Fate/key's memory 中編
露出男です。前編公開から結構時間が経ちましたがなんとか中編が出来ました。前編より長いです。読むの辛いと思います。頑張ろう。
前編←http://slib.net/5119
後編 上→http://slib.net/7022
注意書き
・あくまでこれは私の妄想です。参戦作品についてはオリジナルも含んだりしています。その中で本編の設定を勝手に変えちゃったりしてます。
「あれ?こここんな設定だっけかなぁ」と思うこともあるとは思いますがご了承ください。その作品のファンの方は大変不快な思いをされることもあるとは思いますが
分かっていただけると助かります
ではお楽しみください。
「今日も今日とて地球救済ハンター。どうも、天王寺瑚太朗です。」
なんて言ってはもういられなくなっていた。鍵を保護してしまった。赤いスーツの男のバイクで帰ってきてから、どうするか考えていた。小鳥はというと翌日家族旅行に出かけることになった。瑚太朗は「(止めないといけない。)」となぜか思った。だがその理由を問われ言い返せなくなり、結局神戸家は旅行へと出かけた。その時小鳥は
「収穫祭っていうのやるんでしょ?案内して?」
って言ってきた。友達の少ない小鳥にとって瑚太朗こそが最も親しい友達だったのかもしれない。まず鍵をどうするか考えた。家に置いていても確実に見つかる。だったら森にまた戻しておくのが妥当ではないか?とも考えた。それを篝に相談する。篝は普通に了承した。まずは森に向かう。いつもの目印の廃校。そこで瑚太朗が見たのは先日鍵を見つけて追われた際に流れ玉で殺されたはずの2人。
「(亡霊だよなー・・・)」
この森は魔物だのなんだのといろいろ出現するせいで亡霊が出たとしても驚かなくなってしまっていた。何より紛争地帯での傭兵経験のせいもあるだろう。寄り道している暇は無かった。まず篝と初めて会った巨大な木の元へと向かう。そこで気付く。小鳥がいない今はここに篝を置いても普通に見つかってしまう。見つからないとしたらもっと奥に行くしかない。奥には丘があった。そこで瑚太朗は篝に突っ込まれた。
「まったく前進していないようですが。」
よい記憶を篝にあげること。それが全く前進していないという。瑚太朗の目的、ガーディアンとガイアを一気に壊滅へ追い込むこと。だが篝は
「それもそうですが、もう一つ大きな闘争が行われています。」
「は?」
初耳である。この街で行われているもう一つの闘争。それは何を意味するかは、ある意味わかっていた。
「(あの2人と何か関係があるのか・・・?それにその後の加島桜の言動も気になる。「何か見たかい?」 ・・・・あいつも何かに絡んでいるって言うのか?)」
「私は以前の篝とは異なり、その記憶を持ち合わせていません。しかし、戦っている彼らが求めている物、それは聖杯です。聖杯は持ち主の願いを叶えるという唯一の代物。もし、それが悪い方向へと進むなら、記憶は一気に悪い方向へと繋がります。それも考慮しないといけないというのに、何を悠長にやっているんですか。」
怒られた。
「いや、待てよ。それは俺も初耳だ。だがその聖杯を求める戦いに俺は関係していない。そいつらが勝手に戦って勝手に・・・・」
そこで気付く。悪い方向。そう言った場合もあるのだ。まず整理する。
「いいか、まとめるぞ。まず1つ。あんたをガーディアンとガイアって組織があんたを狙ってる。2つ。その他にも聖杯を巡る戦いがこの街で行われている。」
「心配は無用です。篝の姿は普通の人間には見えません。」
「いや、そうは言い切れない。超人には見えない物が見えたりする。実際に今俺はあんたを見ている。」
言って気付いた。 超 人 に は 見 え な い 物 が 見 え た り す る 。
「・・・・・・・」
先日篝と会った時に追ってきた2人。あいつらには篝の姿が見えていた?確かめる必要が出てきた。正直言ってこれは賭けである。超人と言うことからガーディアンに属している人間と予想したが、もしそれがどちらに転んでも、顔を見られたら終わりである。計画が台無しだ。でも、確かめないといけない。それによっては篝をかくまう場所も変えなくてはならないのだ。まずは情報を集めることが必要。それから内部へ更に潜り込んでいく。もともとそうするつもりではあったのだが、更に難しくなると感じた。
だが、あくまで集めるのは情報だけ。襲ってきた魔物や人間達を殺すことはしない。殺してしまったところで「何かいる」と相手側に情報を与えてしまうだけなのだ。もし「何かいる」の何かの情報が知れてしまったら。ガイアとガーディアンは確実に作戦の実行に入る。聖杯のなんちゃらに関わる以前に終わってしまう。それだけはなんとしても避けなければならない。そうならないためにも瑚太朗の家以外に篝を匿う場所を探すしかなかった。出来れば市街地。そこが一番安心だろう。連中は鍵は森にいると思いこんでいる。それを俺が担うわけだ。要するに囮作戦。
夜。篝は丘へと置いてきた。ここから動くなと言ったが動かない可能性は低いと思っていた。待つことしばらく。気配がやってきた。まずは情報収集という名目だが、多少は狩っていかないとこっちが危ない。まずは自ら魔物を形成して打ち出す。この技術はガイアに潜入している際に教わったものだ。魔物を作り出し「契約」をする。瑚太朗が作ったのは鳥型の魔物。監視役だ。それを飛ばす。しばらくして戻ってきた。捜索隊はガイアの集団だった。いつもより魔物の数も多い。少しは狩らないといけないようだ。だがあくまで情報収集。そっちの方面へと向かうことにした。
勝利条件は特になし。敗北条件は顔を見られること。顔を見られた場合、殺すことも考えないといけない。そうなったら終わりだ。向こうもこっちに気づいたらしく、数人が向かってきていた。魔物と遭遇した。まずは狩る。こっちに向かっている魔物は狩ることが出来た。魔物の主は撤退したらしい。だが、本命はこいつらじゃない。今回攻めてきたのがガイアということは超人もガイアに所属しているということだ。しかもガイアで超人。その聖杯のなんちゃらに関連している奴らではないかと感じた。そうなったらいろいろと楽にはなる。使い魔が戻ってきた。その2人を発見したらしい。だがその使い魔は腕に止まる寸前で打ち抜かれた。
「(!?・・・どこから!?)」
使い魔を打ち抜いたということは顔を見られている可能性が高い。だが今は夜。そう簡単には見えないはずだ。だからこそ、上書きをする。
「(視力を・・・・)」
視力が上がる。目に映ったのは一本の木に捕まりライフルでこちらを狙っている少女。見たことがあった。
「(加島の部屋にすれ違いで入った女の子・・・。あれが超人か。あ、降りた。こっちに向かってきている。すごい早さだ。)」
撃ちながらこっちに向かってくる。相当な銃の扱い主だ。こっちは飛び道具はあると言えばあるが、これを使ったら状況が悪くなるだけだ。しかもあっちも瑚太朗とすれ違ったと覚えているかもしれない。だがこの状況、相手はずっと追ってくるだろう。今回の行動も賭けそのものだったが、瑚太朗は更に賭けに出ることにした。まずは後ろ向きで両手を上げて対応する。後ろで銃を向けられているのがわかった。
「目的はなんだ。」
瑚太朗は後ろにいる少女に聞いた。気がつけばいつもの目印にまで来ていた。
「鍵の捜索です。あなたこそ誰なんですか。」
「(覚えられていない・・・) まぁ俺も鍵の捜索って感じか?」
チャ・・・
それを聞いた少女が銃を下すのが聞こえた。更に深い質問をする。何かあればまた上書きして逃げればいい。それか・・・
「こっちからも質問するが・・・君こそ何者だ。ガイアにいる連中にしては動きが速すぎる。魔物かと思ったが人間だ。ちょっとそういうの見たことがあるんだが・・・君は聖杯のなんちゃらに関係しているのか?」
「!?」
銃が再び向かれた。
「(ビンゴ・・)」
これでガイア側に聖杯の戦いに関係している人間がいることが判明した。恐らく後ろにいる少女の隣にいた女の人だろう。その人は普通の人間。そして先日追ってきたもう一人も一緒。つまりガイアには2人以上関係している人物がいる。それがわかっただけで十分だ。
「そうか。それがわかっただけで十分だ。ありがとう。」
逃げる気を察知したのか少女は銃を連射してきた。だが瑚太朗は能力を上書きして少女から一気に立ち去った。その少女はすぐに自らの主へと連絡をする。
「鷹野さん、標的を逃がしました。ですが・・・あれが鍵なのですか?」
「アサシン・・・あなた・・・何かを見つけたすぐ殺しなさいって言ったわよね・・・なぜ言うことを聞けないの?いいから戻ってきなさい!」
鷹野は怒っていた。どうして自分のサーヴァントはこんなにも出来ないのか。それはサーヴァント、アサシンの性格のせい。だったら・・・と、ある準備に取り掛かった。
「(でもこれでいいのかしら・・・)」
鷹野三四には迷いが生じていた。
瑚太朗がアサシンを振り切った頃、近くの建物では立花奏がパソコンをひたすら操作していた。その横で音無結弦も様子を見ていたのだが、よくわからないことになっていた。画面には立花奏にそっくり、というか本人なのだろう。シルエットが映っていて腕や脚なのに矢印が立っている。そこに文字を打ち込んでいく。聞くとこれは能力を書き換えるものらしい。だが書き換えるといっても剣は剣でも違う剣を使うとかその程度の書き換えだ。実はこの作業、昨夜からずっと行なっていて、立花奏はずっと眠そうにもしていた。それを音無結弦は優しく見守った。
「(なんだろう。アーチャーと一緒にいると安心する。俺はアーチャーと前に会っているんだ。だから、こう思うんだろう)」
実際に最近も夢を見ることが多くなっていた。だがそれは嫌な夢。ずっと天使と争っている夢。今こうやって一緒にいるのに、なぜそうなっていたのだろうかとずっと思っていた。それに気になることもあった。先日、朝起きた立花奏は目が赤かった。どうやら泣いていたらしい。なぜと聞くと、
「悲しい夢を見たの・・・」
と言ってきた。サーヴァントでも夢を見ることがあるんだなと、その時は思った。しばらくして作業が終わったらしい。奏はようやく布団に入って眠りに就こうとしていた。その時、銃声が響いた。2人はすぐ外へ出た。そこには標的を逃がし落ち込んだ顔のアサシンがちょうど通りかかっていた。アサシンは驚く。前に殺したはずのアーチャー組が生きている。なぜ?
「どうして生きてるの・・・?」
だが、また殺せば鷹野に褒めてもらえる。愛してもらえる。そう考えたら銃を抜かずにはいられなかった。立花奏は対抗する。そしてアサシンが一度撤退し始めたので追撃を始める。
「お、おい!アーチャー!」
「結弦はそこにいて!」
そのまま立花奏は去っていった。森は深く行けば深く行くほど迷ってしまう。それを承知していた奏はマーカーをつけながらアサシンを追った。逆に一人になった音無はまず建物内に戻るが、後ろに気配を感じていた。とてつもない殺気。声が聞こえた。
「なぁんでお前が生きているのかなぁ。アーチャーのマスター。」
振り返る。そこにいたのは魔女のような洋風の服を着た女。
「キャスターか・・・」
「お前はアサシンが殺したはずだがぁ・・・なんで生きているのかなぁ・・・頭を撃ったはずなのにねぇ・・・」
「くっ・・・!」
音無は銃を発砲する。弾はキャスターに当たったものの、キャスターは何羽もの蝶に分裂し、元の個体へと戻っていった。
「ムダムダぁ。お前力じゃ無・理・な・の・ぉー。このままなぶり殺してもよいが・・・なんで生きているかわからん。ここはひとまず・・・」
キャスターは指を鳴らした。すると空間が変わった。森ではなく、建物内へと変わった。白い部屋。そこにキャスターが座っていた。
「ほれ、お前も座れ。紅茶でも飲みながら話をしようではないか。」
「(こいつは俺を殺しに来たんじゃないのか?)」
少々疑いを持ちつつも運ばれてきた紅茶を飲む。
「では、単刀直入に聞こう。貴様はなぜ生きてる。」
「・・・・・・・」
「答えたくはない・・・か・・・。ならこれはどうだ?」
また指を鳴らす。モニターが出てきた。映し出されたのは、立花奏の死体だった。体には無数の穴。螺旋状に開いている。ジャイロ回転した何かが何回も貫通したという感じだ。
「・・・・・・・!」
一気に怒りがこみ上げる。キャスターを殴りかかるがまた蝶に分裂した。
「これこれぇ。茶会を汚すでない。つまらなくなるだろぅ?これからも貴様は茶会を汚す恐れがあるなぁ。そうだ、こうしよう。
貴様はこの妾に手を出すことが出来ない
ククククク・・・」
白い空間に赤い文字が浮かぶ。
「ふざける・・・え?」
もう一回殴りかかろうとするが、殴れない。体が殴る体制に入らない。
「(殴ろうとする意思が失われている・・・?)」
「これから貴様は妾に手を出すことも出来なくなった。まぁ落ちつけ。せっかくの茶会が台無しではないか。それとも、アーチャーの死に様がとんでもなく辛かったかぁ?」
「・・・・・・・」
もう一度、奏の死体を見る。そこであることに気付いた。
「(あれ?見た時を倒れ方が違う・・・何かをかばっている?・・・アーチャーは生きてる!・・・落ちつけ・・・何か対抗策があるはずだ・・・)」
ひとまずそこはキャスターに従い、席に戻ることにする。
「おや、急に態度が変わったが・・・まぁよい。茶会を楽しもうではないか。で、貴様はなぜ生きてる。」
「何の事だかさっぱりだね。なぜ生きているかもわからない。」
「ほぉ・・・そう来るか。ではお前が生き返ったという自覚は・・・」
「ない。」
「即答、か。ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!こいつは面白い!どうじゃ、アーチャーも死んだことだし妾に協力はせぬか?もちろん報酬はしっかりとやるぞ?」
「そんなのお断りだね。第一、俺はお前と仲良くする義理がない。」
「そうか・・・そうか・・・じゃぁ、死・ね☆ 出でよ、煉獄の7姉妹。」
キャスターの前に7人の女たちが召還された。
「なぶり殺すがよい。さて、アーチャーのマスター。この7姉妹を打ち破れるかな?打ち破ったらもう何もしないことを約束しよう。打ち破ったらの話だがなぁ。ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「やってやるさ・・・」
やるしかない。死ぬことは確実だとは思うが何かしら抵抗したほうがカッコイイじゃないか。そう思った。キャスターはその場を去ったが空間はそのままだった。
「(死んだら誰にも発見されないってことか。キャスターは危険すぎる。誰かに知らせたいところだが・・・)」
7姉妹が話し合いを始めた。話の内容は丸聞こえである。明らかにこっちをアザけ笑いながらの話し合いだった。
「どうするぅ?一人ずつやるぅ?」
「えー!?私早く帰って寝たいんだけどぉー!」
「あいつカッコ良くないからやだー。」
「えー?あたしは結構タイプなんだけどなぁー!」
「でもこいつさっきシエスタ達が殺した奴の彼氏なんじゃな~い?」
「えー!うそー!私達のほうが可愛いのに!」
「なんか許せないねー」
「全員で殺そうよ!」
意見がまとまったらしい。
「んじゃ!全員でなぶり殺しにしマース!!!!!!!」
7姉妹は杭へと形を変え、部屋を高速で飛び始めた。それをなんとか避けるがスピードが上がり始める。
「ぐっ・・・・」
脚を貫通された。膝をついてしまう。その隙に7姉妹の杭は何回も音無の体を貫いた。
その頃、キャスターは音無達がいた建物内にいた。2人が生き返った理由を探るためである。何も無いと思われたが、キャスターはその建物にはふさわしくないものを見つけた。パソコンである。キャスターは生憎パソコンの使い方など知らない。とりあえず全ボタンを押してみた。電源がついた。映し出されたのは立花奏のシルエット。そこでキャスターはなぜ2人が生き返ったのかを知った。それとある疑問を持った。
「(あの小娘が生き返る理由がわかったが・・・あの小僧が生き返る理由が分からない・・・まずマスターに報告ってことね。)」
その場を去ろうとするが、あることを忘れていた。
「♪」
キャスターは何も言わずに自分の中でリズムに乗りながら、パソコンを破壊し、去って行った。その様子を立花奏は気付かれないように黙って見ているしかなかった。
「(怪我の治りが遅い・・・)」
立花奏はそう感じていた。いつもならすぐ治るはずの傷がなかなか治らない。パソコンが破壊されてから一気に遅くなった。普通の人間の治癒力に戻ったと言ってもいいだろう。だがそれでも死に至る傷だということには変わりは無い。
「(ここで死んだら・・・ダメ・・・死ぬなら・・・せめて渡してからじゃないと・・・)」
それでも意識は遠のいていく。自分の頭の中で抵抗するが駄目だ。
「おい、しっかりしろ!」
「(誰かの声が聞こえる。そうだ、結弦も助けないと・・・多分彼も傷が相当深くなってるはず・・・)」
立花奏は必死に建物のほうを指さした。それに気付いたツンツン頭の少年は、その場を修道服を着た少女に任せ、建物内へ入って行った。
「誰かいるかー!」
ツンツン頭の少年、上条当麻が建物内で叫ぶが返事がない。
「(・・・・・誰もいない?そんなはずは・・・)」
思い出す。森の入口付近を散歩していた時に変な男、ガッチリした男が
「そこをちょっと行ったところに2人死にかけている。助けてやってくれ!俺は犯人を追う!」
と言ってそのまま去って行った。これが上条当麻達がここに来た経緯である。しかももっと意味不明なのはその男の名前。一応聞いたのだが・・・
「鈴木凡人だ!」
と言って駆けて行った。とても人間とは思えない早さであった。そして行ってみれば倒れていたのはこの前商店街で会った銀髪の少女。しかもすごく深い傷だ。
「で、もう一人はどこなんだよ・・・」
上条当麻は壁に手をついた。
「!?」
感覚が変わるのがわかった。それと同時に見えていなかったものまで見えるようになった。部屋の扉である。
「(こんな扉あったか?)」
扉を開けると音無が倒れていた。銀髪の少女同様深い傷である。
「お、音無!?」
「・・・・・・・・・」
「おい!しっかりしろ!(かすかに息をしている・・・!)待ってろ!今救急車を呼んでやる!」
「・・・・・?」
雪村千春は外の騒ぎに気付いた。ちょっと外を覗いてみるとたくさんの野次馬と思われる集団がある方向に向かっていた。森の方向である。この街で育った千春は昔から森に近づいてはいけない。そう言われていた。その騒ぎに稽古中の子供達も気づく。
「おい!事件だってよ!行こうぜ行こうぜ!」
子供たちはそっちのけで道場から出ていってしまった。
「あ、ちょっとみんな!」
小学生は脚が速い。みんなピューって勢いで様子を見に行ってしまった。そういえばセイバーの姿もない。残っていたのは千春とアサヒハルカの2人だけ。
「・・・行きましょうか。」
「(コクン)」
千春は苦笑いでハルカと一緒に外に出た。騒然としていた。森の入口は結構すぐ近くにある。子供たちがいた。
「せんせー!事件だってよぉー!」
「事件?」
聞き返すと近くにいたおばさんが教えてくれた。
「なんでも森をちょっと入ったところで2人が倒れていて今にも死にそうな状態だったんですって。しかも、犯人の形跡も全くなし。あぁ最近のこの街はおかしいわねぇ。」
「そうなんですか・・・。(ところでセイバーはどこに行ったのかしら・・・)」
そう思った時、肩を叩かれた。見たらたまにセイバーに情報を伝えに来る人だった。この人からいろいろ戦いの状況を聞いたりもする。ランサーの件はセイバー本人から聞いたわけなのだが。
「土方さんは調べるものがあると行っておでかけになりました。万が一のこともあるかもしれないからその時はいつでも呼び出せるようにしてほしいとのことです。」
「万が一?」
「はい。普通それは私の役目なのですが、土方さん自ら出向きたいと・・・ですのでちづ・・・千春さんは私が護衛致します。」
「わかりました・・・。あ、稽古の途中なので先生の代わりやっていただけますか?」
「・・・すいませんが・・・剣の技術は・・・」
「そうですか・・・事件もあるし今日は解散にしますか。はい、みんなー。今日はもう終わりにします。保護者の方に連絡をしますので道場のほうで帰る準備をしてください。」
夕方。保護者に説明をしてみんなは帰った。
「疲れました・・・。」
千春は眠くなるのを抑えるが我慢できず寝てしまった。
数時間前。道場で稽古をつけていたセイバーはいち早く異変に気づいた。
「すまないが用事を思い出した。ハルカと稽古していてくれ。(燕、千春の護衛を頼む。今回は俺が出る)」
「(承知)」
セイバーはそのまま道場を出た。魔力を感じる森へと近づくと疑心は確信に変わる。
「(何かいる・・・)」
少し歩いたところに建物があり、そこには銀髪の少女の死体があった。そこに注目するのもいいがセイバーが見ていたものは違った。その横を高速で駆け抜ける男。天王寺瑚太朗だった。
「あいつは・・・」
ランサーと戦った時に陰から見ていたのをセイバーは忘れてはいなかった。燕に尾行を任せたが振り切られてもいた。その時点である程度おかしいとは思っていたが、ここまで来ると追わずにはいられない。
入れ替わって森に入ってきたのはツンツン頭の少年と修道服の少女だったが気にもせず瑚太朗を追うことにした。
「(間違いない・・・あいつは・・・)」
瑚太朗はアサシンから逃げたあとすぐにまた元の場所に戻ってきた。正確には戻らされたと言ってもいいだろうか。アサシンから逃げたと思わせておいて、実は背後に隠れていた。走力を上書きしている瑚太朗にとって、それは容易いことだった。その時に銀色の髪の少女が近づいてきたのがわかった。接触するかと思ったら何かに気がついたようで急いで元来た道を戻った。戻ってきたのはいつも目印にしてる建物。そこで思い出した。
「(ちょっと待て。なんで生きてるんだ。あいつはおもいっきり頭を撃ち抜かれたはず・・・)」
少女が建物に着くとそこには異様な服を着た2人がいた。メイド服みたいなのにウサギの耳なのか猫の耳なのかわからない。とにかく耳がついている。静観することにしたがその光景は酷すぎた。圧倒的な力で少女は殺された。それを瑚太朗はずっと見ていた。何回も何回もジャイロ回転した矢が貫いた。流石に吐き気を耐えきれず吐いてしまった。音は出していない。
「(あれは魔物の類とは思えない・・・ということは聖杯に関連してる奴らだ。sの女の子にしてもそうだ。ガイアの建物にいて鍵を見つけた時も追ってきた。ガイアは確実に聖杯に関係してる・・・)」
2人が消えたのを目にして陰から出ようとした時、建物内からまた人が出てきた。
「(・・・・・・!!!! あいつは・・・・)」
目にしたのは洋風の服を着た女。瑚太朗が加島桜に呼び出された際に秘書と名乗って隣にいた女だった。
「(だんだん繋がってきたな・・・ガイアは確実に何かしている。そしてそれは加島も知っていることで俺には何も知らされていない・・・)」
その女を追うことにした。もちろん顔を見られては負けである。ここまで情報が集まったらいいとは思うが、あの女が何者かを今度は知らなければならない。だが、
「(またかよ・・・)」
追われている。しかも結構前に学校の近くで追われた感覚と似た者を感じた。威嚇で腕のオーロラから針をつけて投擲してみる。
「(・・・・!)」
避けられたらしい。瑚太朗は迷った。追うべきか対峙するべきか。頭に導きが走る。瑚太朗は対峙することにした。奴らがガイアと関わっていると知ることが出来ただけで収穫だ、そう思うことにした。さて、今度は・・・
「(・・・・・・!)」
男を追っていると目の前から何かが飛んできていた。かろうじて避けることができたが今のは確実に殺しにかかっていた。だが、その男は逃げるのをやめ、こっちを向いた。セイバーも足を止める。
「まず聞く。お前は何者だ。」
「・・・・地球救済ハンター、鈴木凡人ってことにして?」
「はぁ?」
セイバーはふざけてるのか?とも思ったが、さっきの投擲からしてふざけてはなさそうだ。だが、名前だけはふざけてる。
「お前には聞きたいことがある。何も言わずに答えろ。お前はなぜあいつを追った。」
「答えるには条件がある。」
「何も答えるなとい・・・・・」
「お前は聖杯の戦いに関係しているのか?」
「!?」
「(図星か)」
セイバーは予想外の質問に眉がピクっとなってしまった。それを瑚太朗は見逃さなかった。セイバーは自らを落ちつかせる。
「場所を移すぞ。ついてこい。」
セイバーは瑚太朗を連れて道場へと向かった。稽古終了ということで道場兼家には雪村千春しかいなかった。しかも道場で座りながら寝ている。
「おい、起きろ千春。」
「・・・・セイバー!稽古ほったらかしてどこに行ってたんですか!あれ?そちらの方は・・・?」
まぁこうなることは予想していたのだが、今はそれどころではない。
「千春、お前もついてこい。こいつはさっき知り合った。そうだな・・・俺を殺しにかかったと言えば話は早いか。」
「えっ・・・・」
千春は何を話そうとしているかを理解する。道場に入った千春と瑚太朗はセイバーの指示で目を瞑る。千春は何が始まるのかわかった様子だが瑚太朗は何がなんだかわからない様子だ。とりあえずセイバーと千春のマネをした。意識が、引っ張られた。
目を開けると景色としては何も変わらず、道場にいた。だが、感覚が違った。
「来たか。余計な事は考えるな。考えると途切れるから注意しろ。さて、今日お前に来てもらったのは他でもない。まぁわかっているとは思うのだが・・・。貴様、どこまで知っている」
威圧。そう言った方が良いだろうか。瑚太朗自身数々の威圧を経験してきた。加島の全てを見抜くような威圧。江坂さんの殺気のような威圧。だが、目の前にいる男の威圧、気は違った。
読 め な い
目を見てもわかる。その気がどの気なのかが全くわからなかった。江坂さんと似た部分もあれば加島の部分もある。ということは2つを組み合わせた物と考えた方がいいのかもしれない。
「・・・・・・その前に。こっちから質問させてもらおうか。(ペースに呑まれたら確実に終わりだ・・・)」
「・・・・・・構わん。」
「お前らこそ一体なんなんだ。」
「お前ら・・・ねぇ。」
男は軽くニヤリとした。
「お前ら・・・。貴様は俺と誰かを組み合わせた上でお前らと言った。そうだな?それはこの女のことか?それとも・・・他の誰かか?」
やられた。まず感じたのがそれ。呑まれてはいけないとわかっていても呑まれる。異様な空気だった。仕方なく答えることにしたが、こいつがガイアやガーディアンに通じていないとは思えない。慎重に答えることにした。
「あぁ。俺はお前にそっくりな男と槍を持った男が戦っているのを見た。それに、さっきもおかしな光景を見てきた。洋風の服をきた女とバイオリンのケースを持った少女。こいつらが森で変な行動をしていて2人の人間が殺されたんだが、殺された人間も変で前にも殺されているのを目にしたんだ。」
「・・・・・・」
男の目が変わった。隣にいた千春の目も「え?」というような目になっていた。話を続ける。ここからは賭け。
「そこでお前・・・いや、そこの女性に聞きたいことがある。えっと・・・」
男に聞いても良かったのだが、女の方に聞いたほうがいい気がした。恐らく、ずっとここに住んでる人だろうから街の情勢は知っているはず、と踏んだ・
「あ、千春です。雪村千春。ここで剣道の師範をやっていて子供たちに教えています。」
「あ、ご丁寧にどうも・・・。俺は天王寺瑚太朗って言います。それでですね。日本マーテル会ってのはご存じですか?」
「あ、はい。環境保護団体ですよね。私の生徒さんの中にも親御さんが会員だって方もいますよ?」
「(やはりな・・・。問題はここからだ。)では、ガイアというのは?」
「ガイア・・・ですか・・・?聞いたことがないですねぇ・・・」
反応をよくチェックする。本当に知らない様子だった。隣の男はというと「ガイア」と言った瞬間に眉がピクリと動いた。それを見逃すことなんてしなかった。
「(突っ込むか・・・男はこの情報が欲しいはず・・・)」では・・・聖杯というのは?」
今度は2人の目が開いた。これで確定だ。瑚太朗はこの2人がガイアには関係はしてないが聖杯には関係していると確信し、話を更に深い方向に進める。
「日本マーテル協会。これは表向きの名前だ。裏ではガイアという団体で活動していて、所属している人間は魔物を扱うことが出来る。ガイアは「鍵」を探していて、見つけ出して人類を滅ぼすつもりだ。それを奴らは「救済」とも呼んでいる。でだ、ここで聖杯の話になる。この聖杯も見つけ出してしまえばより確実に人類を滅亡というほうに向かわせることが出来るはずだ。これに関しては何も知らされてはいないんだが、恐らくそうなのだろう。」
「・・・・お前はなぜ、ガイアとやらが聖杯を求めているとわかった?」
男は瑚太朗の目を見たまま聞いてきた。呑まれてはいけない。
「前に加島・・・マーテル会会長に呼び出されてたことがあって、その隣にいた洋風の服を着た女。新人の秘書と言っていたが、違うはずだ。奴はさっき森で2人を殺していた。いや、殺していたかどうかはわからないが森にいたんだ。その現場に。殺したのは部下、といってもいいのかも知れない。その部下も異様な格好をしていたんだが。で、話が終わって部屋を出た時にいたのがバイオリンのケースを持った女の子。これも現場にいたから覚えている・・・実際に2人に追われたこともあるしな。だから俺をその真相を確かめる・・・いや、情報を少しでも多く手に入れるためにさっきあいつを追っていたわけだ。」
「なぜ追われた。」
「ちょっと挑発しすぎたってところか?」
誤魔化す。流石に鍵の事は言えなかった。
「俺が言えるのはここまでだ。今度はお前から説明してもらうぜ?お前は何者だ。」
「・・・・・・お前の言う通り、聖杯には関係はしている。だが、お前の情報でいい情報が得られた。これに関しては例を言う。だが、これ以上は関わるな。いくらお前が俺達より脚が速いとは言っても深みにはまっていけば確実に死ぬ。そうすれば、お前自身の目的も、果たすことが出来なくなる。お前はお前のやることをやれ。」
「(こいつ・・・見抜いてる・・・)」
「お前がどうするかは知らないが警告はした。あとはお前次第ってことだ。変なことは考えるなよ。もし、何かわかったことがあればまたここに来い。話は以上だ。頭の中を空にしろ。自動的に元に戻る。戻ったらあとは帰っても大丈夫だ。(千春、お前はこの状態を維持しろ。話がある。)」
瑚太朗は意識を切った。元の場所、元々そこにいたのだが感覚が元に戻った。だが誰もいなかった。まだ戻ってきていないだろうか・・・帰ってもいいと言われたが何も言わないで帰るのもあれなので置き手紙だけでも書いておくことにした。
「どうしたんですか?セイバー」
「あの天王寺とか言う奴。異様な力を持っている。敢えて聞くことは無かったが俺が奴を追っていた時、奴は針のように長いものを投げてきた。紙一重で避けることができたが・・・物質そのものが違った。それに匂いも違う。」
「匂い、ですか?」
「あぁ、奴が投げてきた物は血の匂いだった。そしてそれは落ちることなく空中で消えた。恐らく奴は血を違う物質に変える能力を持ってる。あともう一つあるはずだが・・・それはわからない。だが、奴は重大な事を教えてくれた。」
「重大なことですか・・・それって・・・」
「そうだ。ガイアとやらのことだ。鍵については知ったことではないがそのガイアに2組のサーヴァントがいる。しかも手を組んだ状態で、だ。恐らくキャスターとアサシンだろう。アサシンのマスターについてはわからんが、キャスターのマスターについては予想がついた。・・・まとめると、ガイアにサーヴァントが2組いるっていうことだ。わかったな?ライダー。」
「!?」
2つの反応だった。
千春は奇襲だと思ったらしい。実際にセイバーもそう感じてはいたが何もしてこない様子からただの盗み聞きと判断した。
「盗み聞きとはつまらないことをするなぁライダー。でだ、なぜお前がいる。いや、なぜ入ってこれた。」
「ほう、ここはセイバーの空間か。だとしても、そんなものは我には関係はない。我からしたらこのような世界は現実の鏡の中の世界でしかないということだ。わかるな???」
「わからん。」
ズコっとこける音がした。龍がこけるのかというのも疑問なのだが。
「まぁよい。で。いつから気づいてた。」
「あの天王寺とかいう小僧から話を聞いていた時、耳鳴りがした。こいつと天王寺には聞こえていなかったようだが・・・で、そこで・・・周囲に目を向けて見たわけだ。そうしたらお前がいた。」
「・・・・・・・ほう。そういうことか。セイバー、貴様中々面白い力を持っているようだな。貴様の正体、ある程度つかめたぞ。」
「お互い様だろう。阿呆が。」
「フ、フフフ、フハハハハハハハハハハハハハハ!」
1人と1頭が高笑いをする。
「セイバー。我は貴様から良い情報を仕入れた。だから我も良い情報を与えよう。あの天王寺とかいう小僧の言うことは真実だ。我も鏡から見ていたのでな。あと、死んだとされていたアーチャーだが、ランサーのマスターによって病院に運ばれた。あれだけの傷を負って生きているというのはアーチャーの能力だろう。」
「死んでも生き返るということか。」
「それが何回できるのかは知らんが、これには相当な魔力がいるはずだ。恐らく、また無傷の状態に戻るはずだ。今日教えられるのはここまでだ。せいぜい活用するがいい。」
「待てライダー。今ここで俺と戦うつもりはないのか。」
「ふぅん。我のマスターが寝込んでおるのでな。そいつは無理な相談だ。まぁ我が貴様らを食いちぎるというのも簡単なのだろうが、お前の能力からして人間狩りでは無く龍狩りになってしまうだろうなぁ。ククク。」
「・・・・・・・・」
「?」
なんのことか理解出来ていないのは千春のみであった。
「では今日のところは引き上げるとしよう。さらばだ。」
ライダーはそのまま帰って行った。セイバーと千春も意識を元に戻す。外は暗く、夜になっていた。
「今日は・・・とても騒がしい。」
「そうだろうな。瀕死の2人が運ばれてきたら、病院内は落ちついてはいられないだろう。」
「あれで生きているっていうのが不思議だな。」
優は2人が運ばれる様子を見ていた。単に病院内を歩き回っていただけなのだが、病院内が騒然としてきたのでどうしたのかと様子を覗いたら2人が運ばれてきていた。あの傷だといつ死んでもおかしくない。7階で入院だろうなー。とそんなことを考えながら何があったのか気になったので2人が倒れていると通報したというツンツン頭と修道服の少女に聞いてみた。優はこの2人がランサーのマスターであったのを気づいてはいたが何も言わないようにした。ランサーが脱落している以上、自分がライダーだと認め。戦いに巻き込むわけにはいかないからだ。
「何があったんすか?」
「森で2人が倒れていると鈴木・・・いや、変な男に言われたんです。その時は買い物がてらの散歩ってことで森の付近を歩いていたんですけどまぁ確かに変な感じはしていました。なんというか・・・すごく冷たい気というか・・・なぁインデックス。」
「うん。言葉で表すのはすごく難しいかな。でも簡単に言うなら殺気・・・になるのかな。」
「そうですか・・・(なんでこんなときにいないんだよライダー・・・)」
「まず今日はもう帰っても大丈夫だって言われてるけど・・・。」
2人はすごく不安そうな表情をしながら病院を去って行った。
「(あいつらはもう戦いに関わることは無い。いや、むしろ関わってはいけないんだ・・・)」
それからライダーが帰ってきて今に至る。ライダーが帰ってきてからその日の報告を受ける。驚いたのはただ一つ。今日運ばれてきたのがアーチャーとそのマスターだということ。それでライダーはこんな提案をしてきた。
「寝込みを食うっていうのもありだぞ?小僧。」
「・・・・・・・」
優自身、サーヴァントと戦ったのはランサーのみ。バーサーカーの兵馬俑とも銭湯を交えたがあれはただひき逃げをしていただけだ。寝込みを食うとは言っても逆のパターンもある。だが
「そういう卑怯な真似はしたくはないね。」
この一言でライダーの提案を一蹴した。それよりも警戒すべきなのはアーチャーを狙うキャスター達だ。また死んだと勘違いをして何もしないということもあるのだろうが、もし生きていると知ったら襲ってくるのは間違いない。しかもここは病院。いくら人目についてはいけないと言ってもこのチャンスを逃さないわけがない。何らかの形で襲ってくるはずだ。と優は考えた。それはライダーも同感であった。
「もしもそうなったら病院で迎撃をするしかないな。もしくは我の世界に引き込むか。」
「それが一番手っ取り早いだろうな。俺としてはここ以外で闘いたいものだが・・・。」
「まぁ、それはアーチャー次第ってことだろう。小僧、いつでもその時が来てもいいように準備はしておけよ。」
そういうことでその話は解決となった。
その夜、鍵の探索がガイア・ガーディアンと共に大規模で行われるという情報が入った。そのように仕向けたのは瑚太朗では無く、単なる偶然。その情報を聞きつけた瑚太朗は見つからないように篝の元へと向かう。だが、森には篝はいなかった。監視を頼んでいたのだが、普通に指示した場所にはいなかった。
「マジかよ・・・」
篝には元々自らを守るという感覚が少なかった。そのためいつもずっと無防備のまま。それだけ自分の能力に自信があるのかどうかは知らないが状況が状況なだけに勝手に行動されるのも腹が立った。この探すという行為自体が無駄なのである。急いで探すことにする。もし、篝を見つけることが出来ずに瑚太朗自身が見つかって危機に陥るなら、瑚太朗は自分の命を守ることも辞さないと考えていた。だが、篝と出あったのは必然のようにも感じていた。だからこそ、逃げることは許されない。瑚太朗は自らの監視用の魔物を空に放って篝を探した。そして魔物からの情報が届く。篝は街を歩いていた。下手をすればすれ違いになる。急いで街へ戻った。
篝は普通に街をふらついていた。急いで森へと帰す。
「今ガイアとガーディアンが大規模な力でお前を探索しようとしている。俺は今どちら側の探索にも参加していると名目だ。お前を守りながらここを脱出する。いよいよ、ここにはいられなくなったわけだ。だったら戻ってくる必要は無かったと思うが、そういうわけにもいかないんだよ。お前を一人にするわけにはいかない。もう、軽率な行動は取らないでくれ!」
「――――――!!」
「ああああああああああああああああああああああ」
精神干渉。瑚太朗の頭に歌が響き渡る。篝は納得が出来なかった。篝の言い分としては人間に対する理解を深めようとした、ということだった。それが瑚太朗にとっては許せない。敵地に一人で飛び込んでいくようなものだ。それほど自らの能力に自信があるようだが、戦力に差がありすぎるし、篝一人では勝ち目は無い。瑚太朗の計画が崩れてしまう。しかも今の精神干渉。このくらいの大きさだと感のいい奴には知れ渡ってしまう。ガイアにも篝を感知できる魔物がいるが、ガーディアン側の誰かには感知されたはずだ。そしてすぐにガイアの魔物も篝を感知するだろう。
「ハァ・・・ハァ・・・俺は心配で怒ってるんだ。お前、俺が死んで何も出来なくなったらどうするんだよ。俺を信じろ・・・。」
それを聞いた篝を歌うのをやめた。その隙を見て瑚太朗は篝を担いで走り出した。一瞬精神干渉がきた気がしたが、後ろから追手を感じ、それと同時に歌も止んだ。何かを投擲したのがわかる。やはりガーディアン側の感知タイプからの攻撃だろう。前方に魔物の気配を感じた。いつもの犬タイプ。これでガイアとガーディアンをばったり合わせれば目的は達成ということになるが、それはそれでたくさんの血が流れることを意味していた。それにガイア側には聖杯の戦いに参加している2人もいる。瑚太朗はあの2人にあったら確実にアウトとも思っていた。だったら、まずはいつもの木、篝の隠れ家に行くことが先決と考えた瑚太朗は篝を抱えて走った。木の近くまで来て違和感を感じる。その場所にあるべきものがない。景色そのものが記憶と違っていた。このような事は前にもあったから結界の類だと把握はする。誰かがいるとしても襲ってくる気配は無い。集中。
「(・・・・・・・・)」
何かがいる方向に石ころを蹴った。
「イタッ!」
その方向に上から奇襲をかける。
「ま、待って!」
小さな影が出てきて両手を上げた。
「な・・・・・」
小鳥だった。前見た時よりも成長しているようにも見える。だが、小鳥であった。背中から篝が小鳥に問う。
「結界は効果があったのですか?」
「え?」
今の一言で小鳥と篝が一緒にいたことがわかった。そもそも、なぜ小鳥がここにいるか。それは小鳥自身の口から説明された。小鳥は、神戸家が旅行に出た直後、峠で事故を起こした。3人は森へと投げ出され、小鳥だけが木に引っ掛かって奇跡的に一命を取り留めた。しかしそこで小鳥は森の声を聞く。正確には聞けるようになった。天恵である。古代、先の時代の魔術師の知恵、それを得たのだ。それはドルイドとも称される。古代の魔術師は篝を崇拝することによって、その恩恵を受けていたそうだ。
「それで篝といたってわけか。」
「篝さんを助けないといけないって・・・。そうしないと2人を助けられないって・・・。」
2人と言うのは小鳥の両親のこと。亡くなってしまったらしい。だが2人を助けると言うのは死んだ人間を生き返らせると同じ事。それは・・・禁忌にも近いものだ。瑚太朗は複雑な気分になった。だが、
「でも、もう大丈夫。まだぎこちないけど・・・」
それが意味したもの。
「お前まさか・・・・」
「・・・・・・・」
「魔物にしたってのか・・・?」
「・・・・・・・・」
答えない。どうやらそのようだ。小鳥は賢い子だ。それは瑚太朗自身も理解している。そうでもないとドルイドになんてなれないはずだ。だが、死んだ人間を生き返らせる。これだけはあってはならないとも思った。しかも人間としてではなく、ゾンビとして。納得が追いつかない。
「ああああああああ。もうこの話は後だ!小鳥、篝との関係を教えてくれ。」
小鳥に聞いたはずだが、篝が口を開いた。篝は小鳥との関係を説明する。小鳥が自ら篝の元へとやってきた、ということ。その時に持っていた蔓は瑚太朗にとっては何も感じなかったが、独創的なもので作られた魔物らしい。しかも記録媒体として使っていたようだ。最後に篝はこう言った。
「森の賢者は篝を守ります。そのための結界をこの娘は張りました。故にこの娘が、篝を守るでしょう。」
「ふざけるな・・・今すぐ小鳥を家に帰せ。子供を巻き込むんじゃない。これは大人の事情だ。子供を巻き込むのだけは、許されない。」
「この星が死ぬ。私が死ねば、大人も子供もいなくなります。」
「そんなことはどうだっていい。そうならないために俺がいるんだ。だから小鳥は俺が家に送ってくる。」
「送らなくていい・・・。」
「は?」
「これは私の仕事なの。瑚太朗君には関係無いんだよ。瑚太郎君がどんな理由で篝のそばにいるのかはわからない。それが大人の事情なんだと思う。でも私には私の事情があるの!お父さんとお母さんを生き返らせるって事情があるの!今はまだぎこちないけど・・・。でもうまくなれば・・・きっと元の生活に戻る!だから私は帰らない。」
「・・・・・・・」
話はずっと平行線をたどった。だが小鳥は魔物を扱う上で重要な事を知っていなかった。
「小鳥。魔物を扱うエネルギーの元は何か、知っているか?」
「・・・・」
黙る。知らない、と見ていいだろう。
「いいか?魔物を扱うエネルギーというのは、小鳥自身の命なんだ。遊びなんかじゃない。本当の命のやりとりなんだよ。削って、注いで。その繰り返し。悲しいことを繰り返しちゃいけないんだ。だからお前はこの仕事に関わっちゃいけない。お前の親戚の所に連絡してやるから、お前はお前の日常を取り戻すんだ。」
「・・・・やだ。そしたら・・・私はずっと一人なんだよ・・・?結界だって・・・張りなおさないといけないんだよ?」
泣き始めた。
「そういうことじゃないんだよ・・・。」
これは、命にかかわる問題なのだ。こんな子供を命を危険に晒すわけにはいかない。だが、このやりとりの時間こそが小鳥の命を危険に晒していた。
「・・・・!」
小鳥が異変に気付いた。瑚太朗自身も気づく。とてつもなく大きな気がこっちに近づいていた。小鳥と篝を木の陰に隠す。これまで感じていたガイアやガーディアンのような気ではない。とてつもなく、冷たい気。元々視力を強化していたので先にいるのが誰かわかった。あの男だった。名前は・・・セイバーとかと言ったか?
「おーおー。こんなところで会うとは・・・奇遇なものだぁ。」
「どうやって入ってきた。」
まずそれを聞く。さっき情報を教えたセイバーがここに来ると言うことは篝を狙っているとみていいだろう。だが返ってきた返答は、瑚太郎の予想を裏切った。
「簡単だ。こんな弱い結界だと簡単に見抜かれる。まぁ今この森にいる魔物使いや超人には見つからないだろうけどな。」
「!?」
忘れていた。小鳥の件でそれをすっかり忘れていた。ガイアとガーディアンが捜査に本腰を入れて森に来ているのだった。幸いまだ結界は見つかってはいないが・・・。
「セイバー。お前はその状況でどう潜りぬけてきた。」
「おや?お前には名を明かしてはいなかったはずだが・・・そうか・・・千春か。お前の言う通り、アサシンとキャスターがこの森にいるかどうか確かめに来たのだが、すれ違う奴ら皆魔物だの変な動きをしてくる。ある意味面倒な相手であった。この森は広い。だが、集団には集団をというのがあるんだな。これが。」
言ってることがよくわからない。だが、ここまで来るのにある程度の相手と会ったということだ。そしてその度に殺したのだろう。血の匂いがする。
「だがアサシンとキャスターに会うことはなかった。興が覚めた。俺は帰る。で、そいつが鍵か?隣の子供はそうは見えんが・・・もう一人ははっきり言って異端だ。」
「!?」
鍵は人間には見えてはいない。だがセイバーには見えているらしい。ある意味、これは使えるかも知れない、と瑚太郎は考えた。まずはこの状況をどう切り抜けるか。
「小鳥。お前は結界を張り直して来い。」
「え・・・・う、うん。」
小鳥はパタパタと走って結界を直しに行った。
「セイバー。お前の聖杯の戦いに協力してやる。恐らくだが、鍵もある程度関連しているからな。だが、こっちにも協力はしてもらうぞ。まずは、敵の誘導に当たってほしい。今この森は魔物使い・超人・俺達の三つ巴だ。魔物使いはその通り魔物を使う。あんたの言うアサシンとキャスターってのは魔物を使うことは無いがそっち側の人間だ。あとは超人側ってことにしていい。どちらかに遭遇したら逃げて誘導してもう片方に遭遇するんだ。そしたらすぐその場から立ち去る。これを繰り返してくれ。止むを得ない場合は・・・」
「殺せ・・・か?」
「・・・・・・・だが、極力は避けてほしい。アサシンとキャスターに遭遇した場合はお前に任せる。」
「わかったわかった。お前もお人好しだな。自分の命も狙われていると言うのに。」
「そうです。」
篝も便乗する。小鳥がちょうど戻ってきた。
「なんとでも言えばいい。それが俺の目的にも繋がるんだ。小鳥、お前は篝と一緒にここにいろ。俺が戻ってくるまで動くなよ?もし危険を感じた場合はこの魔物を使って俺に知らせるんだ。じゃぁ、作戦開始だ。」
瑚太郎は小鳥に鳥型の魔物を渡してその場から一瞬にして消えた。セイバーはその場に立って目を瞑っている。そして目を開き、結界内から出ていった。
「さっきも言ったけど・・・本当に騒がしい日だな。こういう時ってあんまり良い予感はしないな。まぁもう寝る時間にもなる。スルーしてれば問題は無いか。」
優はベッドに横になりながら街の方を見ていた。実際に今日は優にとっては騒がしかった。いきなり、今にも死にそうな傷を負った2人組が運ばれてきた。即手術ということになったのだが、手術することには傷が癒えているという謎が事が起こり、病院は更に混乱した。普段は静かすぎる7階にも噂は伝わってきた。ヘルパーも此の事は不思議に思っていたらしい。最近の街の出来事も気になってはいたようだが、口にすることは無い。優自身このところの体調も良かった。だが、優の持っている病気は心臓の病気で、いつ何かがあってもおかしくは無い状況だ。だからこそ、7階にいるわけなのだが。その2人組も7階に搬送されたわけだ。今は寝ているらしい。
深夜。街、正確には森の方向に異変があることは優も気づいていて、寝付けなかった。それに加算して良い予感もしない。これはさっきから感じていたことである。何が何でも寝ようと優は目を瞑っていた。
ガラララ・・・・
ドアが開くのがわかった。巡回の医者か?とも思ったがある言葉で完全に目が覚める。
「アーチャー・・・」
「なに!?」
ライダーがその存在を確認した。銀髪の少女、立華奏は扉の前に立っていた。
「やっぱりライダーはあなただったのね。気配で感じていたわ。」
優は状況を把握するのに手間取った。その間にライダーと立華奏の会話が進む。
「アーチャー。お前は死んでいたはずだ。それにここに運ばれて来た時も死に至る傷だったはず。それが今では無傷だ。どういうことか説明してもらおうか。それが無理なら、今ここで我が貴様をかみ殺す。」
「・・・これが私の力。私はパソコンを使うことによって力を発揮していた。それは死んでも復活することや武装の上書きとかそういうものが書かれていたわ。でもそのパソコンはキャスターに壊されてしまった。それが今日の昼。」
「昼だと?この戦いはほとんど夜間に行われるはずだ。」
「パソコンの場所は森にあった。前にあなた達が1回目に私達が殺されたのを見た建物。その地下にあったの。でも建物自体はキャスターに壊されて、パソコンも壊された。だからもう私と結弦は死ぬことはできない。」
その頃には優も話についていけていた。起き上がってはなしを聞く。
「結弦というのはお前のマスターか。」
「・・・・・・・」
ライダーが立華奏のある一点を見る。
「そうか。で、ここに来た目的と言うのは何だ。」
「今、森で起きてる事については知っているわよね?」
「やっぱり森で何か起きているのか?ずっと変だと思ってたんだ。」
優は自分の予想が当たってて少しテンションが上がっていた。
「今森には・・・恐らくアサシンとキャスターがいる。何をしているのかは知らないけど・・・。私があなた達にお願いしたいのはアサシンとキャスターのところまで連れて行って欲しいの。あの2人は危険すぎる。下手をしたらこの戦い自体が壊れてしまうわ。」
「なるほど・・・。悪いが、もうここ戦い時代は壊れている。ずっと森の動きを見ていたわけだが、アサシンとキャスターの狙いは「鍵」だ。そいつは人の形をしていて、普通の人間には見えない。それを手に入れることによって救済があるとかないとか・・・。どの道、キャスターに鍵が渡ったらそれでおしまいということだ。アサシンについては正直わからない。キャスターのマスターはこの戦いを自らの欲望のために利用しようとしている。そいつの手に聖杯と鍵が渡ったらどうなるか、理解できるな?小娘。」
立華奏は頷いた。
「さて、我としては別に貴様を森に送るのは構わないが・・・我のマスターがこの状態だ。それにキャスターの力は尋常ではないぞ?一人で挑む気か?」
「いいえ。今私が狙うのは・・・・アサシン。彼女だけよ。」
「なるほど。小僧、行けそうか。」
「しょうがないな・・・・(そういうことか。なら・・・俺のやることは決まったようなものだな・・・)」
「アーチャー。一つ言っておくが、貴様がもしヤバいと感じた時には、お前のパートナーを呼ぶのが先決だと思うぞ。」
ライダーが変な事を言った。優はなんのことかは理解できなかった。
アサシンは単独での行動だった。いつもはキャスターと行動を共にしているのだが、今日ばかりは違う。ガイア側もガーディアンが今日大捜査に出るという情報をつかんでいた。なので小隊の戦力を分散する、という形で隊を作っていた。アサシンは鷹野といつでも通信できるようにしている。ほとんどの指示を鷹野から受けるからである。アサシン率いる小隊はガーディアンの部隊と接触した。ガーディアン側もガイアが捜査に出るという情報を掴んでおり、鉢合わせになってしまったら戦えの精神で森に来ていた。アサシンも超人と言えば超人なのだが、ガーディアン側の超人とはわけが違う。戦闘になったところで勝負は一瞬でついた。その様子を瑚太郎は隠れて見ていた。その戦闘のせいか、さっきから森では叫び声ばかりが聞こえる。恐らく、死んで逝く者たちの断末魔なのだろう。これが篝の言う良い記憶になるとは思えないが目的のためには必要な過程なのだ。その時、電話がかかってきた。ガイアの人間からである。
「天王寺君、そっちの様子はどうかね。」
「あ、何も問題はないです。ですが・・・ちょっと仲間とはぐれてしまいまして・・・」
その仲間は、屍となっている。瑚太郎は一人で行動するために仲間を殺した。それはガイアへの反逆を意味している。もうガイアには戻れない。今は生きている設定だが、今日、死ぬ設定にするつもりでいる。それはガーディアンでも同じ。それも簡単にはいかないだろう。今は大丈夫だが、後は必ず面倒なことになる。瑚太郎はそれだけは確信していた。
「そうか。それじゃぁそのまま気をつけて探索してくれ。出来れば早めに隊と合流してほしい。変なことになっている。」
「変な事?」
「第3者が、混じっている。通信によればそいつらは日本刀のようなもので攻撃してくる。しかも・・・急に髪の色が・・・・な、何だお前!う、うわああああああああ!」
「・・・・・・・・・・」
「あーあー。なんだこれは。」
「セイバー・・・・・。」
電話に出たのはセイバーだった。
「お前・・・ッ!むやみに殺すなって言っただろ!何やってるんだよ!」
「お?小僧の声が聞こえるな。まぁいい。しょうがないだろ。あっちはあっちでいきなり攻撃してきたんだ。変な犬みたいなのを連れてな。それじゃぁ防衛本能が働いてしまうのでな。」
「そういう問題じゃない!こっちにも計画はあるんだよ!俺はお前に今日y六しているつもりだけど・・・お前も俺に協力する。そういう約束だろうが!」
「そう騒ぐな。俺だって逃げてるだけじゃつまらん。俺にとってはあいつらは悪なんだよ。俺達の信念は・・・・・・・・・」
言葉が止まった。
「おい。どうした。おい!」
「小僧、狼はどんな獲物でも逃がすことは無いというのだけは覚えておけ。いいな。」
「おい、何言ってんだよ!おい!」
「アサシン。」
その一言だけ言って電話が切れた。その時になって気付いたが瑚太郎はアサシンを見失っていた。最初の電話の時点でアサシンは移動していたのである。そして今、セイバーとアサシンが遭遇した。状況は瑚太郎の有利に動いた。
「(セイバーがアサシンと遭遇したか・・・。こっちも急がないとな・・・ん?)」
瑚太郎は一瞬地面に落ちていたガラスの破片に赤いものを見たような気がした。気づいたらいつもの目印にしている建物の近くまで来ていた。
「お前に会うのは初めてか。アサシン。」
アサシンはセイバーの姿を確認した後、すぐに携帯電話で通話をする。
「鷹野さん、セイバーが現れました。はい・・・はい。わかりました。」
アサシンは電話を切ると背負っていたバイオリンのケースからライフルを取りだした。ウィンチェスターM1897。彼女が取りだしたのは大型のライフル。それを、セイバーに向けたのであった。
「(鷹野さんを危険に陥れる人は・・・許さない。私が、鷹野さんを守る。)」
彼女の歪んだ愛の方向。そして考える。
「(この銃って・・・誰が使っていたのかな・・・とても懐かしい。)」
鷹野のもとに届いたアサシンからの報告は衝撃的なものだった。セイバーに遭遇。予想にもしていないことだった。これをキャスターのマスターに報告するべきだろうか。だがしたところで作戦に齟齬が生じるのは間違いない。キャスターもこの作戦には参加しているはずだ。鷹野は報告をやめた。そのままアサシンにセイバー討伐の指示を出し、森の方向に装備してある魔物を送らせた。
セイバーはアサシンの武装を見て、自分との相性が悪いと察知した。
「(流石に銃火器相手はキツいか・・・)」
セイバーはわずかな隙を見て懐に飛び込もうと考えた。だがアサシンの武装はそれだけではなかった。様々は銃を持って追ってくる。しかも、疲れる様子は全くない。アサシンが左手に持っているのはウィンチェスターM1897。右手にはFN P90を持っていた。距離を取る相手にうってつけの小型銃である。セイバーは150m距離を取ったとしても弾丸は頬をかすめた。
「チィ・・・!」
近づける要素が無かった。ただセイバーが近づく唯一の方法。自らの強化である。鬼。セイバーの強化した状態が鬼にも見える、セイバー達はこれを「羅刹化」とも呼んだ。その状態になろうとしている。いや、ならざるを得なかった。早さに関してはセイバーとアサシン同じくらいであるのだが、同じくらいだというのが驚きなのだ。成人男性の力と未成年の女の子の力。確実に成人男性の方が上なのだが、アサシンは違った。それに加算してアサシンの持つ銃の弾丸の早さ。それを考えるとアサシンのほうが絶対的有利に立っているのだ。それを上回る早さになるためには、自ら羅刹になるしか方法は無かった。
自らの体が熱くなるのがわかる。逃げながら、その状態を変えていく。その様子をアサシンも察知した。銃を撃つスピード。弾丸を込めるスピードを速めていく。もう百発は撃っている。流石に150m近くも離れていると、いくら威力の大きいウィンチェスターM1897でも役には立たない。当たれば致死に至るはずなのだが。その瞬間、セイバーがアサシンの視界から消えた。今まではギリギリで捉えていたのだがいきなり消えた。
「(先には行ってない・・・?)」
アサシンは先に行ったのではないとわかった。首に、冷たいものが当たっていた。
「・・・・・!」
「よぉ・・・なかなかやるじゃねぇか。アサシン。俺も羅刹にならないといけない状態に追い込むとはな・・・バーサーカーよりは強いと判断してやるぜ?でだ。なぜお前は聖杯戦争以外の戦いに関与している。キャスターも、と言えばいいか?」
アサシンの首にはセイバーの刀がつけられていた。
「あなたには・・・関係無いことです。私は、マスターを守ることだけ考えてます。」
「ほぉ。そいつは俺達と同じだ。主のために命を賭けて戦う。どうやら、お前もそういう時代に生きてきたみたいだな。で、貴様のマスターはどこにいる。」
「マスターを見つけてどうするつもりですか。」
「どうもしないさ。だが、そのマスターを俺達が悪だと判断すれば」
「・・・・・・・・」
「今すぐにでも殺す。」
「――――ッ!」
アサシンは首に突き付けられた刀をかいくぐり、腰に所持していた小型ナイフでセイバーの腹を刺した。
「何ッ!?」
それはセイバー自身も予想外の動きで反応が取れなかった。取った時にはもうナイフは腹部に刺さっている状態だった。そのまま刀を振る。アサシンの左腕が地面に落ちた。
セイバーは膝から崩れた。一方アサシンは左腕が無くなったのにも関わらず表情は変えない。その状態で右手のFN P90をセイバーに突き付けた。
「(まずい・・・)」
苦痛で動くことが出来ない。羅刹化していたことが幸いし、傷の治りが速くなっているが、その速さでもこれから訪れるであろう「死」に間に合うかどうか。
「私は鷹野さんを守る!鷹野さんに喜んでもらう!それが私の生きがいなんです!だから鷹野さんを危険に陥れる人は絶対に許しません!それが仲間であっても・・・絶対に許しません!」
銃声が森に2発同時に響いた。
「(銃声・・・?)」
瑚太郎は森に響いた銃声を聞いた。
「(一発じゃない・・・音が重なっていた・・・)」
同時に2発撃たれたと確信した。さっきから銃声は響いていた。恐らくアサシンのだろうとは思ってはいた。銃声がしばらく止んで、落ちついたかと思ったら最後に1発。正確には2発ともいうべきか。そんなことを気にしていた。瑚太郎はというと、ガイアとガーディアンを鉢合わせにする作業に没頭していた。なかなかに苦労する作業であった。ガイア側に会いそうになったら超人的な能力を使って超人と思いこませる。ガーディアン側に会いそうになったら魔物を使役する。これがなかなかに疲れる作業だった。森にいた軍団もある程度は減っていたがまだいる。森の中は死体で一杯となっていた。何かに食われたであろう死体。切り刻まれた死体。様々だ。
「(篝達の方からは何も連絡は無い・・無事か・・・)」
そろそろそっちに目を向けてもいいはずだ。もう夜明けも近くなっていた。篝達の場所へと戻ると、小鳥は篝の膝の上で眠っていた。
「(呑気すぎんだろ・・・)」
そうも思ったが小鳥はまだ子供だ。眠くなるのも仕方がない。篝に状況を聞く。
「何もありませんでした。」
その一言だけでも安心だった。
「よかった。とりあえず今日はこれで大丈夫だろう。夜明けも近い。気配もだんだん森から出ていってる。完璧に消えたらここを出るぞ。俺はもうガイアからもガーディアンからも死んだ者扱いされているはずだ。戻ることはできない。これから住む場所は前から借りてたアパートの一室だ。小鳥は家に帰す。小鳥に関しては俺に任せてくれ。あと、篝にこれを渡しておく。今はまだあの丘までなら出歩いてもいい。だが森からは出るなよ?」
瑚太郎は篝に端末機器を与えた。子供でも扱えるようなGPS。どれも裏ルートでの入手だが、勝手に出歩かれて探すよりかはマシだ。
「よし・・・気配が消えたな・・・で、セイバーはどうしたんだ?」
セイバーに渡した魔物との契約は切れてはいなかった。しかも、森から既に出ている。
「あいつ・・・勝手に帰りやがったな?」
一言言ってやろうと瑚太郎は森を出た。すぐにセイバーの道場へと向かった。
「ごめんくださーい!」
時間的には早朝。すごく迷惑な時間ではあるが、さっきまでセイバーと行動を共にしていた。大丈夫であるはずだ。だが、一向に人が出てくるような気配は無かった。
「ごめんくださーい!」
もう一回呼んでみる。中からドタドタと聞こえてくる。
「はい・・・どちら様・・・あ、天王寺さんですか。よかった・・・。」
「どうかしたんですか?」
「セイバーが・・・。」
「え?」
中に入れてもらう。セイバーは眠っていた。何があったのか聞いてみる。千春はすべて答えてくれた。
「さっき、ライダーがセイバーを運んで来たんです。運ばれて来た時には意識は無くて・・・ライダーには生きているのが不思議なくらいだと言われました。傷は腹部の刃物で刺された後、同じ個所に銃で撃たれた跡。確かに死んでも不思議ではないんです。それでも無事でした・・・。それに関しては良かったです・・・」
「なんであんたは、セイバーの傍にいてやらないんだ。」
「私は・・・魔術を使えるわけでもないし、特に何かに対して強いというわけではありません。こうやってセイバーを召還できたのも何かの奇跡だとも本人から言われました。それはそれでショックなんですが・・・。理由としては、私の家系にあるみたいなんです。」
瑚太郎は千春から自分が鬼の一族の末裔であること、それによって鬼の血が流れていることを語られた。鬼。瑚太郎がセイバーに対して抱いた感情でもある。
「(この2人は・・・元々何かに関係しているのかも知れない・・・)」
そう感じた。
「それはそうと、この傷はやっぱりアサシンによるものなのか?」
「そうみたいです・・・ですがそのアサシンも瀕死に至っているとか・・・」
「そうか・・・(なら、こっちの行動も多少は取りやすくなったか・・・)
「天王寺さん?」
「いや、何でもない。そうだ。あんたにお願いがある。頼んでいいか?」
鷹野の飛ばした魔物がアサシンの元に辿りついた頃、アサシンとセイバーは相打ちの状態になっていた。セイバーが膝をついているのがわかる。
「(勝った!)」
鷹野はそう思った。だが、映像はあってはならないものを映す。この魔物は広範囲で景色を映す。周りの様子もすぐわかるのだ。映し出されたのははバイクを走らせるライダーとライダーの後ろでライフルを構える立華奏の姿だった。
「なっ・・・」
アサシンはそれに気付くのと同時に発砲した。その影響で急所を外してしまったが、撃ち抜いたのはナイフで刺したのと同じ個所である。どのみち致命傷なのには変わりは無い。セイバーは倒れたが、死んではいない。アサシンは右足にライフルが当たり右足は吹っ飛んで行った。
「バレットM82の50口径弾・・・なんであんなものを・・・それどころじゃない!アサシンを戻さないと・・・令呪を以て命じる・・・」
アサシンはそれでも立とうとしてセイバーにとどめを刺そうとする。立華奏はもう1発撃った。弾丸はアサシンの頭めがけて発射された。
「戻って!アサシン!」
紙一重のところでアサシンはその場所から消えた。ライダーは倒れているセイバーを見ていた。
「殺さないの?」
奏がライダーに問いかける。
「小僧、ここでセイバーを殺した方が身のためだぞ。」
「いや、セイバーはここでは殺さない。俺もそういう闇討ちは好きじゃないんでね。それに、こいつは俺の目的のためには必要な男だ。ライダー。お前の為でもあるんだぞ?聖杯を勝ちぬくための策だ。」
「ほぉ・・・だが、ア・・・この娘にそれを聞かれてしまったぞ?」
「・・・・・・」
奏は黙るが、優がその言葉に返答する。
「大丈夫だ。今回アーチャーは俺たちに頼みごとで来ているんだ。闇討ちなんて絶対しないはずだ。そうだろ?アーチャー。」
奏は頷いた。
「ライダー、セイバーを道場に運ぶぞ。アーチャー。お前はどうする。」
「私は森に残るわ。」
「そうか。じゃぁ俺たちは先に行くぜ。」
ライダーは森から出て、奏はそのまま森の奥へと進んで行った。鷹野は魔物に尾行するように指示する。そしてアサシンを治療室へと運んだ。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
アサシンはずっと謝っている。
「謝らないで!今はあなたを治療することが先決なのよ!」
「ううぅ・・・・・・」
アサシンは涙を流す。
「アーチャー・・・ただじゃおかないわよ・・・。」
「その怒り、妾に任せてみてはどうかな?」
目の前に急に現れたのはキャスターであった。
「キャスター・・・。どいてこの子を治療するわ!」
「治療?そうかそうか。だが鷹野よ。アサシンを治療すればどうなるのか、わかっておるのか?」
「・・・・・・・・知ってるわよ・・・」
「それを知った上でやるというのか?妾は大歓迎なのだが。」
「断ったところでどうするつもり?裏切りとみて処分されるのは、私達よね。」
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!わかっておるではないか!せいぜい頑張るがよいわ。で、アサシンをやったのは誰?」
「セイバーってところかしら?」
「セイバーってところかしら?」
「ほぉ・・・セイバーか。まぁ妾はこれからの流れを静観するとしよう。まぁ頑張るがよいわ。あ、そうだぁ。さっきも言ったが、裏切りは許さんぞぉ?」
「(わかってるからこそやるのよ・・・)」
アサシンを治療すること。それはアサシンの全てを失くすことを意味していた。アサシンの体は借りの体、義体である。傷ついた体を新しい体に付け替える。今回負った傷はあまりにも深い。それに加算して条件付け。現実には薬物・暗示・電気的刺激などを用いて行われる洗脳処置の事である。内容は「マスター、およびマスターの所属する組織忠実であること」「殺人に抵抗を持たないこと」「目的達成のためには自己犠牲を厭わないこと」といった非合法工作員としての適性強化である。そしてその前の記憶は、失われる。これまで戦った記憶が全く持って消える。これがある意味恐ろしいことなのである。それこそ、本当の殺戮兵器にもなるだろう。
「(ごめんね。アサシン・・・)」
鷹野は心の中でアサシンに謝罪をした。
「鷹野さん・・・。」
「どうしたの?アサシン。」
これから起こることを知っている。敢えて優しく接した。最後くらい、楽しい記憶を与えてやりたいという鷹野なりの配慮だった。だがアサシンにとっては鷹野と一緒にいること、それだけが救いなのである。
「私・・・思い出せないんです・・・。」
「何を?」
「どうして鷹野さんと出会ったのか・・・どうして戦っているのか。ここに来る前、どこにいたのか。とても・・・大切な何かを失くしている気がするんです。思いだそうとする度に吐き気がしてきて・・・辛いんです。」
「・・・・・・・」
鷹野とアサシンの出会いは至って普通であった。鷹野の願い。それは鷹野の祖父の研究課題、「雛見沢症候群」と「寄生虫」を受け継ぎ、後世まで研究が語り継がれる「神」になることで永遠の存在になろうとすることであった。単純に言うならば狂気である。鷹野の祖父、高野一二三は三四にとって命の恩人である。鷹野は幼いころに両親を亡くし、施設に引き取られた。その施設では虐待を受けるか見るかの毎日。隙を見て脱走し、向かった先が父の知り合いであった高野一二三の元であった。鷹野は一二三が父の知り合いであったことを思い出し、引き取ってもらった。それからは一二三の研究を一番近くで見てきた。その研究が認められなかった時、鷹野は怒った。復讐まで考えた。そこから、鷹野の願いと言う名の狂気が生まれる。その状態で、聖杯の存在を知った。鷹野は最強の僕と手に入れようと奮闘するが、最終的に手に入れる事が出来たのは一丁の銃のみ。それを媒体としてアサシンが召還された。アサシンの真名「ヘンリエッタ」。鷹野自身聞いたことも無い名前であった。調べても見つけることが出来ない。だが腕は確かだった。キャスター陣営を手を組み、鍵の探索に加わる。ガーディアンの部隊を一瞬にして殺していった。だが、どこか抜けている。鷹野はそれに呆れることも多かった。自分の願いを確実に叶えたいからこその苛立ちでもある。だが同時に、
「(なんでこんな小さな子が・・・)」
という悲壮感。鷹野は目的の為ならば手段を選ばない。だからこそのアサシンの修理なのだが、これだけはどうも納得がいかなかった。この戦いを放棄して、自らの力で研究を認めてもらうことも考えた。だが、
「(これが私のやり方なのよ・・・)」
決心は揺るがない。
「前に・・・夢を・・・見たんです。」
ベットに横たわったアサシンが自ら見た夢を語る。
「その夢の中では・・・悪い人たちと戦っていたんです。たくさん殺してたくさん傷ついて・・・。でも任務を遂行する度に、私の・・・あれ?思い出せない・・・・。」
「思いだせる範囲でいいわよ。」
「・・・今でいう鷹野さんみたいな人が・・・褒めてくれるんです。旅行に連れて行ってくれたり・・・プレゼントをくれたり・・・私のいたところは私みたいな子供たちが一杯いてその・・・・マスター?のために動くのが使命のようなものでした。でもそれが楽しかった。褒められるのが嬉しかったから・・・今もそうなんですよ?だから今こうやってるのが第2の使命にも思えるんです。だから鷹野さん。私はあなたの言うことを何でも聞きます。もし、私が本当に使いものにならなくなった時は・・・・。」
アサシンはポケットから小型拳銃を取り出して自らの頭に突き付けた。
「アサシン!やめなさ・・・・」
アサシンは言葉を遮る。
「もし、私が本当に使いものにならなくなった時は・・・私を、殺してください。それまでは必死に生きて、そして死んでいきます。」
アサシンなりの精いっぱいの笑顔だった。
「・・・・・・・」
「それじゃぁ鷹野さん。行ってきますね。」
アサシンは治療室へと運ばれていった。
数時間後。手術は終わった。医師から全てが元通りになるまでには時間が必要と言われた。大きく見積もって目が覚めるまでに24時間。そこからは鷹野の役目のようだ。医師には「条件付け」を強くするように頼んでいる。今のままの条件付けだと鷹野自身の意思が薄れてしまう。情が生まれてしまうと考えてしまったからである。鷹野はアサシンの目がさめるまで傍にいることにした。
森に残った音無奏は前に居座っていた建物の跡を見つけた。いろいろ調べてみるが全てが木端微塵の状態であった。もちろん重要なPCの存在など無い。元から知ってはいたことであるが、いざこうやってみると多少焦ってしまう。武器の補給もできないからである。
「(できるにはできるけど・・・)」
実際、奏が所持していたのは小型拳銃とアサシンを撃ち抜いたバレットM82の50口径弾のみ。これだけでも戦えるには戦えるがサーヴァントが来た場合、圧倒的不利に立たされるであろう。だからこそ、このバレットM82が重要なのだ。このライフルの弾を当てるだけで相手にとっては致命傷のはず。アサシンはしばらくは動けない。奏はそう読んでいた。それに他のサーヴァントが襲ってきたとしても一発当てれば逃げるチャンスはいつでもある。だが今はそんなこと必要ないのだ。奏はアサシンとセイバーがほぼ相打ち状態になっていたのを見たし、ライダーも襲ってくる気配も全くないからだ。問題はキャスター。アサシンと同盟を組んでいるのはわかっているが、攻めてくる気配は感じられない。もしものことを考慮して、まずは作戦を立てることを重要とした。
「(この森は危険なにおいがしすぎてるわ・・・ここはおとなしくしていたほうがいいわね・・・)」
そう考えてその場に居座ることにした。
「(暇ね・・・)」
そのまま、奏はそこで一夜を過ごした。
「よいしょっと・・・・」
雪村千春は朝、天王寺瑚太郎から渡されたメモを元にとある建物へと向かった。表札には「神戸」と書かれてある。昨夜瑚太郎からこう言われた。
「ある女の子を保護してやってほしいんだ。あんたのところは道場を開いてるんだろ?ならその子達と一緒に何かやらせてくれ。あいつは森に出入りしている。これから必ず森は危険になるだろう。いや、なる。たくさんの血が流れることになるはずだ。あんな小さな子供を危険に晒すわけにいはいかない。頼む。」
インターホンを押す。誰も出なかった。
「やっぱ出ないか・・・・」
瑚太郎から言われたことを思い出す。
「インターホン押して出なかったら・・・いや、確実に出ないか。今の方を覗いてみてくれ。それか家に上がってしまえ。」
「大丈夫かしら・・・・」
多少不安もあったが、上がりこんでみることにした。
「小鳥ちゃーん・・・・」
ガタッ!
音がした。逃げていく音だ。
「これじゃやっぱ不審者よね・・・」
目の前に何か変なものが出てきた。犬のような豚のようなイノシシのような・・・
「?」
「行け!」
陰からの言葉と同時にその生き物は千春に向かって突撃を仕掛けてきた。当然、防ぐ術など身につけていない千春は簡単に壁に飛ばされてしまった。
「・・・ッ」
「行け!」
更に追い打ちをかけてくる。このままでは確実にやられてしまう。セイバーを呼びたいけど呼べる状況ではない。そう考えている間に攻撃が千春に直撃した。
「ゴフッ・・・」
口から血が出てきた。千春はその場に倒れた。
「・・・・・」
小鳥はその千春に近づく。その瞬間、千春は今年の腕をつかんだ。
「!!!!!!!」
小鳥が抵抗する。
「大丈夫ですよ・・・私は・・・小鳥ちゃんの味方です・・・」
薄れていく意識の中で小鳥に笑顔で答えた。
「え・・・?」
「瑚太郎君からあなたを保護するようにお願いされたんです・・・だから・・・安心して・・・?」
「なんで?そんなに私が邪魔なの!?子供だからなんだっていうのよ!?篝は・・・私が守らないとダメなの!」
千春はなぜ小鳥が怒ったのかわからなかったが、「篝」という名前である程度理解できた。
「私達がお願いされたのは・・・その篝、って子の事なんです・・・。その件、私達に任せてくれませんか・・・?」
「それじゃぁダメなの!私には篝を守る権利があるの!瑚太郎君もあなたもそうやって私を・・・」
「いいえ・・・それは違います。私達はあなたをただ守りたいだけです。次の世代の子供たちを・・・失いたくないだけなんです。それに、私も信頼できるパートナーがいます。今はちょっとケガをしてて寝てますけどね。」
「なんで・・・?なんでなの?もう一人になりたくないのに・・・」
「あなたは一人ではありませんよ。私が、傍にいてあげます・・・だか・・・ら・・・信じ・・・て・・・?」
千春は意識を失った。
夕方、千春は目が覚めた。布団に横になっていた。なんか体が重いと思ったら小鳥が布団に乗っかって眠っていた。
「(看病してくれたんですね・・・ありがとう・・・)」
千春は小鳥の頭をなでた。
「(こんな可愛い子供を危険に晒すわけにはいきませんね・・・なら、私のやることは・・・)」
「・・・・ん?」
小鳥が目を覚ました。
「よく眠れましたか?」
「・・・・・・さっきは・・・ごめんなさい・・・。」
小鳥はうつむきながら千春に謝った。
「いいえ。大丈夫ですよ。」
笑顔でそう答える。それに連れて小鳥も笑顔になる。元々、千春には子供を引きつける力がある。それも道場をうまくやっていけてる理由にもなるのだろう。
「あ・・・・」
小鳥があることに気付いた。
「服・・・・・」
服は血がたくさん染みついていた。その様子をみていた変な生き物もこっちを隠れて見ている。それを千春は笑顔で見返した。その生き物はそれを見て千春のほうへと寄ってきた。
「小鳥ちゃん。この子は?」
「この子は・・・ちびもす。私の・・・友達。」
一瞬何かためらったようにも見えたが特に気にすることはなかった。
「でもこの服だと帰るにも帰れませんねぇ・・・どうしましょうか・・・」
「あの・・・お母さんの服なら・・・」
小鳥の母親。いや、両親というべきか。そのことについても瑚太郎から話は聞いていた。
「それはできません。いつか家族が・・・戻って来た時に困ると思います。」
「・・・・うん。」
「しょうがないですね・・・これで帰りましょう。」
「大丈夫なの?」
「大丈夫です!あ、そういえば私の自己紹介まだでしたね。私は雪村千春といいます。近くの道場で子供たちに剣道を教えているんです。剣道に興味はありますか?」
「・・・ない。」
「そうですか・・・でも大丈夫です。私は小鳥ちゃんを守ります。」
「・・・うん。篝のこと、お願いね。」
「はい!大丈夫です。(ごめんね・・・鍵については私たちじゃどうすることもできないの・・・瑚太郎君に全て任せているの。本当にごめんね・・・)」
千春はそれを悟られないような笑顔を作った。
道場までの帰宅途中、確かに怪しまれた。警察に職務質問もされたが、絵具と答えるだけでその場を乗り切った。近所の評判と言うのが効いているのだろう。もちろん千春はそんなこと考えてはいない。普段通り、過ごしているだけなのだ。千春と小鳥は道場に着いた。セイバーはまだ、眠ったままだった。
鷹野はアサシンの目が覚めるのをひたすら待っていた。自らの眠りについてしまい、夕方になって目が覚めた。
「(相当疲れてるわね・・・)」
アサシンを見る。起き上がってこっちを見ていた。その目は以前とは違う。何も知らない。そんな目をしている。生気があるのかすら、わからない。それは鷹野自身理解していたことである。アサシンに話しかける。
「あなたの名前は?」
「ヘンリエッタ。」
「私は?」
「鷹野三四様です。」
「あなたの目的は?」
「聖杯戦争のクラス「アサシン」として戦いに赴き、残るサーヴァントとマスターを殺し、鷹野様に聖杯を賜ること。」
「じゃぁこれの使い方は知ってる?」
鷹野アサシンに銃を差し出す。その銃で窓ガラスを撃ち抜いた。
「・・・・・・」
もう鷹野の知っているアサシンではない。
「じゃぁ、私のことを殺してみて?」
「・・・・・・はい・・・・・・」
アサシンは銃口を鷹野に向ける。だがその手は明らかに震えていて、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
発狂。アサシンはその場で吐いた。
「・・・・・OKね。アサシン、私の事は様じゃなくてさん付けでいいわ。あと、夜になったら早速アーチャーを殺しに行くから準備をしておいて。」
「了解しました。」
鷹野は治療室を出た後ある人間に電話をかけていた。
「もしもし、鷹野だけど・・・山狗の出動を要請するわ。日時は今日の深夜あたり。頼むわよ、小此木。」
電話の相手は小此木という男だった。小此木。鷹野が指揮する「山狗」という組織のリーダーである。「山狗」という組織はもともとは単なる工作部隊だ。しかし、指令によっては誘拐・殺害も仕事とする。今回はその殺害のほうの仕事で標的はアーチャーというのも電話で指示を受けた。
「どこへいく鷹野ぉ?」
鷹野の後ろで黄金の蝶が個体に変わった。
「キャスター。何の用?」
「貴様がどこかに行こうとしていたのでなぁ・・・声をかけてみたまでよ。」
「・・・見回りよ。」
「ほう?その見回りになんであんなたくさんの部隊がおるのだろうなぁ・・・?」
「!?」
「気付いてないとでも思ったが阿呆が。で、妾達の手助けはいらないということかな?」
「・・・・ええ。私達だけで十分よ。」
「そうか。そうか。では戦果を期待しておるぞ?マスターもそろそろ限界にきておる。鍵も見つからなければ戦いに進展もない。貴様らとの同盟も消えてしまうかもなぁ?」
キャスターは気味の悪い笑みを浮かべながら言う。
「それじゃぁ私達は行くわ。行くわよ、アサシン。」
「まぁせいぜい頑張るがよいわ。」
キャスターはそう言い残して消えた。それを鷹野は見つめる
「(そんな同盟、最初からお断りなのよ・・・)」
夜、アサシン組を含めた部隊は森の入口へと車を止めた。鷹野は車内で作戦を発表した。標的はアーチャー。もし、鍵と遭遇した場合には速やかに鷹野自身がガイアへと連絡。部隊は1小隊編成。横1列での行動。敵が多数と判断した時、すぐに小隊化できる並びとなっている。もちろん、ガーディアンとの遭遇の可能性も考慮する。武器はたくさん装備してある。
「行くわよ。」
鷹野達は、森へと入って行った。
ちょうどその頃、瑚太郎は篝と一緒にいた。いつものように経過を報告。小鳥はある女の人に預けたということも報告した。居場所を言えば乗りこんでしまうかもしれないと考慮したからだ。
「・・・・!」
瑚太郎は無数の殺気を感じた。これもいろいろ上書きしてしまったからこそのの応力なのである。
「(場所は遠い・・・入口あたりか・・・黙っておくのが身のためだな・・・)」
「どうしたのですか?」
「いや、なんでもない。」
「・・・?」
「(結界を張っているから大丈夫だとは思うが・・・この気はなんだ?いつもとは全く違う。本気で殺しにかかろうとしているような気だ・・・)」
瑚太郎はその気がだんだん近くなるのを見計らってその場を去ろうと考えた。
立華奏は自らが囲まれているのを知っていた。その方向に一発発砲する。
「ぐあ!」
当たった。更に発砲。違う方に向けてもライフルを使って狙撃した。感触はあった。恐らく無事ではないと思う。
「・・・・・・・・」
奏は相手が集団で行動していると判断した。隊列は横。そこまでは理解した。同じ方向にライフルを撃ち続けるが後ろからの気配も感じた。奏は自らの腕を剣に変え、その方向へと走る。奏の予想通り「山狗」達は奏を銃で狙っていた。
「標的接近!」
その行動に意表を突かれたのは山狗達。もう少し近づいてから気付かれると思っていたらしい。右手で剣を振り、振り向きながら銃を撃つ。だが、数に差がありすぎていた。一方に攻撃が集中すると逆に回り込まれて挟み撃ちになってしまう。奏では後ろからの銃撃も避けなくてはいけなくなっていた。弾がかする。
「・・・ッ」
もう自らの修理機能は使えない。死んだら終わり。そう考えた時に浮かぶのは音無結弦の顔。奏にとっての大切な人。だからこそ、自分が盾になって守りたかった。一緒にいたかった。それが例え、この聖杯戦争のルールに則った形でなくても、である。山狗達の攻撃が激化する。それを避けるので精一杯になっていた。一旦撤退する。少しだけ距離を離したところで、ライフルでの狙撃を開始した。
「がっ・・・」
男達の悲鳴が聞こえる。工作部隊とは言ってもやはり、人が死んでいくのは少々恐ろしいものだった。だが、鷹野に逆らうことは彼らにとっても「死」を意味していた。彼が生きる方法は任務の遂行のみ。山狗達は必死に奏の方向へと走る。ずっとそれの繰り返しだった。実際に奏のほうもかすり傷が多くなっていた。いくら戦っただろうか。切っても撃っても相手からの弾幕は薄まることは無かった。
「くっ・・・・・」
銃弾が奏の膝を貫通し奏は膝をついた。その隙を魔物を使って1km離れたところから監視していた鷹野が見逃すはずがない。
「今よ、アサシン。」
ドン!
アサシンの撃った弾丸は奏の腹部を貫通した。
「あ・・・・・・・」
意識が、一瞬で、消えかける。
「山狗、一時後退。アーチャーを仕留めた。後は私とアサシンが行って確認するわ。まず合流地点Aで私と合流。その後をついてきて」
「了解」
奏は自らの腹部を見る。血まみれであった。どうやら気付くことの出来ない場所からの狙撃だったらしい。アサシンにやられたと判断する。
「もう・・・ダメみたいね・・・ゴフ・・・・」
血を吐きながら、這いずりながらも大きい木の元へと着いた。そこで体を休め、自らの右手を見る。右手には手袋をしてあった。右手というか、いつも両手にしていた手袋。その手袋を取って見つめる。右手に印されてある赤い模様。サーヴァントを使役する、令呪。薄れていく意識でそれを見る。そこに鷹野達が到着した。アサシンが奏に近づき頭に銃口を向ける。
「まだ息があるのね・・・そのしぶとさに感心す・・・・え?」
鷹野はそれに気付いた。サーヴァントに無く、マスターにあるべき令呪。
「(どういうこと・・・?まさか!)アサシン!そいつから離れて!そいつはアーチャーじゃない!マスターだわ!」
「!!!」
「来て・・・アーチャー・・・」
光と同時に現れたのは病院で療養生活を送っていた音無結弦であった。
「ア、ア、アアアハハハハハハハハハハハハ!誰が来るかと思えばお前のいつもの連れじゃないの!アハハハハハハハハハハ!いいわアサシン!山狗!二人一緒に殺して!」
山狗達が一斉に銃を撃ち始める。
「う、うわああああああああああああああああ」
音無はそのいきなりの状況に腰を抜かす。そして奏の傷に驚愕した。
「ガードソニック」
「た、助かった・・・お、おいアーチャー!なんだその傷は!」
必死の抵抗。最後の力を振り絞って銃弾を防ぐ。
「いい?結弦・・・。これから・・・言うことを黙って聞いてほしいの・・・。私は今まであなたに嘘をついてた。この聖杯戦争においてアーチャーは私じゃなくて、あなたなの。」
「は?どういうことだよ・・・。」
「いいから・・・聞いて・・・ゴフ・・・」
「お、おい!」
「大丈夫・・・・。私はあなたと前世?で会っていたというのは・・・あなたの薄々気付いてたはず・・・あなたが夢で見た記憶は・・・多分私と友達と一緒にいた夢・・・。それが今では消えているみたいなの・・・いや、私が消したの。でも途中で夢を見たのは恐らく私があなたを看病してる途中に寝てしまったから。それで見てしまったのね・・・そして・・・ここからが核心。私がこの地に来てしまった時には、もう腕に令呪がついていたわ・・・誰を召還するとなった時に思いついたのが、あなた。召還の方法はとても簡単だった。私自信を媒体としてあなたを召還することに成功した・・・。」
「お、おい・・・さっきから何を言ってるんだよ・・・」
「・・・・・でも私はこの戦いにあなたを巻き込みたくは無かった。変な話だよね・・・自分で召還しておいてあなたを危険に晒したくないって・・・。だから私はあなたに嘘をついて前線で戦った。でも、もう無理みたい・・・この傷じゃぁ・・・私は・・・戦えない・・・・」
奏は涙を流していた。結弦はなんとなく理解する。この聖杯戦争の前、自分と奏は出会っているが、その記憶は奏に封印されている。その理由として聖杯戦争にサーヴァントとして召還された結弦を戦わせないで、奏自身が守ろうとしたため。奏が自分と一緒にいたかったから。
「バカ野郎・・・どうしてそんなこと・・・」
「ごめんなさい・・・こうするしかないと思ったの・・・私は・・あなたが好きだから・・・。」
「・・・・・・」
「私はもう使い物にならないわ・・・後は・・・結弦、いや、アーチャー。あなたにお願いするしかないわ・・・。」
「・・・どうしろっていうんだよ・・・。」
「私があなたを召還する時に使った媒体を、あなたの中に送る・・・。私が媒体に使ったもの物は・・・あなたの心臓。そこに全てがあるわ。あなたの記憶。あなたの力そのもの・・・全てが入ってるわ・・・結弦、もうちょっとこっちに来て・・・」
「・・・・・・・」
結弦は黙って奏の方に寄った。奏は結弦の胸に手を当てる。光が2人を包んだ。その様子を山狗達は黙って見ているしかなかった。
「山狗!何してるの!早くあいつらを殺しなさい!」
「させない・・・」
「くっ・・・・」
奏は最後までアサシン達の銃弾から結弦を守った。その光が続いている間、結弦を守り続けた。
「――――――――」
結弦の中にフラッシュバックで記憶がよみがえる。死んでたまるか戦線。結弦が最後に過ごした最高の場所。最高の仲間。最愛の人。全てが記憶として結弦の中で蘇る。結弦の目の前に、死後を共に過ごした最高の仲間がいた。みんなが声をかけてくれる。
「今更気付いたのかバーカ」
なんて少しバカにしてくる奴もいれば
「ようやく、ですか。」
なんて冷静に声をかける奴もいる。光の中で結弦は奏と最後の時を過ごす。
「ごめんな、奏。俺はお前に迷惑をかけていたんだな。苦しかっただろ・・・?」
「いいえ、私はあなたと共にいる時間が本当に幸せだった・・・楽しかった・・・」
「そうか・・・今度は・・・俺が奏を守るから・・・」
「ええ。お願いするわ。」
奏は笑って答える。結弦は奏の後ろに戦線のメンバーがいることに気付いた。
「すまん。この戦いは俺一人の力じゃどうすることも出来ないんだ。だから、みんな・・・俺に力を貸してほしい。」
「何言ってるの音無君。そんなの当たり前じゃない!ミッション名は・・・オペレーションギルドってのはどう?」
「・・・・・・・」
一同がシーンとする。
「じゃぁ決定!」
「いや、ちょっとそれは・・・」
誰かが遮ろうとする。
「で、内容は・・・て私が仕切るのもおかしいか。今回のリーダーは音無君。あなたよ。」
「そうだなぁ・・・オペレーションギルドの内容は・・・」
「名前決定かよ!」
一同が笑う。そんな他愛のない会話を音無は楽しんでいた。これから始まるのがどういうことかも理解はしている。だがこの時が一番好きなのだ。これこそが音無結弦、アーチャーの真の宝具なのである。もちろん、他の英霊とは違うイレギュラーの存在。彼の名前そのものは誰も知らない。故にアーチャーの能力は彼自身によって作られる。
「で、内容なんだが・・・うーん・・・とりあえず、この戦いを勝ち抜く。かと言っても俺にはマスターがいないから・・・」
「それには及ばないわ。あなたの心臓には私の魔力が込められている。言うなら、あなたのマスターはあなたの心臓そのものということよ。」
「おぉ~」
「んじゃぁ、存分に暴れることができるってことだな?」
「そういうことだ。武器についてだけどまぁいつもの場所ってことで。適当に持ち出して暴れてほしい。標的はアサシンとマスターと変な男達。命を賭けてるんだ、それ相応の対応ってことにしよう。通信については竹山君に・・・」
「クライストとお呼びください。」
「竹山君に任せよう。」
「無視ですか。」
「よし・・・みんな、本当にありがとう。感謝するよ。ただ、ここから先は死んだらおしまいだ。命は粗末にするなよ?」
「一回死んでるんだから、どうってことないよ。」
一同が笑う。
「それもそうか。よし!行くぞ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
一同は去った。残ったのは結弦と奏のみ
「今度は・・・俺も戦うから・・・」
「ええ。」
「行こう。奏」
アーチャーは目を開いた。その横には奏はもういない。光に包まれて消えていった。
「アッハハハハハハハハハ!マスターが死んだんじゃぁどうすることもできないじゃない!さっさと死ねえええ!」
山狗達が銃を構える。
「奏は俺の中にいる。そして俺は一人なんかじゃない。」
「ふざけたことを・・・・現にお前は一人じゃないか。」
「そうだ。今は一人だ。だが、場所を移せばどうなるかな。」
「・・・・・?」
「これが俺の力だ。」
アーチャーは右手を上に掲げる。
「オペレーション、ギルド」
アーチャーを光が包む。鷹野達は目を腕で覆った。
「・・・ッ!」
鷹野達が目を開くと、森から一転してグラウンドのような場所にいた。
「学校・・・?」
鷹野は空間転移に気付く。
「これは・・・何?」
そう呟くとアーチャーが口を開いた
「ご覧の通り、ここは学校だ。森ではない。ここでは全て俺の思い通りに事が進む。例えるなら、お前らの戦いはここで終わりになる。そういうことだ。」
「アーチャー・・・ふざけたこと言ってるんじゃないわよ・・・?あなた一人で何ができるって言うの・・・?」
「一人じゃないさ。数には数と言うだろ?今の俺にはそれがある。そうだなぁ。追いかけっこといこうか。俺は今から逃げる。お前らが俺を捕まえることが出来たら勝ちで、俺はお前らを倒せば勝ち。それでどうだ?お前達が俺を捕まえるってことは俺が死ぬってことだ。だが逆に、お前らが負けると言うことは・・・」
「私達が死ぬってことね・・・」
「そう思ってくれてるのなら話は早い。だが、殺すことまではしないでやる。まぁそれでも抵抗しようとするなら・・・。」
「・・・・・・」
鷹野は考える。この勝負に乗ったとしても空間はアーチャーのもの。確実にこっちが不利だ。罠も多いだろう。しかもアーチャーの本当の能力が分からない以上どうしようもない。
「やるしか、先はないということね。」
「では、始めよう。お前達に1分の猶予をやる。そっちも戦略を練るといい。そうしないと、ゲームは面白くは無い。」
アーチャーはそう言うとその場から消えた。
「何がゲームよ・・・小此木!」
「はい。」
「これから山狗達を小隊に分けて。それで各方面に分散。アーチャーを見つけ次第始末して。」
「了解しました。鷹野さんは?」
「私はこの子と行動するわ。もし、誰かに何かあった場合、そいつは置いて行きなさい。」」
小此木と言う男は山狗達を指示通り小隊に分け、各方面へと進行させた。と言ってもあるのはグラウンドと校舎しかない。校舎の1階部分・2階部分等という形で進行させる。1分が経過した。
「山狗第1小隊、1階部分行きます。」
小隊が1階部分を探索し始めた。男たちはみな銃を持って警戒する。廊下部分に来た。
「こちら廊下進行中・・・うわ!」
一人が廊下のあるタイルを踏んだところ、そのタイルが急に上に飛び、それに乗っていた男は天井に頭から突っ込んでしまった。男は意識を失った。山狗達はそれを見てゾッとした。だが、逃げるわけにはいかない。逃げる=死なのだ。1階の吹き抜け部分に来た。「キュ!キュ!」と靴が滑る音がする。
「誰かいるぞ・・・」
山狗達は警戒する。そこにいたのは目もとまで深くバンダナをつけた男。踊っていた。軽快なリズムで踊っていた。山狗達は一気に攻勢に出る。
「!」
男はそれに気付いた。軽く口笛を吹き、踊りながら銃弾を掻い潜る。周りながら発砲していた。
「ぐあ!」
その弾丸は全て山狗達の足に命中していた。
「くそがあああああああああ」
それでも攻撃をやめない。男は口笛に似たため息を吹き、また踊りながら発砲する。今度は銃を持っている腕に命中した。1階部分の山狗達は一人の男によって全滅。命に別条はないものの、戦闘不能となった。その男はその場から去る時に
「Knockin’on Heaven’s Door」
と言い残した。小隊長は最後に持ってた小型拳銃で男を狙う。その男はそれに気付いていたのか、後ろを見ずに発砲。弾は小隊長の頭を貫通した。
「やりやがった・・・・」
アーチャーはある教室からその様子をモニターで見ていた。その教室には何台ものモニターが設置してあり、各々の行動が見て取れる。山狗達の行動は全てそこで見ることができた。だが、アサシンと鷹野がそのモニターからでは見つけることができなかった。その時通信が入った。
「大変だ!アサシンが奇襲に出てきた!」
「何!?」
モニターを見る。アサシンは校舎内を高速で移動していた。道理でモニターでは発見できないわけである。竹山からも通信が入った。
「申し訳ありません・・・僕の力が足らないばかりに・・・」
「大丈夫だ・・それよりも・・・あそこのエリアは・・・」
アサシンが今移動しているのは体育館だった。急いでそっちに通信を送る。
「気をつけろ!そっちにアサシンが向かってる!」
「・・・・・」
「おい!返事をしろ!」
「大丈夫だよ。向かわせたのは、私達の方。私達の役目は歌で誘導すること。これはずっと変わらない。そうでしょ?」
「バカ!命を粗末にするなと言っただろ!」
「これは粗末にしてるんじゃないよ。君の役に立つためなんだ。それがどんなに強い相手だろうと変わらない。みんなとまたこうやって歌を歌えるのが私にとっては幸せなんだよ。そしてそれが、自分の価値を見出した後のことだから尚更幸せなんだ。それに、新しいボーカルとも歌えてとっても楽しかったよ。」
「・・・・・・・済まない。」
「何謝ってるのさ。こういう機会を作ってくれて、嬉しいよ。ありがとう。後は私達に任せて。じゃぁね!音無!」
通信はそこで途切れた。
「・・・・・・・・・・日向。」
「おう、どうした。」
「今から言う通りにしてほしいんだ。」
体育館では、最後の曲が演奏されていた。ステージの下にはバンドメンバーを襲って返り討ちにあった山狗達の死体。命のやりとり。それをやった直後の事であった。曲が終わる。
「最後のお客さんは、バイオリンのケースを持ったいかにも音楽をやっていそうな感じの女の子、か。悪くないね。」
「でもあいつ敵ですよー!?」
ピンク色の少女がアサシンを威嚇する。
「でも私達の曲を聞いてくれたことには変わりは無いんだ。そのことには感謝しなきゃいけないよ。ユイ。」
「そういうこと。ユイ、結構ケンカもしたけどやっぱりあなたとも演奏出来て楽しかったよ。」
「そりゃそうですよ!私がいれば大丈夫です!」
「頼もしいな、ユイは。でも、ここでお別れだ。」
「え?」
「君はまだ生きるんだ。そしてやるべきことをやってほしい。」
「いや、ちょっと何言ってるですか?岩沢さん・・・」
「せめてもの感謝の気持ちだよ。こうやって歌を歌えた感謝の気持ち。ガルデモが続いたということに対しての感謝の気持ち。この2つだ。じゃぁ私もそれなりにやらないとね。」
岩沢がユイを突き飛ばした。その時にユイは頭を撃って気絶した。
「遊佐、ユイをゆりの生徒会室に運んで。あそこなら、誰も入れないから。」
「了解。」
「頼んだよ。それじゃぁ、アンコール行きますか!」
体育館に響く音。それにプラスして単調な銃声。それを組み合わせた音は、不思議にも1つのリズムを作っていた。アーチャーはその様子を見ていた。ガルデモのメンバーはアサシンにある程度傷を負わせてこの世界から消えていった。みんな笑顔だった。それが音無には心苦しくもあったのである。その様子を見た後、音無は部屋を出た。
「・・・・・・・」
アサシンは自らの傷を見た。今殺した女たちは最後アサシンに向かって手榴弾を投げた。それをアサシンは撃って迎撃したのだが、その爆煙によって視界が遮られた隙を狙われ、弾丸を受けてしまった。受けたと言うよりも、かすったというべきか。その後、彼女達は体育館を爆破させた。それからはアサシンも確認することは出来なかったが、恐らく死んだだろうと思うことにした。だが、不可解なことがあった。
「(なんで笑顔で死んだの・・・?)」
感情を消してしまったアサシンの疑問。
「(人生に悔いがなかったから?死ぬことが幸せ?戦いが幸せ?私は・・・何に対して幸せを感じることが出来るのだろう)」
芽生えた疑問。今のアサシンの状態を例えるなら、「エラー」。異常である。今のこの状況はアサシンの頭の中で起こっていることであり、マスターの鷹野は理解することもできない。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ」
考えれば考えるほど、頭痛が起こる。吐き気がする。何かが消されている気がする。大切な何かが・・・
アサシンはその場で嘔吐した。ひとまず瓦礫の山と化した体育館から移動する。そこにいたのはアーチャーだった。
「・・・・・アーチャー。」
アーチャーはアサシンの異変に気付いた。だが、サーヴァント同士の戦いともなれば関係は無い。アサシンだけ倒せば、それで終わりなのだ。
「もう終わりにしよう。アサシン。今の君は・・・立っているのも辛いはずだ。」
「うるさいうるさい!あなたを倒せば・・・鷹野さんに褒めてもらえる!鷹野さんと一緒にいる時間で増えるんだ!だから私は・・・あなたを殺す!」
「それが君の戦う理由か・・・わかった。俺にも戦う理由がある。決着をつけよう、アサシン。」
2人は同時に銃を抜いた。鷹野はその戦いを陰で見ていた。山狗達の状況を調べたが、全滅。この結界からはいなくなっていた。死んだか、追い出されたか。どっちにしても役に立たない連中であった。
「(この戦いが終わったら、始末しないとね・・・)」
アーチャーは銃を連射するがアサシンの素早い動きに手間取った。間合いを詰められるとナイフで切られる。そうしないためにも距離を取っているつもりなのだが、弾幕を掻い潜って迫ってくるアサシンは本当の暗殺者だった。
「(こんな小さな子が・・・)」
至るどころから銃を撃つ。アサシンもそれに応戦して撃ち返す。撃ち返しながら、間合いをつめる。詰めては離される。その繰り返しだった。アーチャーの放った弾がアサシンの頭を目掛けて飛んできた。アサシンはその弾を自らの弾丸ではじく。その直後にまた発砲。アーチャーのその弾を弾く。アサシンは焦り始める。
「(弾が・・・無い・・・)」
今までなら確実に仕留められた人間にここまで粘られている。しかも自分と同じ銃使い。長期戦になるのは必至だったが、ここまで長くなるとは思ってもいなかった。それは鷹野も同じ。鷹野は陽動に陰からアーチャーの方角に手榴弾を転がした。
「!?」
アーチャーはその場から一気に離れる。その動きに合わせて一気にアサシンも間合いを付けてナイフで突き出した。
「あああああああああああ」
アサシンの必死の特攻。そのナイフはアーチャーの左腕に突き刺さった。
「ぐっ・・・」
アーチャーはすぐに銃を撃つ。アサシンは避けつつ後ろに後退。アーチャーはむやみに発砲していた。狙いは確実にずれている。その様子に鷹野は心の中で笑う。
「(ふふふ、焦ってるわね・・・このまま一気に行きなさい!アサシン)」
令呪の使用。作戦が令呪を以てアサシンに伝わる。残りの令呪は1回の使用のみとなった。アサシンはアーチャーのある隙を見て間合いをつめた。ある隙、弾切れの瞬間である。弾切れの瞬間はどうしても弾の補填の時間が必要だ。今まではそれを避けながらやっていたが、その瞬間はやはり隙が生まれるものなのだ。アサシンはアーチャーの首を目掛けて飛び込む。
ドンッ
響くいつもとは違う銃声。アサシンのナイフを持った腕は、地面に落ちていた。アーチャーの腕にはウィンチェスターM1897が構えられていた。
「え・・・・?」
アサシンは何が起こったのか理解できなかった。気付いたら自分の右手が落ちていたのである。
「あ、あああ、ああああああ、あああああああああああああああ」
「アサシン。お前は俺の補填の隙を狙って飛び込んで来たんだよな。それは正解だったよ。でも、ここは俺の空間だ。どんな場所からでも銃を引きこむことが出来るわけさ。今までそうしなかったのはお前にそういうことはできないと思わせるため。すまないな、アサシン。俺にも負けられない理由があるんだよ。」
アーチャーはアサシンに銃を向けた。だがアサシンはアーチャーの想像以上の速さでナイフを投げる。アーチャー自身ではなく、銃に向かって投げた。
「武器破壊・・・!」
ナイフは銃に刺さり、アーチャーはすぐその銃を捨てた。アサシンはまたすぐナイフを投げる。それはとてつもない速さでアーチャーの眼前まで迫った。
「・・・・ッ」
紙一重。アーチャーは紙一重で避けた。その避けた瞬間をアサシンは狙うが今度は左手で違う銃を抜き、今度はアサシンの左足を飛ばした。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アサシンは悶絶し、地面に倒れる。鷹野は見ていられなかった。それでもアサシンは戦うのをやめようとはしない。立ち上がろうとするが、勝負はすでに決していた。アーチャーはある方向を見る。偶然にも鷹野もその目線に気付き、その方向を見る。その方向は校舎の屋上。そこから一人の男がアサシンを狙っていた。鷹野の体は自然と動いていた。その動きにアーチャーも気付く。
「日向!よせ!」
ドンッ!
アサシンで目の前で起こった光景を黙って見ていた。それはスローモーションのようにアサシンの目に焼きついた。自らのマスターがサーヴァントをかばう。言語道断の行動。鷹野はそれをやった。アサシンを鷹野はかばったのだ。
「ゴフッ・・・」
鷹野は血を吐き、その場に倒れた。腹部は血で染まっていた。
「鷹野・・・さん・・・?」
鷹野の元へと這う。必死に、自らのマスターの元へ向かう。その光景はアーチャーにとって酷いものであった。アサシンは鷹野の様子を伺う。
「鷹野・・・さん・・・?」
鷹野から反応が無かった。
「ああ、あああ、ああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
アサシンはアーチャーに向けて振り向きながら左手で発砲しようとした。
ドンッ!
また銃声。アサシンの左腕が吹っ飛んだ。
アサシンがその場に衝撃で倒れる
「(まだ生きるのか・・・)」
アーチャーはその執念に恐怖さえも感じた。
「あああああああああああ!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!お前は私のマスターを殺した!許さない!絶対に許さない!」
アサシンは泣きながら叫ぶ。だが両腕を失ったアサシンにアーチャーを倒す方法なんて無かった。
「鷹野さんは・・・私の・・・・・!?」
アサシンは誰かに抱かれるのを感じた。鷹野だった。鷹野は自分の持ってる力を全て出し、アサシンを抱いていた。
「もういいのよ・・・アサシン・・・私達の負けだわ・・・。」
「いえ!まだやれます!まだ戦えます!あなたの為なら私は・・・!」
「もう・・・充分あなたは私の為に戦ったわ・・・ごめんなさい・・・私はあなたにずっと厳しくしていたわ・・・」
「・・・・・・私はあなたのためならなんだって・・・」
「そういうのはもうやめにしましょう?アサシン・・・。あなたはまだ小さい女の子・・・人を殺すとかそういうことをするべきじゃないんだわ・・・本当はね・・・私はあなたと戦うのが嫌だった・・・」
「え・・・・・?」
「でもそれはあなたの事が嫌いだからではなくて・・・あなたが戦うと言うことに関しておかしいと感じたから・・・あなたみたいな子供がなんでサーヴァントになったのかということ・・・正直、あなたの前世を恨んだりもしたわ・・・。でもそれはあなたが愛したものを・・・・嫌うと言うこと。だからあなたのやりたいようにやらせてきた・・・。でももう限界・・・私はあなたが死ぬところを見たくないわ・・・今私があなたに対して出来る最後の事。それは私があなたを愛してるからこそすること。・・・・・もういいわよね・・・。」
「鷹野さん・・・」
アサシンは鷹野の胸の中で泣いていた。
「アーチャー・・・もう私はダメね・・・だから・・・最後に教えておくわ・・・キャスターのことよ・・・」
「!? 何か知っているのか?」
「キャスターと私達は同盟を組んでいたわ・・・だからあいつのマスターも知ってる・・・」
「キャスターのマスターは・・・誰だ・・・?」
「それを今から言おうとしているの・・・でも・・・これだけは言っておくわ・・あいつはタダものじゃない・・・魔物を使役して目的のためならなんでもする女よ・・・・。」
「魔物・・・?」
「ええ・・・・あいつが使役する魔物はケタ違いの強さだわ・・・それだけは気をつけて・・・で、肝心なのはマスターのことね・・・キャスターの正体は・・・・」
「・・・・」
アーチャーは息を呑む。
「日本マーテル会会長・・・いや、ガイアの聖女加島桜よ・・・」
「加島・・・」
「恐らくこの戦いには一度も顔を出してはいないわ・・・ゴフッ・・・・」
「鷹野さん!」
「もう・・・ダメね・・・・アーチャー・・・加島を・・・止めて・・・・あいつは・・・この世界を・・・・消すつもりよ・・・。」
「え・・・?」
「次生まれ変わる時は・・・・幸せに暮らしてね・・・・。あなたは・・・人形なんかじゃないんだよ・・・ヘンリエッタ・・・」
鷹野はアサシンの額に銃を向けた。
「え?」
アーチャーとアサシン、2人が同じ反応をした。止めにかかるのはアーチャー。だがアサシンは
「・・・・はい。名前、呼んでくれましたね。ありがとうございました、鷹野さん。」
鷹野も見る初めての笑顔だった。アサシンの頭の中で今までのことが一瞬にしてフラッシュバックで蘇った。
「(ジョゼさん、私、頑張りましたよ・・・)」
銃声が響き、アサシンは鷹野に抱かれながら消えていった。その後すぐに鷹野は自らのこめかみに銃を当てた
「おい!よせ!」
アーチャーはそれを止めに走る。だが間に合いそうにもない。
「日向!鷹野の右腕の銃を飛ばしてくれ!早く!」
「わかった!」
だが響いた銃声は2つの音が重なっていた。アーチャーの足元には鷹野が倒れていた。息は、無かった。
アーチャーと戦線は集合していた。
「すまない。岩沢達が犠牲になってしまった。」
「・・・・・・」
一同は沈黙した。これが現実なのだと知る。死んだら終わり。戦線の世界の様にはいかないのだ。だが、
「大丈夫よ音無君!これくらい覚悟していたことよ。彼女たちだって、覚悟はあったはずだわ。でも・・・これから先戦っていく中で犠牲はどんどんでるはず。それだけは無駄にしてはいけないわ。」
「あぁ・・・わかってる・・・。」
「しゃきっとしなさい!あなたが今はリーダーなのよ!なんなら、交代してもいいけどね!」
「ははは。バカ言うなよ・・・・そうだな。次に進んでいかないとな。よし、じゃぁ次にやるのはキャスターの調査だ。みんなには現実のほうに来てもらう。そこでマーテル会の調査をしてほしい。これからすぐに行動に移したいところだが、とりあえずは休もう。明日の朝、行動を開始するからそれまでゆっくりしていてくれ。」
「はーい」
間の抜けた返事。これもまたいいものであった。
次の日の朝、アーチャー達は同じ場所に集合していた。
「よし、これから分担を決めるぞ。偵察部隊に椎名と遊佐。女子2人に任せるのもアレなんだが、怪しまれる可能性はほぼないだろう。あともう一人は大山君。君に任せる。」
「え?僕!?」
「あぁ、理由は女子2人と同じような理由だ。恐らく怪しまれることは無い。」
「それって僕が非力ってことにもなるんじゃぁ・・・ははは。」
「いや、今回はあくまで偵察だよ。戦闘には持ち込まない。もし戦闘になりそうな場合になってしまったら竹山君に連絡をくれ。すぐギルドに戻す。あ、ちなみに竹山君はギルドのPC室で待機な。」
「わかりました。あと僕のことはクライス・・・」
「で、次に街に溶け込む人たち。まぁこれは現実の世界を知ってほしいというのもあるな。そこでもマーテル会について聞いてほしい。絶対にガイアなんて口にするなよ?このメンバーは偵察部隊と竹山君とユイ以外。」
「はぁ!?ちょっと音無さん!なんで私だけ仲間はずれなんですか!」
「いや、だってお前口軽そうだし・・・」
「確かに軽いな。ははは」
「日向さんまでぇ・・・ぐぬぬ・・・」
「まぁ俺もいてやるから、我慢しとけ」
日向という男はユイという少女の頭をぐりぐりする。ユイは嫌そうで楽しんでる感じを出していた。
「奏とゆりは俺についてきてほしい。残ってるマスターの元にキャスターのことを伝えに行く。信じてもらえるかはわからんがな。危なくなったら、ギルドを開いて逃げればいい。」
「音無さん。僕は・・・」
「おっと直井は・・・そうだな・・・偵察部隊に回ってくれ。椎名と遊佐が危なくなったら催眠術でその場を凌ぐんだ。とりあえず、護身用に銃は1丁だけ持って行ってくれ。集合は俺がみんなをこっちに戻すから大丈夫だ。危なくなったら俺に連絡をくれ。ちなみに、それじゃぁ、ギルドを閉じるぞ。」
アーチャーはギルドを閉じた。一同は森の入口へと移動した。時間は早朝。
「これからは過酷な戦いになる。相手の情報を知っておけば被害も少なくなるはずだ。少なくともキャスター。鷹野言うことが本当なら聖杯戦争自体が壊れる。そうなる前にあいつを倒す、そういうことだ。みんなの幸運を祈る。行こう。」
アーチャー達はそれぞれの役目を果たすため、街に消えていった。
数時間前、加島の部屋
「鷹野が帰ってこないわね。」
「くくく・・・恐らく、死んだのではないかぁ?」
「帰ってこないと言うことはそうなるわね・・・それか、裏切った。」
「どの道、死ぬことには変わりは無かったではないか、加島よ。」
「・・・・・・・・・あの子はまだ私を裏切ってはいなかったわ。殺すには値しない。」
「甘いのう・・・これから先、貴様の願いを叶えるには聖杯と鍵の力が必要なのだろう?残虐にならないとその先には行けぬと思うが?」
「知っているわよ。これからは誰にも容赦する気は無い。」
「それでこそ、我が主よ・・・・クククク・・・フヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
キャスターの高笑いが、館内に響いた。
Fate/key's memory 中編
疲れた・・・中編は全く考えてなかった(考えてても最後あたり)だったのでそこまで繋ぐのにすごく時間がかかりました。てか日商簿記検定近いのに書いてて大丈夫なの?と思う感じです。
後編は更に時間かかるだろうなー。まだ書いても無いし。6月忙しいし。まぁ頑張りますね。