
今回の投稿分は、字数がいつもより多くなってしまったので、二つに分けて投稿することにしました。

新たな時代の中で (前半部)

 『神のつかい』の挨拶を聞き終えて、公園を後にする観客たちの中へとまぎれこんだぼくらは、その流れに乗っかって、すぐ近くの商店街へ移動していった。
 そこは、いくつもの下り坂と階段が組み合わさって、坂下の住宅街まで続く表通りと、その裏手にある、崖の斜面に立ち並ぶ建物のテラスやなんかを橋と階段でつないで造った裏通りとでなる商店街で、じつは地下街もある、このあたりで一番人気の繁華街なんだそうだ。
「ずいぶん変わったショッピングモールだな、裏通りはまるで迷路だ」
 ぼくが住むティンガラントでこんな街並は見かけないからめずらしい。けど、この王都で生まれ育ったトゥシェルハーテたちには見なれた景色にちがいなくって。
「ハルサソーブは渓谷だった場所に造られた街だから、たくさんの谷や崖がそのまま残されていて段差が多いの。シュノーカに乗るか地下街へ降りるかしないと行き来ができない場所もあるくらいだから、こんなのにはなれっこだわ」
 せっかくだからすこし見て回りたいとも思う、ぼくの気分をみごとにシラケさせてくれた。もっとも飛び入りで合流した小さなシーヴァンも、はしゃいだようすはまるでない。それよりは、いまこそ実力を発揮せんと言わんばかりに、一人服飾店の中へ入っていき、トゥシェルハーテがマシャライから受けとった服に着替えるために必要な手筈を速攻で整えてきてしまったんだ。
「小さくったってシーヴァンもヤック通り商店街特務隊の一員だかんな。そのうえ特務隊長の仕込みがいいとくれば、そのへんのガキよりはずっとつかえるってもんさ。あっ、ちなみに特務隊隊長はこの俺な」
 商店街に特務隊って必要だっけ? いや、その前に、子どもばっかの特務隊なんてありっこないから、ごっこ遊び程度のものなんだろう。
「俺はマシャライ・ヨマ・ワズー、六歳だ。姉ちゃんがトゥシェルハーテんところで家政婦やってて、だからトゥシェルハーテとはずっと前からのおさななじみなんだ」
 トゥシェルハーテが着替え終わるのを、店の裏庭で待ったぼくとマシャライは、ここでようやく自己紹介を交わすことができた。
「あっ、言うなよ。身長の伸びがいまいちってのは、俺が一番わかってんだからさ。おかげでいっつも年下に見られちまうんだけど、ウソじゃないぜ、ちゃんとトゥシェルハーテと一歳ちがいの六歳だ」
「するとトゥシェルハーテは七歳? 六歳に七歳って、それじゃ二人とも妹のラウィンとおなじくらいなんじゃないか」
 シーヴァンなんてラウィンよりずっと年下ってことになっちまうんだぞ。ないないっ、それはない!
「兄ちゃん、妹がいんのか」
「いるにはいるけど。いや、あいつのことよりそっちが」
 だからありえないんだって。
「なんて言うか、できすぎ?」
「できすぎって?」
 ぐんと背をのばしてぼくを見上げる、そのしぐさはたしかに子どもっぽいか。いや、だとしても。
「あっ、トゥシェルハーテか。うん、トゥシェルハーテは俺らとちがって特別なんだ。ヴィーガってちょっと変わった人種でさ。それに偉い人の孫で金持ちの子どもだから勉強もすごいんだ。政治とか、ふつう大人しか知らないようなこともいろいろ知ってんだぜ」
 よかった。マシャライにぼくの正体を知らせてなかったおかげで、話がこじれない程度にカンちがいしてくれた。
「やっぱり、そんなとこだろうと思ってたんだ。それでヘンに知恵が回って大人びてたりするんだな。そうだ、あれっ。みんなとちがって大げさにドレスを着てたりするのも」
「あー、あれな。家、ってか、ヴィーガの伝統ってヤツらしいぜ」
 どうりで。
「そんで兄ちゃんはどうなんだ?」
 そこが問題。こうなるとじつに言いにくい。
「ぼくは、名前はサン・シェ・キューン。歳は十三歳だ」
「十三? ホントに?」
「ウソ言ってもしかたがないだろう?」
 思ったとおり、いま絶対にナットクいかないって顔したな。そう、マシャライの話が本当だったら、十三歳はもっとずっと大きい。きっとぼくが思う十五、六歳な感じなんだろう。そもそもここにいるみんなはぼくとはちがう、トゥシェルハーテが言うには、ぼくらアープナイム・イムとはかけはなれた、別の種族ってんだから、当たり前なのかもしれないんだけど、それにしたって発育速度がちがいすぎやしないのか。マシャライもトゥシェルハーテも、ふつうに七歳のラウィンよりずっと背が高いし体つきもしっかりしてる。物知りだし頭の回転も速くて、六、七歳どころか八歳、九歳くらいに思えるぞ。
「俺も小さいけど兄ちゃんは小さすぎだ。ガタイももっといいのがふつうだろ? これだと大まけにまけても十歳くらい、そう言や髪もまっ赤で、肌もフニャフニャのベトベト。いちいち変わってんだよな、一体どうなっちまってんだ?」
「ちょっ、勝手に人の腕をもみくちゃにすんなよ」
 たとえば固いゼリーくらいの弾力があるトゥシェルハーテやマシャライの肌は、汗もほとんどかかないらしくてツルツルしてる。それにくらべて、いまのぼくは体中が汗まみれ。いつもに増して肌がフニャフニャのベトベトで、こんなにちがえば追及したくもなるよなあ。わかるけど、この街の身分証明書を持たない身で、正体を明かすワケにもいかないし。
「めずらしいけどいなくはないわ。だってシャパロがそうだもの」
「おっ。はえぇな、トゥシェルハーテ。もう着替え終わったんだ」
 わっ、驚いた。店内にいたはずのトゥシェルハーテの頭が、とつぜんぼくら二人のあいだにわって入ってきたものだからビビッちまった。けど、ふうん。ロングドレスから、かわいらしい薄黄色のワンピースに着替えたトゥシェルハーテは、これまでのすました雰囲気がやわらいで、ラウィンほどではないにしても幼く見える。
「あっれぇ、シーヴァンがいなくねえ? トゥシェルハーテと一緒だったはずだろ」
「国家非常事態宣言の意味もわからない、小さなシーヴァンを巻き込むわけにはいかないもの。ぬいだドレスといっしょに店でまつよう言っておいたから、用事がすんだところでマシャライがむかえにいってあげてちょうだい」
「それはいいけどさ」
 よし、トゥシェルハーテの登場で話がそれた。これで追及されずにすみそうだ。
「それじゃ、お互いの名前もわかったところで、あらためてよろしくね。キューン」
 えっ、あれっ?
「名前、言ってなかったっけ?」
 しまった。自己紹介がまだだったのはマシャライだけじゃなかったのか。そう言やトゥシェルハーテがぼくの名前をよぶのはこれがはじめてだったかも。これはバツが悪いなあ。

 トゥシェルハーテが合流したところで裏通りの橋渡し商店街へ。シーヴァンがあずかった伝言どおり、『エイシャ』が待つ『第四ポケット』なる場所へむかうべく、下へ下へと降りていく。いくつかの橋と階段、建物のテラスや外ろうかを通りすぎたところで目の前に現れたのは、半分が崖に埋まった形で造られた商業施設。この施設には、地下街へ通りぬけできる通路もあって、色々とおもしろそうだ。もっとも観光や社会見学できたんじゃないぼくらが、たくさんの人でにぎわうという地下街へ入ることはなくって、先頭をいくシェルハーテが足を進めたのは、施設内にある小さな店の中だった。
「どれの品物にもキレイな飾りがついているでしょう。ここはお祝いやお祭りにつかう剣やナイフを売る店なのよ」
「俺たち、ヨマ族の伝統工芸ってやつだ。けっこう有名なんだぜ」
 店側には了解済みとばかりに、店内奥にある扉を開けたトゥシェルハーテがつぎにむかったのは、扉を入ってすぐのところに設えられた床下へとのびる階段。手すりにそえられた機械に、トゥシェルハーテが例のスティック型端末を差し込んだってことは、本人確認がないと通れない仕組みになってるんだろうな。
「なあ、トゥシェルハーテ。俺、エイシャさまになんか一度も会ったことねぇんだけど、いいのか?」
「かまわないわ。いま大切なのは、お行儀をよくして、なにもしないでいることじゃない。それに、このあともマシャライに手伝ってもらうことがいくつもありそうなの。だから特別」
「そりゃっ、なんかワクワクすんな!」
 いや、メイワクだろ。
「へへっ、その顔つきじゃ兄ちゃんはなんもわかってないんだろ? 教えてやっからよおく聞いとけ。あんな、エイシャさまってのは俺たちヨマ族の中でも貴族中の貴族の家の出、そのうえ英雄さまの孫なんだ」
 なんのことやら。あーあ、いまだにわかんないことだらけでやんなるよ。んっ、あれっ? さっき、十段ばかり階段を下りたあたりで、一瞬まわりが白らんでなかったか。
「その昔、できたてほやほやの国に平和を与えんとの誓いを立てて初代法王となったネゼィール・ロップを、賢者セブ・ダーザインとともに支えたと伝えられる伝説の聖騎士、ラキャオ・ジドゥルさまの直系ってやつでさ」
 この感じ、すごく『トンネル』っぽくないか。いや、ぽいどころじゃなくって。
「だからってエイシャはただのぼんくら学者なのだから、特別扱いする必要はないと思うのだけど」
「必要あんだって。ヨマ族は代々血と伝統を重んじる民族なんだぞ。生まれついての能力を一番にありがたがるヴィーガ族のトゥシェルハーテにはわかんねえんだ」
 上の階から階段下をのぞいたときには下のようすがちっとも見えなくて。だから途中で曲がってるんだろうとばかり思ってたのに、階段は曲がってなかったし、十段も下りないうちにまわりのようすが変わってしまってる。正面に見えるそこには、すこしうす暗いけどあたたかな色の光に照らされた小部屋、それに人が見えていて、はっ? 人だってっ。
「だれかいる」
 青っぽい色の服を着た、背の高い男の人だ。
「もちろんいるよ。そしてそこのキミが言うとおり、元来ヨマ族は血と伝統を重んじるあまりに頑固者が多くてね。今回の一件、その根底にあるのもそういった気質が災いしてのことのようなんだけど。歴史的にはヨマ族首長を輩出したこともある血筋の者としては、じつに残念でならないね。よくきてくれた。ぼくがエイシャ・ヨマ・ジドゥルだ」
「エイシャったら、なあに、それ。気どってる場合じゃないってこと、わかっているの?」
「わかってるからここにいるし、今日の朝から家出少女となったおさななじみにクギを刺すためにも、ここへお越し願ったワケなんだけどね。トゥシェルハーテ」
 それじゃこの人がぼくらをここへよんだ当の本人『エイシャさま』なのか。ふうん、マシャライとおなじ人種なだけあって、背中までのびた髪はキレイな金茶色。やさしい顔立ちで性格もよさそうだ。おさななじみって言ってたけど、それはトゥシェルハーテから見ればって意味なんだろうな。だって、この人。アープナイムの教育機関の最高峰、ローヴァーツのウィッツ・マーを卒業したくらいの、しっかりした大人に見えるぞ。
「あのっ、俺は! トゥシェルハーテんちで家政婦やってます、シャニーウィーンの弟でマシャライ。うち、父ちゃんも母ちゃんもみんなヨマ族で、だからラキャオ・ジドゥルさまのこともよく聞いていて」
「うん、ぼくのじいさまの功績を知っていてくれているんだね。ありがとう」
落ちつきのないようすで、マシャライの視線がエイシャさまから放れられなくなってしまってる。とんでもなくうれしそうだ。反対にトゥシェルハーテはムッとして、じつにキゲンが悪そうだけど。
「ぼくは」
「キューンよ。すこし見た目が変わっているのだけど、身元はたしかだから安心して。くわしいことはあとでキチンとお話するわ」
 なんだよ、ぼくだって自己紹介したかったのに。それにトゥシェルハーテの家出はぼくのせいじゃないって、そこもはっきりさせておきたかったんだ。
「いいよ、トゥシェルハーテ。すこし驚いたけど、事態がこうなってしまっては、ぼくたちにも新たな味方が必要だ」
「なんのために家を出たのかわかってくれるの?」
「キミも三家の一員でシャパロの友だちだ。そういうことなんだろう?」
 よかった。ぼくが言わなくてもわかってくれてるようでホッとした。にが笑いをうかべるマシャライも、ぼくとおなじで心配なところがあったのかもしれないな。けど、トゥシェルハーテまでがため息をついたばかりか、急に笑顔を見せたのには驚いた。まさか叱られると思っておびえてたのか。でなけりゃ顔に出さなかっただけで、ずいぶん気を張ってたのかもしれないな。しかたがないことだけど、年上のぼくがなにもわかっちゃいないし、なんの役にも立たないんだからさ。ちょっとかわいそうだったのかも。
「ところでトゥシェルハーテ。さっき『三家』とか『シャパロ』って聞こえたんだけど」
 ここへくるまでに、何度も耳にした言葉。けどそれだけじゃなくって。
「それもあとで、ぜんぶまとめてお話するから」
軽く流されてしまったけど。うーん、特に『シャパロ』ってのが気になるんだよなあ。もっと別な、どこかで聞いた、どこでだっけ。ああっ、まどろっこしい。

ゼダーソルン 新たな時代の中で (前半部)

はじめましての方は理解が追いつかないと思いますので、おさらいもかねて、登場人物の年齢について解説しておきます。
キューン13歳(ペイル・フォリイド初等部最上級生)は地球人の12歳くらい
ラウィン7歳(ペイル・フォリイド幼年部二年生)は地球人の7歳くらい
トゥシェルハーテ7歳は地球人の9歳くらい
マシャライ6歳は地球人の8歳くらい
エイシャは地球人の27歳くらい
シャパロは地球人の30歳くらい(学歴社会 後半部に挿絵があります)

新たな時代の中で(後半部)は次週投稿予定です。(4/21~23)

ゼダーソルン 新たな時代の中で (前半部)

神のつかいの挨拶を聞き終えたキューンたちは、エイシャが待つその場所へとむかうべく、迷路のような裏通りにある橋渡し商店街へやってきた。小学5年生~中学1年生までを対象年齢と想定して創った作品なので、漢字が少なめ、セリフ多めです。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-15

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