二つの詩と一つの散文詩
二つの詩と一つの散文詩
ツツジの香り
なま暖かい空気に
群れなすツツジの
花の香りが
漂っていた。
僕は二十数年の
時を超えて
懐かしさを感じた。
時は五月の夜、
ツツジの街道を
二人で歩いていた。
その時の彼女の仕草や
声の調子や笑顔が
脳裏に浮かんだ。
でも、彼女は渡りゆく
風となった。
僕は立ち止まり
ツツジの花を見つめて
頬にその風を感じた。
じつは
胸にあふれる思いが
ある人は幸いです。
悲しさに涙を流す人は
幸いです。
切なさに涙を流す人は
幸いです。
もし、それらの思いが
なくなり
悲しさや切なさを
感じることも
涙を流すことも
なくなったら
満たされないでしょう。
だから、
あなたは思いっきり
泣いたらいい。
涙の枯れるまで
泣いたらいいのです。
白うさぎと黒クマ
人里離れたその山の頂上に大きな二本のくすのきがあります。くすのきの周りは原っぱになっており、時々うさぎやクマ、へび、イノシシ、オオカミなどが遊びに来ます。
ある時、白うさぎがくすのきの幹に顔をつけ、目をつぶって、くすのきの幹の皮をなでていました。そばを通りかかった黒クマがその様子をじっと見ていました。何をしてるのだろう。なんだか気持ちよさそうだな。ぼくもやってみようかな、と黒クマは思いました。
黒クマは白うさぎのまねをして、もう一本のくすのきの幹に額をつけ、目をつぶって、木の皮をなでました。初めは何も感じませんでしたが、そのうちだんだん気持ちが落ち着いてきました。自分でも自分が何をしているのか分からない状態になり、ぼーっとした気持ちになりました。そのうち、だんだん心がきれいになっていくように思えてきました。何かのひょうしに、ふっと底の方から声が聞こえてくるように感じました。底の方ではなく、上の方だったかもしれません。透き通るようなきれいな声のようです。耳を澄ませていると、その声はだんだんはっきりしてきました。
「あなたに会えてよかった」
黒クマはちょっと驚きました。と同時にうれしくなりました。でも、だれの声だろうと思って、目を開けて、周りを見回しました。そこにいるのは、となりのくすのきに顔を当てて目を閉じている白うさぎだけでした。くすのきの声だったのか、それともひょっとしたら白うさぎの声だったのだろうか、黒クマは不思議に思いました。
二つの詩と一つの散文詩