君の口づけはいつも温もりを感じさせた

電車で口づけを交わしている高校生カップルがいた。まわりの人々のことなんか気にせずに威風堂々としたその熱い仕草は、わたしに感動を及ぼした。たぶん、わたしが死ぬ時に浮かぶ情景は、その高校生なのかもしれない。ひょっとしたら、その高校生のカップルは実は外国人で、フランス人で、たまたまお互いに留学で日本に来ていて、この電車の中がとても居心地が良くて接吻を交わす絶好の場所であったのかもしれない。完璧な、見た目は日本人のカップル。
わたしはこの先テレビや映画でのキスシーンを見たとしても多分なんの感慨も思い浮かばないであろう。わたしが高校生であった時、夢中になり過ぎて、周りの状況を考慮にいれず、好きな人と、口づけを交わすなんてことは無かった。彼の温かい手を握りしめて、その手から伝わる鼓動にジーンと静かで、静かな体温に感動して、ずっと握りしめていたいと思っていた。周りの世界なんて、周りの人のことなんか気にも留めず、幸せなひと時であったことを、その高校生カップルも見つめていて、思い出した。周りの人たちもその光景を眺めていたけど、たぶんその時の気持ちは、ありがとう、だろう。よくぞこの世界でわたしたちに素敵な情景を見させてくれました。感謝します。そんな気持ちなのではないだろうか。周りのおばさん、小さな子供を連れた母親たちは遠い情景を見つめるような目つきで眺めていたが、自分たちの過去を思い出しているのかもしれない。
わたしが電車を降りる時に高校生カップルは椅子に座って手をつないでいた。わたしはホームに出て、電車のドアが閉まるときに笑顔になって、ありがとう、と静かな声で発すると、電車は次の駅に向けて発車した。

君の口づけはいつも温もりを感じさせた

君の口づけはいつも温もりを感じさせた

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-08

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