今日は快晴、航路良し。

こちら青空23号。応答願います。

今日も君を乗せたヘリが飛ぶ。

小学校の校舎の窓から外を眺めていると、自衛隊のヘリが山の向こうから上空を通過するのが見えた。
風を起こしてバリバリと音を立てて飛んでいくその様子に、子供の頃、君がしていたものまねを思い出す。

「航路良し、上空120万フィート、異常なし。こちらヘリ、青空23号、地上聞こえますか?葵、葵、応答願います」

おもちゃの積み木をトランシーバーに見立てて、君はそう言って父親の帽子をかぶり、木馬に乗って私と通信していた。
今はもう昔のこと。
27歳になった私は、こうして冴えない煙草をくゆらし、君を見上げている。
紫煙が、上空に消えた。
地上、こちら地上。本日は快晴なり。
よく君が見えるよ、青空23号。

私達は同じ小学校を出て、同じ中学に上がり、その頃には付き合いもなく、ばらばらのグループに入って、茶髪の君とロングヘアーの私と、道でであっても言葉も交わさず、ただお互いを見ていた。
なんとなく、見ていた。

私は大学に入り、君は高校を中退して、陸上自衛隊に入った。その頃から、君は明確に将来の夢を追いかけていたんだね。ずっと後で知ったこと。
私は何も目標も目的もなく、ただ日々を潰し、成り行きで就職したり、バイトしたり。

君が自分の子供を連れて店に来たときはびっくりしたよ。だって子供だもん。奥さんもきれいな人で、たぶん元ヤン仲間だろうなと思ってたら、同じ自衛官のできる人でびっくり。
凄いよ、君らは。

私は。
私は今も、自分を探して地上を這いずり回ってる。地元の誰とも連絡が途絶えて、たまにこうして恩師に会いに来る小学校で子供の相手をしながら、あの頃の私たちを探してる。

バララララララ、とプロペラがうねる。
今日も君が、先生のためにと校舎の上空を廻る。

君は私のことなんて、もう覚えていないのでしょうね。

ふーっと煙を吐き出して、私は煙草をもみ消した。
青空の中、光る点を見つめる。

それは徐々に近くなり、やがて真上に来て、次第に遠のいていった。

さよなら、青空23号。

こちら地上、通信を終了します。
ぷつりと切れた思い出の先、誰もいない。私はしばらく、青空を見ていた。

今日は快晴、航路良し。

身近にあるものからヒントを得て。

今日は快晴、航路良し。

ヘリに乗る君に思いを馳せる。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-14

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