忘れもの

「君、また忘れものかい」
タカシは一ヶ月前にこの中学校に来た転校生。そして忘れものの常習犯。
今日もまた、大事な教科書を忘れた。
「いつも言ってるでしょう、ちゃんとノートに書いておきなさいって」
タカシは黙って先生の顔を見つめていた。
「いったい、何回言えばわかるんだ。ちょっと鉛筆でメモするだけで、
忘れものはぐんと減るのに」
タカシが口をひらいた。
「先生、ごめんなさい。でも、メモはとってるんです。でも、忘れちゃうんです」
先生はぶぜんとしながら、
「書いても忘れちゃうのか?どうしょうもないな」
半ば呆れ顔で怒る先生に、
「僕、記憶障害らしいんです」
「え?なんだって?」
「医者に言われました。君は記憶障害だって」
先生の表情が変わった。
「・・・申し訳ない、知らなかったとはいえ、ひどいことを言ってしまった」
「いえ、お話ししなかった僕が悪んです。むかし嫌なことがたくさんあって、
それを忘れよう、忘れようとしてたら、こんどは
なにも覚えられなくなってしまいました」
「そうか、、、辛かったんだな。どんなことがあったのか、
よかったら話してくれないか?」
「それが、、、なにもおぼえてないんです。ただ、、、」
「ただ、、、どうした?」
「先生の顔に、見覚えがあるんです」
「私に?」
「ええ、小さいころ、どっかであったような、、、」
「私はおぼえてないなぁ」
二人の間に、沈黙の空気。
「あ、先生、思いだしました」
タカシの目つきが変わった。
「先生、ボクは先生が10年前につきあっていた不倫相手の子供です。
小さいころは、よくあなたに邪魔もの扱いされましたね。
母は先生に捨てられたあと、自殺しました。
僕は復讐のために、この学校に転校してきたんです。
忘れてました。
思い出しちゃいましたね、お父さん」

. END

忘れもの

忘れもの

ショートショートみたいなの。ちょっと怖いです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-10

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